インフィニット・ストラトス~もしも凰鈴音がデュノア家のメイドになっていたら~ 作:カイナ
「それでは、三時間目の初めに少し話した通り。再来週行われるクラス対抗戦に出る代表者をこれから決める」
ミシェル達と一夏達の挨拶と昼食が終わった後の午後、全ての授業が終了してからの言わば帰りのホームルーム、教壇に立った千冬が、おおまかな伝達事項を話し終えた辺りで本題に入るかのように話を切り出す。
その言葉通り三時間目の授業を始める前に千冬が「再来週行われるクラス対抗戦に出場する代表者を今日の帰りのホームルームで決める。自薦・他薦は問わないから考えておいてくれ」と話していた。
クラス代表者、言葉通りの意味であり件のクラス対抗戦への出場だけでなく生徒会の開く会議や委員会への出席なども行う言わばクラス長である。と千冬はその職務内容を説明。
「話しておいた通り自薦・他薦は問わない。立候補、もしくは誰か推薦するという者はいるか?」
「推薦したい人がいます!」
千冬の言葉の終わりと同時、クラスの女子の一人が手を挙げる。立候補ではなく推薦、となるときっとその相手にも話を通している事だろう。その上で「推薦」という形を取る事で少なくとも自分はその人がクラス長という役職に相応しいと思っていると周りに示そうとしているのだろう。
一夏はそんな事を考えながらその推薦相手が誰なのだろうと耳を傾ける。
「織斑君を推薦します!」
「ほうほう、織斑……って俺!?」
その推薦相手の名前を聞いて一夏は頷きつつ驚きの声を上げる。
まったくもってそんな話は聞いていないとばかりの叫びだが、周りの女子は楽しそうな声を上げていた。
「やっぱりそうだよね!
「私はデュノア君派なんだけど! なので私はデュノア君を推薦します!」
一夏を持ち上げようという女子とミシェルを持ち上げようという女子が出てきたらしく流れでミシェルもクラス代表に推薦されている。
「ま、待ってくれ千冬姉ぇ! 俺推薦されるなんて話聞いてないんだけど!? ミシェルもそうだよな!?」
「ああ、まあ……」
話も通されずに勝手に推薦されるなんてたまったもんじゃないとばかりに声を上げる一夏とまさかこうまで強硬策を取ってくるとはと驚くミシェル。
千冬も自薦他薦は問わないとは言ったが推薦にあたって当人に話を通すとかの根回しくらいは当然するだろうと見積もっていたのか、まさか当人無許可で推薦を行うとは思わず、呆れたように額に手を当てていた。
「待ってください! 納得がいきませんわ!」
するとバンッと机を叩く音を響かせながらセシリアが立ち上がる。
「先ほどの織斑さんのお話を聞きましたが。もしや織斑さんやミシェルさん当人に許可も取らずに推薦なさっているのですか!? そんな不意討ちのような選出は認められません!」
許可も取らないとか不意討ちとかそんな大袈裟なと言いたげな様子で女子が苦笑するが、セシリアはそんな様子も見咎めるような視線を向けた後にふぅと息を吐いて話し始める。
「クラス代表は言わばクラスの顔であり、再来週のみならず定期的に行われるクラス対抗戦でクラス全体の実力の推移を測る指針となる。と知人のIS学園の先輩から伺っております。そんな責任重大な役職に、事前に話も通さずに放り込もうとするなど許せるはずがありません! しかも織斑さんもミシェルさんもほんの数ヶ月前までISを動かした事などない素人ですのよ!」
「というかミシェルはともかく一夏に関しちゃISの基礎知識すら怪しいわよ? 午前の授業で聞いた言葉忘れちゃいないわよね?」
「鈴、痛いとこ突かないでくれ……」
セシリアの熱弁を援護するように鈴が一夏を言葉の刃で遠慮なくぶっ刺す。午前中のIS基礎知識関連の授業で一夏が「ほとんど全部分かりません!」と宣った挙句入学前に必読とされていた参考書も誤って捨てていた事が明らかになった事件に、一夏は力なく呟いた。
「経験者を選出するのであれば、イギリス代表候補生である私が立候補します。あとはフランス代表候補生であるシャルロットさん。そして鈴さんも私が実力を保証いたしましょう」
代表候補生であるセシリアとシャルロットなら分かるけど、何故鈴音さん?とクラスの女子の視線が鈴に向けられる。その視線に対して鈴が諦めたように溜息をついて話し始めた。
「あー、言うのめんどくさかったから省略したけど。あたし一応デュノア社の所属なのよ、本来今年からテストパイロットとしてデュノア社に入社する予定だったんだけど、まあ色々あってミシェルの護衛って事で一緒にIS学園に入学したの。テストパイロットも正式入社前からバイトみたいな形でやってたからISの操縦経験もしっかりあるわ」
鈴はそう説明した後、しかし面倒くさそうに手をヒラヒラさせた。
「けどクラス代表ってのはお断りするわよ。護衛の仕事優先させたいし」
「セシリア、私もミシェルさんの護衛実働隊隊長としてそっち優先したいんだけど……」
「あら、二人とも辞退ですの? では残るのは私一人ですが。織斑さんとミシェルさんはどうでしょう? もちろん他に立候補・推薦などあるならば受けて立ちましょう」
鈴とシャルロットはクラス代表としての仕事よりもミシェルの護衛としての仕事を優先したいとして辞退というか立候補を拒否。それを聞いたセシリアがにっこり微笑んで一夏とミシェルを見回し、というか彼らを推薦した女子に視線を向けるとその二人は居心地悪そうにうつむいた。
「わ、私、織斑君の推薦取り消します……」
「私も、デュノア君の推薦取り消します……」
推薦二人も取り消され、結果として残ったのは立候補したセシリアのみ。他に立候補や推薦を行う生徒もいないらしく、話を締めるかのように千冬がパンと手を叩いた。
「では、無投票当選ということで。一年一組のクラス長はセシリア・オルコットとする。オルコットは再来週のクラス対抗戦に向けて準備しておくように」
「はい」
「では今日のホームルームはこれまで。ああ、織斑とデュノア二人、あと篠ノ之もしばらく残っているように」
そんなこんなでさらっと帰りのホームルームも終わりを告げるのであった。
それから少し時間が経った後、一夏はげんなりとした顔で肩を落としていた。
「いきなり寮に入る事になったってのは分かったんだけどさぁ……なんで箒が相部屋なんだよ……男同士って事でミシェルが相部屋なのが無難なんじゃないのか……?」
「文句がある……のはまあ、分かる。だが私とて急に言われたんだ」
一夏の言葉に箒も腕を組んで唇を尖らせるが、男女七歳にして席を同じうせずという自らの考えからしても一般常識からしても十五歳の少年少女が同棲というのはおかしいだろうと、その顔には困惑が見て取れた。
「一夏と箒は一応知り合いなんでしょ? その方がまだマシとでも日本政府辺りに思われたんじゃないの?」
「私とミシェルさんが相部屋なのは、私達戸籍上は夫婦って事になってるし、そうでなくとも私はIS学園におけるミシェルさん護衛の実働隊隊長だから、せめて私だけでも同じ部屋に置いておかないと色々問題があるってフランス政府から連絡来たよ……ついさっき」
「報連相はどうなってるんだフランス政府……」
げんなり&困惑している一夏と箒に鈴が私論を語り、シャルロットが苦笑しながら説明するとミシェルも呆れ顔になる。
その言葉通り、千冬が彼らに残るよう伝えていた理由は男性である二人の寮室及び相部屋となるそこでの同居人の説明。しかしそれが男性である一夏とミシェル同士どころか異性であるそれぞれ箒とシャルロット。
ミシェルに関しては国及びデュノア社、よりいえばデュノア家から護衛として選定された相手だし戸籍上は特例として夫婦になっているシャルロットだからいいとして、一夏に関しては立場上は赤の他人で本人達曰く幼馴染である箒だった。
「……というかミシェルは護衛までついてんだな。俺、そんな話は聞いた覚えないんだけど」
「俺の場合は欧州連合に所属している各国の思惑も入っているからな……」
「私を含めてミシェルさんの護衛になっている相手は、鈴さんみたいなごく一部の例外を除いて全員ミシェルさんの婚約者という事になっているのです。まあ、今のところIS学園にいるのは私だけですが。IS学園入学予定者の中だけで言うならドイツからも出されているのですが、あちらの方の事情で入学が遅れているんです」
「「うわぁ……」」
ミシェルの肩をすくめながらの言葉とセシリアの説明を受けた一夏と箒は言葉を失う。つまり今聞いただけでもシャルロットを入れて三人の婚約者(内一名戸籍上は妻)がいるというわけ。
ここまで自分達の常識と違う光景を見せられれば「なんか外国ってすげーなー」なんて考えが頭の片隅に浮かぶほどだ。
「ふふ、ちょっといいかしら?」
「ん?」
すると突然彼らを呼び止める声が聞こえ、一夏が足を止めて声の方を向く。
そこにはIS学園の生徒だから当然だがIS学園の制服――上の方はノースリーブに改造していて下の方はロングスカートの両側に深いスリットを入れた、制服全体を一つとしてみればチャイナドレス風に改造したような形のものだ――を着た、綺麗な黒髪を両側でシニヨンに纏めた、女性にしては高身長の少女が何か含みのあるような笑みを浮かべた流し目で一夏達を見ている姿があった。
「えーと、君は? 一組じゃないよな?」
「ええ。私は一年二組の
一夏の言葉に少女――麗姫は己の名前を名乗りながら、含みのある笑みと妖しげな流し目のまま彼らに歩き寄って一夏とミシェルに流し目で視線を向ける。
「あなた達の話は聞いているわ。織斑一夏にミシェル・デュノア、あの
そう言い、麗姫は腕を組む。制服の上からでも強調されるように膨らんでいる巨乳が腕を組んだ事でより強調されているように見える。そんな光景に一夏は戸惑ったように視線を泳がせ、その様子を見た麗姫は含みのある笑みの中に別種の笑みを見せた。
「ねえ、織斑一夏……私と付き合わない?」
「は?」
「「はぁ!?」」
麗姫の言葉に一夏が呆けた声を出し、続けて箒と鈴も声を上げる。
「な、ななな何を常識外れの事を言っているんだ貴様!」
「そうよそうよ! 初対面の相手に付き合わないかとか馬鹿じゃないのアンタ!」
顔を赤くして、麗姫を遮るように一夏の前に躍り出て声を上げる箒と鈴。それに対して麗姫はクスクスと、二人を嘲るような笑みを見せた。
「あら、何かおかしいことがあるかしら? 織斑一夏、世界最強の弟。そんな相手なら私の恋人に相応しい、そう思って言ってあげてるのよ。そう、中国代表候補生であるこの私のね」
「中国……」
麗姫の言葉に鈴がピクリと眉を動かす。麗姫がそんな彼女を見下ろす、いやもはや見下すような視線を見せながら嘲るような笑みを深めた。
「ええ。あなたの事も聞いているわよ、
「それを知ってるって――まさかあんた!」
彼女の語る話はつい先ほど、というか昼休みに一夏と箒も聞いた話。彼女が故郷である中国を離れてフランスのデュノア家でお世話になるある種のきっかけとなった話。
鈴が眉間に皺を寄せてもはや怒鳴るような勢いで声を上げると、麗姫はクスクスと冷たく笑った。
「ええそう、あなたのスカウトに行ったのは私のお母様。ま、あなたをスカウトしなくて正解だったわね。危うくお母様の名前に泥を塗られるところだったわ」
その言葉にピクリと眉を動かしたのは一夏だった。
「どういう意味だよ?」
「だってそうでしょう? 男なんかを守ろうとしてエリートコースへの道を自分からなくした挙句、中国からも見捨てられ居場所がなくなって逃げ出した無能。そんな奴をスカウトなんてしても何の役にも立たないだろうし、そんな役立たずをスカウトしたお母様の責任にされるところだったわ」
クスクスと嘲る笑い方を隠そうともせず鈴を見下す麗姫。するとその顔がパッと、相手を魅了するような明るい笑顔へと変わって一夏を見た。
「さ、そんな奴と一緒にいたらあなたまで無能の仲間だと思われちゃうわ。そんな事であなたの価値が下がるなんて耐えられない、一緒に行きましょう?」
すいっと、一夏を守るように立ちはだかる箒と鈴をすり抜けるような体捌きで二人をかわし、一夏の腕に抱き着こうとする麗姫。
「お断りだ」
それを一夏はきつい表情で麗姫を見ながら彼女の追い払うように手を払った。
「鈴は俺の大切な友達だ。それを馬鹿にするあんたと一緒になんて行かねえよ」
「なっ!?」
きつい表情で麗姫を睨む一夏、その反応が予想外だったのか麗姫は絶句した後こっちも眉間に皺を寄せて彼を睨んでいた。
「友達、かぁ……」
鈴が一夏の言葉にどこか残念そうな呟きを漏らすが、一夏と麗姫の険悪な空気に気を取られていたのかその言葉は誰の耳にも届かなかった様子だった。
「チッ、私の魅力が分からない猿が。まあいいわ」
すると麗姫は本当に周りに聞こえないくらいの小さな声で呟いた後、途端に一夏に興味を失くしたかのように、今度はミシェルへと笑顔を振りまき始めた。
「あなたの話もよく聞いてるわ、ミシェル・デュノア。第二世代最高発とはいえ世界第三位のシェアを持つISラファール・リヴァイヴを生産しているデュノア社の社長子息」
「へえ、それはどうも」
麗姫の言葉にミシェルは塩対応で答える。そんな彼を守るようにシャルロットとセシリアも構えており、鈴も一応一夏をマークして守りつつも、もし彼女がミシェルに襲い掛かるようなら出られるように構えている。
そんな彼女達をちらりと見回した麗姫はフンと鼻を鳴らした後に再びミシェルに微笑を向ける。
「それに話は聞いてるわ。欧州連合各国があなたを逃がさないために婚約者を仕立て上げてあなたをフランスに縛りつけてるとか」
その言葉にミシェルの眉がぴくりと動くが、麗姫はそれに気づいていない様子で、今度は何か思うものがあるというように目を伏せて言葉を続ける。
「可哀想にねぇ。どうせ誰もあなたが男性IS操縦者という事しか見てなくて愛しているわけでもなく婚約しただけ。それにフランスが妻にと押しつけてきたのは、あなたの母親がどこかから引き取ってきた田舎娘だそうじゃない。そんな相手と結婚させられたあなたがとっても可哀想」
またミシェルの眉がぴくりと動く。隣のシャルロットやセシリアも頬をピクピクさせているが、麗姫はやはりそれに気づいていない様子でミシェルに笑顔を向けた。
「だから私があなたと付き合ってあげるわ。田舎娘の妻も無理矢理仕立て上げられた婚約者も、そんなものを押しつけてきたフランスも捨てて私と一緒に中国に行きましょう? そうすればあなたは私という愛する者を手に入れられるわ?」
シャルロットとセシリアは流石双方代表候補生だけあってか、そしてミシェルの護衛としてチームワークも勉強しているのか箒や鈴とは違って麗姫がすり抜ける隙を作っていない。
しかし麗姫は色気のある魅力的な笑顔をミシェルへと振りまいた。護衛で近づけないならミシェルの方から護衛をどかさせてこっちに来るようにさせればいいのだと、まるでそう言うように。
「お断りだね」
しかしミシェルは微動だにせず、フンと鼻を鳴らしてそう答えていた。
「俺はシャルを愛しているから結婚を承諾した。セシリアやラウラ達もたしかに各国の思惑として無理矢理婚約させられた身だけど、皆とても魅力的で好ましい淑女達だ。それに――」
ミシェルはそこまで言うと、鈴をちらりと見て軽く微笑みかけてから再び麗姫に向き直る。
「――君が侮辱した凰鈴音はデュノア社の未来を担うだろう将来有望で有能な社員だ。それを侮辱した君と一緒に行くなんてまっぴらごめんだね」
「なっ!?」
ミシェルも一夏と同じようにきつい表情で麗姫を睨む。その反応がこれまた予想外だったのか麗姫は絶句した後、この場の全員に睨まれた結果になって眉間に皺をよせた。
「フ、フン! せっかく見つかった男性IS操縦者も、どうやら見る目も知性もない奴らだったようね! こんな奴らを中国に連れ帰ったところで無駄よ無駄!」
まるで言い逃げするかのようにそう言ってその場を去っていく麗姫。
「なんだったんだ?」
「大方、男性IS操縦者を一国で独占しようとかいう輩だよ。所謂ハニートラップってやつさ、一夏も気をつけておくといい」
「うえー、めんどくせえ事になったなぁ……」
頭をかく一夏にミシェルが麗姫の真意を推測し忠告、それを聞いた一夏がげんなりした顔を見せる。
「まあ、私達が婚約者になっているのは、婚約者を出している国以外から来るだろうハニートラップを防ぐというのも一環にありますからね」
「私とミシェルさんが夫婦になってるのもね。社会的に夫婦である以上、その手の相手は即刻問題にしやすいから。“既婚者に手を出そうとした”って」
セシリアとシャルロットがクスクスと黒い笑みを浮かべながら、自分達の立場を利用したある種の防衛策を暴露。それを聞いた一夏と箒は引きつった苦笑いを浮かべている。
((外国ってこえー……))
その心中で二人は異口同音にそんな事を思っていたのだった。
《後書き》
また前話投稿からかなり空いてすみませんでした!
IS二次創作序盤のお馴染みクラス代表決定戦をやるかどうか、やるならどういう形にするか、結果はどうするか。とか色々考えてて、もう最終的にオールスキップしてセシリアに押しつけるという形になりました。(笑)
そしてその代わりに登場、本作における中国代表候補生、改めて名を「
鈴:低身長・貧乳
麗姫:高身長・巨乳
と言った感じで体型的には鈴と真逆のイメージです。そして鈴をスカウトしに行って父親を侮辱して鈴をキレさせたスカウトの娘であり、親子揃ってクッソ女尊男卑思考です、なんなら麗姫も一夏やミシェルを「自分の出世のための道具」としか見てないです。「調子の良い事言って&自分の色気で落として自分の出世のために使って必要無くなれば捨てる」くらいに思ってるイメージです。
ただ一夏は「大切な友達である鈴を馬鹿にされた」という事で心象最悪、ミシェルも鈴の事は友人だと思ってるしなんなら大切な妻や婚約者を侮辱されたって事でこっちも心象最悪です。完全にファーストコンタクトミスって男子二人から敵視されましたねw
さてここからどうしようかねぇと考えているところであります。
では今回はこの辺で。ご指摘ご意見ご感想はお気軽にどうぞ。それでは。