インフィニット・ストラトス~もしも凰鈴音がデュノア家のメイドになっていたら~   作:カイナ

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第五話 暗躍

 一年一組のクラス対抗戦に出る代表でありクラス長がセシリアに決まってから数日が経ち、今日はアリーナでセシリアとシャルロットによる模擬戦が行われていた。

 

「はっ!」

 

「はいっ!」

 

 セシリアが声を上げながら引き金を引くと共に、彼女の主武器であるレーザーライフルーースターライトmkIIIからレーザーが放たれ、シャルロットも掛け声を上げてまるで舞うようにレーザーを回避する。続けてセシリアがレーザーを連射するが、シャルロットはそれをもひゅんひゅんと不規則な軌道で軽やかに動いて回避していた。

 

「うおー、シャルロットさん凄い動きだなー」

 

 一方アリーナの観客席。今日は見学に来ている一夏が、シャルロットのまるで羽でも生えているかのような軽やかな動きを見て素人ながら賞賛。その隣に座るミシェルがふっと得意げな笑みを見せた。

 

「当然さ、シャルはデュノア社の誇るパイロットにしてフランス代表候補生だからね。まあこの動きはウォーミングアップのために軽く動いている程度だけど」

 

「セシリアの方もウォーミングアップだから動きは甘めだけどね。お互い動作確認が主だし」

 

 ミシェルに続いて鈴が肩をすくめる。そもそも二人とも攻防の合間に観客である一夏、ミシェル、箒、鈴に笑顔を向けてきたりひらひらと手を振ってる辺り本気でやっているはずもない。むしろこれはまだISをきちんと見慣れていない一年生の仲間に向けてのパフォーマンスに近いものだろうというくらいに伸び伸びと動いていた。

 

「二人が鍛錬を積んでいるという事も分かるが、あの動き……あれが専用機というものか……」

 

 箒がじっと二人を見ながら呟く。そもそもパイロットである二人が技術を磨いているという事は前提。しかしその力をいかんなく発揮できるのは相応のスペックを持つ機体があってこそ。それを可能とするのが彼女達専用として用意された機体、専用機である。

 

「そう。俺の専用機にしてラファール・リヴァイヴの高速機動・砲撃型パッケージ装備パターン『ラファール・リヴァイヴ・カスタムⅢ:ラピッド・ドラグーン』も含め、専用機は操縦者用に合わせて調整がされているからな。量産機よりは動きやすくなっているはずだ。一夏もその内専用機が来るそうだし、心がけておくといい」

 

「お、おう……」

 

 ミシェルの言葉に、千冬から「日本から専用機が渡される事になった」と伝えられた一夏はどこか緊張気味に頷いた後、そういえばというような様子で鈴に目を向けた。

 

「そういえば鈴、お前もミシェルの護衛って事になってるんだよな? って事はお前も専用機を持ってるのか?」

 

 一夏の疑問ももっともな事だろう。ミシェル・デュノア、世界に現在二人しか確認されていない男性IS操縦者。しかもミシェル自身がIS(専用機)持ちともなればその護衛である鈴も専用機を持っていると考えても不思議ではない。なにせ仮に刺客がISを使ってきてのIS戦になれば、ISを持っていなければ護衛どころかただの足手まといだ。

 しかし鈴は苦笑を漏らしてそれに答えた。

 

「今は持ってないわ」

 

「「……え?」」

 

 その言葉に一夏だけでなく箒も声を漏らす。つまり鈴はISを使わない前提の護衛という事だろうか、だがそれは下手をすれば肉壁という事にもなるのか?と二人が困惑する中で、そんな二人の困惑を感じたのか鈴が「はいはい」と続ける。

 

「なんか勘違いしてそうだけど、専用機が来ること自体は決定してるわよ。ただね、それデュノア社でテスト業務に使ってる機体を流用する事になってるから色々日程の調整が必要なのよ。あたしが専用機を使ってる間はフランス政府から代用機がデュノア社に貸与される事になってるけどそっちの日程調整もね」

 

「クラス対抗戦までには来るかしら」と締める鈴に一夏と箒はなるほどと頷き、一夏はまさかミシェルの家が鈴を使い捨ての肉壁にしようとしているのではないかと酷い事を考えてしまったがそういう事ではないらしいと、ほっと安堵の息を吐く。

 

「ほら、二人の模擬戦が本格的に始まったから見なさい」

 

 鈴がアリーナ内を指さして示し、一夏と箒もアリーナへと顔を向ける。ミシェルは既に顔を戻していた。

 

「フッーー」

 

 セシリアが短く息を吐きながらライフルの引き金を引く。同時にその銃口から光が溢れ弾丸となって放たれて宙を駆ける。しかも一発だけではない、先程のウォーミングアップでは一定のリズムを置いて発射していたそれは瞬く間にさらに二発の光弾を発しており、さらにそれは同じ場所を狙ったものではなく一発目が左右どちらかに動いて回避された場合を狙ったかのように敵機――ラファール・リヴァイヴの左右を襲っていた。

 

「おっと」

 

 シャルロットも上昇や下降での回避は間に合わず右に動いて一発目の光弾を回避、二発目が直撃するかと思ったがその光弾は突如彼女の前に展開されたエネルギーシールドによって防がれる。

 

「あれがシャルの専用機でラファール・リヴァイヴの防御用パッケージ装備パターン、『ラファール・リヴァイヴ・カスタムⅡ:ガーデン・カーテン』。シャルは俺の護衛実働隊隊長という事にもなっているからね。もっとも防御を固めた装備を採用しているんだ」

 

 ミシェルの解説が挟まる。通常のラファール・リヴァイヴの装備に加えて実体シールド二枚、エネルギーシールド二枚を追加した防御に特化したパッケージ。そして同じ機体でもミシェルのラピッド・ドラグーンのような別のパッケージを装備する事であらゆる状況に対応が可能なのがラファール・リヴァイヴの特徴の一つだとミシェルが語る。

 そんな中シャルロットはその無数のシールドに防御を任せてアサルトライフルを手にセシリアに突貫。対するセシリアもライフルを構えたまま高速で後退し飛翔、二人の華麗かつ怒涛の空中戦が開始される。その模擬戦に一夏達だけでなく他に観客席で見学している生徒達も見とれてしまっていた。

 

「フン、まったく。素人を相手に誇示するなんてみっともない」

 

 少なくともこの場にいるたった一人を除いては。

 

「朱麗姫……アンタ一体何の用よ?」

 

「別に、ただの偵察よ。クラス対抗戦直前なんてタイミングで手の内を晒すような間抜けがいると聞いてね」

 

「間抜けだって? セシリアがか?」

 

 変な因縁がある故かその相手――麗姫を睨んで問いただす鈴に麗姫は悪びれもなくそう答える。

 その言葉の一部に一夏が噛みつくが、麗姫は「そうでしょう?」とこれまた悪びれもせず、むしろ嫌味そうな嘲笑さえ浮かべて答えた。

 

「もうすぐクラス対抗戦だというのにわざわざ自分から手の内を晒してるなんて間抜け以外の何者だというの? それとも初心者を相手に力を見せつけて称えられたいとでも思ってるのかしら?」

 

「鍛錬とは日々の積み重ねあってこそだ。大会の前だろうとなんだろうと、手の内を晒してしまうなど鍛錬を行わない理由にはならん」

 

 麗姫の言葉が癪に障ったのか箒も言い返す。しかし麗姫はその言葉にもフンと鼻を鳴らし箒に対して見下すような視線を向けた。

 

「あなたみたいな凡人は努力なんてものをありがたがってるけど、私からしたらくだらないわね。どれだけ努力をしたところでいざという時に力を発揮できなければそれで終わりなのよ?」

 

 麗姫は嫌味たらしくそう言ってアリーナで戦う二人を見る。今はセシリアが己の機体ブルー・ティアーズの名の由来でもある第三世代兵器ブルー・ティアーズのビット攻撃による包囲攻撃でシャルロットを追い詰めていた。

 

「ふぅん。流石は代表候補生、そして第三世代ISを任せられるだけはあるって事ね……まともに相手するのは面倒そうだわ

 

 麗姫はぽつりとそう呟くともう用はなくなったと言いたげに踵を返し、アリーナを出ていく。残ったメンバーはそれをどうにも気に入らないという様子で一瞥した後席に戻っていくのだった。

 

 それからまた数日が経ち、今週末がクラス対抗戦という時まで時間が進んだ週の中頃の放課後。

 セシリアは一人寮への帰路についていた。ミシェルとシャルロットが二組の人に悩みがあると言われて相談をお願いされ、鈴も一応護衛として及び悩みがあるのなら放っておけないという世話焼きを発揮して同席すると言い出し、一夏はただでさえ突然入学が決定した(そして必読の参考書を間違えて捨ててしまった)事で勉強が遅れているため山田先生の特別補習授業への参加、箒も「山田先生ばかりに手を煩わせるのも申し訳ない」と補助として補習授業に参加している。

 セシリアも悩み相談に同席しようと思ったが流石に四人もいては相手が委縮するとミシェルになだめられて別行動。今週末のクラス対抗戦に向けて調整をしようかなと思いながら一人寮に帰っていた。

 

「あら?」

 

 帰る道中、セシリアはある光景を見つけて足を止める。自分が行こうとした先でもある階段、その上で一人の女生徒――セシリアと同じ一年生で、見る限りだが恐らく中国人だ――が両手に抱える程の大量のプリントを手に立ち往生をしていたのだ。恐らく階段を降りたいのだが両手に抱えた大量のプリントで足元が見えず危ないので立ち往生しているのだろう。

 そう考えたセシリアはその生徒の方に歩み寄った。

 

「大丈夫ですか?」

 

「あ、あ、オ、オルコットさん……いえ、その、こ、このプリントを運ぶように朱さんに言われたんですが、その、多くて足元もよく見えなくて、えと、階段を降りられなくって……」

 

「なるほど……」

 

 朱麗姫が仕事を押しつけたのかどうか詳しい事は知らないが、なんにせよ階段を降りるのも難儀するような量のプリントを運ぶことを一人のクラスメイトに押しつけるなど言語道断だ。

 

「分かりました。では私も手伝いましょう、そのプリントをいくつか貸していただける?」

 

「え、あ、え、ほ、ほんとに……」

 

 セシリアは貴族としてのノブリス・オブリージュの精神を刺激されたのか彼女に申し出る。それに女生徒はどこか驚いたように目を泳がせるがその間にセシリアは彼女が抱えたプリントを半分ほど取って両手に抱えた。

 

「これならあなたも足元が見えるでしょう? では参りましょうか」

 

 そう言ってセシリアは階段を降り始める。その際当然だが彼女は立ち往生をしていた女生徒に背を向ける事になり、これまたいくら足元が見える程度とはいえ量が多いプリントを落とさないようにプリントの山に集中を向けるようになる。

 そのためだろうか――

 

不好意思(ごめんなさい)

 

「えっ?」

 

 ――その女子生徒から中国語での謝罪の言葉が聞こえると同時に彼女に突き飛ばされる事に反応できなかった。

 階段で突き飛ばされたセシリアの身体が宙を舞い、彼女の手のプリントがばら撒かれる。反射的に振り返ったセシリアが見るのは罪悪感に包まれたかのような、今にも泣きそうな顔をしたその女子生徒の顔。

 

 その直後――ドンッと高いところから物が落下したような衝撃音が響くのだった。




《後書き》
 また前話投稿からかなりというかもはや一年空いてすみませんでした!別の小説の興が乗ったり色々忙しくなって書く暇がなくなったりと色々あったらいつの間にかこんな事になってました……。
 けどその分なんか色々思いついたというか、正直最後の展開は少し前まで自分なら思いつけなかった展開だと思います。いや正確には思いつけはしただろうけどそれを採用できた自信はありません。うむ、こんな展開を思いつく辺り僕も少しはダークになってきたのやら……。
 でも正直この展開を思いつけたのは僥倖でした。正直これで本作で詰まってた部分を一気に解決できたので。なので次回はもっと早く書ける……と思いたいんですが、最近仕事がここ数週間毎日残業レベルでクソ忙しいのでどうなる事やら……他にも書きたい話あるし……。
 では今回はこの辺で。ご指摘ご意見ご感想はお気軽にどうぞ。それでは。
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