艦隊(Re)これくしょん ~ 白杜太一は艦娘たちの指揮を執るようです ~   作:IronCat

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~遠征~ 3

 午後は厚志も横須賀鎮守府の準備委員会に参加するため、浦賀警備府を留守にするらしい。会議出席のため提督の制服に着替えた厚志に倣って太一もスーツに着替えようとしたが、止められた。

 

「太一には午後、工廠の方を見学して貰う。ここと違って掃除も満足にしてないからスーツを汚さないようツナギの方がいいぞ。案内は頼んであるから色々聞いてくれ」

「わかった。でも、波津音さんは今日来ないんだよね?」

「遠征に行ってた艦娘が戻ってくるから大丈夫だ。昼飯食って午後イチに報告兼ねて執務室に来るように指示してあるから」

「終わったらどうしたらいい?」

「俺が帰ってくるの待たなくていいぞ。5時になったらみんなも解散させて太一も帰ってくれ」

 

 夜間や休日は出撃しなくても良いのか確認してみたが、さすがに総勢5人の艦隊(うち2名は事務職)では手が回らないらしい。そこは各地に配備された艦娘達と提督で分担し、浦賀鎮守府は2日後の日曜が担当日となる。

 

「じゃあ、俺も日曜には出てくるよ」

「俺が居るからまだ出てこなくていいぞ。ただ、何かあった時のために常に電話連絡ができるようにしておいてくれ」

「んー・・・わかった」

 

 そう言われたが、できるだけ早く仕事を覚えたいので太一は顔を出すつもりだった。お昼くらいに適当に差し入れ持参で来れば喜んで貰えるだろうか。

 

 その時、プレハブの階段を誰かが登ってくる音が外から聞こえてきた。複数人のようで、軽い足音が不規則に響いてくる。

 

「お、来たな」

 

 執務室の通路側の磨りガラスの窓の外を2つの小さな影が通る。

 

(あれ・・・?)

 

 その影があまりに低いところを通過したため、太一は違和感を覚えた。並んでみないと正確にはわからないが、多分、太一よりかなり低い。

 

 こんこん、と執務室の扉がノックされた。

 厚志が太一に目配せし、扉に向かって「入れ」と声をかける。太一はしゃんと背を伸ばして椅子に座り直した。カチャッと扉が開き、2人の少女が入ってくる。

 

「駆逐艦〈(ひびき)〉、他1名入ります」 

 

 太一は驚いた。入ってきた2人がどう見ても小学生、多少贔屓目に見ても中学生なり立てくらいの年の頃の少女にしか見えなかったからだ。

 

 最初に入ってきた子は目の色が薄く、髪が長くて、紺色の錨マーク入りの略帽をかぶっている。その後ろにくっ付いて入ってきた子はおどおどした感じで猫背気味に身体を丸めた、ちょっと気弱そうな印象の少女だ。髪は先に入ってきた子と同じくらい長そうだが、後ろで束ねて上向きに留めている。

 2人とも、波津音のように学生服のような衣装を身につけていた。もしかすると艦娘の制服はみんなこの系統なのかもしれない。水兵(セーラー)服って言うくらいだし。

 

(でも・・・)

 

 太一は最初に入ってきた帽子の子を見た。この子が先頭で入ってきたと言うことは、さっきの申告通りこっちの少女の方が〈響〉なのだろう。と言うことは・・・。

 

(この子が〈(でん)〉っていう艦娘なのかな?)

 

 後ろで縮こまってまだ出てこない少女の方にも目を向ける。太一の勝手な思い込みだが、波津音やテレビで見る赤城は若いのにしっかりと受け答えしていて、なんとなく艦娘はみんな芯のしっかりした感じの勇ましい存在なのだと考えていた。響と言う子はともかく、こちらの子はどう見ても戦場で大砲をぶっ放して戦う様には見えない。

 2人はまっすぐ厚志の机に向かうと、主に響の方が午前中の警備監視遠征の報告を始めた。親しげでも無く、さりとて緊張した様子も無い。淡々とした口調で必要な事を伝えているという感じだ。

 それに対し、(でん)の方はどうしても太一の方が気になるようで、チラチラとこちらの方に視線を彷徨わせていた。厚志に細部を質問されるとつっかえつつ、一応要点は返しているようだった。

 

(ちょっとクールな感じの響ちゃんに、おとなしめの(でん)ちゃんか。しっかり覚えておかないと)

 

 太一がそんなことを考えている間に、報告を受け終えた厚志は2人に指示して太一の机の前に並ばせた。慌てて立ち上がって気を付けをする。厚志も机から出てきて2人を促した。

 

「よし、お互いに自己紹介だ」

「・・・駆逐艦、響だよ。よろしく」

「い、(いなずま)です。どうか、よろしくお願いいたします」

 

(・・・ん!?)

 

 今の自己紹介中の違和感に、太一の頭の中でパチンと何かがはまる音がした。

 

(・・・・・・あ!!)

 

 ×「(でん)」 → ○「(いなずま)

 

「ああ~・・・そう読むのか・・・」

「どうした、太一?」

「いや、ちょっと。思い込みがね・・・」

 

 冷静に考えれば〈響〉の方を「ひびき」と読んでいるのだから、〈電〉だって訓読みすると思い当たった筈だ。だが、「いなずま」だとどうしても「稲妻」の字が出てくるため、〈電〉を読み替える発想が無かった。間違ったまま「(でん)ちゃん」なんて声をかける前に気が付けて本当に良かった。

 気を取り直し、太一は気を付けの姿勢から自衛隊式の礼をした。

 

「本日付で浦賀警備府に配属された白杜太一です。まだ色々わかってなくてご迷惑をかける事と思いますが、どうぞよろしくお願いします」

「太一には提督補佐官として色々俺の手の回らないところをやって貰うつもりだ。補佐官って事になってるが俺の居ない間は提督代理になるから、太一の指示は提督の指示だと思って聞いてくれ」

 

 太一の自己紹介の後を引き継いだ厚志の補足に、2人の艦娘は気を付けをしたまま了解を返した。うむ、と頷く厚志。

 

「朝言ったとおり、俺はこの後横須賀に会議に行ってくる。響はここで電話番を頼む」

「了解」

(いなずま)は工廠の案内だ。太一はまだ提督の基本的な教育も受けていないから、一から教えてやってくれよ?」

「了解なのです」

「よし」

 

 頷き、チラリと時計を見る厚志。太一の方に向き直る。

 

「じゃ、太一と(いなずま)は行ってくれ。俺もあと10分したら出るから」

「わかった。それじゃ行きましょう、(いなずま)さん」

「あ・・・はいっ」

 

 一瞬びっくりしたように目を見開く(いなずま)。すぐに慌てて返事を付け足した。

 

(ありゃ、怖がらせちゃった? そんなに勢いよく言ったつもりないんだけどな・・・)

 

 これ以上話しかけるとますます怖がらせてしまうかもしれない。そう思った太一はさっさと執務室から出ることにした。この年頃は大人の男性というだけで逃げ腰になってしまう繊細な子もいるはずだ。少し打ち解けるまで距離感を大事にしないと、と慣れないことを考えながら先にプレハブの階段を降りていった。

 

 

 

 

 階段を降りた先のホワイトボードでは、律儀に響と電のマグネットは庁舎の位置に移動していた。勝手に変えていいのかわからなかった太一が突っ立ってそれを眺めていると、パタパタと降りてきた(いなずま)が自分のマグネットと太一の「補佐」のマグネットを「工廠」の枠の中にペタペタッと移動した。

 

「工廠はこっちなのです。案内します、補佐官さん」

「あ、お願いします」

 

 太一の言葉にまた戸惑ったように一瞬振り向く電。しかし、結局何も言わずに顔を前に向けると、太一の先に立ってトコトコと歩き始めた。

 

(??? 何か言いたかったのかな・・・)

 

 でも、こちらから質問するとまた怖がらせてしまうかもしれない。少し歯がゆい思いをしながら、太一は電の歩く速度に合わせてゆっくりと着いていった。

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 

 

 厚志達の言う〈工廠〉は旧浦賀ドックの船渠脇の空き工場をそのまま利用した施設だった。海水を入れて建物中まで水を引き入れているのは、妖精さんが力を失わないようにするためだろう。主要な電源が止められているせいか、錆付いた大きなスライド扉は動く気配も無く開け放たれている。照明電源だけは生きているのか、それともここを浦賀警備府にする際に新たに電線を引いたのか、入り口脇の壁際のスイッチに電が手を伸ばしてONにすると、天井の大きなライトに明かりが灯った。

 

 明るくなって中の様子が見えるようになったが、見渡しても何も無い。ガランとしていて、設置しっぱなしの棚にも何も乗っていない。当然、誰も作業してもいないし、猫の子一匹もいやしない。戸惑った太一は、どうしようも無くなって電に話しかけてしまう。

 

「あの、ここが工廠なんですか? (いなずま)さん」

「・・・・・・」

 

 電はチラリと太一の顔を見上げた後、両手をメガホンの形にして口に当て、工廠内に呼びかけた。

 

「妖精さんたち、この方は司令官さんの補佐官さんです。怪しい人じゃないので姿を見せて欲しいのです」

「・・・!」

 

 電が声をかけた途端、奥の方の棚の足下からひょこっと大きな頭が覗いた。どう見ても棚の脚に隠れられるサイズじゃないのに、その影から突如として現れたのだ。しかも、それに続いてひょこひょこひょこひょことあっちこっちの棚の脚だの、扉の隙間だの、壁のつなぎ目だの、床の段差の影だのと、厚みと容積を無視して次々と妖精さん達の頭が現れる。あれよあれよという間に太一達は数十の妖精さん達に取り囲まれてしまっていた。

 

「うわ、こんなにいっぱいどこに隠れていたんだ!?」

 

 太一は周囲を見渡した。沢山の妖精さん達は似た服装の者も多少はいるが、ほとんどが個性的な格好をしていてまとまりが無い。行動も色々で、太一を興味深そうに遠巻きにしている者もいれば、タカタカと寄ってきて足下でビシッと敬礼する者も居る。と思ったら床に寝そべってゴロゴロしている者もいるし、同じ妖精さん同士でコチョコチョとおしゃべりしている者もいる。なんか釣り道具持って工廠内の堀で釣りを始めた者までいるし、極めつけは浮き輪を付けたまま天井付近から吊られてすいーっと降りてきた者まで居た。あまりの自由奔放っぷりに太一の目が丸くなる。

 

「妖精さんって・・・こんなにいるんですか?」

「・・・ここにいる妖精さんは主に艦娘の装備の妖精さんなのです。妖精さんごとに担当する装備が違ってて、普段は見えないところで隠れて整備をしてるのです」

「だから最初何も無かったのか・・・」

「なのです。司令官さんが直接言うか、〈艦隊司令部〉の妖精さんが指示してくれないと艦娘も勝手に装備を使えないのです」

 

 太一は〈いかづち〉で波津音が出撃する際、「安全装置がかかってる」と言っていたことを思い出した。どうやら妖精さんは見た目の奔放っぷりに反して装備管理には厳格なようだ。普段は装備を隠しているならセキュリティ的にもばっちりだろう。

 電と立ち話している間に好奇心旺盛な妖精さんがよじよじと太一のツナギクライミングを始めたので注意深くそれを掬い取って地面に戻してやる。電はその様子に目を丸くしていた。

 

「補佐官さん・・・ほんとうに全部の妖精さんが見えているのですか?」

「ん・・・全部かどうかはわかりませんが、一応いっぱいいるのはわかります。服装が違うのも、何か行動がバラバラなのも。あっちの棚の上で寝始めてるのがいるのも見えてます」

「・・・そんな人、(いなずま)は他に1人しか知らないのです」

「他に? 俺の他にも妖精さんが全部見える人がいるんですか?」

「はいなのです」

 

 太一は驚いた。自分と同じ特異能力の者が他にいるなんて知らなかった。できれば会ってみたいと太一は言ってみたが、電は首を振った。

 

(いなずま)も話を聞いただけで、その方はもう亡くなっているのです」

「あ・・・そうなんですか・・・」

「なんでも、対馬に観測所ができる前に研究していた学者さんで、今の艦娘や妖精さんのことはその方の研究が元になっているらしいのです」

「そうですか・・・」

 

 残念だった。対馬海洋観測所ができる前となると、もう何十年も前に亡くなっていることになる。できれば会って、同じ能力を持つ者同士で情報交換したかった。不屈の精神で再度膝のあたりまで登ってきた妖精さんを地面に下ろしつつ、内心ため息をつく太一であった。

 

 と、その時、太一の視界の隅に工廠内を駆けていく妖精さんの集団がチラリと見えた。何気なく目をやると、木材を中心にえっほえっほと協力して運んでいるヘルメットを被った妖精さん達のグループがいる。思わず太一は声を上げた。

 

「あ! あの妖精さん知ってる!」

「え!? 管理官さんどうしたのですか?」

「あの妖精さん! 応急工作の妖精さんでしょ!」

 

 その妖精さん達は自分のことが話題になったのがわかったのか、立ち止まって振り向いた。少し顔を見合わせ、一旦木材を床に置く。それを見て、太一も足下の妖精さんを避けながら近付いた。電も小走りに着いてくる。

 

「自衛隊の船にもね、居たんです。応急工作員。船が火事になったり、穴が開いて水が入ってきたりしたとき、その場で木材なんかを駆使して内側から船を応急修理してくれる乗員が」

 

 ヘルメットの妖精さん達の前まで来た太一は、それだけでは足らず膝をついてしゃがんだ。よく見ると小さなトンカチやいっぱい工具の入ったバッグを手に持っていて、思わず顔がほころぶ。

 

「船の人達と一緒です。ダメコン・・・ダメージコントロールといって、傷ついた船が沈むのを食い止める、最後の砦の人たちです」

 

 太一は〈いかづち〉での生活を思い出していた。応急工作員は普段は筋トレばっかりしている人たちというイメージが強いが、ひとたび故障が起こったり、訓練になると飛んできて瞬く間に船を直してしまうプロフェッショナル達だ。繊細な技術も持っていて、ちょっとした家具類や船の看板、何かの記念に飾る盾なんかも加工して作ってしまう。太一も〈いかづち〉に居る間に何度か工作を依頼してお世話になった。

 

 太一は嬉しくなった。自分の知っている仕事をしている妖精さんを見つけた事もある。だが、艦娘が傷ついたときに守ってくれる妖精さんもちゃんといるという事を知って、安心したのだ。

 先ほど厚志から艦娘の〈轟沈〉の話を聞いたときはとても怖くなった。妖精さんが艦娘を海の底に引きずり込む事があると知り、薄ら寒い気持ちになった。だが、船が沈みそうになってもそれを食い止めるために頑張ってくれる妖精さんがいる。それが何より嬉しかった。

 

「応急修理の妖精さん」

 

 思わず、口に出して呼びかけてしまう。びっくりしたように動きを止めて太一を見上げる妖精さん達。

 それに構わず、太一は周りの他の妖精さん達にも声をかけた。

 

「それと、俺が勉強不足のせいでまだ、どの装備担当かわからない他の妖精さん達も」

 

 太一は立ち上がり、みんなに向かってペコリと頭を下げた。

 

「はじめまして。今日から提督補佐をする事になった白杜太一です。ふつつか者ですが、これからよろしくお願いします」

 

 顔を上げて妖精さん達を見渡す。みな、動きを止めて太一に注目していた。おしゃべりしていた妖精さんもこっちに向き直り、寝ていた妖精さんも顔を上げている。それに向かって、太一はにっこりと笑った。

 

「それと、艦娘さんたちの事も、くれぐれもよろしくお願いします。海の上ではみなさんが頼りです。艦娘さんたちを支えてやってください。重ね重ねになりますが、どうか、よろしくお願いします」

 

 そう言って、もう一度深く頭を下げた。

 自分の気持ちの分、じっくりと待って顔を上げる。すると、妖精さん達もみなその場でビシッと気を付けをして太一に敬礼をしていた。それを見た太一の顔が、再度ほころんだのだった。

 

 

 

 

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