艦隊(Re)これくしょん ~ 白杜太一は艦娘たちの指揮を執るようです ~ 作:IronCat
日曜日。
太一と
「・・・来たみたいだね」
「バイトの子たち?」
「そう」
出迎えようと腰を上げかけると、「いいから」と響が手で制した。
「太一さんは司令官代理で、今この警備府の一番上なんだから。どっしり構えててよ」
「あ、うん」
見た目
(
まあ、それが可愛いらしいところでもあるのだが。
しばらく壁越しにかすかに響いてくる女の子のおしゃべりを聞きながら待っていると、やがて外の階段を上ってくる複数人の足音が室内に響き始めた。
(誰か来たらすぐわかるのがこのプレハブの唯一の利点だな)
そんなことを考えていると、磨りガラスを通過する小さな影一つ、それに続く中サイズの影2つが見え、直後に扉がノックされた。
「どうぞ」
太一が声をかけると、扉が開いて電が姿を現す。
「駆逐艦〈
「はいりまぁーっす」
電の後に続いて入ってきたのは片方が高校生くらい、もう片方が中学生くらいの女の子だ。だが太一の観察眼では、この年頃の子の外見から正確な年齢は計れないので、当たっているかどうかわからない。どちらも学生服のような艦娘の制服をすでに着ている。
3人が机の前に並ぶのを椅子から立って待ち受けた太一は、まず最初に挨拶の言葉をかけた。
「はじめまして。新しく提督補佐官に着任した
「はいっ! わたしが〈磯波〉でっす!」
2番目に入ってきた高校生くらいの子が元気に手を上げて返答した。それに続きちょっと気弱に3番目の子が「し、〈白雪〉です」と小声で言う。ちょっと電ちゃんに似てる。
本人確認ができたので、太一は頷いて今日の遠征について(カンペを見ながら)必要事項を伝える。
「では、今日のお仕事です。本日の任務は旗艦を〈
「いつもの警備任務ですね」
磯波が相づちを打つ。すでに何度かバイトに来ているらしいので、同じ遠征をしたことがあるのだろう。太一は頷いて続けた。
「はい、それです。浦賀までの行き帰りの行程を含めて120km位なので、原速(12ノット=時速約22km)ベースで哨戒しつつ回れば5時間くらいで帰ってこれるはずです」
「いつもなら午後1時過ぎに帰ってきて、それからお昼な感じですね」
「ええ。今日もそれでお願いします」
「了解でっす!」
張り切っている磯波が真っ先に了解する。慌てて「りょ、了解しました」と続く電。
苦笑しながら、補佐官席に座っている響に艦隊編成の指示を出した。頷いた響が〈艦隊司令部施設〉のパソコンを操作する。
「他に何か質問はありますか?」
顔を見合わせた3人から特に質問は出てこない。そうこうしている内に、響から「できたよ」と声がかけられた。頷いて3人に再度向き直る太一。
「今、3人を艦隊に編成しました。工廠に行って艤装を受け取り、準備でき次第出撃してください」
「了解、なのです!」
今度は雷が最初に返事をした。3人は退出の挨拶をし、扉から出て行く。
それを見送った後、太一は補佐官席に移動してパソコンの画面を見せて貰った。
「
「磯波は他のところのバイトも掛け持ちしてたらしいから本人はもっと慣れてると思うけどね」
「・・・響ちゃんは?」
「Нет、見せない」
そう言って画面を隠す響。そんなこと言っても本人が居ないときに確認すれば一発なんだけどな、と太一は苦笑する。
響はロシアに憧れているのか、たまにロシア語が飛び出る。今のはニェート、「いいえ」の意味だと金曜日のおやつ会の時に教えて貰った。下の看板に落書きしたのも響たちで、「Хорошо」でハラショー、「素晴らしい」とかの意味らしい。
「・・・あれ?」
「どうした、太一さん」
太一はチラリと見えた艦娘の装備状況の画面に違和感を覚え、思わず声を出した。
「いや、ちょっと・・・もう一度、画面を見せてくれる?」
「私の練度を見ないと約束するなら」
「見ない。約束する」
許されたのでパソコンを自分の方に向けてマウスで操作する。〈改装〉画面を出すと、今行った3人が縦に並んだ横に、電たちの兵装状況が表示された。
「・・・ねえ、響ちゃん。この12.7cm連装砲と3連装酸素魚雷ってのは電ちゃんの武装だよね」
「そうだね」
「じゃあ、白雪さんのここに1つ空きがあるのは何だろう?」
響も太一の身体にくっ付くようにして画面の中を覗き込んでくる。
「ああ、空きスロットだね。私たち艦娘の艤装は基本的に元乗員の妖精さんが乗って動かしているんだけど、他の艦に乗っていたりした本来の乗員でない妖精さんも乗せることができるんだよ。その為のスペースが空きスロットだね」
「へぇ」
「白雪の第2スロットが空いてるのは、確か装備が足りなかったんだと思う。バイトの艦娘用の艤装は貰えたけど、装備まで手が回らなかったらしいよ」
「ふーん・・・」
空母の艦娘が装備する航空機の妖精さんなんかも、この空きスペースに乗ることになるらしい。妖精さんってどんな隙間でも厚み関係なく潜り込めると思ってたんだけど、やっぱり彼らなりの世知辛い居住スペース問題は存在してたのか。
「・・・でも、工廠にはもっとたくさん妖精さんいたような気がしたけどなぁ」
「太一さんは妖精さんが全員見えるんだったね。それは大淀さんの装備妖精さんじゃないかな? 駆逐艦と軽巡洋艦では装備スロットに乗れる妖精さんが違っていて、大淀さんの装備は乗せられないよ」
「・・・装備妖精さんの一覧とかは見れないかな?」
「できるよ。ここをクリックして・・・はい」
「ありがとう」
太一はパソコンの画面に表示されたリストにざっと目を通した。たった1ページしか無いそれを2回確認する。
「・・・無い」
「? どうしたんだい、太一さん」
「いや、応急修理妖精さんの名前が無いな〜って・・・」
「応急修理?」
響は応急修理妖精さんのことを知らないようだった。少なくとも、響の知る限り応急修理員の名前が厚志や他の艦娘の口から話題に上ったことは無いらしい。
これはどういうことだろう? 太一が来るまで、あの妖精さんたちは誰にも認識されていなかったのだろうか?
「ちなみに、この装備妖精さんの一覧ってどうやって作ったのかな?」
ふと思いついて太一は聞いてみた。即座に答える響。
「対馬にいた頃、司令官たちがひとつひとつ装備に触れて妖精さんたちに確認してたよ。担当の妖精さんが出てこなかったこともあったらしいけど、そういう装備はだいたい艦の本来の乗組妖精さんが動かしてるよ」
「なるほど・・・つまり、『この12.7cm連装砲の担当者は手を上げて』みたいに?」
「そんな感じだね」
太一は納得した。そういうやり方でやったなら、一覧から漏れた妖精さんがいても仕方がない事かもしれない。
応急修理員の妖精さんの担当する装備は艦娘の艤装そのものだし、出番となるのはそれが壊れて緊急処置をしなくてはいけない時だ。厚志たちもそういう想定で妖精さんを探したりしないだろうし、応急修理員の妖精さんも通常は表には出てこないのだろう。
「ふーむ・・・」
太一は白雪の空いた装備スロットをじっと見つめた。貧乏性なのかもしれないが、なんとなく活用できるスペースが空いたままになっているのはもったいない気がする。
「・・・俺、ここに誰か乗せられないか、みんなと相談してみる」
「電も気にしたことないと思うけど・・・」
「いや、だから妖精さん達も交えて」
太一の言葉に、響の目が丸くなった。
「太一さんは妖精さんの言葉がわかるのかい!?」
「わからないけど。でもこっちの言葉は通じてるみたいだし、ダメとかオッケーくらいならジェスチャーでわかりそうじゃない?」
「うーん・・・確かに太一さんならそれができるのか・・・」
太一はパソコンを響に返すと、急いで室内用のサンダルから靴に履き替えた。
「ぐずぐずしてると出撃しちゃうから、工廠までひとっ走り行ってくるよ。ここは任せてもいい?」
「大丈夫だよ、私は一人でも」
「ちょっとの間だけお願い。出撃を見届けたら戻ってくるから」
太一は急ぎ足で執務室から出て、先に行った3人を追いかけたのだった。