艦隊(Re)これくしょん ~ 白杜太一は艦娘たちの指揮を執るようです ~   作:IronCat

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~遠征~ 6

 工廠まで来てみると、2日前に来たときと違い正面の大きな扉は閉じられていた。ちょっと見た感じ簡単には開きそうもない。

 

(電力が復旧したのかな?)

 

 他に入るところもないので、太一は大扉の横にある人の出入り用のドアを開けて工廠の中に入った。

 その途端。

 

「あぶない!」

「!?」

 

 鋭く声を投げかけられ、とっさに入ったばかりの扉に背中を付けて張り付く。その目の前上空を、煙突が付いた艦娘の艤装が通り過ぎていった。

 

「・・・大丈夫でしたか?」

 

 一番手前に居た磯波が少し笑いを含んだ口調で言う。その向こうにいる白雪、電も突然入って来た太一に目を丸くしていた。

 太一は側の棚においてあった黄色い安全ヘルメットの1つを手に取ると、それを被って磯波に近づく。

 

「次からは先にヘルメットを着けてから入るよ」

「そうですね。その方がよさそうですね」

 

 工廠に前から設置してあった棚の前に立った磯波の周囲には、魚雷発射管や砲台、爆雷のようなもの等が並べて置かれている。その周囲を妖精さんたちがちょこちょこと走り回っており、太一は作業の邪魔にならないよう磯波から少し離れた位置で立ち止まった。工廠内の様子を見渡す。

 

 驚くべきことに、工廠の様相は金曜日に電に案内してもらった時とすっかり変わっていた。

 工廠の壁面に並んでいた棚にはミニサイズの階段やエレベーターが設置され、盛んに妖精さんたちが上下に動き回っている。その中段からは金属製のキャットウォークが伸び、その前に立った磯波の左右を挟んでいた。その上にも妖精さんが多数いて磯波を取り囲んでいる。

 工廠の天井にはスライド式のクレーンが何列も並び、先程の艤装はこれで運ばれていた。磯波の真上まで運ばれたそれは、左肩に乗った妖精さんが振る旗に合わせてゆっくりと降りてくる。ぴっぴっぴっと細かく振られる旗の動きで小刻みに位置を調整し、磯波の背負ったバックパックの更に外に煙突付きの背面艤装がピタリと静止した。即座に別の妖精さんたちが取り付き、バンドで艤装を磯波の身体に固定していく。

 

(なんか、ガンダムの格納庫みたいだな・・・)

 

 口に出さず、太一はそう思った。

 視線を移すと、白雪の方にも同じような艤装が装着されたり、足元に並んでいる。磯波の艤装とそっくりで、印でも無いと取り違えそうによく似ていた。

 電の艤装は2人とは様相がかなり異なっていた。砲塔や魚雷発射管が背面艤装と一体化してワンユニット化されているようで、こちらは装着するのが簡単そうな分、ヘビーウエイトそうで小柄な電の体格も相まってバランスが心配になる。

 

 そうこうしている内に、太一の足元近くにあった12.7cm連装砲がクレーンで釣り上げられた。それを見送った後、空いたスペースを通って磯波に近づく。

 ヘッドセットを頭に被り、マイクに話しかけてチェックをしていた磯波が気が付いて顔を向ける。

 

「どうしました?」

「ん、ん〜・・・今忙しそうだし、もう少し後で話すよ」

 

 慌ただしく駆け回っている妖精さんの様子を見渡し、太一はそう答えた。

 

 持ち上げられた連装砲が磯波の上空からゆっくり降りてくる。右肩に乗った妖精さんが旗を振りながら前の方を指さしたので、それを見た磯波は右手を前に伸ばした。丁度その右手首の位置に連装砲が降りてくる。手首に砲塔が乗ったところで内部から妖精さん達がわらわらと出てきて磯波の手首にそれをネジ止めし始めた。

 

「痛くないの?」

 

 思わず言葉に出してしまう太一。磯波は少し首を傾げた。

 

「もしかして、太一さん艦娘が艤装つけるとこ見るの初めてですか?」

「実はそうなんだ」

「あー。だからさっきから熱心に私達の事見てたんですねー」

「う、うん」

 

 そんなにジロジロ見てたつもりは無かったんだけど、と太一は内心冷や汗をかいた。女の子って男性の視線に敏感なんだろうか? それとも自分が鈍感なだけなのだろうか。

 磯波はそんな太一の心中を知ってか知らずか疑問に答えてくれる。

 

「わかります。最初見た時は私もビビりましたから。でも、大丈夫です! 艤装は直接身体に付いているんじゃなくて、見えない鎧みたいなのがあってそれに固定してるんです」

「鎧? あるの?」

「妖精さんアーマーっていうんですかね。イメージなんで触ってもわからないんですけど、そんなバリアっぽいのが表面にあって、それにくっつけててる感じですかねー」

 

 そう言えば、と太一は思い出した。厚志の説明では、艦娘がダメージを負っても妖精さんが守ってくれるという話だった。それが、今の話で出た見えない鎧なのかもしれない。

 

「重さもほとんど感じないんですよ。ほら!」

 

 固定の終わった連装砲をブンブンと振り回してみせる磯波。砲塔が金属の塊だとしたら、確かに異常な怪力と言わざるを得ない。妖精さんアーマーはパワードスーツのような役目もあるのだろうか。

 

 砲塔の固定に続いて、磯波の足元では左右の魚雷発射管が釣り上げられていた。彼女の太腿の辺りまで持ち上げると、こちらも妖精さん達がバンドで固定する。なるほど、この位置から魚雷を発射するためには長いスカートは邪魔かもしれない、と磯波の脚に向いた視線を急いで上半身に戻しながら太一は思った。

 

 ふと、磯波の装備と白雪たちの装備の違いに気が付いて太一は聞いた。

 

「そのバックパック、他の2人のとは違うね」

「はい! オキニの私物です!」

 

 電たちのバックパックはネイビーブルーだが、磯波のは黒くて横にメーカーのロゴが入っていた。サイズも少し大きいようだ。また、磯波は腰に警備員の蛇塚が獲物をぶら下げているような太いベルトも着けていた。これも私物だろう。

 

【挿絵表示】

 

 

 艦娘の制服や装備品は全部支給されているが、必要なら追加の装備や、代替の私物を使っても良いことになっている。支給品としては制服一式、手袋、無線機とヘッドセット、浮袋兼用のバックパック。バックパックの中には携帯食料、飲料水、信号発煙筒、釣り針と糸(非常食確保用)、ナイフ等が入っている。浮袋の浮きは取り外しできるので、私物のバックパックに交換可能だ。他にも、防寒用にネックガードやタイツを身に着けたり、ジャケットを羽織ったりする艦娘もいるらしい。磯波もそういうこだわりのある艦娘なのだろう。

 

「私、写真が趣味なんですよ。これ、カメラ用の仕切りがあるやつなんです」

「へえ、良く撮影旅行とかするの?」

「はい! だから、お給料がいいのと、あとお仕事の合間にちょっと撮影出来ないかな〜って艦娘になったんですよね」

 

 磯波は空いている方の手で頭を掻いた。

 

「いや、いいと思うよ。じゃあ、そのバッグには今もカメラが?」

「いえ! 入ってません。艦娘やってみてわかったんですけど、どんなに海が静かでも、1時間もしたらバッグの中までびしゃびしゃなんです。カメラを持っていくのは諦めました」

「そうなんだ。でも、それ防水っぽいけど・・・」

「空気がね、塩水っぽいんです」

「あー・・・船よりだいぶ低いのにスピード出るもんね」

「はい。残念です」

 

 太一はついでにもう一つの磯波の装備についても聞いてみる。

 

「そのベルトも、こだわりがあって着けてるの?」

「あー、これはですね。ほら、私の砲塔って首掛けの紐は付いてますけどそれだけじゃないですか。離して両手を使おうとするとブランブランしちゃうんですよね。そんな時、妖精さんの足場になるベルトとかがあるといい具合に固定してくれるんです」

「へぇ」

「後、交換の砲身とか、爆雷とか出した時もですね。ベルトがあると丁度いいソケットを作ってくれて、そこに入れておけるんです」

 

 磯波はどうやらベテランバイト艦娘のようだ。響が言っていたことを思い出す太一。

 

「そう言えば、磯波さんは他のところでもバイトやってるんだったね」

「はい! 横須賀でもやってました」

「あれ? 横須賀鎮守府はまだ開始してないはずだけど・・・」

「警備任務の遠征だけはやってますよ。他のバイトの子もいましたし」

「ふぅーん・・・」

 

 関東近辺には後2、3箇所浦賀警備府のような準鎮守府施設が存在しているはずだった。だが、それらは三浦半島から遠く、磯波の行動範囲外なのだろう。

 

「えへ、結構稼がせてもらっちゃいました。・・・あ、でも、私的には〈磯波〉の方が相性がいいんで浦賀(こっち)専門になろうかと思ってるんですけど」

「? 横須賀の方の艤装は調子が悪いの?」

「いえ! そういう訳ではなくて、私、ここでは〈磯波〉ですけど、あっちでは〈敷波(しきなみ)〉なんですよ」

「へ!?」

 

 聞けば、磯波は特型駆逐艦に適正があるが、特に相性の良い〈最適〉の艤装が無いらしい。そのため、バイト先では余った特型駆逐艦の艤装を割り当てられているそうだ。

 

「ちょっとだけ相性がいいのが〈磯波〉、〈綾波(あやなみ)〉、〈敷波〉あたりで、横須賀にはもう綾波が最適の子がいたから敷波を使わせてもらった感じですね。大淀さんが言うには私の最適の艦はまだ見つかっていないんじゃないかって話ですけど」

「そんな事もあるんだ」

「まあ、教習所で一通りの艤装は背負いましたし。基本の運動ぐらいならそんなに変わらないから、やれって言われれば睦月型でも陽炎型でも出撃できますよ」

「頼もしいなぁ」

 

 ふと太一が辺りを見回すと、装備品はだいだい身に付け終えたようで、足元はだいぶ空いてきていた。工廠に来た当初の目的を思い出した太一は、白雪の方に向かおうとする。

 

「じゃ、そろそろ行くよ。色々話を聞かせてくれてありがとう」

「はい! こちらこそ、ありがとうございました!」

 

 磯波の側を離れた太一は、工廠の真ん中辺りで艤装を身に着けていた白雪に近寄って声をかけた。

 

「白雪さん、今いいかな?」

「は、はい! なんでしょう!」

 

 太一が近付いてきているのは見えていたはずなのに、話しかけられて白雪は驚いたようだった。何か考え事をしていたのかもしれない。

 

「装備の調子はどう?」

「えっと・・・普通だと思います」

「白雪さんの装備は、空きスロットがあるみたいなんだけど、それは自分でわかるの?」

「あ、はい。なんとなくですけど・・・」

「ふぅ〜む・・・じゃあ、ここにいる妖精さんで誰を乗せられるかはわかる?」

「そこまではちょっと・・・」

 

 艦娘達からは装備妖精さんが乗せられることはわかるけど、どの妖精さんが乗ることができるかまではわからないのか。太一は一人納得すると、直接妖精さんに尋ねてみることにした。

 

「装備妖精のみなさ〜ん! 代表者だけでいいんでちょっと集まってくださーいっ!」

 

 いきなりの大声に白雪がびっくりする。2人が見ていると、なんだなんだという雰囲気でぞろぞろと多種多様な服装の妖精さんたちが集まってきた。例の浮輪を付けた妖精さんも天井付近からすぃ〜っと降りてくる。太一は膝を付いて顔を妖精さんに寄せた。

 

「集まっていただきありがとうございます。みなさんにご相談なんですけど、今から出撃する白雪さんの装備スロットがまだ1つ空いているみたいなんです。この中に、白雪さんに乗れるって方はいますか?」

 

 集まった妖精さんたちが互いに顔を見合わせた。そして太一の方に向き直ると、全員揃って顔をぷるぷると横に振った。

 

「あら〜・・・」

 

 残念がってため息をつく太一。

 

(やっぱり思いつきじゃだめか・・・)

 

 だが、そこに駆け込んでくる妖精さん達の一団があった。木材を全員で担いて運びながら、ずざざざざっと太一の前に滑り込んでくる。停止した妖精さんのグループは、木材を置くとはいはいはいはいと手を上げた。

 

「応急修理の妖精さん・・・? 行ってくれるんですか?」

 

 妖精さんたちはぴしっと気を付けをして敬礼する。太一の顔がほころんだ。

 

「では、よろしくお願いします。・・・白雪さん、乗せてあげてくれる?」

「は、はい!」

 

 白雪が膝を曲げてしゃがむと、応急修理の妖精さん達は自前の脚立のようなものを置いて次々と背面艤装に乗り込んでいった。煙突と背中の隙間に、すうっと入って消えていく。と、思ったらにゅっと肩の辺りにヘルメット頭が出てきた。白雪と一緒に太一も立ち上がる。

 

「・・・繰り返しになりますけど、海の上じゃ妖精さん達が頼りです。どうか、白雪さんたちを支えてあげてくだい」

 

 妖精さんは、小さな手でドンと胸を叩いて太一に応えたのだった。

 

 

 

 

 

 3人の艦娘たちが全員装備を着け終わり、いよいよ出撃準備が整った。先に工廠の外に出た太一の前で、建物の海側の扉が開いていく。妖精さん達が床や棚の上やクレーンのフックに捕まった状態で拳を上げて応援している。そんな中、3人はスロープを降りて工廠内まで引き込まれた海水の表面に足を下ろした。軽く沈み、すぐに下から何かに持ち上げられたように水面に立つ。

 

「艦隊、前進最微速―――」

 

 電が声とハンドサインを出し、水面を滑るように進む。即座に背中にいた妖精さんが速力を知らせる円錐状の物体をマストに上げた。電に続き、白雪、磯波が縦に並んで前進し始める。

 艦娘たちは4月の陽光の元に進み出た。工廠から続く船渠には海の水で満たされ、そのまま浦賀港まで続いている。

 

「黒田艦隊、出撃なのです!」

 

 電が手を上げる。太一は岸壁に沿って艦隊を追いかけながら大きく手を振った。

 

「気をつけてねー! 行ってらっしゃーいっ!」

 

 白雪は太一に小さく手を振り、磯波はぐっと親指を立てる。そして、電は旗艦として太一に敬礼を行った。

 

「行ってきます、なのです!」

 

 艦隊が速力を上げる。縦に並んだまま船渠と港の境目にある門を抜け、電の指示で回頭して浦賀水道の方向に向かう。立ち止まった太一の視界の中で、あっという間にその姿は小さくなっていった。

 

「・・・行っちゃったか」

 

 太一はしばらくその場で電たちの消えていった方向を見ていたが、ふと後方から聞こえてきた機械音に振り向く。そこでは、工廠の大扉がひとりでに閉まっていくところだった。恐らく、姿は見えないが妖精さん達がやっているのだろう。

 

「・・・戻るか」

 

 太一は呟き、踵を返してプレハブ庁舎の方へと歩き出した。

 

(この後は・・・確か、ある程度離れたところで執務室の無線機で通信チェックをするんだっけ)

 

 巡洋艦以上の艦と違い、無線能力が貧弱な駆逐艦のみの艦隊だと〈艦隊司令部〉のパソコンと直接連絡を取ることができないらしい。だから、市販品の無線機で連絡を取る必要がある。その無線機は、朝の内に響が用意してくれていた。

 

(その後は定時連絡まで待機・・・あれ? お昼ご飯は帰ってきてからかな?)

 

 定時連絡のときに出前を取るか聞いたほうが良いのだろうか、と呑気な事を考えていると、太一の視界の隅に何か小さな黒白のものがさっと掠めた。

 

「ん?」

 

 そちらに目をやると、庁舎の影に黒白ブチの猫が駆けていくところだった。小さいので、多分子猫だろう。

 

(この敷地内に住んでるのかな?)

 

 猫はすぐに見えなくなってしまう。太一は特にそれ以上猫の事を気にすること無く、プレハブの階段を登っていったのだった。

 

 

 

 

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