艦隊(Re)これくしょん ~ 白杜太一は艦娘たちの指揮を執るようです ~ 作:IronCat
執務室を飛び出した太一だったが、当然のことながら特に当てがあるわけではなかった。結局は電たちの帰還が見えるよう、浦賀港の岸壁をウロウロ所在なくうろつく羽目になる。
遠くに見える浦賀水道は、警戒警報の発令に伴ってごった返しになっているようだった。ひっきりなしに北上する船舶が通行し、逆に南下する船はまったく見えない。ここでする心配では無いが、こんなにたくさんの船が東京湾に入って事故でも起きないかと不安になる。
しばらくそうやって海を見つめ、ちょっとでも小さな影が見えたら電たちではないかと期待に胸を膨らませ、そしてそれが小型ボートの影とわかって落胆する事を繰り返す。やがて市内に子供達の帰宅を促す放送が流れ始め、太一が時計を見ると17時半を過ぎていた。太一の口から思わずため息が出る。
「よお! 指揮官がこんなところで黄昏れてちゃいけないな」
突然、聞き慣れた声が後方からかけられ、太一は脱力しそうになった。安堵半分、情けなさ半分で眉をハの字にして振り返る。
「あっちゃぁん・・・」
「ほらほら、しっかりしろ! 引き継ぎ終わるまで、太一はこの浦賀警備府の最高指揮官なんだからな!」
そこでは、白い提督服を身につけた厚志が、朗らかに笑いながら立っていたのだった。
「話は響から電話で聞いたよ。済まなかったな、申し継ぎに書いてない事まで対応させて」
「いや、俺が何も知らなかったから・・・」
「俺の状況予測が甘かったんだ。太一に責任は無い」
厚志はそうキッパリと言い切ると、太一に寄って肩を叩いた。
「それより、ありがとうな。太一」
「え?」
「響と居てくれただろう?」
厚志は海の方を向くと、制服が汚れるのも構わずドッカと岸壁に腰を降ろした。
「響はああ見えて、姉妹の中で一番最後に見つかった船でな。落ち着いているようで、見た目相応な部分も結構あるんだ」
「姉妹?・・・もしかして、電ちゃんと?」
「ああ。それと、〈
4人は産まれや年齢こそバラバラだが、同じ型の姉妹艦、そしてかつて帝国海軍時代には一緒の駆逐隊を編成していた記憶を艦娘として共有し、本当の姉妹のように仲が良いらしい。そのため、横須賀で一緒の住まいに暮らしているそうだ。
「響だが、実際の年齢が姉妹で一番若いこともあってな。クールぶっているがやはりまだまだ子供だ。今日太一がいなけりゃ、慌てふためいてオロオロしてたのは響の方だっただろう。大人のお前が居たおかげで、あいつも少しは気持ちが楽になったはずだ。だから、ありがとうな」
「いや、でも。代わりに俺がオロオロしてたけど」
「そこはまあ、次の課題だな」
厚志が笑う。その笑顔に太一は少し救われたような気がして、落ち着いてきた。厚志の横に同じ様に腰を降ろす。
二人で並んで、しばらく浦賀水道を通る船舶を眺める。日が傾き、太一たちの影が岸壁のコンクリートに長く伸びていた。
「―――艦隊のことなら、心配するな。もうすぐ警報も解除される。それに、電は意外と強情なんだ。意地でも艦隊全員揃って帰って来るさ」
「それは、まあ、何と無くわかるよ」
たった2日だが、電と付き合ってみてその芯に強さが有ることは何と無く感付いていた。
「もしかして、さっきの4姉妹で、電ちゃんが一番上なのかな?」
「ほう・・・良くわかったな」
「いや、何と無くだけど」
太一は一昨日、電に言葉遣いについて進言されたことを思い出していた。上官の立場を考えることのできる視野の広さは、彼女の見た目の年齢よりも成熟した人格を感じさせた。・・・まあ、言葉遣いや仕草は相応なのだが。
「実は、響は去年度で義務教育を終えていてな。俺や電は響に進学を勧めていたんだが、本人が嫌がってな。結局、こんな状況になってしまって学校に行かせるにも行かせられなくなっちまった」
「ふうん・・・姉妹と一緒に艦娘やりたかったのかな・・・って、義務教育!?」
太一は驚いて厚志の方にぐりんと顔を向けた。
「義務教育ってことは中学卒業済み!? ってことは響ちゃんは本当なら高校1年生!?」
「まあ・・・そうなるな」
「ちょっと・・・それは・・・」
「ん? ああ!」
太一の驚きに対して何かに思い当たり、厚志は頭をかいた。
「わりぃ。そう言えばもう一つ、妖精さんの影響について伝え忘れていた事があったわ」
「え?」
「妖精さんを艤装に乗せず、直に艦娘に乗せていると、どうやら老化・・・いや、この場合は成長か。艦娘の成長が遅くなるみたいなんだ」
「はぁ?」
「響たち観測所出身の艦娘たちは、艤装の開発技術の確立してない初期段階から参加してくれてたからな。見た目の年齢より実年齢は上だったりする」
「ええ〜〜っ!?」
太一は驚天動地の衝撃にひっくり返りそうになった。
「じゃ、じゃあ! まさか、さっき姉妹の中で電ちゃんが一番上って言ったのは、船の方じゃ無くて・・・」
「ん・・・? ああ、そりゃ〈暁〉型駆逐艦なんだから船としちゃ暁が一番先で、響、雷そして電の順になるな。だけど、年齢順なら上から電、雷、暁、響だ。なにせ電は、開発の最初期からいて、それで初めて妖精さんの力で海に立った〈最初の艦娘〉だからな」
「ふぇ〜」
太一はもう、何がなんだかわからないという顔付きをしていた。
「じゃ、じゃあ、電ちゃんってホントはいったい何歳なのさ?」
「人事情報ファイルに記入してあったはずだ。えっと、確か俺たちより―――」
その時、突然太一たちの後方から少女の声が割り込んできた。
「レディーの年齢を勝手に話題にするなんて紳士じゃないわ、司令官!」
驚いて後ろを振り返ると、響と同年代に見える小柄な少女が腕組み+仁王立ちでこっちを睨んでいる。厚志はのんびり立ち上がりながら、笑いを含んだ口調で答えた。
「なんだ、暁も呼び出されたのか?」
「とーぜんよ! 暁はお姉ちゃんなんだから! 妹達が困ってたら助けに駆けつけるのは当たり前のことなのよ!」
腕を解き、片手を胸に当ててフンスと威張る少女。頭には響のような錨マーク付きの略帽を被り、響や電と同じようなセーラー服を身に着けている。違いと言えば、この子だけ暗色のタイツを履いている事だろうか。
(この子、今自分のことを〈暁〉って言った?)
太一も立ち上がって視線を厚志の方に向けて聞いた。
「あっちゃん、この子は?」
「ほら、レディーならちゃんと自己紹介できるよな」
「当たり前でしょ!」
少女は腕を胸元から降ろすと、ぴしっと敬礼してみせた。
「特Ⅲ型駆逐艦の1番艦、
「どうも、浦賀警備府の提督補佐官の白杜太一です。ふつつか者ですが、これからよろしくお願いします」
対する太一も、きちんと気を付けをして挨拶する。ちゃんと挨拶を返された事に驚いたのか、暁は気勢を削がれて「よ、よろしくお願いします!」と返した。
改めて見てみると、暁と響は帽子や髪の長さを含めてシルエットがそっくりだった。もしかして、響の方がこの〈お姉ちゃん〉の真似をしているのかもしれない。そう思うと、あのクールぶった少女がなおさら可愛らしく思えてくる。
自然に笑みが浮かび、太一は言った
「暁さんたちは、とても仲が良い姉妹なんですね。電ちゃんや響ちゃんにはお世話になっています」
「と、とーぜんよね! 2人共、暁の自慢の妹なんだし!」
妹たちのことを話題にされて、暁はとても嬉しそうに笑いを浮かべた。
暁は横須賀鎮守府開設後に所属予定の、対馬海洋観測所出身の艦娘で、現在は今日の電のようにバイト艦娘を率いて近海警備の任務をやっているらしい。今日は非番ということで残る姉妹の雷と一緒に、家で響たちが帰って来るのを待っていたそうだ。だが、17時を過ぎても響から帰りの連絡が無いので心配になり、浦賀警備府の執務室に電話をかけて事情を知る。そして、太一と同様いてもたってもいられなくなり、ここに駆けつけたという訳だ。
(ほんとに仲が良い姉妹なんだな)
姿は似ていないが、ずっと会えていない姉さんの姿が眼の前の少女にダブり、太一はいっぺんにこの姉妹たちの事が好きになった。
ひとしきりの自己紹介と事情説明が終わった後、ずっと横で待っていた厚志が口を挟む。
「それで、先に響に会ったんだろう? 何か状況に変化が有って知らせに来てくれたんじゃないのか?」
「あっ・・・べ、別に忘れてたんじゃないんだからね! 暁は大人のレディーだから、挨拶はちゃんとするのよ?」
「おう、わかってるぞ。挨拶も終わったし、次は報告を頼む」
「もちろんよ! 司令官に伝言よ」
響からの伝言は(暁がメモを見ながら説明してくれた)、電たちからの通信の復旧についてと、今までの状況報告の内容で、次の通りであった。
電たちは1100頃、南房総と大島を結ぶラインを2/3ほど進んだ時点で海上共通無線にて深海警戒警報が発令されたことを知り、定時連絡と併せて付近の船舶の誘導に当たることを浦賀警備府に伝えようとした。だが、この時点で執務室の無線は猫の影響で使用できなくなっていたため、連絡が取れず、電はこのまま予定通りに警戒を終えるか、任務を延長して付近に留まるか判断に迷うことになる。
結局のところ、電は折衷案として予定航路を変更し、大島の南部をぐるりと迂回して警戒を続け、同時に付近の船舶に呼びかけを行う事を選択。大島の影のせいでますます通信が届かなくなるが、途中で大島の岸壁に上がって公衆電話で連絡を取ることを思いつく。上陸地点として大島南西部の波浮港に立ち寄る事とした。
しかし、大島の東岸に沿って漁船等に無線で呼びかけをしながら南下している途中、1隻のプレジャーボートがつい先程高速で南下して行ったとの情報を得る。折しも、深海海域の影響か、妖精さんの宿っていない機器に影響が出始めていた。
電たちは再度予定を変更。速力を上げ、無線で呼びかけながら先に南下したプレジャーボートを追いかける。幸いなことに、1時間もしないうちに途中でエンストを起こして半分パニックになっているボートを発見することができた。
電の判断で、警戒任務の経験の浅い白雪の艤装にボートの曳航索を繋ぎ、電と磯波で前後を警戒しながら大島の最寄りの港まで曳航することとした。
途中で深海海域の影響が薄まったのか、プレジャーボートのエンジンが掛かり、十分な速力が出せることを確認。念のため艦隊を2つに分け、白雪はボートを護衛しながら最寄り港に向かい、送り届けた後に北上。残る2人は針路を西に傾け、南伊豆及び相模湾方面を警戒しながら北上し、三浦半島南の沖合で落ち合う事とした。そこまで行けば無線が回復すると考えられたため、先に到着する予定の白雪に警備府への報告を頼んだ。
しかし、ここで白雪は1つミスをしてしまう。周囲の船舶に呼びかけのため無線チャンネルを切り替えた事を忘れ、警備府への連絡が取れなかったのだ。
「白雪さんを責めないで欲しいの。無線機は水対策のためバッグの奥の方だし、通信チャンネルを忘れちゃうことだって良くあることなのよ」
暁がかばうが、元より厚志たちにバイトの艦娘達を叱責するつもりは毛頭ない。むしろ警備府と連絡が付かない中、現場の判断でよく頑張ってくれたと褒めたいくらいだった。
結局、無線が繋がらないため白雪は連絡を取れないまま合流地点で待機。警戒監視を終えた電、磯波と合流後に自分のミスに気が付き、慌てて警備府に報告してきたということだ。それがちょうどついさっき、1750頃の事で、そこから速力を上げて警備府に向っているので、概ね後30分もすれば帰ってくるらしい。
「ふぅー。とりあえず、無事で良かったぁ・・・!」
太一は大きく息を吐いて安堵の言葉を漏らした。厚志も無言で太一の肩を叩き、暁は一仕事終えてスマホを取り出し、何処かに電話を始める。いつの間にか三浦の山々の向こうに日は沈み、辺りは薄暗くなり始めていた。
状況をまとめて見れば、ちょっとした食い違いと不運が重なっていただけで、特に危険な目に遭っていたわけでは無い。時間は大幅にはみ出したが、3人とも元気に帰って来るという。散々心配した反動で、太一は昼の自分の慌てようが恥ずかしくなってきた。
(響ちゃんにも後で謝っておかないとなぁ)
最後の最後で堪えきれずに執務室を飛び出したお陰で、電からの報告を聞き逃してしまった。出撃を命じた指揮官代理として、あるまじき失態だ。結局、響を1人にしてしまった事も反省しなくては。
思い返せば、今日は失敗続きだった。猫を見つけたのを報告しなくて執務室の機能喪失に気付かなかったし、遠征艦隊が遅れている事を提督に報告するのも忘れていた。響が報告してくれなければ、厚志は未だに状況を把握していなかったに違いない。
不意に、服の裾をチョイチョイと引っ張られる。デジャヴを感じながらそちらを見下ろすと、暁が太一に向ってスマホを差し出していた。
「? 俺に?」
「
「??? なんで?」
疑問符を頭の周囲に残したまま、受け取ったスマホを耳に当てる。
「もしもし? 替わりました、白杜です」
『こんばんは、補佐官さん! 初めまして、
スマホのスピーカー越しに元気の良い女の子の声が届く。暁のおしゃまな元気さとはまた違った、元気一杯丸印といった賑やかな元気さだ。
「はぁ、初めまして。・・・えっと、雷さんは俺に何か用でしょうか?」
電や響の緩やかなペースに慣れていたので、雷のグイグイ来るハイペースが若干心情的に眩しい。それが口調に出ていたのだろうか。
『補佐官さん、元気無いわね・・・そんなんじゃダメよ!』
雷に心中を見透かされたような事を言われる。
(なんかこの子たち・・・みんな揃って姉ちゃんみたいだな)
太一はかつて姉さんにも同じようなことを言われて心配されたことを思い出し、苦笑した。
「ごめん、元気無いように聞こえたかな。俺は大丈夫だよ」
『無理はしちゃダメよ。大丈夫、落ち込む必要なんて無いの。誰だって失敗することはあるんだから! 次同じようなことになった時、その時にうまくやればいいのよ!』
「うん。ありがとう」
響に話を聞いて気遣ってくれてるのだろう。この雷という子も、電と同じく見た目に反して実年齢は結構上の方なのだろうか、と暁が聞いたらプンスカ怒られそうなことをこっそりと考える。
『ねえ、補佐官さん。いい事を教えてあげる』
「いい事?」
『指揮官として・・・いい提督になるために、一番大事な事って何だと思う?』
突然、雷は電話越しに質問を始めた。クイズのような物だろうか? でも、最後の口調は至極真面目で、トンチを効かせた回答を求めているのでは無い気がする。
「・・・妖精さんが見えること?」
『それは提督さんになる条件よ。いい司令官って、どういう風に行動できる人なのかしら?』
「ん・・・艦娘さんの事を大事にするとか」
『そういう司令官なら、指揮してもらって嬉しいでしょうね。でも、優しいだけじゃダメよ』
「う〜ん・・・思いつかない」
『そうかしら? 雷には、補佐官さんならもうわかってるように思えるんだけど』
「・・・降参。答えを教えてください」
太一は早々に白旗を上げた。雷は『しょうがないわね』と、かえって嬉しそうに答えを教えてくれる。
『それはね、情報よ!』
「情報?」
至極真っ当な答えに太一は驚く。
『そう! 艦娘のこと。海域のこと。鎮守府のこと。任務のこと。装備のこと。深海棲艦のこと。他の鎮守府のこと。知っておかなくちゃいけない事はいっぱいあるわ。でも、知らないと正しい判断はできないの』
「・・・その通りだね」
『響に聞いたわ。今日、艦隊と連絡がつかないことに気がついた時、補佐官さんはまず情報を集めようとした。いろんなところに電話をして、状況を把握しようとした。インターネットで新しい情報が無いか確認したわね?』
「うん。でも、何もわからなかったんだ」
『結果的にそうだったかもしれないけど。でも、補佐官さんがやったことは正しかったの。ううん、それだけじゃない。装備についてもそうよ。出撃前に、空いているスロットに装備を載せられないか検討したでしょ?』
「確かに、うん」
『情報を確認して、足りないなら調べて、そこから新しい情報を手に入れた。そして判断の材料にした。それが出来たのは、補佐官さんが気にしていないだけで、本当は情報の大切さを理解していたからよ』
電話の向こうで、雷がドンと胸を叩く気配がした。
『自信を持って、補佐官さん! あなたはきっといい司令官になれると思う。この雷さまが保証するわ! もしもわからない事があったら、電や響を頼っていいんだからね? もちろん、雷の事を頼ってもいいわ! いつでも助けちゃうんだから!』
「うん・・・ありがとう! なんだか元気が出てきたよ」
『良かったわ! あっ! ごめんなさい。みんなのご飯、作ってる途中だったの。そろそろ切るね? 電たちが戻ってきたら、寄り道しないで早く家に帰ってきてって伝えてくれる?』
「OK。わかった」
『じゃあね! 何かあったらいつでも頼ってね。お休みなさい!』
「お休み」
プツと切れたスマホの画面を太一は何と無く見つめ続ける。そこには〈雷〉と通話先の名前と共に、元気のいい笑顔で八重歯を見せている女の子の顔が映っていた。この子が雷なのだろう。
(雷ちゃんか・・・今度会ったら、お礼しないとな)
その時、沖合を見ていた厚志が「おっ」と声を上げた。
「航海灯が3つ並んで来る・・・帰ってきたんじゃないか?」
「電たちよ! きっとそうよ!」
暁が手を振る方に太一も視線を向ける。すっかり暗くなった海面には、厚志が言ったように夜間に航行する船を示す航海灯が縦に並んでこっちに向かってきていた。先頭の若干低い灯りは暁に手を振り返しているのか、左右に揺れている。きっと、電だろう。
「良かった・・・」
知らず知らずの内に、太一の口から胸中の言葉が漏れ出していた。その肩に、ぐいっと厚志の腕が巻き付く。
「今の気持ちを大事にしろよ、太一」
「う、うん」
「出撃した船が、同じ数だけちゃんと帰ってくる。当たり前の事だが、それは絶対に当たり前じゃ無くなったらいけない事なんだ。俺達提督の命令で出撃させた艦娘達が、無事に母港まで帰ってこられるように指揮をする。それが、提督の最大の責務だ」
「・・・わかった」
太一は徐々に近付いてくる3つの灯りを見据えながら、しっかりと頷いたのだった。
電たちの帰投報告は極手短かつ簡潔に終了した。先に無線で状況報告はされていたし、所定の報告書類は響がフォーマットを埋めて作成済みだったからだ。「帰投報告については、先に報告した通り」の一言で終わった。
厚志は艦娘たちや太一を追い立てるように帰宅させようとした。太一はまだ残るという厚志に付合うと言ったのだが、今日の出張の資料をまとめるだけだと言う厚志にキッパリと断られる。それより、今日の分の振替休養をいつ取るかと聞かれる始末だった。
「今は一日でも早く提督の仕事をおぼえたいんだ」
「休めるうちに休んでおけよ。どうせ横須賀鎮守府が動き出したって、暇になんかなりっこないぞ」
「うん。それならなおさら、余裕あるうちに出来ることをしておかないと」
厚志は笑って、「まあ、無理はしないようにな」と太一の我儘を認めた。
「だけど、今日は大人しく帰っておけ。明日からビシバシ働いてもらうからな。いきなり遅刻なんて幼馴染みでも許さん」
「・・・わかった」
電たちは暁と連れ立って先に帰った様だった。きっと家では、美味しい晩御飯と一緒に雷が首を長くして待っていることだろう。磯波と白雪も帰ったようで、プレハブ1階の艦娘用更衣室の電気は消えていた。太一もホワイトボードの自分のマグネットを〈帰宅〉に移動し、出入り口へと向かう。
誰もいない警備員小屋を通り過ぎ、フェンスに沿った道の半ばで振り返ると、プレハブの2階の執務室だけが忘れられたように煌々と明かりが灯っていた。なんだか先程までのバタバタした騒ぎが嘘みたいに思えて、太一はしばらくその光景から目を離せなかった。
「・・・補佐官・・・さん?」
後方から声をかけられる。太一が驚きながら振り返ると、そこには私服に着替えた白雪が佇んでいたのだった。