艦隊(Re)これくしょん ~ 白杜太一は艦娘たちの指揮を執るようです ~   作:IronCat

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~遠征~ 9

 太一達は駅とは反対方向に進み、海岸沿いの公園までやってきた。本当は昼食も摂れなかった白雪のことを考えて、ファーストフードにでも入りたかったのだが、「人のいるところでは艦娘の話ができないから」と、ここまで来たのだ。

 途中、自動販売機で2人分の飲み物を買う。白雪は丁寧に断ったのだが、ここは太一が強引に押し切った。

 ベンチに少し距離を取って座り、黙って白雪の方から話し始めるのを待つ。艦娘の話というから、もしかしてもう辞めたいとか、そんな話なのかな、と考えた。きっと本当は厚志に直接言おうと戻ってきて、躊躇しているうちに太一が出てくるのを見つけたのではないかと予想する。

 

「・・・私―――」

 

 何分経ったか。辛抱強く待っているとようやく白雪が話し始めた。太一の方を見ず、手の中のネクターの缶に視線を落としたまま言葉を紡ぐ。

 

「今日で・・・艦娘を辞めるつもりでした」

「・・・そうだったんだ」

「もともと免許も取るつもりもなかったけど・・・うちの学校、アルバイト禁止でボランティアとか力入れてて・・・艦娘だったら社会貢献だって、内申点も貰えるって話があって」

「うん。それでやってみようって?」

「友達も検査で適正があるってわかって、それなら一緒に取ってみようかって、教習所に行ったんです」

 

 白雪の話は途切れ途切れで、なんだか懺悔を聞いているような感じだった。太一は話したいことを話したいように口にさせるため、相槌を打って先を促すだけに留めた。

 

「・・・いざ免許をとってみたら、その子は艦娘としてバイトするの怖がって・・・一緒にやろうって言ったのに。試しに行ってきて、そして様子を教えてって」

「白雪さんだけで?」

「はい。それは嫌だったから、一緒に行こうってお願いしたのに、何で私の言うことを聞いてくれないのって怒って・・・」

 

 太一は顔を覆いたい気持ちだった。この年頃の子供にとって、友達との関係は何より大事なものだろう。白雪のように大人しい子ならば尚更だ。だけど、片方が思っているほど、その関係が両想いであるとは限らない。

 太一の想像に過ぎないが、白雪の友達は大人しい白雪の事を、言うことを聞いてくれる家来の様に考えていた可能性だってあるのだ。

 白雪の独白は続く。

 

「最初にバイトに来た時は、本当に何も無かったんです。予定の航路をただ着いて回って、終わったらお菓子を食べながらお茶を飲んで、解散して・・・その子に、何も怖いこと無かったよ、大丈夫だったよって言ったんですけど」

「そうしたら、その子は何て?」

「・・・もう辞めるって」

 

 最悪だ、と太一は思った。どういう心変わりがあったのかわからない。親に言われたのかもしれない。最初から内申目当てでやる気なんか無かったのかもしれない。だが、心優しい白雪の心を踏みにじったのは同じ事だ。

 

 白雪はその後も友人を説得しようとした。せっかく頑張って免許を取ったのだ。それに、免許が有っても艦娘としての実績が無ければ内申点は貰えないかもしれない。だが、その子はもうやる気が無く、免許も返すと言い出した。それだけではなく、白雪も一緒に免許を返却しろと言い出したのだ。そこで、白雪は。

 

「もう一度。もう一度だけ艦娘としてバイトしてみるから、それで安全だったら一緒にやろうって、約束、したんです」

 

 太一は心中だけでなく、実際に顔を覆ってしまった。どう考えても、その子が白雪との約束を守る未来が見えなかったからだ。

 

「・・・それで、どうなったの?」

「さっき、帰る途中に電話しました。今終わったよ・・・って」

「うん。その子は何て?」

「馬鹿みたい・・・って」

「・・・・・・」

「警報が出てたの、知ってたんです。そんな危ないこと自分からするなんて、馬鹿だって」

「それは・・・その・・・」

 

 太一は言葉が出てこなかった。慰めれば良いのか、その子の事を怒ればいいのか、頑張っている白雪を褒めればいいのか。全くわからなかった。

 

「馬鹿は、無いよな。だって、白雪さんは頑張ってるんだし・・・」

 

 ようやく絞り出した言葉は、全く持って情けなくなるようなどうでも良い台詞だった。厚志なら上手く元気付けられるのにな、と現実逃避する。

 

「あ、いいんです。馬鹿だったのは、そうなんで」

 

 と、急にさばけた感じで白雪の口調が変わった。

 

「・・・え?」

「馬鹿ですよね、私。今日私が艦娘やってるの知ってたのに、心配一つしてくれない人を友達だって信じてたんですから」

 

 驚いた太一が横を向くと、こっちを見ていた白雪の口元に笑みが浮かんでいた。

 

「今日やってみて、それであの子が一緒にやってくれないってわかったら、もう艦娘辞めようって思ってました。でも、もうこだわる必要なんてないんですよね」

「う、うん・・・?」

「ボートの人たちにですね、一杯感謝されたんです。ありがとう、ありがとう・・・って」

「白雪さんが今日曳航したプレジャーボート?」

「はい。あんなに人に感謝されたの、産まれて初めてでした」

 

 白雪が視線を正面に戻す。その顔は、下では無く前を向いていた。

 

「単純って言われるかもしれないけど。私、その時に艦娘として働くのもいいな、って思えたんです。現金ですよね。人に感謝されるのが気持ち良かっただけなのに」

「そんなことは・・・無いと思う。白雪さんは感謝されようとして助けたんじゃないし、それに、感謝の言葉は困ってたところを助けてもらったからこそ、気持ちを伝えたかったんだと思うし・・・白雪さんがお礼の気持をもらって元気付けられるのは、すごく自然でいい事だと、思う」

 

 太一は懸命に言葉を探し、白雪に自分の思いを伝えようとした。途中でつっかえ、言葉が途切れてうまく繋げようとして空回りし、口から出た言葉には気持ちが半分も乗っていない気がして後悔した。

 だが、そんな太一の言葉を白雪は海の方を向いたまま静かに受け止めていた。

 

「・・・やっぱり、もう少し続けてみようと思います。艦娘」

「そ、そう。それはあっちゃん・・・いや、黒田提督も喜ぶよ」

「はい、だから・・・」

 

 白雪は跳ねるように立ち上がり、太一の前でぺこんとお辞儀をした。

 

「また、今日みたいに失敗することもあると思いますけど、よろしくお願いします!」

「うん・・・! こっちこそよろしくね」

 

 太一も立ち上がって、お辞儀をし返す。2人が顔を上げると、自然に笑いがあふれた。

 

「あ、よろしくついでに1つ聞いていいかな?」

「はい、なんでしょうか?」

「どうしてさっきの話を俺に? やっぱり提督に直接は言いにくかったから?」

「あ、忘れてました! 本当はこれも補佐官さんに言いたかったんです!」

「え、俺に?」

 

 白雪は笑顔で頷くと、もう一つの話を始めた。

 

「電さんたちと合流を待っている時、無線が繋がらなくてすごく心細かったんです。でも、そしたら艤装の上に妖精さんたちが出てきて、励ましてくれたんです!」

「妖精さんが?」

「腕を振ったり、ぴょんぴょんしたり、えいえいおーって。言葉は分からなかったけど、頑張れ、みんなついてるぞーって励ましてくれてるのがわかって、すごく嬉しかったんです」

「すごいな。白雪さん、妖精さんと仲が良かったんだね」

「違いますよ」

「え?」

 

 白雪は一歩だけ近付いて、下から太一の顔を見上げた。

 

「妖精さんたち、みんなヘルメットを被ってました。出撃前に補佐官さんが乗せてくれた、あの妖精さんたちですよ」

「あ・・・」

「きっと、補佐官さんに私のことをよろしくって言われたから、何とかしなくちゃって出てきてくれたんだと思います。だから・・・」

 

 白雪は再度ペコリと頭を下げた。

 

「ありがとうございます、補佐官さん。あの妖精さんがいてくれて、本当に嬉しかったです。大丈夫、まだ頑張れるって思えたのは、妖精さんと、補佐官さんのおかげです」

 

 白雪が頭を上げる。そこには、晴れ晴れとした可愛らしい笑顔が浮かんでいた。

 

 

 

 

 もう少し先に自宅があると言う白雪と別れ、太一は1人残ってベンチで自分の缶ジュースの残りを消化していた。

 心の中で先程の白雪との会話を反芻する。

 

(俺も、ちょっとは役に立ったのかな・・・)

 

 その時、ポケットの中でスマホが振動した。取り出してみると、厚志からだ。受話ボタンを押し、耳に当てる。

 

『太一。俺だけど、今電話大丈夫か?』

「うん、大丈夫。どうかした?」

『いや、ちょっと。さっき太一に言い忘れた事があってな。波津音(はつね)に怒られちまった』

「波津音さん、戻ってきたの?」

『ああ、今報告資料の手直しをしてもらってる。俺は邪魔者扱いされた』

「はは、相変わらず手厳しいね」

『だろ? 俺だって頑張ってるんだけどなあ・・・おっと、視線が怖いから手短に言うぞ』

 

 どうやらお目付け役に監視されながらの電話らしい。あれこれ厚志に文句を言いながらも、どことなく楽しそうな波津音の姿が目に浮かぶ。

 

「うん。それで?」

『今日の遠征な・・・本当に太一には感謝しているんだ。良くやってくれた』

「その話? でも、言ったけど俺はオロオロしてただけで・・・」

『いや、ちょっと考えてみろ。もし今日、太一がいなくて何処も警戒任務に出ていなかったらどうなっていたと思う?』

「えっと・・・」

 

 もし今日、電たちが遠征に出ていなかったら。歴史にIFは無いが、考えてみることには価値がある。もしも、警戒警報の出た時に艦娘たちが側にいなかったら?

 

「・・・ボートの人達を、助けられなかった?」

『そうだ。警報はすぐ解除されたとは言え、日没も近かった。捜索に出ても見つけるのにかなり時間かかかっただろう。最悪、行方不明になっていたかもしれん』

「ああ、そうか・・・電ちゃんたちのお手柄だね」

『違うぞ、太一』

「?」

 

 厚志は声を強くして太一に言った。

 

『太一の出撃させた艦隊が、人を救ったんだ。プレジャーボート1隻の曳航、及び乗員3名の救出。これが、電、磯波、白雪、及び指揮官〈白杜太一〉の今日の出撃成果だ。喜べ。胸を張れ。お前がいなきゃ、あり得なかった成果だぞ』

「あ・・・」

『さっきボートの乗員から電話が来てな。後日、改めてお礼に来たいらしい。その時は、太一と白雪にも同席してもらうからな』

「うん・・・うん、わかったよ!」

『おう、言いたかった事はそれだけだ。じゃあな! お疲れさん』

「お疲れさま」

 

 通話を切り、スマホをポケットに戻す太一。ベンチから立ち上がり、空を見上げた。

 

(失敗ばかりだったと思ったけど・・・でも、それでも俺が役に立った事も有ったんだ・・・!)

 

 電話越しの雷の言葉が、このベンチで話した白雪の言葉が、そしてたった今の厚志の言葉が、太一の頭と胸の奥に響いている。

 

(それなら、もっともっと頑張って勉強して、あっちゃんや電ちゃん、響ちゃんをちゃんと手助けできるようになれば、きっともっと沢山役に立てるはず・・・! いろんな人を、助けられるはず・・・!)

 

 太一は空に向って拳を振り上げた。小さな声で、しかし決意を込めて口に出す。

 

「よぉしっ!・・・頑張るぞぉっ!」

 

 その拳の先には、太一の居場所に優しい光を投げかける月が、静かに輝いていた。

 

 

 

 

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