艦隊(Re)これくしょん ~ 白杜太一は艦娘たちの指揮を執るようです ~   作:IronCat

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~鈴谷~ 7

 午後になり、鈴谷の訓練について事前の連絡内容と相違が無い事を確認した後、余った時間で太一は白浜屋鎮守府の訓練を見せて貰う事になった。この白浜屋に来てから鈴谷本人の姿が無い事にもやっとしたものを感じたが、白石提督がその事に触れないため、太一も他の鎮守府の事情に口出しすべきでは無いと黙っていた。

 救命胴衣を一着貸してもらい、白石提督が自ら操縦する漁船で艦娘達と沖合に出る。

 

「地震の影響で漁を辞めちゃった方から譲り受けたんです」

 

 白石提督は太一にそう説明した。

 

「あんまり近付くと危ないんでこの辺で」

 

 漁船は徐々にスピードを落とし、やがて完全に停止した。海は穏やかで、思ったほど揺れも大きくない。

 

「太一さん、気分はどうですか? 気持ち悪くなったらすぐ動かしますんで言ってください」

「大丈夫です。俺、先月まで海上自衛官だったんですよ」

「それなら海の上は慣れてますね。見学するのに、これ使ってください」

 

 手渡された双眼鏡を目に当てる。足首が水面の向こうに隠れるくらい遠く離れた天龍達がかろうじて見えた。

 

「こんなに離れるんですか?」

「これでもかなりギリギリなんです。艦娘の武装の威力は凄いですからね」

 

 舵輪を離れた白石提督が太一の隣に立つ。

 

「そう言えば、太一さんはまだ提督向けの講習も受けてないんでしたよね」

「恥ずかしながら、先週の金曜に着任したばかりでして・・・」

「なら、艦娘の力の詳しいところもあまり知識が無い?」

「実は、浦賀警備府には船が無いので艦娘が洋上で訓練するのを見るのも初めてです」

 

 深海棲艦と戦うところを見たことはあるけど、と心の中で付け足しておく。

 

「じゃあ、ちょっと実験してみましょうか」

「実験?」

「ちょっとしたゲームです・・・皐月、聞こえます?」

 

 白石提督はトランシーバーに向かって話しかけた。

 

『ボク? うん、聞こえてるよ』

「ちょっとこっちを見て、確認してほしいことがあるんですけど」

『いいよ。何を見ればいい?』

「太一さん、適当に指で数字を作ってみてください」

 

 太一は頷くと、試しに人差し指1本を立てて腕を伸ばした。

 

「皐月、太一さんは指を何本立ててる?」

『1でしょ。人差し指を伸ばしてる』

「太一さん、次を」

 

 何度か促されて太一は指の数を変えてみたが、それを皐月はことごとく正確に、どの指を伸ばしているかまで当ててみせた。

 

『簡単だね! もっと小さくてもいいよ!』

 

 太一は少し考え、以前着任の際に蛇塚に見せた図書カードを取り出した。その表面を掲げると横の白石提督は頷き、トランシーバーを口に当てる。

 

「皐月、今太一さんが持っているものがわかるかい?」

『えっと・・・横須賀市立中央図書館? 番号も読む?』

「もういいです、白石さん」

 

 太一は驚きながら手を下ろした。こちらからは双眼鏡を通してもおぼろにしか見えないのに、あちらからは図書カードの細かい字まで読めているのか。

 

「種明かしをすると、艦娘はどうやら妖精さんの見たり聞いたりしたことを直接自分の感覚として感じられるそうなんです」

「じゃあ、今のは妖精さんが・・・」

「はい。見張り員妖精さんが皐月に教えてくれたんだと思います」

 

 この感覚強化は電探を積んでいたり、艦載機を運用していた場合さらに顕著になる、と白石提督は教えてくれた。目で見ているわけでもないのに遠く離れた硬い船の感触を感じられたり、洋上を広く見渡す広大な視界を得られたりするらしい。

 

「それで、空母の艦娘さんは、慣れてないうちは艦載機酔いをしちゃうらしいですね」

「飛行機酔いみたいなものですか?」

「視界がいっぺんに広がって、おまけにそれぞれが別々にぐるぐる飛び回るわけですからね。脳がパニックになっちゃうんです。・・・まあ、講習の受け売りですけど」

「なるほどー」

 

 太一は素直に感心して深く頷いた。そして、できれば早い内に自分もその講習を受けないとな、と考える。

 

(仕事の合間にあっちゃんや電ちゃん達に教わるだけじゃ、浦賀警備府に居ない艦の事は聞けないしな・・・)

 

 太一が考え事をしている間に、白石提督がトランシーバー越しに指示を出し、艦娘たちが動き出した。

 白浜屋鎮守府の今日の洋上訓練は、まずは艦隊運動から始まった。天龍、皐月、望月が縦列に一定間隔で並び(龍田は鎮守府で電話番に残っている)、速力を調整してお互いの距離が変わらないように航行する。そして、天龍の合図で速力を上げたり落としたり、舵を取って方向を変えたり、並びの順番を変えたりして、様々な状況で列を乱さないように維持していくのだ。

 

 双眼鏡で覗いていても、キビキビと動けているのは天龍だけで、皐月は素早く反応するのは良いが突っ込み過ぎて危うく前の艦娘にぶつかりかけ、望月は逆に動きにまごついて大きく自分の位置からずれたりしていた。太一が見た限り、艦隊運動に関してはまだバイトの磯波や白雪の方が上手に見える。

 

「2人とも、教習所で練習してないんですよ」

 

 白石提督が弁解のように言った。

 

「え? 免許はどうなってるんです?」

「講習だけ八戸の警備府で受けて、仮免状態です。一応、提督と軽巡以上の教導艦が居れば練習はさせられるんで、こうして鎮守府の訓練を兼ねてやらせてます。こうでもしないと、横須賀の教習所の空きができるまで何もできなくなってしまうんで・・・」

 

 そう言えば、全国の艦娘教習所が受け入れを始めるのは、呉、佐世保の鎮守府が開設されるタイミングと同時だから5月以降だった。今はまだ横須賀にしか無いから、艦娘素養者がいてもキャパシティオーバーで受け入れできないのだろう。免許取得済みのバイト艦娘が2人も確保できた浦賀警備府の方が恵まれていたのだ。

 

「あれでもかなり上達したんです。個別に動く分には申し分ないし、後は周囲と合わせられるようになれば・・・おや、一旦休憩かな」

 

 双眼鏡で見てみると、天龍が2人を集めて何か言っていた。言葉だけでなく、ノートのような物を出して絵を描いて説明している。それを皐月と望月は、ふざける気配もなく真剣に聞き入っている。

 

「・・・天龍はいい先生みたいですね」

「いやほんとに。助かってます」

 

 白石提督は頷いた。

 

「・・・ただ、天龍も正規の旗艦教育を受けたわけじゃないんです。俺が受けた講習の教本を読み込んで見よう見まねでやっているだけで。だから、今回浦賀警備府に対馬海洋観測所の艦娘さんを派遣してもらって、本当に助かります。天龍も俺も、艦載機なんか扱えないですから」

「あ、はい」

 

 電も駆逐艦だから艦載機を扱えないはずだけど、という言葉は飲み込んでおく。昨日知った通り、電は観測所の初期艦の1人なのだ。当然、様々な艦種の艦娘と一緒に訓練して色々と知っているはずだ。

 水平線に見える3人が動き出す。もう一度艦隊運動をやり直すのだろう。時計を見ると、電が到着するまでまだ2時間ほどある。ちょうど、午後の訓練が終わる頃になるはずだ。

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 艦隊運動の訓練の次は、対空射撃の訓練を行う事になった。艦隊運動をやっている途中に八戸から訓練支援の空母艦娘が到着したのだ。

 

祥鳳(しょうほう)です。本日はよろしくお願いします』

 

 白の着物姿のシルエットが双眼鏡越しに微かに見える。かろうじて、赤城のように弓を持っていることが確認できた。

 

「全部で4回お願いします。祥鳳さんに航空機を飛ばしてもらい、3回目までは照準だけの訓練、最後の一回だけ突入してくる航空機を模擬した標的を落としてもらって、実際に射撃を行って標的を撃ち落とします」

『了解しました』

 

 事前に訓練内容を伝えてあったのか、訓練調整は簡単な確認で終わる。動き出した祥鳳を見つめながら、太一は考えた。

 

(空母艦娘なら見つかったらまず横須賀に呼ばれるはず・・・となると、祥鳳さんは対馬観測所の艦娘なのかな・・・?)

 

 でも、ただでさえ数の少ない空母をまだ基幹鎮守府の無い東北地方に配置するのだろうか。不思議に思っていると、それを察したのか横から白石提督が教えてくれた。

 

「鈴谷と一緒なんですよ」

「えっ」

「新しい空母の艦娘が見つかって、艤装を届けて貰ったらしいんです」

 

 その新艦娘は八戸に所属しているのだという。

 

「空母の場合は先程も言いましたが、とにかく艦載機の扱いが難しい。だから、祥鳳さんがそのまま手ほどきをしてから連れ帰るみたいです。今朝、補給の手続きついでに訓練を支援してもらえないか、ダメ元頼んでみたんですよ」

 

 祥鳳は、八戸での訓練が終わった後でならという条件付きで快く引き受けてくれたと言う。

 

「いやあ、運が良かった。艦載機を使った実戦的な訓練はなかなかできないですからね」

「ふ〜ん・・・」

 

 感心した後に、太一は「はっ」と気が付いた。

 

(あ、そうか! 鎮守府に空母がいないと対空の訓練すらまともにできないのか!)

 

 赤城が活躍した〈オアフ島沖航空戦〉でも、深海棲艦の艦載機が何度も襲いかかってきたという。敵にも空母に相当する艦が存在する事は周知の事実だ。

 

(なら、対空戦闘の訓練無しで海域攻略に出撃するのは自殺行為だぞ・・・)

 

 (いなずま)達が空からの攻撃に為すすべもなく沈められる想像をし、ゾッとした。慌ててポケットからメモ帳を出し、対空戦への備えについて書き留める。

 

(空母を訓練に組み込むなら、横須賀鎮守府に頼むのがいいのかな? それとも、自分たちで建造して所属してもらうのがいいのか・・・あっちゃんと相談してみないと)

 

 そこで、ふと気が付いた。今回、太一を出張に出したのは、もしかして他の鎮守府の訓練状況を勉強させる目的もあったのではないだろうか?

 

(・・・よし! あっちゃんの意図がどうあれ、せっかく来たんだ。できるだけ色んなことを勉強して、役立てないと!)

 

 太一が頷いてメモ帳を閉じると、それを待ってたかのように白石提督が空を指さした。

 

「祥鳳さんの航空部隊が準備出来たみたいです。まずは天龍がお手本を見せるみたいですね」

 

 確かに、皐月と望月はかなり離れた位置で固まって天龍の方を向いている。そして、その向こうの青空に細長いシルエットが多数浮かんでいた。

 

「あ、あれっ!? 艦載機ってあんなに大きいんですか!?」

「九九艦爆ですね。そうか、浦賀には空母がいないんですね。私も最初見たときはびっくりしましたよ」

 

 艦娘が飛ばす艦載機は、かつての航空機と同じサイズなのだという。それぞれの航空機を象徴する矢を空母艦娘が弓につがえて射ると、またたく間に姿を変えて航空機に変化するのだ。

 

「艦娘の力には驚かされる事ばかりですけど、航空機の発艦ほど不可思議な光景はありませんよ。射られた矢が、いつの間にか見事な航空機編隊に変わって空を飛び回るのですから」

 

 祥鳳の航空部隊が次々と急降下を始める。その下では、天龍がクルクルと向きを変えながら盛んに構えた剣を振っていた。

 

「? あの、白石提督。天龍は何をやっているんですか?」

「主砲と機銃による対空射撃ですね。まだ照準のみですが」

「刀を振り回していますけど・・・」

「あれが天龍のスタイルなんです」

 

 特に気にした様子も無く白石提督はのんびりと訓練の様子を見ている。太一としては射撃と刀にどんな関係があるのかいまいち理解しきれない。

 

(刀の振りで衝撃波を出そうとしてるとか・・・まさかね)

 

 艦娘の存在はかなりファンタジー寄りだが、ファンタジー世界の技が使える訳ではない。扱える能力はかつての艦艇の武装か、乗員の力だけだ。刀の一振りで航空機を落とすような超人の能力など、使えるはずがないのだ。

 

 そうこうしている内に天龍の番は終わり、皐月に交代した。陸上にいる時と同じく、すばしっこく動き回っているのが見える。遠目に見ても良く動けているし、対空射撃の格好も様になっている。白石提督の評価通り、個人技ならそこまで問題は無いと思えた。

 

 その後、望月まで訓練を終え、訓練支援の礼を言おうと白石提督がトランシーバーを持ち上げると、そのタイミングでちょうど祥鳳の方から連絡が来た。

 

『160度、約7マイルから駆逐艦娘が一隻近付いて来てます。おそらく暁型ですね・・・ああ、今確認できました。電がこちらに向かって来てます』

(でん)ちゃんだ!」

 

 思わず愛称で呼んでしまう太一。にっこりと笑って白石提督は応答する。

 

「祥鳳さん、申し訳ないですが、もう一つお願いしていいですか? 横須賀から大切なお客様がはるばる来てくれたんです。誘導してもらえませんか?」

『もちろん、構いませんよ。電は私にとっても大切な友人ですから』

 

 それからおよそ30分後、祥鳳の艦載機にエスコートされて電が漁船の側までやってきた。電は乗員の一人が太一である事に軽く驚いたが、二人の前まで来ると静かに行き足を止めて向き直った。

 

 頭の先から艤装の先端に至るまで、全身が乾いた海水のため塩にまみれ、キラキラと細かな光が煌めいている。出発の時はピンとアイロンがかかっていた制服が何度も海水に晒され、今はもうよれよれだ。それでもちゃんと背筋を伸ばし、白石提督に敬礼する電の姿に、太一はなんだか胸がいっぱいになってしまった。

 

「―――駆逐艦〈電〉、浦賀警備府より、白浜屋鎮守府にただいま到着しましたのです!」

「はい、遠いところはるばるよく来てくれましたね。色々話したいですけど、まずは鎮守府に戻って一休みしましょうか? ウチの艦娘達と合流して帰投してください」

「了解なのです!」

 

 白石提督の答礼の後、太一も急いで船縁に寄って身を乗り出す。

 

「電ちゃん、お帰り!・・・ってのは変か。でも、良かった、安心したよ。頑張ったね」

「これくらいへっちゃらなのです!」

 

 電の顔に笑顔が浮かぶ。太一も笑って言葉を続けた。

 

「白石提督の言うとおり、まずは鎮守府に行ってお風呂を借りたらいいよ。でも、最初はびっくりするかもね」

「どうしてなのです?」

「それは着いてのお楽しみ・・・でも―――」

 

 太一は電に向かってウィンクした。

 

「―――電ちゃんもきっと・・・白浜屋のみんなの事、気にいると思うよ!」

 

 

 

 

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