艦隊(Re)これくしょん ~ 白杜太一は艦娘たちの指揮を執るようです ~ 作:IronCat
~出撃~ 1
広島県、呉市―――。
造船の街として古くから発展し、戦艦大和を始め多くの船を産み出した帝国海軍艦艇の故郷。
現在においても海上自衛隊の地方総監部の所在地であり、また旧海軍兵学校、現在では海上自衛隊の幹部学校を付近の江田島に持ち、その港には多くの護衛艦が在籍して日夜日本の防衛に努めている、由緒正しき海軍の街である。その、呉地方総監部に近い美術館通りに、1人の若い女性の姿があった。
長い髪を頭の左右で2つのお下げにし、いわゆるツインテールにしている。手足はスラリと長く華奢。学生服のような白の上衣に少し短すぎるプリーツ加工のミニスカート。太腿の途中まであるニーソックスを身に着け、まだ少し肌寒い季節だからか、モスグリーン色のミリタリールックなジャンパーを羽織っている。
瞳が大きく、長い睫毛の可愛い系の顔。だが、ちょっと野暮ったいピンク色のフレームの眼鏡が愛嬌のあるアクセントになっている。有り体に言ってかなりの美少女と言ってもいい容姿だが、その唇は生真面目に引き結ばれており、そこだけが外観の印象を裏切って彼女に大人びた印象を与えていた。
街路樹の側で軽く脚を交差させるような立ち方で、ジャンパーのポケットに両手を突っ込んでいる。手持ち無沙汰に時折視線を泳がせたり、手首の小さな時計に目をやったりする。どうやら人待ちのようであった。
風が吹き、長い2房の髪が宙に浮き上がった。顔に髪がかかり片目を閉じて流れる髪を抑えると、不意に「あ」と少女が吐息のように声を上げた。
「桜・・・」
少女が吹き上げられた花弁が風の中に舞っていくのを目で追いかける。高く舞い昇り、そして青空の彼方に消えていく。
「・・・そっか。もう、春なんだ」
もう一度吹いた春風の中、前髪を揺らしながらポツリと呟いた。そうやって消えた桜の花びらを探していると、背後から声をかけられた。
「・・・何か珍しいものでも飛んでるか?」
若い男の声。少女はことさら驚いた様子も見せず、空を見上げたまま応える。
「桜」
「? 桜なら総監部の敷地に咲いてたな」
「そこから飛んできたのかもしれません。花びらが風に吹かれてたんです」
「そんなに珍しいことでもない」
「桜に心惹かれない日本人はいないんじゃないですか?」
そこで初めて、少女はゆっくりと後ろの男の方に向き直った。自分より高い瞳を追いかけて視線が自然と上向きになる。
「・・・
「違いないが、どちらかと言うと俺は酒の肴にしたい方だな」
少女の視界の中に、街路樹の木陰に立つスーツに身を包んだ男の姿が入ってくる。短髪で堀が深く日焼けした顔。しかし精悍な、というよりちょっとタレ目気味で子供っぽい印象の人のいいあんちゃんという雰囲気。スーツを着慣れていないという様子で、窮屈そうに肩が張っている。襟首は自分で引っ張ったのかネクタイが緩んで、しかも曲がっていた。そこから見える僅かな首筋は筋肉質で、何かスポーツでもやっているように見えた。
その愛嬌のある顔が、少女が振り向いた途端に奇妙なものを見たように歪む。
「・・・どうしたんだよ、その眼鏡」
「眼鏡してると賢く見えません?」
少女が眼鏡をクイッと上げながらドヤ顔を浮かべる。厚志と呼ばれた男は「はあ〜」とため息をついてこめかみを押さえた。
「お前って頭良いはずなのに時々頭悪くなるよな」
「あ、ヒドいです」
「とりあえず、他に言う事無いならさっさと移動したいんだが?」
「色々言いたい事はありますけど・・・」
「歩きながらにしてくれ」
そう言うと、厚志は踵を返す。そして首を捻って少女の方を見て言った。
「そら、行くぞ。
「ああ、待ってください厚志君!」
波津音という少女は小走りになってその隣に並んだ。厚志が歩調を緩めたのですぐに並んで歩き始める。目線を上げて肩越しに厚志の顔を見上げた。
「参加者の反応の方はどうでしたか?」
「注目されてるな、とは感じた。こういうのは俺なんかより月島さんの仕事だろ」
「もう所長も今じゃ時の人ですからね。忙しさで言ったら厚志君なんか目じゃないですよ」
「人には向き不向きがあるってもんだ」
「そうですね。厚志君の書類はいつも間違いがありますもんね」
初音の物言いに憮然とした表情をする厚志。反論しようと何か言いかけたが言葉が続かず、結局困ったような顔で頭をかいた。少女はクスクスと見た目相応の笑い声をあげる。
「ふふ。忙しくても、間に合ううちにやれることはやっておきませんとね。それに所長だって、厚志君ならできると思ってるから頼み事をするんですよ」
「どっちかって言うと波津音の方を頼りにしてるんだと思うけどな、所長も・・・っと、そういや、あの人ももう肩書変わっちゃうのか」
「厚志君も一緒ですよ」
波津音が厚志のスーツの胸元を指差す。そこには、安全ピンで止められた「対馬海洋観測所 所員
「急いでたから返し忘れた。貰っちゃっても平気かな」
「大事なものなら向こうから言ってくると思います」
「そうかもな」
厚志が安全ピンを外すと、波津音はその名札を受け取ってしばらく見つめた後、 黙ってポケットに入れた。
太平洋中央海域に深海棲艦が出現して以来、日本国内は大騒ぎになった。自衛隊を周辺海域に派遣して海上輸送航路を守れと大号令がかけられたが、 米軍のハワイ奪還作戦の失敗を受け、そもそも自衛隊が深海棲艦に対抗可能なのかという根本的疑問が生じた。ハワイ襲撃時に偶然付近にいた練習艦〈かしま〉により、深海棲艦が存在する海域では電子機器が使えなくなるという情報がもたらされ、現代兵器のほとんどが無力化されることが予想された。
もしも深海棲艦に対抗できず海上輸送路を蹂躙されたら、主要資源の9割以上を海外に依存している日本は数年のうちに枯渇する。 国内の需要を適切に管理し、天災や襲撃からの復興などを考えない良好な条件で計算しても、10年は持たないというのがワイドショーのコメンテーターの予想であった。
つまり日本は、太平洋のど真ん中から喉元にナイフを突き付けられたのである。空気と同様に平和を貪っていた日本国民にとって、これは驚天動地の事態であった。
この事態に対し、 寺内内閣は素早くリアクションを行った。 今回の深海棲艦のハワイ周辺諸島襲撃を60年前の朝鮮戦争の続きであることを示唆し、それに対抗手段があることを示したのだ。
朝鮮戦争の末期に起きた悲劇を繰り返さないため、 かつての亡霊の艦隊、現在の深海棲艦に対する全く新しい種類の洋上防衛戦力の必要性。個人が装備し、単独で軍用艦艇と同等の能力を有する特殊個人用艦艇の開発経緯と運用試験実績。そしてそれらは先のハワイ諸島からの脱出劇で電撃的に参戦して活躍し、また今この時においても、東シナ海、インド洋において海上輸送路の防衛に努めていることを一気に暴露した。
そして内閣は、太平洋に面した我が国はすでに厳しい臨戦状態にあるとして、これら特殊個人用艦艇を日本国保有の戦力とし運用する事について定めた臨時法案を提出した。
要旨としては次の通り。
・特殊個人用艦艇(以下〈特艇〉と呼称)は装備品によって甲乙丙丁の4種に分類される。 そのうち甲乙丙は通常動力及び通常兵装を装備した艦艇である。(実際は、現在のところこのカテゴリーに分類される艦艇は存在しない。)
・丁種特艇は通常動力外の航行能力、及び通常兵装外の戦闘能力を有する特艇である。
・丁種特艇の運用には特殊な才能が必要であり、またその管理運用にも同様の才能が必要となる。
・そのため、丁種特艇及びその関係者の管理運用を行う新組織として洋上不明存在対策局を設置する。(深海棲艦の呼称はあくまで通称であり、公式文書での名称はこちらになる。)
・また、丁種特艇の運用拠点として維持管理能力を持つ丁種特艇運用港を、横須賀を最初に日本各地に順次開設する。(最初は各地方の海上自衛隊施設を間借りする予定)
・運用拠点には対策局から任命された丁種特艇特別管理者を最低1名配置し、分権業務に当たらせる。
問題となったのはこの丁種特艇の運用才能が、若い女性特有のものと考えられる点である。10台中盤をピークに、それ以後は徐々に保有者率が減り、30歳を超えると激減する。これが女性の生理的な成長段階の影響によるものか、それとも世代の違いによるものなのかは、まだ始まったばかりなのではっきりしない。だがどちらにしても丁種特艇を運用していくならば、その戦闘の矢面に年端もいかない女子を立たせることになるのである。世論も国会も荒れに荒れた。
反対側の一つの意見として、先の朝鮮戦争と同じく今回出現した深海棲艦はハワイ諸島周辺に留まり、他に影響を及ぼさないのではないかという楽観的な物もあった。実際にハワイ諸島で多くの犠牲者を出し、奪還作戦においても天文学的被害を受けたアメリカからしてみれば日和った意見ではあるが、日本人の半数にとってはまだこの時も遠く海で隔たれた外国での出来事であった。
だが、当たり前のことであるが海は繋がっている。アメリカ海軍の太平洋中央海域撤収とほぼ同時期に、深海棲艦の出現が連続的に報告され始めた。北太平洋アリューシャン列島・フォックス諸島南方の沖、南太平洋ソロモン諸島東方のサンタクルーズ島の北方、地中海マルタ島近辺、北大西洋アイルランド西方、そしてインド洋。世界の海上航路とそれを活用する各国は大混乱に陥った。突きつけられたナイフの刃の反射光が、ギラギラと日本国民の目にも差し始めた。
世界は日本の丁種特艇に注目し始めた。同じ島国であり洋上輸送が命綱であるイギリスなどは早速国際協力の打診を始めたくらいである。それくらい、アメリカの敗退と各海域での深海棲艦の出現はインパクトが大きかった。
寺内総理はここを勝負どころと見て、伝家の宝刀を抜き、解散総選挙に踏み切った。日本の未来を丁種特艇、そしてそれを操る少女たちに託すかどうか、そしてその覚悟があるかを日本国民に問いかけたのである。
選挙までの期間、各地で様々な内容に関する是非について激論が交わされた。公的な名称に代わり、いろいろな通称が決まったのもこの時期である。
まず、丁種特艇運用者については、洋上不明存在対策局長が内定していた対馬海洋観測所の所長・月島代一郎の提唱により〈艦娘〉の通称が使用された。それに続き、艦娘が太平洋戦争時代の艦艇の名を使用する事が明らかになると、丁種特艇特別管理者、略称〈丁特〉はそのまま当て字を変えて〈提督〉と書かれるようになった。
さらに、艦娘の拠点施設であるが、これについては寺内総理の強い指示で「艦娘の拠点名称は艦娘の希望を取り入れる」こととされ、赤城を初めとする、すでに活動実績のある艦娘に意見聴取を行った。その結果、提督のいる場所は〈鎮守府〉であるとの回答を得たため、その通りとなった。これにより関連各種法案は、まとめて「鎮守府法」と呼ばれることとなる。
(なお余談ではあるが、洋上不明存在対策局もこれらの一連の通称に倣って後に「大本営」と呼ばれる事になる。)
選挙は2月24日の日曜日に開票された。結果は、僅差ではあるが与党連合が勝利した。
早速第2次寺内内閣が組閣され、鎮守府法は新年度からの施行が決定した。2月28日からは、艦娘と提督の募集も始まっている。日本は彼女らの活躍にその未来を預けたのだ。
法案の施行の見通しが立ったため、対馬海洋観測所の職員たちも動き始めた。まずは何はともあれ、動ける艦娘を増やさなくてはならない。
観測所所属艦娘たちの協力により、艦娘を養成し、特艇免許取得のための試験を実施する艦娘教習所が3月初頭から横須賀で始まった。
果たしてどれだけの希望者が集まるか未知数であったが、蓋を開けてみれば常に定員枠は一杯なほど希望者は殺到している。非常時ということで無料で受講できるし、春休み中に免許取得まで修了できるということで、物珍しさも手伝って試しに取ってみる学生もいるのかもしれない。むしろ、免許取得者全員に行き渡るほど艦娘の艤装が建造できるのかが問題になるほどである。
提督候補者もぼちぼち見つかっている。最初に立ち上げる横須賀鎮守府の提督は海事に詳しく、連携が取りやすい者と言うことで、現役海上自衛官の幹部から見つかった者に内定している。他にも全国から素養のある者が見つかり、現在、こちらも観測所の艦娘が協力して必要な教育を実施中である。後日他の鎮守府が開設される時には、その補佐を行う艦娘の配備も併せて間に合う見込みだ。
厚志と波津音、2人に任された仕事は鎮守府開設準備のさらにその下準備といったところだ。本日も次の鎮守府候補地であるこの呉の海自や市長、海運関係者に艦娘の洋上特性の説明とその実演に関しての説明会を終えたところだ。先週は佐世保で同じ事をやった。今のところ準備が進んでいるのは、先行の横須賀、後続の呉、佐世保の3箇所のみなので、今回の仕事はここで終わりだ。これで鎮守府候補地巡りを終え、ようやく本来の拠点である横須賀に帰れる。
「でもこんな調子で飛び回ってたら、とてもじゃないが通常業務なんてできねぇぞ」
「そうですね。自主訓練だけってわけにもいかないですし・・・」
「鎮守府法の制約で提督の監督がなければ出撃させられないしな」
「武装してますからねぇ・・・」
「せめて俺が留守の間にだけでも代理を頼めないかな」
厚志は先ほどのように頭を掻いた。
「波津音、お前顔が広いだろ? 知り合いに素養あるやついたりしないか?」
「いたとしても速攻で月島さんに引っ張られちゃいますね。そう言う厚志君こそ、まだ見つかっていない提督できそうな人の心当たりはいないんですか」
「いたらこんな風に愚痴ってないんだよなぁ」
厚志はため息がちに肩を落とした。「しばらくは開店休業かな」とぼやきを漏らす。初音は黙ってポンポンと背中を叩いた。そしてすっと一歩出て斜め下から厚志の顔を見上げる。
「ところで、報告が2つあります」
「は?」
まじまじと波津音の顔を見る。しばらく「は」の形に口が開いたままになる。
「・・・今言うのかよ。何だ?」
「その前に、確認ですけど・・・良い報告と悪い報告、どっちから聞きたいですか?」
「それ、選択する意味あるの?」
「もちろんです」
エヘンと眼鏡を指で上げながら波津音が言う。どうやら伊達眼鏡が相当気に入ったようだ。
「悪いことを先に聞いてから良いことを聞くと、ギャップで良いことの喜びが2倍ですよ」
厚志はこめかみを抑えてうぅむと唸り声をあげた。
「じゃあ、とりあえず悪い方から教えてくれ」
「あれ、よろしいんですか?」
「本気で悪い状況なら、波津音がこんなにのんびりしてるわけないからな」
少女はふむと鼻を鳴らし、ちょっと嬉しそうに頷いた。
「じゃあまず悪い方ですね。厚志君、今日私たちが乗って帰る船が無くなりました」
「はぁ?」
「正確には昨日の夜には着いているはずなのにまだ呉に到着していません。いないんです」
「どういうことだ? 運行会社に連絡してみたのか」
「当然しました。出航は予定通りだったらしいから、航海中の何かのトラブルで入港が遅れているようですね」
「まずいな。海から離れるわけにはいかないし、別の船って今からじゃあ探せないよな」
厚志たちは今回の説明会に際し、艦娘の洋上特性の実演に必要なものを持ってきている。それらは通常の旅客荷物よりはるかに大きく、また特殊な取り扱いが必要なため、運搬できる客船を探すのは時間がかかる。波津音はあっさりと頷いた。
「今から探しても乗れるのは明日になるでしょうね」
「くっそ、早く横須賀に帰りたいのにな」
「私だけ海路でって手がありますよ」
波津音の進言に厚志は首を振る。
「瀬戸内海は交通量が多い。4月まではあまり目立って月島さんに迷惑かけたくない」
「そうですか」
ううんと唸って首を捻る厚志。だがすぐに傍らでニコニコしている少女の様子に気がつき、怪訝な表情を向けた。
「で、何が言いたい?」
「分かりますか? いやぁ、良い方はいつ聞いてくれるのかなと思って」
「そのドヤ顔を見てると聞きたくなくなってきたが、一応聞かんわけにはいかんのだろうな」
「はい。じゃあ良い方ですね。横須賀に帰る船がなくなってしまった我々ですが、なんと! 都合がいいことに海自さんが呉から横須賀に帰る船に便乗させてくれるそうです。わーい」
セルフで拍手する波津音。厚志は再度こめかみを抑えた。
「・・・一瞬でも悩んだ俺が馬鹿みたいだ」
「だから聞く順番が大事だって」
「露骨に誘導された」
「素直でリアクションの大きい厚志君は好きですよ」
「そりゃどうも。・・・そもそも何で海自が?」
「月島さんに相談したらそうなりました」
「言った側からあの人に迷惑かけるなよ」
「一応、大井さんを通しましたけどね」
波津音の説明によると、厚志が説明会に行っている間に横須賀行きの便の欠航を知り、状況を伝えるため本拠地である横須賀と、月島との連絡係をやっている大井に報告を行ったらしい。大井は月島の許可を得て呉周辺に停泊している船舶を検索。片っ端から連絡を取ったところ、護衛艦〈いかづち〉がちょうど今日の午後出航して横須賀に帰るということで、防衛省経由で海上自衛隊に話が伝わった。
「普通護衛艦の行動って内緒なんじゃないのか?」
「ほら、大井さん横須賀鎮守府の初期配属内定してますしね。〈いかづち〉は横須賀所属ですし」
「それにしたって・・・いやちょっと待て。護衛艦ってことは係船堀の方じゃないのか」
「えっと・・・そうですね」
波津音がスマホの画面を確認しながら答える。厚志は足を止めて後ろを振り返った。
「逆方向じゃないか。総監部のさらに南だろう」
「まだちょっと時間ありますし、お昼にしましょうよ。呉駅の近くに大和のオムライスを出す店があるんですよ」
「ちなみに出港は何時だ」
「1500です」
厚志は腕時計を確認し、がっくりと肩を落とした。
「飯食ったらタクシーで移動だな。鉄のくじらは今回も無理かぁ・・・」
「見たかったんですか」
「潜水艦の中なんてそうそう見られないだろう?」
「艦の中身が見たいだなんて・・・エッチですね、厚志君」
「なんで艦娘の話になってるんだよ?」
「普段の行いでしょうか? 厚志君、良く艦娘に触りますよね」
「誤解だ!」
思わず大きくなった声に、厚志は慌てて周囲を見回した。道行く人たちは2人にチラリと目線をやるが、気に留めた様子も無くそのまま通り過ぎて行く。厚志は少し身をかがめて少女に顔を寄せ、小声で続けた。
「艤装の状況を知るには、直接見た方が早いし、間違いがない。俺は
「だいたいの提督はそうですね。それでどうして艦娘に触るんです?」
「え、だって・・・大体その当たりに乗ってるだろ?」
「その当たりとは?」
「肩とか・・・頭とか」
「厚志君」
波津音はクイッと眼鏡を上げた。しかし、さっきまでのドヤ顔ではなく至極真面目な表情だ。
「女性の肩や髪の毛に気安く触るのはやめましょうね」
「いや俺は・・・」
「やめましょうね」
「・・・わかった」
しょんぼりと縮こまった厚志の回答に、波津音は満足そうに頷いたのだった。