艦隊(Re)これくしょん ~ 白杜太一は艦娘たちの指揮を執るようです ~   作:IronCat

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~出撃~ 4

 太一は艦長の側を一旦離れた厚志に引っ張られ、艦橋の後方の区切られたスペースに連れてこられた。そこで厚志の鞄を押しつけられる。

 

「太一、俺はもう少し〈いかづち〉の方と調整せにゃならん。そこで、お前にこれを操作してもらう」

「う、うん。どうしたらいい?」

「鞄の中にパソコンが入っている。後は指示通りにやればいい。できるな?」

「わかった、やってみる」

「頼むぜ、太一!」

 

 厚志は太一の肩をパンと叩くと、区画を出て行った。

 見送った太一は言われたとおり鞄を机の上に置くと、中からノートパソコンを取り出す。

 

「ん・・・っと、これも付けた方がいいのか?」

 

 マウスを繋いで準備していると、鞄の底にヘッドセットが入っていることに気が付いた。取りあえずパソコンのジャックに指して頭に被っておく。耳が塞がると艦橋内の喧噪がすっと遠ざかったようになり、太一は場違いにも少し落ち着いてきた。

 

「よし・・・!」

 

 腹に気合いを入れる。先ほどの放送が入ったときのような醜態は二度とごめんだ。太一はパソコンの画面を出すため、閉じていた蓋を開けた。

 

「・・・は?」

 

 遠近感がおかしくなり思わず太一は目をこすった。蓋を開けたパソコンのキーボードの上に、うつ伏せになって人形・・・いや、厚志の言葉通りなら妖精さんが倒れていたのだ。だが、閉じたパソコンの画面とキーボードの隙間はほんの数ミリ。どう考えてもこの妖精さんの厚みと合わない。

 

 蓋を開けたことでスタンバイ状態が解除されたのか、ディスプレイが点灯した。筐体からも駆動音がし始め、小さなランプが点滅を始める。それに気が付いたのか、倒れ伏せっていた妖精さんがもぞもぞと動き始めた。おっきな頭をもたげ、手で目のあたりをこする。身体を起こして伸びの動作をした。

 

(・・・寝てたのか)

 

 目をしばたたかせた妖精さんは太一に気が付くと、不思議そうな面持ちで(あんまり表情が変わらないため、あくまで太一の感じたイメージだが)太一を見上げる。そして、急に合点がいったとばかりに手をぽんと打ち鳴らすと、パソコンの画面の方を見上げた。そして、どこからともなく大きな矢印の指示棒を取り出すと画面の中のアイコンの1つを指す。

 

「え・・・これをクリックするのか?」

 

 妖精さんが頷いた様に見えたので、太一はマウスを動かして指示されたアイコンをクリックした。何かのアプリが立ち上がり、画面の真ん中にどでかく「出撃」と描かれた何かのインターフェースが出現する。その途端、耳元から少女の叫びが聞こえてきた。

 

『遅いです、厚志君! 何してるんですか!』

「え・・・あ、波津音さん?」

『え・・・あれ!? 太一君なんですか!? 厚志君はどうしたんです?』

 

 どうやらアプリが立ち上がったことでどこか別の場所にいる波津音と通信が繋がったようだった。太一は少し顔を伸ばして艦橋の様子を確認してから再度画面に向き直る。

 

「あっちゃんは今艦長と何か打ち合わせしてる。俺はその、あっちゃんにこのパソコンを操作するように言われて・・・」

『ああ、だから〈艦隊司令部施設〉を太一君が使ってるんですね』

「しれいぶ・・・?」

『そのパソコン・・・というか、そこにいる妖精さんです。艦娘と連絡を取ったり、指示を出すことのできる優れものですよ』

 

 言われたことがわかるのか、波津音そっくりにそこにいた妖精さんがドヤ顔をしていた。

 

「あっちゃんには指示通りにすればいいって言われたんだけど、どうしたらいい?」

『今私の艤装にまだ安全装置がかかっているんで、それを外してもらいたいです』

「どうすれば?」

『〈編成〉ってアイコンを選択してください』

「これ?」

 

 言われたとおりに操作すると、画面が切り替わって六つの空白の枠が並んだ画面が出てきた。

 

『その出撃枠に私を入れてください。〈変更〉ってボタンで、今は1人しかいないんでそれを選択です』

「・・・オッケー。できたよ」

『こっちでも安全装置の解除、確認しました! 今支度するのでちょっと待っててください・・・40秒だけ!』

 

 これで良いのだろうか? 太一はもう一度首を伸ばして艦橋内を覗き見た。ちょうど話し合いが終わったようで、厚志がこっちに来る。

 

「どうだ、太一? 準備できたか?」

「多分・・・あと30秒で支度できるって」

「こっちも準備オッケーだ。民間船の距離を離すため〈いかづち〉はここに留まって待ち受ける」

「・・・戦いになるの?」

「恐らくは・・・艦長! 後部の様子は見られませんか?」

 

 艦長が頷き、付近にいた乗員に指示を出す。艦橋内に設置されていたモニターのいくつかの表示が切り替わり、〈いかづち〉の後部甲板の様子が映し出された。

 

「波津音さん・・・?」

 

 ぱっと甲板を照らす明かりが灯り、ざんざんと降る雨と、そこに異様なシルエットで立つ1人の少女の姿が照らし出された。

 

 モスグリーンのジャケットは脱ぎ捨て、今は学生服のような上衣が露わになっている。その背にはとても少女が身につけているとは思えない大きな金属の武装が背負われ、片手にも何か武器のような物を持っている。さらに、オーバーニーソックスで覆われた脚の先には金属でできた厚底ブーツにも見える履物を履いていた。

 波津音が雨に濡れた甲板に一歩踏み出す。ぱしゃんと甲板にできた水溜まりが飛び散る。全身濡れ鼠になっていたが、まったく本人は気にしていないようだった。

 

『準備OKです!』

「あっちゃん・・・?」

「いいぜ、出撃だ」

「わかった・・・! 出撃だよ、波津音さん!」

 

 太一は画面の真ん中の一番大きな「出撃」のボタンをクリックした。画面が切り替わる。

 

『了解っ・・・! 艦隊旗艦、軽巡〈大淀〉、波津音! 出撃します!』

 

 大きく重たげな艤装を物ともせず、波津音はひらりと〈いかづち〉後部の柵を乗り越えた。艦橋内にどよめきが走る。

「お、落ちた?」

「飛び降りたんです。艦尾からだからスクリューの心配はないですよ、それにほら」

 

 砲雷長の驚きに対して厚志は冷静に返答し、艦の右舷側を指さした。

 

「もう並んでます」

「本当に・・・海の上に立っている・・・!」

 

 太一からも〈いかづち〉の横に水面を水上スキーのように滑って並ぶ少女の姿が見えた。飛沫を巻き上げ、濡れ鼠の長いツインテールが重たげに海の上に翻っている。雨に打ち付けられ、海面のうねりに乗り上げながら、しかしまるで強固な大地に立っているかのように揺るがない。

 

「信じられん・・・。あれだけ海面が動いているのに平気なのか・・・?」

「艦娘は見た目は人間ですが一度艤装をまとって海に出れば船と同じです・・・ほら、うねりの方がかき分けられているでしょう?」

「あんな小柄で、本当に船と同じ存在だというのか・・・」

 

 信じられないものを見ているかのように〈いかづち〉乗員の目が見開かれている。それは太一も同じだった。

 まず、あんな華奢な女の子がクレーンで持ち上げるような装備を軽々身につけていること自体が驚異的なのに、さらにその状態で海面に立ち、あまつさえうねりに捕らわれることなく自在に荒れた海の上を滑っているのだ。ただそれだけで、奇跡の瞬間を見ているような感動が湧き上がってくる。

 

『太一君! さっき飛び降りたとき、右90度の方向に何か見えました! 船の人にもそっちに注意するように言ってください!』

「わかった!」

『できれば正確な距離が知りたいので、レーダーで重点的に見て貰えますか?』

「うん。それも伝える!」

 

 太一がそれを伝えると、艦橋内の乗員が連携してCICに指示を出す。CIC内の状況が分かるように砲雷長がスピーカーから音声が流れるようにしてくれる。

 

『90度・・・あった、これか! マジか、こんな小さいのが見えているのか!?』

「いくつだ!?」

 

 砲雷長が直接マイクに怒鳴る。即座に返答が返ってきた。

 

『1つです! でも、・・・早い! コンピューターで計算できないので正確には分かりませんが、25ノットは出ています。それに小型ボートくらいのサイズしかない。本当にこれが深海棲艦なのかよ!? 距離は―――』

「白杜!」

「はい!」

 

 太一はCICから読み上げられた距離をそのまま波津音に伝えた。

 

『なるほどー。では、さっき見えたのがあの辺でして、今そこにいるとしますと、大体今は・・・あ!』

「どうしたの!?」

『まずいです! 発光が見えました! 多分補足されて、砲撃されてます!』

「ちょ、マジ!?」

『マジですから、何とか耐えてくださーい!』

 

 波津音の叫び声が消えないうちに、太一の視界内で突然海に水柱が立った。波津音のいる右舷側に50mは離れた位置に1つ、それより後方にずれて70mくらいの位置にもう一つ。

 

「こっちにも!」

 

 誰かの叫びに振り返ると、左舷側の前方にも水柱が消えようとしているのが見えた。

 

「は、外れた・・・?」

「いやまずいな! 夾叉された! 次は当たるぞ!」

 

 砲雷長が焦りの声を上げる。

 

 連続した砲撃で弾着点が遠近に分かれたということは、方向はびしゃり、距離についても2回の砲撃の間に打ち続ければいつかは当たるということである。

 

「打たれっぱなしだと好き勝手やられるぞ! 主砲まだか!?」

『ほ、砲向よし! 主砲射撃用意良し!』

「主砲、打ち方始めーっ!」

 

 どん!と〈いかづち〉前甲板に装備された62口径76mm単装速射砲が火を噴く。だが、1発打ったきりでそのまま沈黙する。

 

「どうした!?」

『主砲発火停止! 排莢できません! 次弾装填不能!』

「人力でやれ!」

『所要時間五分!』

「急げ!」

 

 やり取りの後で砲雷長が歯がみする。

 

「これだけ改修に時間をかけてこの様か! 弾着は!?」

『・・・5、4、3、だんちゃーく・・・今っ!』

「目視では見えん! レーダーは!?」

『・・・ダメです、水柱が200mも右でした』

「外れか! なんたる様だ!」

 

 そこに、右にいた見張りからの大声が重なった。

 

「発光が見えました! 多分再度の砲撃です!」

『こっちからも見えました! さっきと同じ、3発です!』

 

 艦橋内の全員が凍り付く。

 その数秒後、まず艦首の目の前、5mも離れていない場所で巨大な水柱が上がる。続けて、落雷のような音を轟かせながら艦橋上部から巨人の平手打ちを叩き付けられるような衝撃。ガクンと船が一瞬沈み、艦橋内の立っていた全員が膝を付きかける。そして、最後の一発が――――――。

 

 突如、艦橋右舷の至近距離でガツンと激突音が響き、何もない中空から一瞬で大量の火花が飛び散った。あまりの量に一瞬ストロボが炊かれたように目がくらむ。

 

『あ痛ったーっ!』

 

 太一の耳に、波津音の叫びがこだました。大音量がヘッドセット越しに聞こえたのか、厚志が振り返る。

 

「おい波津音! 無茶するなよ! どんな状況だ!」

『大丈夫、ちょっと袖の端っこが焦げたくらいです。問題ありません!』

 

 「い、今のは?」と艦長がいささか動転した風で問いかける。恐らく間近で砲撃が弾かれる瞬間を見てしまったのだろう。生きた心地がしなかったはずだ。それに苦々しげな口調で厚志は答えた。

 

「大淀が我々を庇ったんです」

「庇った? 砲弾を弾いて?」

「艦娘はかつての艦艇そのものと言いましたが、正確にはかつての艦艇と言う存在を、自在に呼び出してその力を行使する事ができるんです」

 

 厚志は右拳を敵の砲弾に見立て、左向けに砲撃を再現してみせる。

 

「砲弾が〈いかづち〉の艦橋に当たりそうになった瞬間、大淀はかつての艦艇の装甲板を呼び出して盾にした」

 

 右手の砲弾が厚志の顔の前を通過する瞬間、それを遮るように左の手の平が突き出され、右手を弾いた。

 

「一瞬だったから見えなかったでしょうが、空中に呼び出されたその装甲板に弾かれて逸らされ、砲弾は海に落ちました」

「ま、魔法じゃないか・・・」

 

 艦長の言葉に、しかし大真面目な様子で厚志は頷く。

 

「ええそうです。まるで魔法です。言い換えれば、艦娘とはかつての艦艇を部分的に〈召喚〉して使役しているとも言えます。・・・そして装甲が召喚できるとなれば、当然、次は攻撃です・・・太一!」

「は、はい! 何、あっちゃん!?」

「波津音に伝えてくれ。もう十分観察できたろう? さっさと決めてくれ・・・ってな!」

 

 

 

 

「了解! じゃ、そろそろ決めちゃいますね!」

 

 波津音は通信にそう答えると、手に持った15.5cm三連装砲を正面に構える。15.5cm砲と言っても実際にそのサイズの砲弾がここから打ち出されるわけではないし、そもそも外観はよく似ているがその内部に装填機構や発射機構が収まっているわけでもない。(凝り性な妖精さんがそれに似たものを作っているかもしれないが)

 

 だが、そこに宿る15.5cm砲の妖精さんの力は本物だ。波津音の意思に反応し、きっちりとかつての15.5cm三連装砲の砲撃と同じ威力の攻撃を呼び出してくれる。

 

 波津音は時間をかけて敵の動きを観察していた。砲撃の発光から敵が1体のみのはぐれ艦であることはほぼ確定だし、砲の威力から見ても5inch砲程度を装備した駆逐級であることもあたりをつけた。そして最初の発見位置から、2度の砲撃位置への移動を見て、動きを把握した。もはや波津音の頭の中で、敵艦の位置は見なくても分かるくらい明確に存在していた。目を閉じれば波の砕ける音も、打ち付けて弾ける雨の音も遠く退いていき、波津音と海と敵駆逐艦という明確な世界がくっきりと浮かび上がる。・・・全ては、大淀の計算の内。

 

「・・・全砲門、良ーく狙って・・・打てーっ!」

 

 構えた三連装砲が火を噴いた。一瞬、そのミニチュアの砲身からミニチュアの火が出たように見えるが、次の瞬間には実際のサイズの15.5cm砲弾と化して敵艦へと殺到する。その弾は雨や風をものともせず・・・いや、雨風すら大淀の思考内で計算されたとおりに振る舞い、狙い過たずに真っ直ぐに敵艦へと突き進む。

 次の瞬間、〈いかづち〉から見えるくらいに大きな火柱が2つ、盛大に上空へ吹き上がった。

 

「あ、当てた? 初弾で!?」

「・・・初弾とは言えないかもしれません。〈いかづち〉の76mm砲の弾道も加味し、大淀の中で何度もシミュレーションを繰り返して修正を重ねた結果です」

 

 砲雷長の驚きにそう返しつつ、厚志の表情は誇らしげであった。

 

『敵艦、レーダー消滅。撃沈したものと思われます!』

 

 CICからの報告を聞き、艦長も力が抜けたように席に身体を沈める。

 

「・・・これが、艦娘か・・・確かに、我々の出る幕ではないな、これは・・・」

 

 そして、深々とため息をついたのだった。

 

 

 

 太一は艦橋からウィングに出て、海面を見下ろしていた。

 

 いつの間にか雨は止み、それどころか雲も流れ星空が見え始めている。

 〈いかづち〉は今洋上に停止し、波津音が上がってこられるように舷梯を下ろしている最中だ。それを待って、少女は一人海の上で佇み空を見上げている。

 

 雲の間から月が姿を見せ、波津音の姿をスポットライトのように照らし出した。風に飛ばされた水滴が、キラキラとその周囲を舞っている。その姿は、海に降り立った天使・・・いや、戦いの女神か。

 

(なんて・・・綺麗なんだ)

 

 太一の視線は洋上に佇む1人の艦娘の姿に釘付けになっていた。その光景は彼の心の奥底まで深く打ち込まれ、そして太一の中に、ある思いを芽生えさせていた―――。

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 

  前略 姉ちゃんへ。

 

   前回の手紙から大分時間が空いてしまいました。変わりないで

  しょうか。

   俺の方は、人生の大転換と言える大きな出来事が起こりました。

 

   まず、小学校の時に一緒だった厚志との再会です。姉ちゃんは

  会ったことがないですが、厚志は俺の幼なじみで、恩人で、そして

  憧れの男です。厚志は小学校の頃と変わらなく元気で優しくて、

  そしてあの頃よりもずっと格好良くなっていました。そしてなんと、

  厚志は今話題の〈提督〉だったんです!

 

   これには俺もびっくりだったんだけど、もっとびっくりする出

  来事が俺を待っていました。何と、厚志が言うには俺にも提督に

  なる才能があるらしいです!

   厚志に俺も提督になった方がいいと説得されたり、実際に艦娘

  の人の戦いを見る機会があったりして、俺も悩みました。〈いか

  づち〉の班長も尊敬する人だし、同僚もみんないいやつです。

 

   でも、俺は決めました。俺にしかできないことがあって、厚志

  も俺を必要だと言ってくれている。そして、以前姉ちゃんに相談

  した、みんなに見えない物が俺には見えているって話。あれこそ、

  俺の提督の才能だったらしいです。それがわかって、俺は自分の

  悩んでいた物にちゃんと理由があったって納得しました。

 

   姉ちゃん。俺、提督を目指してみます。最初は厚志の手伝いから

  だけど、いつか提督になって艦娘を指揮して、あいつと肩を並べて

  この国を守りたい。そうする事が、俺に見えない物が見える理由、

  その力を持って産まれてきた意味のように思えるんです。

 

   姉ちゃんがいなくなるとき、俺はもう会えないのかと泣きました。

  そしたら姉ちゃんは俺の頭を撫でて、言ってくれました。

   この海はどこまでも繋がっている。姉ちゃんはずっと海の近くに

  いるから、その時俺が海の側にいれば、きっとまた会えるって。

  今でも、その言葉は俺の中にあります。

 

   俺はまだ、海にいます。これからも。そしてその次は、提督と

  して。

   姉ちゃんにまた会える日を、俺はずっと待っています。

 

                            草々

 

 

 

 

「総員、帽振れーっ!」

 

 太一の退艦を見送り、〈いかづち〉乗員が総出で帽子を振っている。艦長がいる。砲雷長もいる。班長もいるし、気の置けない仲間達もみんないる。そして全員が、笑顔で太一を見送ってくれている。

 太一はそれに深々と頭を下げた。名残惜しくないわけがない。たくさんの恩を貰った。そしてそれを返す前にこうして自分の都合で艦を降りるのだ。だが、降りる前、最初に班長に打ち明けたとき、彼はたった一つだけ確認した。

 

(そうか。それは、太一が自分で決めたことなんだな?)

 

 そうだ、と答えると、班長は笑ってこう言った。

 

(なら、いいじゃないか。頑張れよ―――)

 

 太一は頭を上げる。そして〈いかづち〉の仲間達に精一杯に叫んだ。

 

「俺―――頑張りますっ! 絶対に頑張りますっ!」

 

 そしてもう一度、先ほどまでよりもっと深く、頭を下げたのだった。

 

 

 

 

 

  追伸

 

   姉ちゃん、俺、頑張ります。まだどう頑張るとか分からないから

  言えないけど。

   だけど、きっと頑張ります。海のどこかで、応援しててください。

 

                           太一

 

 

 

 

 

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