一部キャラクターの口調、資料が少ないから難しいな……
「落ちてしまいましたか……南雲ハジメ」
魔人族領の地下に建設されたパイレーツの基地にて、試験管に浮かぶ巨大な脳髄『マザーブレイン』はカメラアイを備えた球状のインターフェイスを通して、ハジメ達の訓練の一部始終を全て監視していた。ちなみに、ハジメがこの世界に来ていることを彼女が認識したのはこれが最初である。
「あなた方が最も危険視している存在であるそうですが、思ったよりもあっけない最後でした」
そんなことを言いながら、マザーブレインの側に銀髪碧眼の女が降り立つ。白をベースとしたドレスのような甲冑を纏っており、背部からは銀色に光る翼を展開している。
「ノイント……来ていましたか」
その女の名はノイント。エヒトに仕えている存在……神の使徒の一人である。美しい容姿の彼女であるが、高い戦闘能力を保有しており、上級使徒に分類される彼女のステータスはオール12000となっている。それに加えて“分解”の固有魔法があるなど、危険な存在だ。
量産型の下級使徒も存在しているのだが、ノイントのような上級と異なり、名前ではなく個体番号で管理されている。ステータスはオール1200であり、数値は下がっているものの、“分解”の固有魔法も健在であり、強力な存在であることには変わりない。
「あなたは、南雲ハジメのことを見くびっているようですね。今となっては敵ですが、彼は優秀な戦士です。簡単に死ぬことはないでしょう。それに……」
「それに?」
マザーは少し間を置いて発言する。
「彼のパワードスーツは私が開発に関わった最高傑作です。それを装備し、使いこなせる彼ならば、帰還することなど容易いでしょう」
マザーブレインはスペースパイレーツに寝返った敵であると同時に、ハジメのことをよく知っている存在であり、ハジメの実力と最高傑作たるパワードスーツの性能を信頼していた。
「取り敢えず、彼がいない間に色々と進めたいものですが、その前に少し気になる者がいます。それは、ハジメに魔法を当てた男です」
「檜山大介……ですか。愚かな男だと記憶しています」
マザーが関心を示したのは、あの檜山だった。
「あの者をこちら側に引き込もうと思います。戦闘能力もそれなりに高いようですし、役には立つでしょう……」
ホルアドの町外れの一角にある目立たない場所にて、檜山大介は体育座りで膝に顔を埋めていた。その様子を周囲が見れば、落ち込んでいるように見えるだろう。だが、実際は味方を撃った罪人である。
「ヒ、ヒヒヒ。あ、あいつが悪いんだ。調子に乗って俺の邪魔しやがって……て、天罰だ……俺は間違ってない……ヒ、ヒヒ」
彼から漏れる言葉は、全て自己弁護の塊。自分が殺人を犯したことを正当化していた。
使用したのは火属性魔法の火球。自分の魔法の適性は風属性魔法であり、魔法が入り乱れていたこともあって疑われることはまず無い。そんなことを自身に言い聞かせる檜山。そして、彼に背後から近付いて声をかけてくる者が一人。
「あなたが檜山大介ですね?」
「ヒッ?! 誰だっ!?」
聞こえてきた声に檜山が振り向くと、そこには金髪ショートヘアの若い女性が立っていた。
「初めて人を殺した気分はいかがですか?」
「な、な……何の話だ……?」
自分のしたことがバレていることに、檜山は動揺する。
「図星のようですね。我々は証拠を握っています。教会には協力者がいますので、それを通じて告発すれば、神の使徒と言えどもただではすみません」
「ま、待ってくれ……!」
「安心してください。もしも我々に協力して頂けるのでしたら、悪いようにはしません。元の世界に帰る手段……欲しくはありませんか?」
「元の世界に?」
元の世界に帰れる手段があることに、檜山は食いつく。
「はい。我々はあなたと同じ宇宙から渡ってきました。我々の技術力であれば、人を一人帰すくらい造作もありません。どうでしょう……我々と共に来ませんか? 今でしたら、勇者を越える力もお付けします」
「天之河の奴をぶっ飛ばせる力……欲しいな。南雲もいない今、クラスの奴らや王国を支配できる。そのついでに、白崎も八重樫も、この国の姫さんも俺のものに……ヒ、ヒヒ」
檜山の頭の中には、クラスメイト達や王国を支配して君臨し、クラスの美少女や王女を侍らせている自分の姿があった。
(愚かなものです。簡単に力が手に入るとでも思っているのでしょう。力を与えられたところで、体が適合しなければ死に至るというのに……)
「なあ、一体あんたは何者なんだ?」
檜山は聞く。流石の檜山でも、元の世界に帰る手段や勇者を越える力を与えてくれる相手について気になったらしい。
「私はMB……正式名称はマザーブレイン。スペースパイレーツの最高司令官です。あなたを我々の幹部としてスカウトしに来ました」
目の前の女性の正体はマザーブレインであった。とは言っても、マザーブレインそのものではない。この体はマザーが開発した人型インターフェイスであり、本体からの遠隔操作で動くだけでなく、本体と同様にテレパシーを使い、クリーチャーを操ることができる。小さなマザーブレインと呼んでもいいだろう。また、魔人族による技術協力もあり、魔法を使うこともできる。
「分かった……俺はあんたに従う。その代わり、天之河の奴を潰せる力を寄越せ」
「交渉成立です。では、私の半径一メートル圏内に入ってください。我々の基地に案内します」
檜山はMBが言った通り、彼女に近付く。
「ワープデバイス起動。目標座標……」
その時、檜山はオルクスのトラップを起動させた時と同じような感覚を覚える。そして、SFに出てきそうな建造物の中へと転移していた。
「今のは……ま、魔法?」
「いえ、これはワープデバイス。魔法ではなく、純粋な科学技術です」
やがて、MBに案内された檜山は広い空間に出る。そこには巨大な脳髄が浮かぶ試験管があり、その脳髄の単眼が檜山を凝視していた。
「デカい脳味噌……」
「あれは私の本体です。この体は、遠隔操作されているに過ぎません。それはさておき、あなたに力を与えます。(適合すればの話ですが)」
次の瞬間、MBの掌に青白く輝く光球が現れる。
「この光球は、パイレーツの強化兵士計画の核心となっているものです。これを体内に取り込むことにより、戦闘力を著しく向上させることかできます」
「とっとと寄越せ!」
光球は掌から離れると、檜山の胸の中に入っていく。これで最強になれる。檜山はそのことを喜んだが、そう簡単に強くなれるわけではない。
「ヒヒ、これで俺は最強に……あっ!? アガァ!!! ぐぅあああっ。な、何がっ!? 体が……痛い! て、てめえ、何を!?」
光球が体内に入った直後、自身を襲った激しい痛みに檜山は酷く苦しみ、絶叫する。痛みと共に体全体が脈動し、体内で激しい変化が起こっているようだ。
「最強になりたいのでしょう? 力を得るという行為には、痛みが伴うものです……おや、気絶したようですね」
MBが話している間に、激痛に耐えかねた檜山は気絶していた。
「檜山大介……適合しましたか。後は、目を覚ますのを待つのみです」
そんなことを言いながら、MBは視線を檜山から別の方向に移す。その先には、緑色のパワードスーツが鎮座していた。
このトータスには、五百年前に滅亡したとされている種族がいた。それは、竜人族と呼ばれる種族である。
竜人族は最強の種族だった。何故なら、その名の通りにドラゴンへと変身する能力を持っていたからだ。竜はその巨体そのものが武器になるし、竜の鱗はこの世界の生物の中で最も硬く、竜のブレスは最強の威力を誇る。それが空を飛ぶのだから、もはや勝てる者はいない。ただ、高い戦闘力を持つのと引き換えに、その数は少なかった。
高い戦闘力を持ち、最強の種族と呼ばれていた彼らだったが、決して傲慢を見せることはなかった。彼らの治める国には様々な種族が共存し、かつて交流のあった鳥人族が掲げる調和の精神が形となっていた。
無力な者を庇護し、弱き者を支え、邪悪が現れれば国を問わず立ち向かう国家。それを治める竜人族の王族は高潔であり、自国の民のみならず、周辺の国からも“真の王族”と呼ばれて称えられていた。
だが、そんな日は突然終わりを迎えた。
「竜人族は魔獣である」
誰が言い始めたのかは分からないが、そんな馬鹿げた考えが人々の中に浸透していったからだ。原型を残さず、人からドラゴンに完全に変化する種族など、竜人族以外に存在しない。確かに、そんなことを言う者がいてもおかしくはないだろう。
とはいっても、今まで竜人族は数々の功績を残しているし、世界中の多くの人々が彼らの存在を認めていた。あんなものは少数派の考えに過ぎず、人々の中に浸透するはずがなかった……はずだった。
人々はまるで、何者かによって洗脳されたかのようにその考えに染まっていき、人々の目は畏敬から畏怖へ、信頼から疑惑へ、そして憧れから侮蔑へと変わっていった。こうして始まったのが、竜人族に対する大迫害であり、聖教教会が主導する竜人殲滅戦争である。
竜人族は大きくその数を減らし、当時の王と王妃は同族を逃がすために最後まで戦い、戦死している。二人の献身によって生き残った竜人族は何処かへと旅立ち、世界の表舞台から消えた。
人間族と魔人族が戦い、亜人族が隠れている大陸から遠く離れた海上に、その島は存在した。巨大な島を完全に包む程のエネルギーシールドで守られ、島の外周には堅固な防壁と二連装ビーム砲が配備されている。
島の内部は三層からなる防壁で仕切られており、その防壁の上には対空兵器が設置されている。並んでいる建物は全て和風であり、江戸時代の町並みのようにも見えた。島内には自然も残されているなど、文明と自然が調和している。
この島で生きているのは、世界的には滅亡したとされる竜人族である。彼らは部分的に受け継いでいたチョウゾテクノロジーを持って逃亡し、この島に辿り着いた。そして、チョウゾテクノロジーと竜人族の文化を融合させ、独自の文明を築くに至る。
和風な市街地の中を闊歩するのは、和服を着た竜人族とチョウゾテクノロジー由来のメカノイド達だ。メカノイドは彼らの文明を支える重要な存在であり、様々な場面で活用されている。
この島の中心部に位置し、最後の防壁で守られた最重要区画。ここは竜人文明の防衛や技術開発、統治における中核であり、王族の住まう居所もそこにある。
天守閣を備える王族の居所。その敷地内にある、白い砂利が敷き詰められた中庭に、黒色の和服を着た黒髪の美女が立っていた。長く艶やかな長い髪を後頭部で一つにまとめて縛っていて、腰には三鈷柄剣によく似た剣を差している。
彼女の名はティオ・クラルス。竜人族の王族、クラルス族の末裔だ。彼女の両親は、同族を逃がすために殿となり戦死した王と王妃である。
中庭に立っている彼女の周囲には多数の巻藁が配置されており、彼女は抜剣すると巻藁を次々と斬っていく。その太刀筋は美しく、雫の抜刀術といい勝負になるだろう。
「相変わらず素晴らしい太刀筋だ……ティオ。流石は私の孫だな」
全ての巻藁が地面に落ちた所で、突然現れた赤髪の和装の美丈夫がティオの剣術を称賛する。彼の名はアドゥル・クラルス。彼女の祖父であり、竜人族の族長である。
「じい様!? 来るのであれば、事前に連絡してくだされ。驚いたではないか……」
「すまないな。可愛い孫が大陸へ調査に出る前に、その姿を目に焼きつけたいと思ったのだ」
「じい様……それなら写真があるではないか」
祖父にツッコミを入れるティオ。彼女が大陸に行く目的は二つ。一つは異世界から召喚された勇者の調査、もう一つは魔人族の動きに関する調査である。
「それはさておき……わざわざ来るということは、何か重要なことがあるのではないか?」
「そうだ。調査のついでに頼みたいことがあってな。この書簡を魔人族の隠れ里に届けて欲しい」
アドゥルはそう言いながら、懐から一通の書簡を取り出し、ティオに手渡す。
「魔人族の隠れ里……ふむ、カマル様の所じゃな。しかし、隠れ里と連絡をとるということは……鳥人族の後継者に関する事柄か?」
魔人族の隠れ里とは、魔王による国の支配に反対する者達が住む土地のことだ。竜人族と彼らは、共にチョウゾテクノロジーを所有する者として、不定期であるが交流を持っていた。
「あぁ。つい昨日、我々の有する優秀な占術師達が、鳥人族の後継者の出現を予言してな。情報を共有することにしたのだ。それと、もしも彼の者が現れた際には、その捜索と見極めを頼みたい」
「なるほど……その役目、妾に任せるのじゃ。新たな解放者を組織するためにも、反魔王派との連携は重要じゃからな。それに、彼の者の協力も必要不可欠じゃ」
会話する二人の周囲を複数のメカノイドが蠢き、地面に落ちた巻藁を片付けていく。竜人族からすれば見慣れた光景なのか、二人は特に気にすることはない。
「ティオ、気を付けて行ってくるのだ。神の使徒による妨害が考えられるからな」
「大丈夫じゃ。妾には父上と母上が遺してくれた、この“竜帝”がある。決して、神の使徒を恐れたりはしないのじゃ」
先ほどの剣を再び抜剣するティオ。この剣は“竜帝”という名であり、ティオの両親が遺してくれたアーティファクトの剣だ。チョウゾテクノロジーも組み込まれており、神の使徒の分解攻撃を受け止めることができる。
「それに、妾には“竜穿”の能力もある。神の使徒とも十分に戦えるはずじゃ」
翌日、竜帝や様々なアーティファクトを携えたティオはアドゥルと従者達に見送られ、島を旅立った。
緑色のパワードスーツですが、見た目はメトロイドシリーズのウィーヴェルというキャラクターから持ってきてます。
ティオの剣の見た目はファイアーエムブレムのカムイの専用武器、夜刀神です。