鳥人族の後継者は世界最強   作:ウエストモール

19 / 79
今回はベヒモス戦です!


クラスメイトside3

 ハジメとユエが出会い、サソリモドキを撃破したその日、光輝達迷宮攻略組は再びオルクス大迷宮に足を踏み入れていた。メンバーは勿論、勇者パーティと永山パーティ、旧小悪党組であり、メルド団長ら数人の騎士団員も同行していた。

 

 現時点で攻略を始めてから六日目。既に六十層まで到達しており、確認されている最高到達階数まで後五層となっていたのだが、光輝達は立ち往生していた。

 

 別に行き止まりで先に行けないわけではない。彼らは何時かの悪夢を思い出し、足を止めてしまったのだ。何故なら、目の前にあの時と同じような断崖絶壁が広がっていたからだ。

 

 次の階層に行くためには、断崖絶壁の上にかかる吊り橋を渡らなければならないのだが、やはり何時かの悪夢を思い出してしまう。その断崖絶壁の下に広がる闇を見て、各々が様々な思いを抱いている。

 

(あの時、俺が光輝に同調しなければ、南雲は……)

 

 例えば、坂上龍太郎は自分が光輝に賛同してしまったせいで撤退が遅れ、ハジメを死地に追いやってしまったことを後悔していた。

 

(今度は同じ間違いはしねぇ……絶対に……)

 

 龍太郎はハジメに対して好印象を抱くクラスメイトの一人である。本来の世界線と異なり、怠惰ではないハジメが、熱血な彼に好印象を持たれるのは当然だった。自身の行動がハジメを喪う一因となったことが、彼の目を覚ましたのだ。

 

 もう一人注目すべきなのは、やはり香織だろう。香織は奈落へと続いているかのような断崖絶壁を強い眼差しで見つめたまま動かない。

 

「香織……」

 

 雫が心配そうに声を掛けるが、香織は「大丈夫だよ」と微笑みながら雫に言葉を返す。

 

「香織、無理はしないでね。辛いときはいつでも言うのよ」

「えへへ、ありがと、雫ちゃん」

 

(香織は強いわね……)

 

 現時点でハジメの生存は絶望的。だが、香織は逃避したりはせず、ハジメの生死を確かめて納得するために進む香織に、雫は親友として誇らしい気持ちになった。

 

 光輝も香織に何か言いたげな様子だったが、あの時の一件が後ろめたいのか声を掛けることはない。また、光輝が香織に話しかけることができるのは、戦闘の際に指揮する時のみだった。

 

(香織、どうして現実を見ようとしない? 何日も経過した今、南雲が生きているわけがないというのに……)

 

 光輝の脳内ではハジメが死んだことになっている。それ故、香織の持つ熱意がハジメの生存を信じてのものだとは思っておらず、現実逃避をしているのだと決めつけていた。

 

 また、香織が熱意を持って訓練に取り組んだ結果、ステータスや技能に変化が見られた。

 


白崎香織 17歳 女 レベル:46

天職:聖女

筋力:260

体力:160

耐性:160

敏捷:180

魔力:1060

魔耐:1060

技能:弓術[+狙撃][+早撃][+命中率上昇]・先読・回復魔法[+効果上昇][+回復速度上昇][+イメージ補強力上昇][+浸透看破][+遠隔回復効果上昇]・光属性適性[+発動速度上昇][+効果上昇][+持続時間上昇]・高速魔力回復・言語理解


 

 特筆すべきなのは、回復魔法と光属性魔法に複数の派生技能が出現したことだろう。魔法の腕は確実に上達しており、魔力の値も一行の中で最高の四桁に突入するなど、安定した支援が可能となった。また、聖弓から放つ光の矢のバリエーションも更に増加しており、戦闘面も強化されている。

 

 香織だけではなく、皆それぞれの思いを胸に訓練に励んできた。その甲斐もあり、一行は特に問題なく六十五層に辿り着いた。ついに、歴代最高到達階層に到達したのだ。

 

「気を引き締めろ! ここのマップは完全ではない。何が起こるが分からんぞ!」

 

 メルド団長の警告を受け、光輝達は気を引き締めながら未知の領域に踏み込む。しばらく進むと大きな広間に出るのだが、侵入と同時に巨大な魔方陣が浮かび上がる。その魔方陣は赤黒い光を放ち、直径は約十メートル程であり、ベヒモスの魔方陣と同じものだった。さらに、一行の後方には小さな無数の魔方陣が浮かび上がっていた。

 

「ま、まさか……ベヒモスなのか!? それに、トラウムソルジャーまで!?」

「マジかよ、あいつは死んだんじゃなかったのかよ!」

 

 光輝と龍太郎が驚愕の表情で叫ぶ。消えたはずのベヒモスが再び現れようとしていること、あの時と同じように挟み撃ちにされそうになっているという事実に、一行の緊張度が一気に跳ね上がる。

 

「迷宮の魔獣の発生原因は解明されていない。倒した魔獣と何度も遭遇することもある。油断するなよ、退路の確保を忘れるな!」

 

 メルド団長の指示を受け、部下達が小さい魔方陣の方へと向かおうとする。だが、光輝はそれに不満そうだった。

 

「メルドさん。俺達はあの時の俺達じゃありません! 何倍も強くなった! 必ず倒してみせます!」

「待てよ光輝。今回は前より人が少ないんだ。流石に退路くらいは確保しておこうぜ」

 

 ベヒモスを倒すことに固執する光輝。普通なら龍太郎も賛同しそうなものだが、以前よりも冷静になったのか光輝を諌める。

 

「りゅ、龍太郎? ベヒモスを倒したくはないのか?」

「光輝のために言ってるんだ。お前を死なせるわけにはいかないからな……」

「龍太郎……大丈夫だ、俺は勇者である限り死なない」

 

 あの時の二の舞になりそうな光輝。勇者どころか愚者である。メルドも説得に加わろうとしたが、とある一声が状況を変えた。

 

「あの、メルド団長。私なら後方の確保と魔方陣の破壊ができると思います。そうすれば、ベヒモスに集中できるはずです」

 

 それは香織だった。押し問答が続いて同じことになるくらいなら、退路の確保を素早くやった方がいいと考えたのだ。

 

「カオリ、できるんだな?」

「はい。私ならできます」

 

 香織の目は本気だった。光輝よりも覚悟が決まっているようであり、メルド団長はすぐに許可した。

 

「トラウムソルジャーの対処はカオリに任せる! 光輝達はベヒモスとの交戦を許可する!」

「何を言ってるんですか、メルドさん?! 香織が一人で出来るはずがありません!」

「少なくとも光輝君よりはできるよ。光輝君はベヒモスを倒したいんでしょ? だったら私に構ってる暇はないよね」

 

 案の定、口を挟む光輝。だが、香織からの淡々とした冷たい反論に押され、香織以外の仲間に指示を飛ばす。

 

「ぐっ……皆、ベヒモスに備えて陣形を整えるんだ! 今度こそ奴を倒すぞ!」

 

 やがて、輝いた魔方陣からベヒモスとトラウムソルジャーが出現し、あの時と同じく光輝達を挟み込むように配置される。ベヒモスが咆哮を上げるが、怯む者は誰一人いなかった。

 

 一方の香織はベヒモスに背を向けてトラウムソルジャーと対峙すると、聖弓を構えてソルジャーの方へ指向し、光の矢を番える。

 

(ハジメ君……私も戦うよ)

 

 香織は光の矢を最大限引いた状態で保持し、エネルギーを数十秒かけてチャージしていく。光属性のエネルギーが矢に集束していき、光の矢は長く太く成長する。そして、香織はそれをソルジャー達の頭上に向けて放った。

 

 大型化した光の矢は放物線を描いて飛んでいき、頂点に達した所で爆発すると、大量の光矢を降り注がせる。強力な範囲攻撃でトラウムソルジャー達は一方的に掃討され、無数の魔方陣も全てが破壊された。

 

「カオリン凄い……一瞬でやっつけちゃった」

「鈴、それだけじゃないよ。魔方陣までも破壊しているみたい」

 

 香織による殲滅に反応したのは後衛に属する者達だ。ベヒモスと直接対峙する訳ではないため、香織の方を見る余裕があったからだ。特に香織と親しい鈴と恵里がその筆頭である。

 

 香織の攻撃とほぼ同じタイミングで、ベヒモスとの交戦が始まっていた。攻撃の先手は、もちろん光輝だった。

 

「万翔羽ばたき、天へと至れ “天翔閃”!」

 

 光の斬撃がベヒモスに直撃し、その強靭な肉体に傷を刻む。

 

「グゥルガァアア!?」

 

 ベヒモスは悲鳴を上げて地面を削りながら後退する。その胸には一筋の線が斜めに入っており、そこから赤黒い血を流していた。

 

「いける! 俺達は確実に強くなってる! 永山達は左側から、近藤は背後を、メルド団長達は右側から! 後衛は魔法準備! 上級を頼む!」

 

 光輝が素早く指示を飛ばす。メルド団長から受けた指揮官としての訓練の成果が出ている。色々と愚かな姿をクラスメイト達に見られてしまった光輝は、その分を取り返すために訓練に打ち込んでいたのだ。

 

「迷いのない良い指示だ。皆、聞いたな? 総員、光輝の指揮で戦闘を行え!」

 

 前衛の生徒やメルド団長ら騎士団員達が動き出し、ベヒモスを包囲する。そして、ベヒモスを後衛に行かせないために必死の防衛線を張った。

 

「グルゥアアア!!」

 

 目障りな人間達を排除するため、ベヒモスは地面を砕きながら突進する。以前であれば結界を張って防ぐだけの人間だったが、今回ばかりは違った。

 

「「猛り地を割る力をここに! “剛力”!」」

 

 二人の人間……クラスの二大巨漢である坂上龍太郎と永山重吾がスクラムを組むようにベヒモスに組み付いたのだ。膂力を強化する魔法、“剛力”を使用している。元々筋力が高いこともあり、地面を滑りながらも受け止めることができていた。

 

「ガァアア!!」

「らぁあああ!!」

「おぉおおお!!」

 

 ベヒモス、龍太郎、重吾が三者三様に雄叫びを上げる。さながら怪獣映画のようだ。そして、その隙を狙って他のメンバーが動き始める。

 

「全てを切り裂く至上の一閃 “絶断”!」

 

 雫の抜刀術がベヒモスの角に叩き込まれる。魔法によって切れ味が強化され、瑠璃色の魔力光を纏った剣は半ばまで食い込んでいたが、切断には及ばない。

 

「くっ、堅い!」

「俺に任せろ! 粉砕せよ、破砕せよ、爆砕せよ “豪撃”!」

 

 メルド団長は剣速を上げる魔法を使うと、雫の剣の上から自らの騎士剣を叩き付けて押し込む。すると、ベヒモスの角の片方が切断された。

 

「ガァアアアア!?」

 

 ベヒモスは角を切断された痛みで暴れ、重吾と龍太郎、雫、メルド団長を吹き飛ばしてしまう。

 

「優しき光は全てを抱く “光輪”!」

 

 だが、吹き飛ばされた四人を受け止めたのは硬い地面ではなく、光の輪が無数に合わさって出来た網であり、四人を優しくキャッチした。

 

「雫ちゃん、間に合ってよかった」

「ありがとう、香織!」

 

 それを発動した者の正体は香織だった。彼女は先ほどの“光矢・星嵐”の発動で少なくない魔力を消費したのだが、魔力回復薬を飲むとすぐにベヒモス戦に加わっていた。

 

「天恵よ 遍く子らに癒しを “回天”」

 

 さらに、香織はアーティファクトの籠手に白菫の魔力光を纏わせながら中級回復魔法を発動すると、遠隔で四人を同時に癒す。以前、香織が清水に使った“天恵”の上位版である。

 

 香織はまだ止まらない。聖弓を構えると先程のように光の矢を最大限引いてエネルギーを集束させ、大型の光の矢を生み出す。そして、今度は打ち上げるのではなくベヒモスに直接叩き込む。

 

 彗星のように尾を引く大型の光の矢が飛翔し、ベヒモスの胸部にある傷に突き刺さる。光の矢は大爆発を起こして大きなダメージをベヒモスに与えた。

 

「ガァアアア!!」

 

 香織の攻撃で傷を抉られ、大量に出血するベヒモス。憎しみを込めた目で光輝達を睨み付けると、折れた角にもお構いなく赤熱化させていく。

 

「皆、あれが来るぞ! 気をつけろ!」

 

 光輝が警告する。ベヒモスが跳躍したのは、それと同時だ。皆、その威力を知っているため身構えるのだが、予想外のことが起こった。なんと、ベヒモスは光輝達前衛組の頭上を飛び越えて後衛組に突っ込んできたのだ。

 

 予想外の事態に慌てる前衛組。だが、詠唱を中断した後衛組の一人が前に出て対処する。結界師の谷口鈴である。

 

「ここは聖域なりて 神敵を通さず “聖絶”!!」

 

 現れた光のドームに激突するベヒモス。凄まじい音と共に衝撃波が周囲に撒き散らされ、石畳を蜘蛛の巣状に粉砕するが、障壁はベヒモスを確実に受け止めていた。

 

 だが、不完全な詠唱で無理矢理発動した“聖絶”では本来の力を発揮することはできず、障壁にヒビが入る。結界師の鈴だからこそ発動できたようなものであり、彼女は歯を食いしばりながら魔力を注ぎ込んで必死に障壁を維持しようとする。

 

「ぅううう……! 負けるもんかぁ!」

 

 だが、限界が近い。ベヒモスは突進を続けており、多くのヒビが入った障壁は十秒程しか持たないだろう。このままでは破られてしまう。鈴がそう思った瞬間だった。

 

「光の鎖よ、悪しき者を縛りて罰を与えよ “縛煌鎖”」

 

 ベヒモスの周囲から無数の光の鎖が伸びていき、絡み付くことでベヒモスを拘束する。ベヒモスは暴れるが、強固に絡み付いた光の鎖は外れることはない。締め付けは更に強くなり、ベヒモスを完全に押さえ込んだ。同時に、障壁も消失している。

 

「鈴ちゃん、遅れてごめん」

「ありがとう、カオリン愛してる!」

 

 光属性捕縛魔法“縛煌鎖”は、無数の光の鎖で対象を捕縛する魔法である。発動には詠唱が必要ない簡易的な魔法なのだが、香織は詠唱することで魔法の効果を上げており、光属性への高い適性もあって一人だけでベヒモスを押さえ込むレベルに達していた。

 

(私だって、ハジメ君みたいに!)

 

「今のうちに後衛は上級魔法を! 前衛は不測の事態に備えろ!」

 

 光輝の指示を受けて後衛組が上級魔法の詠唱を始め、前衛組がそれを守るように布陣する。そして、ついに詠唱が完成する。

 

「「「「「「“炎天”」」」」」

 

 恵里を含めた術者五人によって火属性上級魔法“炎天”が発動する。超高温の炎が球体となり、さながら太陽のようだ。それは拘束された状態のベヒモスの頭上へと移動すると、直径八メートルまで巨大化して落下した。

 

「グゥルァガァアアアア!!!!」

 

 炎に包まれたベヒモスの絶叫が響き渡る。“炎天”はベヒモスの堅固な肉体を融かし、その叫びはそれに比例するように細くなっていく。やがて、その叫びは完全に消えるのだが、その代わりに残されたのは、ベヒモスだと思われる黒焦げの残骸だけだった。

 

「か、勝ったのか?」

「勝ったんだろ……」

「勝っちまったよ……」

「マジか?」

「マジで?」

 

 その光景を前に皆が唖然とし、ポツリポツリと勝利を確認するように呟く。光輝も唖然としていたが、最初に我を取り戻すと聖剣を頭上へと掲げた。

 

「俺達の勝利だ!」

 

 聖剣を掲げた光輝による勝利宣言に、皆が歓声を上げる。クラスメイト達は互いに喜びを分かち合い、それを見る団長達は感慨深そうな表情になっていた。

 

 一方、香織だけはベヒモスの残骸を静かに見つめていたのだが、多くの魔力を消費したのかフラッと倒れそうになる。しかし、香織は誰かに支えられた。

 

「香織、大丈夫? 魔力回復薬よ」

「雫ちゃん……ありがとう」

 

 倒れそうな香織を支えたのは雫だった。最初こそ喜びを分かち合う方にいた彼女だが、周囲を見る目がある彼女は香織が倒れそうになっているのに気付いたのだ。

 

「ふぅ……生き返るよ。ねえ、雫ちゃん……ちょっとお願いがあるんだけど、いいかな?」

「どうしたの?」

「その……私を背負ってほしいの。足が疲れちゃった……」

「フフッ……いいわよ」

 

 そして、香織は雫におんぶされる。

 

「私達、もうここまで来たんだね」

「そうね。私達は強くなってるわ」

「もっと先に行けば……ハジメ君も……」

 

 背中から聞こえる香織の声が弱くなる。先に進むということはハジメの生死が分かるということを示している。答えが出てしまう恐怖に弱気になってしまったのだろう。

 

「香織……」

「大丈夫。どんな結果でも、私はそれを受け入れるから」

 

 心配そうな雫に対して、現実を受け入れる覚悟を表明する香織。全てが分かるその時まで、彼女の戦いは終わらない。

 

(ハジメ君……私はまだ、あなたの隣に立てる気がしない。私、もっと努力するよ……)

 

 この日、一行はベヒモスという悪夢に打ち勝った。その後、六十五階層を完全に攻略した彼らは、人々からの称賛の声に出迎えられることになる。




原作と異なり、香織の活躍を増やしました
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。