「南雲ハジメはバリアスーツと共に」の別バージョンだと思ってください
南雲ハジメは六歳のとき、宇宙人の犯罪勢力であるスペースパイレーツによって地球から連れ去られた。突然、両親と引き離されたハジメは、ただ恐怖に怯えるだけだった。
だが、そんなハジメに手を差し伸べる者達がいた。彼らは鳥人族、またはチョウゾと呼ばれる鳥類によく似たヒューマノイド型の宇宙人である。
鳥人族によって保護されたハジメは、彼らの居住する惑星ゼーベスに連れて行かれ、育てられることになった。その際、過酷なゼーベスの環境に適応するため鳥人族の遺伝子が移植されており、身体能力が大幅に上昇している。
鳥人族は古来より高い知能と戦闘力、高度なテクノロジーを誇っており、その力によって銀河系の各地に勢力を拡大して繁栄を極め、銀河社会の発展に貢献していた。だが、それは既に過去の話である。長命であるが故の高齢化、加えて出生率の低下により、鳥人文明は衰退の道を辿っていた。
衰退しつつある鳥人文明の未来を託し、「銀河の守り手」とするため、鳥人族はハジメに対して高度な教育と戦闘訓練を施し、鳥人族の先進技術を結集したパワードスーツを与えた。ハジメは、その力を使ってスペースパイレーツや凶暴な原生生物と幾度となく戦った。
それから九年が経過した。完全に鳥人族の一員となったハジメは、地球の家族に関する記憶が薄れつつあった。そんな中、鳥人文明を揺るがす大事件が発生する。
それは、機械生命体マザーブレインの反乱である。鳥人族によって開発されたマザーブレインは高度な演算能力を持ち、鳥人文明の中枢として機能していた。彼女はハジメと同じく、鳥人文明の未来を託される存在であった。だが、人間的な感情が芽生え始めたマザーは、自分以外にも未来を託されたハジメに対して嫉妬し、鳥人族に対して不満を抱いていた。
マザーブレインは判断した。衰退しつつある鳥人族よりも、勢力を拡大しつつあるスペースパイレーツこそ銀河に繁栄を導く存在であると。そして、スペースパイレーツが惑星ゼーベスを襲撃した際、マザーは鳥人族を見捨ててパイレーツに寝返った。
ゼーベスはたちまち陥落し、マザーに統制されたパイレーツによって多くの鳥人族が殺害された。戦士達と共にハジメも立ち向かったが、多勢に無勢である。結局、生き残った鳥人族を脱出させる時間稼ぎしかできなかった。
ハジメはこの事件で多くのものを失った。家族であるチョウゾ達を、第二の故郷であるゼーベスを。さらに、ハジメにとって父親同然の存在であり、師匠であるレイヴンクローという戦士を失っている。
彼を殺したのは、スペースパイレーツの最高指揮官であるリドリーだ。ドラゴンや翼竜を思わせる巨大な爬虫類型エイリアンであり、性格は極めて残忍で好戦的。パイレーツ戦闘部隊を率いて銀河の各地で虐殺・略奪を繰り広げる悪魔のような存在だ。
事件の際、ハジメはリドリーの圧倒的な戦闘能力に追い詰められ、命を奪われる寸前だった。だが、師匠であるレイヴンに助けられた。そして、レイヴンはハジメを逃がすために奮闘したが、ハジメの目の前で無惨にも殺害された。
彼の犠牲により、ハジメは生き残ることができた。それと同時に、ハジメは後悔した。自らの弱さが彼を殺してしまったのだと。そして、とあることを誓った。
リドリーとマザーブレイン、その指揮下にあるスペースパイレーツを倒し、惑星ゼーベスを必ず奪還するということを。それこそが、レイヴンや亡くなった多くの鳥人族への弔いになるのだと信じて…
その誓いを胸に、ハジメはゼーベスを脱出する。その後、ハジメは鳥人族とは別行動を取り、バウンティハンターとしてスペースパイレーツに対する孤独な抵抗を始めた。常に敵の方が多い戦いであったが、ハジメは恐れずに立ち向かった。
だが、そんな生活を始めて一年が経った頃、予期せぬ事態が起こる。なんと、スターシップで航行していた際、目の前に突然現れたワームホールに吸い込まれてしまったのだ。そして、目が覚めた時には何処かの惑星に不時着しており、船は大破していた。
その惑星の正体を、ハジメは知っていた。
それは、“地球”である。もう二度と戻ることは無いと思っていた故郷。何の因果か、ハジメは地球に流れ着いてしまったらしい。
この時のハジメは知らなかった…地球に流れ着いたことで、とある異世界を舞台に戦うことになろうとは。
暗闇の中、聞き慣れた男の声が聞こえてくる。まるで、何かを訴えかけてくるかのように。その声は少しずつはっきりとしてきた。
「お前は鳥人族の未来に必要な存在だ…死なせるわけにはいかない…」
「行くべき者が行き、残るべき者が残るだけだ。異論は無いな?…」
「後は託したぞ… ハジメ!!」
それは、ハジメに対する声だった。その正体こそ、ハジメの師匠であり父親同然の存在であるレイヴンクローだ。
ふと、暗闇が晴れる。目の前に現れたのは、花畑が広がる光景であり、その奥には死んだはずのレイヴンクローがいた。
「親父!」
その姿を見た瞬間、ハジメは走り出していた。だが、彼に近づくと景色は一変する。花畑は火の海となり、レイヴンはパワードスーツの姿となる。そして、ハジメの視界はバイザー越しのものになった。
変化はこれだけに留まらない。レイヴンの背後に、紫色の巨体… スペースパイレーツ最高指揮官リドリーの姿が現れたのだ。その口は大きく開かれ、口内に蓄えられたエネルギーが放たれるのも秒読みの段階だった。
このままでは、レイヴンはリドリーの熱線によって消し飛ばされてしまう。ハジメは叫んだ。
「やめろぉぉぉぉぉ!!」
その叫びは届かない。レイヴンは消し飛ばされ、その衝撃波とエネルギーでハジメも吹き飛ばされた。
「はっ!? 夢か…」
ハジメは目を覚ました。今いる場所は薄暗いスターシップの中であり、操縦席に腰掛けた状態だった。どうやら、座ったまま寝てしまったらしい。
「親父は死んだ… 背中を追ってはいけない」
ハジメは、レイヴンが死んだことを受け入れたつもりだった。だが、夢を見る限り、心の何処かでは彼の死を完全には受け入れられていなかったようだ。同時に、リドリーに対する憎悪が特に強いことも分かる。
『ノーマルスーツ起動中…』
ハジメの身体が光に包まれ、チョウゾテクノロジーが詰め込まれた基本型のパワードスーツが装着される。
地球に流れ着いてから、すでに一日が経過している。ハジメは座標を見て現在地が地球であることを知り、パワードスーツの確認や大破したスターシップの隠蔽を行っており、それだけで一日が過ぎてしまったのだ。
スターシップの損傷は酷いものだった。自動修復装置を使ったとしても修復と調整に2〜3年を要するというのが、ハジメの見立てであった。三年間、ゼーベスに戻るどころか宇宙に出ることすら不可能だという事態。ハジメが選択したのは、地球の両親の所に身を寄せるということだった。
とにかく、動かなければならない。ハジメはスターシップ上部のハッチから外に出ると、高く跳躍して前回転しながら地面に降り立つ。
「まずは…情報収集だ」
最初にハジメが探すことにしたのは、インターネットにアクセスすることが可能なポイント。そこからスキャンバイザーによるハッキングを仕掛け、両親の情報を集めようとしていた。
スターシップが不時着した場所は山の中。急な斜面もあるため、移動は楽ではない。だが、それは常人に限った話だ。ハジメの身体能力は常人のそれを超えているし、今はパワードスーツを着ているため、山中を素早く動き回ることができている。
やがて、ハジメは山の麓で基地局を発見した。周辺の監視カメラをスキャンバイザーで無効化し、基地局のアンテナに接近して再びスキャンバイザーを使用する。
「これでつながった…」
ハジメは再びスターシップに戻ると、スーツを経由する形で、シップに搭載されている鳥人族製の高性能コンピューターを地球のインターネットに接続し、情報をコンソールの画面に映し出す。
「南雲菫、少女漫画家。南雲愁、ゲーム会社社長。どちらも生存確認。住所は…変わらないな」
コンソールの画面にハジメの両親の名前、写真、プロフィール、住所などの詳細な情報が表示されていた。普通なら知り得ないような情報もあるが、それはハッキングによるもの。
「父さん…母さん…元気そうでなによりだ」
ハジメはコンソールのキーボードを叩き、自分自身の情報も調べる。すると、ハジメに関する情報が出てきた。
「警察は捜査を打ち切り、南雲夫婦は仕事を続けながらも情報を収集中……そうか、十年も捜し続けていてくれたのか」
早急に会いに行き、自身に何が起こったのか説明する必要があるだろう。そう判断したハジメは、懐かしき我が家へと向かうことにした。
ハジメの両親、南雲菫と南雲愁は失踪したハジメのことを十年も捜し続けていた。それも、各々の仕事もしっかりこなした上で。
二人が仕事を疎かにしない理由は、どこかにいるであろうハジメに、作品を発表し続けることで自分達が元気に生きていることを知らせるためだ。
ある日の夜中、南雲家のインターホンが鳴った。夜中に人が訪ねてくるのだから、よほど重要な用事なのだろうと思い、二人は玄関に出る。そこには、一人の青年が立っていた。
「こんな夜中にすいません。私は南雲ハジメと申します。信用していただけますか?」
二人は、南雲ハジメと名乗る青年のことをじっくり見た後、目を見合わせる。
「菫、彼は…」
「えぇ、彼にはハジメの面影があるわ」
「あぁ、俺達には分かる。十年間もずっと捜してきた俺達の息子、ハジメだ!」
南雲夫妻は、目の前にいる青年がハジメであることにすぐに気付いた。
「ただいま。父さん、母さん…」
これが、南雲夫妻と南雲ハジメの実に十年ぶりの再会であった。
両親と再会した後、ハジメは過去に起きた出来事について全て話した。宇宙海賊に連れ去られたこと、鳥人族という種族に保護されたこと、彼らによって育てられたこと、ゼーベスにおける惨劇のことを…
まるでSF映画のような話であり、普通なら精神病の類いを疑われるような話であったが、パワードスーツを見せたこともあって信じてくれた。
「息子をここまで立派に育ててくれたんだ。レイヴンさんという人には感謝しないといけないな」
「ええ。でも、お礼を言えないのは残念ね…」
当然、育ての親で師匠であるレイヴンが死んだことも話しており、両親は彼に感謝すると同時に、直接お礼を言えないことを残念に思っていた。
「それで、ハジメは宇宙船が直るまでここに居るんだよな?」
「まあ、そんな感じだな。船の修理が終わったら、すぐにでも戻らないといけない。そして、ゼーベスを連中の手から奪還する」
ハジメは、戦いから逃げるつもりは無かった。十字架を背負っている以上、現実から目を逸らすわけにはいかないのだから。それに、スペースパイレーツが地球に手を出す可能性だってある。
「もしも、戦いが終わったら… また帰ってきてくれるか?」
「勿論。俺が生きていたら、顔くらいは見せに帰ってくる」
ゼーベスに再び向かい、生きて帰ってこられる保証はない。仮に戦いに勝ったとしても、相討ちで死ぬ可能性もあるのだから。
「俺達は信じてる。ハジメが生きて帰ってきてくれると…」
「そうね…」
三人は、夜が明けるまで話し続けた。
バリアスーツは標準装備から外すことにしました。