お待たせしました、18話です
「後は、この扉だけか……」
「ん……」
死闘の末にヒュドラを倒し、バリアスーツを入手したハジメ達。二人は休憩した後、魔法陣の奥にある巨大な扉の前に立っていた。そして、二人が扉に近づくと、ギギッという音を立てて扉が独りでに開く。
「開いた……ユエ、どうやら入っていいらしい」
「ん……でも、警戒はした方がいい」
「そうだな。俺が先行して安全を確認する、ユエはカバーしてくれ」
「ん……任せて」
すでにユエは血を吸っているので完全に回復している。そのため、ハジメをカバーするのに支障はない。
「3……2……1……突入」
ハジメは扉の向こう側に飛び込み、縦に一回転しつつ着地すると、アームキャノンを左右に向けて安全を確認する。
(周囲に脅威はなし。クリア)
「ユエ、来ても大丈夫だ」
安全が確認されたため、ハジメはユエを呼ぶ。二人は並び立つと内部の景色を眺めるのだが、その光景は地下の迷宮であると信じられないようなものであった。
まず、扉の向こう側の空間はちょっとした球場くらいの大きさとなっており、天井には太陽のように輝く球体が浮かんでいる。また、奥の壁は一面が滝になっていて、滝からの水が小川となって奥の洞窟に向かっていた。小川では魚も泳いでいる。
川から離れた所には畑や果樹園、家畜小屋が見え、家畜の気配はないが野菜や果実が育っている。そして、一部の岩壁がそのまま加工された大きな石造りの建物があった。
そんな光景を眺めていると、遠くから接近してくる小さな物体があった。その物体はフヨフヨと浮遊しており、球体だ。そして、その中央にはカメラアイのようなものが埋まっている。
「あれは……まるでマザーブレインの……」
「マザーブレインって、鳥人族を裏切ったっていう……」
その物体はマザーブレインのインターフェイスによく似ていたため、ハジメは思わず警戒する。アームキャノンを構えており、ピリピリとした空気が漂う。やがて、その球体はハジメ達の目の前に来て言葉を発する。
「お待ちしておりました、後継者様。私は迷宮制御用有機生体マザーコンピュータのセントラルユニット。鳥人族からはイヴという個体名を与えられています」
目の前の球体は女性の声でイヴと名乗った。あの音声にあったセントラルユニットの正体が彼女らしい。有機生体コンピュータとのことだが、マザーブレインと同系統の技術なのだろうか?
「イヴ……といったな。本体は別にあるのか?」
「はい。この機体はあくまでも警備用ユニットであり、別に本体があります。また、全ての迷宮にも分身が存在します」
イヴの説明が続く。彼女によるとセントラルユニットは精神感応能力を有しており、大陸の各地で広範囲に散らばる迷宮に配置された分身との間に物理的な距離を無視したネットワークを確立している。
「やはり、マザーブレインと同系統か……」
「マザーブレイン?」
「あぁ、マザーブレインというのは……」
今度はハジメがマザーブレインについて説明する。話したのは誕生の経緯とマザーの裏切りについてだ。当然、鳥人族の衰退についても話している。
「なるほど。鳥人族はそのような状況になっているのですね。しかし、マザーブレインと私には共通点が多い。もしかすると、私はマザーブレインのプロトタイプである可能性があります」
イヴは鳥人族の衰退やゼーベスの壊滅について、悲しむようなことはなかった。事実を認識しただけであり、後継機といえるマザーブレインと比べて感情が薄いようだ。
「後継者様、そしてその同行者様。所定のプロトコルに基づき、あなた方を迷宮の攻略者として案内いたします」
「分かった。それと、俺のことは後継者ではなくハジメと呼んでくれないか?」
「ん……私のことはユエと呼んでほしい」
「了解。両名の個体名を記録しました。ハジメ様、ユエ様、私についてきてください」
ハジメとユエはフヨフヨと飛ぶ警備ユニットについていく。やがて、最初に見た石造りの大きな建物の前に到達した。イヴによって扉のロックが解除され、中に招き入れられる。
建物は三階建てだった。一階は生活スペースとなっており、リビングや台所、トイレ、暖炉、そして露天風呂が存在する。二階は書斎や工房となっており、何かしらの作業をするスペースのようだ。工房には例の場所と同じ鳥人族のオブジェがあったのだが、現時点ではノータッチである。そして、三階は階層がまるごと一部屋となっていた。
この三階なのだが、部屋の中央の床に魔方陣が刻まれていた。それも直径七、八メートルのものであり、今まで見たこともないほど精緻で繊細だった。そして、イヴは部屋の中央付近に移動する。
「では、これを見ていただきます。再生開始」
すると、魔方陣の中央に立体映像が映し出される。そこに映ったのは、黒衣を纏った眼鏡の青年だった。
『この映像が流れたということは、鳥人族の後継者が迷宮を突破したということだろう。強化された試練を乗り越え、よくたどり着いた。私はオスカー・オルクス、鳥人族と共にこの迷宮を創った者だ。反逆者と言えばわかるかな?』
青年はオスカー・オルクスと名乗った。おそらく、あの骸骨は彼のものなのだろう。そして、彼は鳥人族と共に迷宮を創設したらしい。
『予言にあった鳥人族の後継者に、世界の真実を知る者としてメッセージを残させてもらうことにした。どうか聞いて欲しい。我々は反逆者であって反逆者ではないということを……我々と鳥人族がどのように関わり、何をしようとしていたのかを……』
こうして始まったオスカーの話。それは、ハジメが収集した情報とは大きく異なっており、あの碑文の通りであった。
神代の少し後の時代、多くの種族が自らの信じる神の神託を受け、神敵を滅ぼすという大義名分の元に戦争を続けていた。だが、何百年と続いた争いに終止符を打とうとする“解放者”と呼ばれる集団が現れた。
そんな中、解放者達は異世界からの来訪者である鳥人族と接触する。解放者達は鳥人族と協力し、長い戦争で停滞していたトータスの技術レベルの向上を目指した。その際、交流のあった種族や派閥にチョウゾテクノロジーが部分的に提供されている。
また、鳥人族の中には戦士も混じっており、解放者と肩を並べて戦ったこともあるようだ。彼らは技術力を結集したアーマーを身に纏い、槍やアームキャノンで武装し、魔法は扱えないが高い身体能力で活躍したという。
鳥人族の活躍もあって順調に争いが終わりつつあったある日、解放者と鳥人族は神の真意を知ってしまった。それは、神々が世界の全てを操って遊戯のつもりで人々に戦争を行わせていたということだ。
それを許せなかった彼らは、神々がいるとされる空間である“神域”を突き止めると、解放者の中で強力な力を持つ七人を中心に戦いを挑んだ。
だが、その目論みはその前に破綻してしまう。何と、神は人々を操って解放者と鳥人族を世界に破滅をもたらす神敵……“反逆者”に仕立てあげてしまったのだ。守るべき人々に力を振るえなかった彼らは次々と討たれ、最後に残ったのは七人の解放者と鳥人族のみだった。
敗北を喫した七人の解放者は、バラバラに大陸の果てに迷宮を作り、神の遊戯を終わらせる者が現れることを願って、迷宮を攻略した者に自らの持つ力……“神代魔法”を授けることにした。だがその時、予言能力を持つ一人の鳥人族がある予言をする。
それは、鳥人族の遺伝子と叡知、力を受け継ぎ、チョウゾの鎧を纏った後継者がオルクス大迷宮を攻略し、邪神を討つ意思を受け継ぐというものであり、最強なる戦士へと至った後継者が邪神を討つとされていた。
そこで、解放者と鳥人族は後継者を支援するため、チョウゾの武器……パワーアップアイテムを迷宮等に設置すると共に後継者用のコースを準備した。また、真のオルクス大迷宮の最初の階層には鳥人族のオブジェと碑文を配置し、後継者に真実を伝えると同時にコースの切り替えを行うことにした。
その後、解放者はそれぞれが作った大迷宮に留まり、鳥人族を戦いに巻き込んでしまったことに罪悪感を抱いた解放者からの提案もあって、鳥人族はセントラルユニットを代理人として配置して元の世界へと撤退した。その際、技術の漏洩を防ぐために転移装置は完全に破壊されている。
長い話が終わり、オスカーは微笑む。
『長い話をしてしまってすまない。だが、我々の真実を君に知っておいて欲しかった。私は、鳥人族の後継者である君に力を授ける。また、今後の活動で必要になるであろう情報やデータを準備してあるので、工房のオブジェからダウンロードしてほしい。きっと役に立つはずだ。君に神殺しを強要するつもりはないが、その力を悪しき心を満たすために振るわないでくれ。話は以上だ。聞いてくれてありがとう。君のこれからが、調和の精神と共にあることを願っているよ』
話が終わると、オスカーの立体映像は消えた。
「ハジメ様、ユエ様、魔法陣の中央に立ってください。オスカー様が仰っていた神代魔法の一つを手に入れることができるはずです」
イヴに言われ、二人は魔法陣の上に立つ。すると、魔法陣が輝くと同時に二人の脳裏に魔法が刷り込まれていく。その際、二人は頭がズキズキと痛んだのだが、ハジメはパワードスーツの方にも何かが刷り込まれるような違和感を味わっていた。やがて、魔法陣の輝きが収まると頭痛や違和感は止まり、脳裏に情報が浮かんできた。
「生成魔法……なるほど、鉱石に魔法を付与して特殊な鉱石を……」
「お父様、私も習得したけど相性が悪いみたい……」
ハジメが入手したのは生成魔法という神代魔法であり、ハジメが言ったように鉱石に魔法を付与するものとなっている。それにより、アーティファクトを生み出すことが可能である。
「オスカー・オルクス……ありがとう、解放者と鳥人族の真実を伝えてくれて。あなた方の汚名は必ずそそぐと約束する……安らかに眠ってくれ……」
ハジメはオスカー・オルクスだった骸骨の目の前に行くと、感謝の言葉をかける。彼らを反逆者のままにしてはいけない。そして、彼らの名誉を必ず回復させるのだとハジメは誓った。
その後、ハジメはオスカーの遺骨を埋葬することにした。ユエと共に遺骨を外に移動させると、付近にあった石材を“錬成”で加工して棺と墓石を製作する。
「安らかに眠ってくれ……」
「ん……お疲れ様」
館の近くの地面を“錬成”で掘り、オスカーの遺骨を入れた棺を埋める。そして、オスカー・オルクスの名を刻印した墓石を立て、二人は彼を弔った。
そして、ハジメ達は館の二階にある工房に行き、オスカーの話にもあったオブジェの目の前に立つと、穴にアームキャノンを差し込んでデータをダウンロードしていく。これから対峙するであろう神の尖兵の情報やら、概念魔法なる魔法の情報等、多くのデータがあったのだが、データの中には新たなアビリティも含まれていた。
『アイスビームデータをダウンロードしました。アイスビームが新たに使用可能です』
『アイスビームは、直撃した対象を凍結させる効果を持つビームです。高温地帯のクリーチャーに対して有効ですが、ビームの威力が低下する欠点があります』
新たなアビリティはアイスビームだった。アイスビームは威力の低下という欠点があるが、高温地帯の敵に対する特効武器となっている。大迷宮の一つであるグリューエン大火山は高温地帯であり、そこを攻略する際に役に立つだろう。
また、ハジメ達は工房の中を見て回ったのだが、本棚や扉にロックがかかっている場所が存在していた。だが、オスカーの遺骨が持っていた指輪を翳すことで解除することができた。
「ハジメ様、ユエ様、あなた方に見せなければならないものがあります」
工房の中を一通り見終わった後、イヴがそんなことを言う。彼女を追って向かった先は館の一階であり、隠し部屋が存在していた。そして、その中にはエレベーターがあった。
エレベーターに乗って地下室に降りると、そこにはチョウゾテクノロジーを使った機械がひしめいていたのだが、その部屋にはセントラルユニットの本体が鎮座していた。
「あれが君の本体か……マザーに似ているな」
セントラルユニットはマザーブレインよりも小ぶりなのだが、巨大な単眼のある大脳の形をしていることは共通していた。なお、彼女の本体は金属製の装甲で覆われており、その中身は青色になっているという。
「本当に見せたいのはこれではありません。奥の部屋に向かってください」
イヴの指示でハジメ達は奥に向かう。スライドドアを通った先で、ハジメはそれを目撃した。
「こ、これは……スターシップ!」
「ん……スターシップって、お父様の話にもあった空飛ぶ船……」
ハジメの目の前にあったのは、黄色のスターシップだった。ハジメが持っていたスターシップと同様に黄色の船体と緑色のフロントバイザーが特徴なのだが、シルエットは大きく異なっている。
地球に置き去りになったハジメのスターシップは甲虫のようなデザインであるが、目の前のスターシップは宇宙戦闘機のようなデザインだった。鋭いナイフのような印象を受けるこの船は、三胴船のような構造になっていた。
「これは、鳥人族があなた方のために残した船です。今後、役に立つでしょう」
「彼らには感謝しなくてはな……イヴ、この船の中を見てもいいか?」
「ええ。現時点であの船はあなたの所有物になりました。自由に使ってください」
「未知のスターシップ……そそるなこれは」
ハジメは舐め回すようにスターシップを隅々まで調査した。なお、数時間にわたって調査に熱中したことでユエが拗ねてしまい、その機嫌を直すのに色々と苦労したとか。
当初はセントラルユニットの名前をアダムにするつもりでした。本作品におけるセントラルユニットの設定には、マザーブレインとオーロラユニットの設定を混ぜてます。
最後に出てきたスターシップですが、見た目はプライム3のものを想像してください