「ちくしょう……どうしてこんな目に……!」
何かから逃げるように走る男がいた。カーキ色の衣服を纏い、その上から鎧を着用している。腰には鞘があったが、武器はすでに喪失しているのか、何も収められていない。そんな彼の正体は、帝国の兵士であった。
彼の所属する部隊は奴隷狩りを専門とする部隊であり、いつものように亜人族を狙って樹海の周辺に展開していた。
そんな中、彼らは樹海から出てきた兎人族の集団……ハウリア族を発見する。集団で樹海から出てきたことに驚きつつも、彼らは兎人族を捕らえようと動き始める。
相手は最弱の兎人族であるため、捕まえるのは楽勝だと考えていた。高く売れるのは間違いなく、白髪の珍しい個体がいたこともあって、帝国兵はいつも以上にやる気があった。
だが、思ったよりも逃げ足が早く、仲間を逃がすため無謀にも立ち向かってきたハウリア族の男を捕らえることしかできなかった。やがて、ハウリア族がライセン大峡谷に逃げ込んだため、その入り口に陣を敷き、出てくるのを待ち構えることにした。
後は、魔獣に追い立てられて投降してくるのを待つだけの簡単なお仕事のはずだった……
「クソッ! あんな悪魔が来るなんて聞いてないぞ!」
しかし、彼らは正体不明の集団によって襲撃され、部隊は瞬く間に壊滅してしまう。兵士の記憶にあるのは、両手がハサミになった甲殻類のような赤い人型の姿。そう、彼らを襲ったのはゼーベス星人だった。
帝国兵はゼーベス星人に抵抗した。だが、相手は残忍で攻撃的なエイリアンである上、戦闘能力に大きな差がありすぎた。
ゼーベス星人の身体能力は高く、帝国兵では相手にならない。魔法は素早く回避され、ハサミの一撃で頭蓋骨や首の骨が粉砕される。ハサミから放たれる光弾は容易に盾と鎧をぶち抜き、帝国兵の体に大穴が空けられる。何とか剣や槍を星人の甲殻に叩き付けたとしても、武器の方が壊れる始末である。
奴隷狩りの部隊ということもあり、弱者を力で押さえ付けることしか知らない帝国兵。そんな彼らは、圧倒的な強者であるゼーベス星人によって弱者の気持ちを知ることになったのだ。
「ここまで来れば、追ってこないだろう……何としても、このことは報告しなければ……!」
命からがら逃げ出した帝国兵は、惨劇の現場からかなり離れたことで、安心する。しかし、悪魔はすぐ近くにいた。
「がはっ……!」
突然、上空から発射された緑色の光弾が帝国兵の背中に直撃し、鎧と肉体を貫通して地面に着弾する。帝国兵は心臓や肺を撃ち抜かれ、直後に死亡した。
ハジメ達はハウリア族を引き連れて峡谷を進んでいた。
すぐ後ろを子供を乗せたジャガーノートが速度を落とした状態で付いてきており、多くの魔獣は装甲車を恐れて接近してくることはない。散発的に接近してくる大型の魔獣がいたが、未チャージのビーム一発を頭部に撃ち込まれただけで絶命している。
大型の魔獣を一撃で屠るその光景を見たハウリア族達が畏敬の念をハジメに向ける一方で、車内から見ていた子供達はハジメの姿をまるでヒーローのように認識している。ハジメは子供達に対してサムズアップしていた。
魔獣を屠りながらしばらく進んでいたところ、ハジメ達はライセン大峡谷から出られる場所の付近に到達した。ハジメは車内から子供達を降ろすとジャガーノートを収納し、出口の方を見る。
そこには岸壁に沿う形で壁を削って作ったと思われる立派な石の階段が存在していた。その階段は、約五十メートルで反対側に折り返す構造になっていた。そして、岸壁の向こう側には樹海が薄っすらと見えている。その樹海は、この出口から徒歩で半日の所にあるらしい。
そして、遂に階段を登りきり、ハジメ達はライセン大峡谷から脱出する。その先にあったのは、地獄のような光景だった。
「帝国兵が……死んでいるだと?」
そこには、カーキ色の服を着た帝国兵の死体が多数転がっていた。体に大穴が空いていたり、手足と首があり得ない方向に曲がっていたり、頭部が叩き潰されていたりと、モザイク必須な状態のものばかりである。
ハジメとユエなら見ても大丈夫であるが、ハウリア族については同じようにいかない。惨状を見ると口を押さえて「ウッ……」と気持ち悪そうにする者や、意識が飛びそうになっている者がいた。
「ユエ、ハウリアを結界で守る準備を。もしかすると、パイレーツの仕業かもしれない」
「ん……分かった」
ユエに指示した後、ハジメは帝国兵の遺体に接近して調べる。
(この穴は間違いない……ゼーベス星人のビームで撃ち抜かれたものだ……)
帝国兵の死体に空いている大穴を見て、ハジメはゼーベス星人のビームによるものであると瞬時に理解する。そして、同時に数体の気配が接近してきた。
顔を上げると、そこには数体のゼーベス星人がいた。ハジメは先手必勝と言わんばかりにアームキャノンを構え、パワービームをマシンガンのように連射する。
ドガドガドガドガドガッ!
まるで乱射しているように見えるが、ビームはターゲットを正確に捉えており、全てのゼーベス星人がハジメの早撃ちによって一瞬で蜂の巣にされる。バリアスーツになったことでビームの威力が向上しており、ゼーベス星人の甲殻を抜ける程になっていた。
(これで終わるはずがないな……)
目の前のゼーベス星人は一瞬で全滅したが、まだ戦いは終わらない。ハジメの予想通り、新たに三体の気配が現れるのだが、その気配は上空に現れた。
「どうやら、空を飛ぶことを覚えたらしいな」
それは、ハジメも知らない存在だった。背中にジェットパックを背負ったゼーベス星人であり、片腕のハサミの上にアームキャノンが装備されている。ハジメは、彼らを空戦型ゼーベス星人と呼称することにした。
三体の空戦型ゼーベス星人は、アームキャノンをハウリア族の方に向けて緑色のビームを連射する。だが、ユエが咄嗟に“聖絶”を発動したことでハウリア族は守られた。
(ユエ、守りは頼むぞ……)
彼らのホームグラウンドである空中から、空戦型ゼーベス星人はビームの雨を降り注がせてくる。ハジメは激しい砲火の中を臆することなく駆け抜け、何発か直撃を受けながらも反撃する。
『ノーマルミサイル、オンライン』
空中の標的をロックオンし、ミサイルを放つ。ミサイルに狙われたゼーベス星人は追尾を振り切ることができず、ジェットパックに被弾。煙を吹き出しながら墜落していくのだが、刺し違えてでもハジメを倒すつもりなのか、ハジメに向かって突っ込んでくる。
(自爆覚悟か!?)
突っ込んできた星人をアームキャノンで殴り、その反動も利用して後方に飛び退く。直後、星人は地面に激突し、爆発した。
「自爆なんてロマンでも何でもない。まあ、お前達に言っても分からないだろうが……」
『アイスビーム、オンライン』
自爆特攻などされては困るため、ハジメはアイスビームで凍結させることにした。
「これで頭を冷やせ」
アイスビームを次々と放ち、空戦型ゼーベス星人を凍結させていく。全身が凍結した状態でもジェットパックは生きているのか、宙に浮いたままである。宙に浮く二体の氷像にミサイルが叩き込まれ、破片が周囲に降り注いだ。
(今度こそ、片付いたようだ……)
“気配感知”に引っ掛かる存在は、ユエとハウリア族のみ。スペースパイレーツはこの場から完全に排除された。
その後、ハジメはハウリア族と共に帝国兵の遺体を丁重に埋葬し、ゼーベス星人の肉体に関してはユエの魔法で完全に焼却する。そして、再びジャガーノートを取り出すと、残されていた馬車を連結し、馬に乗る者と分けて樹海の方へと出発した。
七大迷宮の一つと亜人族の国フェアベルゲンを内部に抱えている【ハルツィナ樹海】を前方に見据え、一行は平原を進んでいた。ジャガーノートにはハジメとユエ、シアの三人が乗っている。
「ハジメさん、ユエさん……お二人のこと、もっと教えてくれませんか?」
移動中、シアは二人についてもっと知ろうしてくる。これまでシアに対して説明したことは全体のほんの一部だけであり、これまでの経緯については殆ど説明していなかった。
「ある程度は話したはずだが……」
「能力とか名前とかは聞いてますけど、お二人がどうしてライセン大峡谷なんかにいたのか、今まで何をしていたのか知りたいです。あと、パイレーツ?が何なのかも知りたいです」
「別に構わないが……ユエはどうだ?」
「ん……私も話す。本当にシアと友達になるためには、私の過去も話した方がいい……」
そして、ハジメとユエはこれまでの経緯をシアに語るのだが、その結果……
「うぇ、ぐすっ……ひどい、ひどすぎまずぅ〜、ユエさんもハジメさんもがわいぞうですぅ~。そ、それと比べたら、私はなんで恵まれて……うぅ~、自分がなざけないですぅ~」
普通にシアは号泣した。家族同然の鳥人族達がパイレーツによって虐殺され、惑星ゼーベスが奪われた話とか、ユエが叔父に裏切られて奈落に三百年近く封印されていた話は特にショックが強かったようで、滂沱の涙を流しながら、「私は、甘ちゃんですぅ」とか「もう、弱音は吐かないですぅ」と呟いている。
自分は不幸な境遇だと思っていたら、ハジメとユエがもっと辛い目に遭っていたことを知り、この程度で不幸だと思っている自分が情けなくなったようだ。
しばらくしてシアは泣き止むのだが、大人しく後部座席に座り、何かを考え込んでいる様子だった。
(やっぱり、逃げるだけではダメです……)
シア・ハウリアは気付かされた。弱音を吐いて逃げるだけでは何も変わらず、戦わなければ、生き残れないということを。
(今はハジメさんによって守られているけれど、樹海の案内が終わったら敵から逃げる生活に逆戻り……フェアベルゲンも助けてくれません……パイレーツという危険な敵だって現れました……)
そこで、シアはとある決心を固める。
(決めました! 鍛えてくれるようにハジメさんに頼みます! 鍛えればきっと、魔力は武器になってくれるはずです!)
シアは樹海に着いたら鍛えてくれるようハジメとユエに頼み込むことにした。
(争いに関わるのは、私だけで十分なんです。もう、私は逃げません!)
数時間後、一行は【ハルツィナ樹海】と平原の境界に到着した。ハジメは境界付近でハウリア族に休憩を取らせようとするのだが、そこでシアが深く頭を下げて頼み事をしてきた。
「ハジメさん、私を鍛えてください! お願いします!」
自分を鍛えてほしいと頼み込むシア。戦う意思を示した彼女を見て、カム達ハウリア族は驚きを隠せていなかった。
「……別に俺は構わないが、何故だ?」
ハジメは元より、ハウリア族による樹海の案内が完了した後にシアを戦士として鍛えるつもりだった。
樹海の案内が終われば、ハジメという盾を失ったハウリア族が再び窮地に陥ることは確実である。そのため、ハウリア族には戦える存在が必要なのだ。
魔力を保有している上、魔力の直接操作ができるシアのポテンシャルは、ハウリア族の中で最も高いと言える。彼女を戦士として鍛え、ハジメ製の装備を与えれば魔力による身体強化も相まって間違いなく化けるだろう。
ハジメは、シアが自ら頼み込んで来るとは予想していなかった。そこで、シアにその理由を聞いた。
「私は今まで、家族みんなに守られて成長してきました。魔力を持った私の存在がバレた時だって、みんなが一緒に樹海を出てくれました。だから、今度は私が家族を守りたいんです!」
シアは、覚悟を宿した表情でハジメに言う。その一言一言には、明らかに強い意識が宿っていた。また、シアの言葉を聞いたカム達は号泣していた。
「君の覚悟は分かった。君を戦士として鍛えよう」
「あ、ありがとうございます! 今度から師匠って呼ばせてもらいます!」
こうして、シアはハジメによって鍛えられることになったのだが、鍛えたいという者が他にも現れた。
「ハジメ殿、我々ハウリア族一同も鍛えていただきたい! シア一人だけに戦わせるわけにはいかないのです!」
それは、カムだった。
「父様!?」
「シア、私は娘に守られてばかりの父親になりたくはないんだ。家族みんなで戦う……みんなでやれば怖くない……」
カムの背後には、決然とした表情のハウリア族が並んでいる。男のみならず、女子供までもが立ち上がっており、ハウリア族の絆の深さが窺える。
ハウリア族の精神を言葉で表すのであれば、「一人はみんなのために、みんなは一人のために」だろう。シアが家族のために戦うのなら、家族はシアのために戦うのだ。
(ここまで絆が深いとは……シア、君は良い家族を持ったな……)
やがて、カムが前に進み出て言う。
「ハジメ殿……宜しく頼みます」
「あぁ。教える側として未熟な部分もあるかもしれないが、全力でやらせてもらう」
こうして、シアを含めたハウリア族はハジメによる戦士としての教育を受けることになった。
鳥人族の戦士に鍛えられた男が、今度はハウリア族を戦士として鍛える。戦士の魂が再び受け継がれる時が来たのだ。
帝国兵は犠牲となったのだ。
空戦型ゼーベス星人の元ネタは、メトロイドプライムのフライングパイレーツです。プラズマビームを獲得するまで苦戦していた記憶があります。自爆特攻するのはフライングパイレーツの再現になります。キハンター星人?知らない子ですね。