「南雲ハジメ。我らフェアベルゲンの長老衆は、お前さんを“鳥人族の後継者”として認める。また、本日をもって魔力を持って生まれた同胞に対する差別的な扱いを廃止し、保護するものとする」
熊人族不在で始まった長老会議は、最終的に二つの結論を出した。一つは、ハジメを“鳥人族の後継者”として認定すること。もう一つは、魔力持ちの亜人に対する迫害をやめて保護するということだ。それに伴い、シアとハウリア族は無罪となる。
長老会議での決め事は全会一致が原則であるのだが、ハジメを“鳥人族の後継者”として認めることについては、すんなりと全会一致で可決した。条件と完全に一致していたし、亜人達に対して差別的なこともしなかったため、印象が良かったのだろう。
ただ、忌み子に対する差別撤廃に関しては一悶着あった。森人族のアルフレリックは勿論のこと、元より差別意識がそこまで強い訳ではなかった狐人族のルアや翼人族のマオはすぐに賛成したが、比較的過激派の部類に入る虎人族のゼルと土人族……いわゆるドワーフのグゼは難色を示した。
ゼルは同族がハウリア族に追い詰められたことを、グゼは仲の良かったジンがシアによって制圧されたことをそれぞれ根に持っており、反対派へ回るに至った。
一応、ゼルはグゼと比べてそこまで頭に血が上っていなかったため、説得に応じて最終的に賛成派へ回っている。熊人族が不慮の事故で不参加だったことが、過激派の劣勢に拍車をかけているといっていい。
最後までしぶとく抵抗していたのがグゼであった。アルフレリックらの説得では効果が全くなかったが、そこでハジメがとある提案を投げ掛けた。それは、差別撤廃に賛成した種族の保有するチョウゾギアをハジメが修理・改良するという内容だった。
チョウゾギアは魔力を持たない亜人族にとって、魔法に対抗可能な数少ない力である。しかし、彼らの技術力ではギアの修理は不可能。再び使えるようにするには、鳥人族の後継者にして錬成師であるハジメの力か、竜人族の力を借りる必要がある。竜人族は滅んだことになっているため、彼らとしてはハジメの力を借りなければならなかった。
動かせるギアを保有することは、フェアベルゲン内における各種族のパワーバランスに影響してくる。ギアを稼働状態にしなければ国内で取り残されてしまう。そう考えたグゼは渋々ながら差別撤廃に賛成し、ようやく全会一致となった。
「このように我々は決定したわけだが、基本的に亜人族は魔力を持った他種族を嫌う。我々の通達を無視してお前さんやハウリア族を襲おうとする、血気盛んな者がいる可能性も否定できない。もしもその時は、襲った者達を殺さないでほしい」
「可能な限り努力はする」
殺意を持って向かってくる相手を不殺で制圧するのは難しい。やり過ぎれば相手を殺してしまうし、中途半端にやれば自分の命が危うくなるからだ。一応、ブラスターには相手を痺れさせるスタンモードがあるが、相手を殺さずに制圧できる保証はない。
「すまんな……」
亜人族からも“鳥人族の後継者”として認められたハジメは、
「フェアベルゲンの地下には鳥人族の遺跡が残されている」
ハジメ達はフェアベルゲンの地下にある遺跡に案内された。この場所は、長老衆やその他認められた者しか入ることのできない区画となっている。昇降機で降りた後、アルフレリックの先導で通路を進んでいくのだが、その壁には鳥人族の戦士の壁画や刻印された鳥人族の文字が多く見受けられた。
「フェアベルゲンの地下にこんな所があったんですね! 何だかワクワクします!」
「ん……まさか、こんなに大規模な鳥人族の遺跡があるとは思わなかった」
(鳥人族の遺跡は落ち着く……まるで、ゼーベスに帰ってきたかのようだ……)
そうこうしているうちに、彼らは通路の終点に辿り着く。そこにはかなり広い空間が広がっており、空間の中央の地面には魔法陣があり、奥の壁には巨大な壁画や各迷宮に対応している七つの紋章が存在していた。
部屋に入って早々、ハジメは奥の壁画に注目する。何故なら、描かれているものに見覚えがあったからだ。
「大軍神……まさか、ここで再び見ることになるとはな……」
描かれていたのは、バリアスーツによく似た甲冑を着込んだ鳥人が両手で丸い何かを支えている巨大な壁画。丸い部分は光を反射しており、鏡のようなものが埋め込まれている。この鳥人の正体は、大軍神と呼ばれる存在だった。
「ダイグンシン! って、何ですかそれ?」
「お父様、あれが何か知ってるの?」
「あぁ。あれは大軍神といって、古代の鳥人族が崇めていた存在だ。これと同じものがゼーベスの古代鳥人族の遺跡にもあった」
ハジメは説明した後、壁画に接近していく。
(懐かしい……昔、ゼーベスに来たばかりの頃、師匠に連れられて大軍神の壁画を見たことがあったな……)
壁画を前にしてバイザーの下で目を瞑るハジメ。視界はゼロであるが、初めて大軍神を見た時の記憶が心象風景として瞼裏に映し出されていた。
(かつて、俺は大軍神に誓った。最強の戦士となることを……)
ハジメが大軍神を見たのは一回だけだったが、今までで特に印象に残った存在の一つであった。
(そういえば、大軍神の壁画に少し落書きしたことがあったな……相当下手な絵だったが、俺と師匠を描いたような……あの絵はまだ残っているだろうか?)
実は罰当たりなことをやっていたハジメ。大軍神に雷を落とされそうだが、再びゼーベスの大軍神の壁画を見に行きたいと思いを馳せていた。
「あの、師s「待って、シア」……」
壁画の前でしばらく動かないハジメに対して、待ちきれなくなったのか声を掛けようとしたシア。だが、ユエによって制される。
「きっと、お父様は過去に思いを馳せているのだと思う。だから、もう少し待ってあげて」
「ユエさん……そうですね、今のは無粋でしたね」
(大軍神……俺は歩みを止めるつもりはない。必ずこの世界から帰還し、銀河を守る最強の戦士になってみせる)
そして、ハジメは目を開いて過去の光景から現在に戻る。目の前にあるのはゼーベスではなくフェアベルゲンの大軍神の壁画。七つの紋章が壁画を囲むように埋め込まれ、正面の床には魔法陣がある。ハジメが魔法陣に乗ると、何もなかった空中空間に鳥人族の文字でメッセージが投影された。
七つの試練。それを乗り越え、全てのチョウゾの武器と七つの大いなる力を手にした戦士にのみ、我は力を授ける。その力は最強にして強大。それを使いこなしてこそ、真の
投影されたメッセージが消えた直後、壁画の周囲にある紋章のうち、二つに光が灯る。一つは十字に円が重なった紋章、もう一つはサークル状の紋章であり、それぞれオルクス大迷宮とグリューエン大火山に対応していた。また、大軍神が持つ丸鏡にはハジメの姿が映し出されていた。
「師匠、あれには何と書いてあったんですか?」
ハジメがユエ達の所に戻ると、シアがあのメッセージについて聞いてきた。この場で鳥人族の言語を理解できるのはハジメのみ。ハジメはメッセージの内容を簡単に説明してあげた。
「最強にして強大な力……それがあれば、神すらも倒せるのでしょうか?」
「分からない。だが、その力を求める価値はあるだろうな」
「ん……結局、全ての迷宮を攻略することに変わりはない」
「あぁ……そうだな、ユエ。次の迷宮攻略にはシアを同行させるつもりだ。神代魔法による戦力強化は勿論だが、迷宮攻略は実戦訓練にちょうど良い」
こうして、大軍神が守護する最強で強大な力を手にするために迷宮を攻略するという新たな目的が定まった。
「お前さん……いや、ハジメ殿と呼ぶべきだろう。この遺跡に出入りする権限をハジメ殿に付与させていただく。もしも大軍神と面会したい時は、自由に来ていただいて構わない」
「感謝します、長老殿」
そして、ハジメ達は地上に戻ろうとするのだが、そこに慌てた様子で駆け込んでくる一人の森人族の戦士がいた。ハジメ達は知らないが、アリアの側近だったりする。
「一大事です! フェアベルゲンが謎の集団による襲撃を受けています!」
「「何だって!?」」
寝耳に水の緊急事態に、ハジメとアルフレリックは驚きの声を上げるが、すぐさま状況確認に移る。
「どのような集団だ?」
「後継者様、敵は蟹を人型にしたような化物の集団です。中には空を飛ぶ者も。我らの兵士では全く歯が立たず、市民も含めて死傷者多数。現在、アリア様が単独で迎撃しておりますが、多勢に無勢です……」
「スペースパイレーツか……何故、ここに……」
完全にスペースパイレーツの愉快な仲間達である。ハジメとしては、パイレーツがフェアベルゲンに攻めてくることなど想定外であった。霧に包まれている樹海は、亜人族でなければ迷ってしまうのだから。
だが、驚いている暇など無い。宿敵であるスペースパイレーツが現在進行形で破壊活動に勤しんでいると思われ、それを止める以外の選択肢は存在しない。
「長老殿、襲撃者は俺の宿敵で間違いない。フェアベルゲンの防衛に我々も参加させてもらう」
「それは助かる。ハジメ殿、フェアベルゲンを頼む……」
「あぁ。総員、戦闘準備を……」
ユエとシアは専用の戦闘装備を瞬時に身に付け、カム達ハウリア族は緑色の量産型パワードスーツの姿に変わる。ハジメはフル装備の彼らを引き連れ、地上へと戻った。
奴らがフェアベルゲンに現れたのは突然のことだった。
フェアベルゲンは他種族では迷ってしまう霧に覆われ、入り口の門までたどり着くのは至難の技。人間族や魔人族といった敵が侵入してくる可能性は極めて低い。しかし、奴らは亜人族が想定していなかった方法で現れた。
なんと、スペースパイレーツは転移して現れたのだ。奴らは門の付近に数百体単位で現れたかと思うと、陸と空からの攻撃で門を吹き飛ばし、壁の内側へと侵攻を開始した。
急な出現に対応できなかったことが、被害の増大に拍車をかけた。迎撃や避難の態勢が整う前に襲撃されたことで、亜人族は効果的な対応ができていない。もっとも、仮に態勢が整っていたとしても、彼らの力ではスペースパイレーツに歯が立たず、犠牲者は多数になるのだが。
パイレーツの攻撃により、フェアベルゲンの市街を構成する多数の大木が炎に包まれ、焼け落ちていく。
激しく炎上し、黒煙が立ち上る市街をゼーベス星人が我が物顔で闊歩し、空を空戦型ゼーベス星人が支配している。彼らは兵士や逃げ惑う市民を虐殺して回っており、女子供に対しても慈悲はない。すぐさま、燃え盛る死体の山に放り込まれる。
だが、パイレーツの暴力に抗う者が一人……
「おのれ、化け物共……これ以上の狼藉はこの私が許さん!」
アリアはパイレーツの部隊に対して勢いよく言い放つ。彼女はパイレーツの鬼畜な所業に対する激しい怒りに燃えており、その気迫を受けたゼーベス星人は破壊活動の手を一瞬止め、その矛先をアリアに向けた。
「そちらがその気なのであれば……アリア・ハイピスト、推して参る!」
チョウゾギアを装着した彼女は、槍であるチョウゾスピアと盾であるチョウゾシールドを構えて突撃し、接触した全てを撥ね飛ばしていく。その姿はまるで重騎兵のようだった。
彼女は獅子奮迅の戦いを繰り広げた。重騎兵のような突撃で敵集団に切り込み、槍を振り回す度に複数のゼーベス星人が宙を舞う。盾を攻撃に使用することも忘れず、シールドバッシュで撲殺する場面もあった。
これを見ただけなら、アリアがゼーベス星人を圧倒しているように思えるだろう。しかし、物量に関しては敵が圧倒的である。別の方面から応援のパイレーツ部隊が現れてから、彼女は押され始めた。
「くっ……空からも来るとは……」
空戦型ゼーベス星人は飛び道具を持たないアリアにとって苦手な部類の相手だった。彼らは常に一定の距離を保っており、彼女が跳躍したとしても退避されるので攻撃を届かせることは困難。彼女は一方的に空から撃たれる状態となり、地上の敵を相手にするのに支障が出ている。
今回、空戦型ゼーベス星人は新兵器を引っ提げてフェアベルゲン攻撃に参加していた。彼らの背部にはパーツが増設されており、ハジメが戦った個体とシルエットが少し異なっている。彼らはアリアを黙らせるため、その新兵器を発射した。
複数の空戦型の背部から放たれたのは、多数の小型ミサイルだった。小型ミサイル群はアリアが咄嗟に構えた盾に殺到。酷使で耐久力が大幅に下がっていた盾は数発で砕け散り、本体の方が激しい攻撃に曝される。ミサイルの運動エネルギーと爆発に連続で激しく殴られ、吹き飛ばされた彼女は近くの建物に突っ込んでしまった。
「ぐっ……がぁ……」
苦しそうにしながらも、建物から這い出てきたアリア。目の前に見えたのは、自分を完全に包囲しているゼーベス星人の姿。開かれたハサミの内部は輝きを放っており、次の瞬間にはビームの集中砲火を浴びることになるのだろう。だが、その時は訪れなかった。
ドガドガドガドガドガドガッ!!!
突然、多数の光弾が何処からか飛来し、ビームを撃とうとしていたゼーベス星人の頭部をぶち抜いていく。さらに……
「“砲皇”」
空中に竜巻が出現し、付近にいた空戦型ゼーベス星人の集団を巻き込んでいく。真空刃を伴う竜巻であり、巻き込まれた彼らはズタズタに切り刻まれる結果となった。この一撃で、フェアベルゲン上空に存在する大半の空戦型が取り除かれた。
「な、何が……?」
直後、アリアの近くにパワードスーツの戦士とその娘、弟子が降り立つ。
「南雲ハジメ……!?」
「すまない、俺の世界の連中がとんでもないことを仕出かしてしまった」
「連中のことを……知っているのか……?」
「あぁ。奴らはスペースパイレーツ。平和を脅かす海賊にして、俺の宿敵だ」
「つまりは賊ということか……」
「奴らの撃退に力を貸す。まだ戦えるか?」
「ふっ、この程度でくたばる私ではない……」
アリアは立ち上がり、ハジメとユエ、シアと共に並び立つ。すでにハウリアの部隊は市民の保護のために動いており、所々で戦闘音が聞こえてくる。今、勇敢な戦士達による反撃が開始されようとしていた。
大軍神とその壁画はメトロイドゼロミッションから、ルビになっているチョウゾルーインズはメトロイドプライムからの出典です。壁画への落書きも原作再現だったりする。