鳥人族の後継者は世界最強   作:ウエストモール

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可能なら今年の内にライセン大迷宮を攻略させたいですね


32話 ブルックの町 前編

 樹海を後にしたハジメ達は、ジャガーノートに乗り込んで平原を進んでいた。

 

「師匠、次の目的地はライセン大峡谷でしたよね?」

 

 ハジメの左斜め後ろに座っていたシアが目的地を再確認する。ちなみに、車内にあるユエとシアの席は人が一人通れる程のスペースを隔てて設置されている。

 

「そうだ。ライセン大峡谷には七大迷宮の一つがあると言われているからな。しばらくはそこに留まり、迷宮の入り口を探すつもりだ」

「ライセン大峡谷……師匠とユエさんに出会った懐かしい場所ですね」

「ん……魔力が分解されるからあまり行きたい場所じゃない」

 

 ライセン大峡谷はシアの一族が全滅しそうになった場所だが、今のシアは精神的に成長しているのか動揺することはなかった。一方、ユエの方は魔力が分解されるライセン大峡谷の性質から、あまり気乗りしないようだったが。

 

「それで、今日はこの乗り物の中で一泊ですか? それとも近場の町に?」

「町で一泊しよう。素材の換金や物資の調達もしておきたいからな」

「そうですね。フェアベルゲンで何も受け取ってませんでしたから」

 

 実を言うと、フェアベルゲンから報酬や物資補給の打診があった。だが、復興の方を優先してほしいということで全て断っていた。

 

 大樹を訪れた後、三人は樹海で大量の魔獣を狩っており、珍しい樹海産の素材を売却すればかなりの金額になることが予想されている。

 

「向こうは復興中だ。こちらに物資を寄越すくらいなら、復興に使ってもらった方がいい」

 

 数時間後、夕日が沈みそうな頃になって前方に町が見えてきた。周囲を堀と柵で囲まれた小規模な町であり、その入り口には門がある。門の上の櫓には弓を持った兵士が配置され、門の脇には門番の詰所があった。

 

 そろそろで町の方からハジメ達を視認できる距離であるため、目立つジャガーノートを収納して徒歩に切り替えて進む。もしもこのまま行けば、魔獣の襲来として町から攻撃を受ける可能性があるからだ。もちろん、パワードスーツも装着していない。

 

「ユエ、シア、門番との問答は俺に任せてくれ。ユエはステータスプレートを持っていないし、シアは……言わなくても分かるな?」

 

「私は師匠の奴隷のふりをすればいいんですよね?私みたいな超絶☆美少女だと拐われる可能性がありますから」

 

 シアの首に装着されているチョーカーは色を自由に変えることができ、奴隷の首輪と同じ黒にすることで奴隷のふりをすることが可能である。白髪の兎人族で珍しく、容姿もスタイルも抜群なシアは、誰かの奴隷であることを示さなければ、人攫いに狙われるからだ。

 

「よく分かってるな。だが、超絶☆は余計だ。まあ、美少女という点は否定はしないが……」

「師匠って、意外と私のことを美少女だと思っていたんですね」

 

 やがて、町の門に到着する。

 

「止まってくれ。ステータスプレートを。あと、町に来た目的は?」

 

 町の門に到着すると、脇にある詰所から門番の男が出てきた。皮鎧と長剣を装備した冒険者風の門番は、ハジメ達にマニュアル通りの質問をした。

 

「食料の補給だ。旅の途中だからな」

 

 ハジメは門番の質問に答えながら、隠蔽機能で隠蔽したステータスプレートを提示した。何故なら、そのステータスの高さや“言語理解”の存在によって神の使徒であることがバレてしまうからだ。また、名前の表記はこの世界に合わせてある。

 


ハジメ・ナグモ 17歳 男 レベル:20

天職:戦士/錬成師

筋力:150

体力:132

耐性:100

敏捷:160

魔力:70

魔耐:35

技能:槍術・棒術・短剣術・操鞭術・投擲術・格闘術[+身体強化]・射撃術[+狙撃][+早撃][+命中率上昇]・気配感知・夜目・遠目・錬成[+鉱物系鑑定][+精密錬成][+鉱物系探査][+鉱物分離][+鉱物融合][+複製錬成]


 

 ちなみに、本来のステータスは次のようになっている。

 


南雲ハジメ 17歳 男 レベル:50

天職:戦士/錬成師

筋力:1500

体力:1320

耐性:1000

敏捷:1600

魔力:700

魔耐:350

技能:槍術・棒術・短剣術・操鞭術・投擲術・格闘術[+身体強化]・射撃術[+狙撃][+早撃][+命中率上昇]・気配感知・夜目・遠目・錬成[+鉱物系鑑定][+精密錬成][+鉱物系探査][+鉱物分離][+鉱物融合][+複製錬成]・生成魔法・空間魔法・言語理解


 

「ほぉ……意外と強いんだな。それに、天職が二つもあるなんて珍しいな」

 

 隠蔽されたステータスを見た門番が言う。隠蔽によって大幅な下方修正を受けているが、この世界ならば十分に強い部類に入る。また、天職が二つあることにも注目された。

 

「それで、そっちの二人のステータスプレートは……」

 

 門番はユエとシアにもステータスプレートの提出を求めようと二人に視線を動かした瞬間、硬直してしまった。そして、顔を真っ赤に染め上げると、焦点の合わない目で二人を交互に見ている。ユエとシアは美少女の部類であり、門番は二人に見惚れて正気を失っていた。

 

 ハジメはわざとらしく咳払いして門番をこちらの世界に引き戻すと、二人のステータスプレートについて説明する。

 

「実を言うと、魔獣の襲撃の際に娘がステータスプレートを紛失してしまってな。こちらの兎人族は……分かるだろ?」

 

 それだけで門番は納得し、ステータスプレートをハジメに返却する。

 

「それにしても、随分な綺麗どころを手に入れたな。白髪でスタイルのいい兎人族なんて相当なレア物では? あんたって意外と金持ち?」

 

 門番は、羨望と嫉妬の混じった表情でハジメに尋ねる。

 

「想像にお任せする」

「まぁいい。通っていいぞ」

「ああ、どうも。そうだ……素材を換金できるような場所はあるか?」

「それなら、中央の道を真っ直ぐ行けば冒険者ギルドがある。店に直接持ち込むなら、ギルドで場所を聞け。簡単な町の地図をくれるはずだ」

「ご親切にどうも。ユエ、シア、行くぞ」

 

 門番から情報を得たハジメ達は門をくぐって町に入ると、冒険者ギルドを目指してメインストリートを進んでいく。ちなみに、この町はブルックの町という。ブルックのメインストリートは露店が多く出ており、呼び込みや値切り交渉の声で賑やかだ。しばらく進むと、冒険者ギルドの看板が見えてきた。

 

 “ギルド”という言葉を聞いた時、ハジメが真っ先に思い浮かべるのは賞金稼ぎ(バウンティハンター)ギルドだった。ゼーベスが陥落した後、バウンティ・ハンターとして活動していたハジメは、パイレーツと戦う依頼をよく受けていた。

 

 賞金稼ぎギルドは荒くれ者が多く、冒険者のことを賞金稼ぎのような存在として認識していたハジメは、冒険者ギルドもそのようなものだとイメージしていた。

 

 だが、実際の冒険者ギルドはそのようなことは無く、清潔さが保たれていた。入り口の正面にカウンターがあり、左手には飲食店、右手の壁には依頼の契約書が貼られた長大な木製のボードが設置されていた。

 

 ハジメ達がギルドに入った直後、中の冒険者の視線が一斉に突き刺さる。最初は見慣れない者達が入ってきた程度の注目であったが、美少女であるユエとシアに気付いた瞬間、冒険者……特に男性が強い好奇心を抱いた。

 

 見惚れる者、感心する者、二人を凝視し過ぎて恋人の女冒険者に殴られる者など多種多様であるが、意外と理性があるのか目で見るだけで接触してくる者はいなかった。予想されたトラブルが無かったことに安心しながらも、ハジメは正面のカウンターに向かった。

 

 カウンターにいたのは、ベテランと思われる受付のオバチャンだった。大変魅力的な笑顔で応対してくれたオバチャンは恰幅が良く、ユエ二人分の横幅があった。

 

「すまない、素材の買い取りはここでいいだろうか?」

「ええ、ここよ。しかし、あんたは受付嬢がこんなオバチャンで落胆しないのかい?」

「あなたはベテランに見える。経験が豊富な方が信頼できるからな」

「へえ、珍しいわねぇ。若くて美人な受付嬢を期待している男の冒険者連中が多くてねぇ。そんな奴が来た時は、つい口を酸っぱくして説教しちゃうのよ」

 

 おそらく、ここにいる男の冒険者の殆どは彼女に説教されているのだろう。彼女に説教されない男は珍しいらしく、ギルド内の冒険者は驚きの表情でハジメを見ている。冒険者が大人しかったのは、オバチャン受付嬢のおかげだった。

 

「さて、じゃあ改めて、冒険者ギルド、ブルック支部にようこそ。ご用件は何かしら?」

「素材の買取りをお願いしたい」

「素材の買取だね。じゃあ、まずステータスプレートを出してくれるかい?」 

「買取りにステータスプレートが必要なのか?」

 

 ハジメの疑問に、オバチャンは「おや?」という表情を浮かべる。

 

「あんた、冒険者じゃなかったのかい? 買取にステータスプレートは不要だけどね、冒険者と確認できれば一割増で売れるんだよ」

「そうなのか。なら、冒険者としての登録をさせてもらえないだろうか?」

「構わないけど、登録には千ルタ必要だよ」

 

 オバチャンによると、登録していればギルドと提携している店や宿で割引が使えるし、高ランクなら移動馬車を無料で使えるらしい。

 

 ルタというのは、北大陸共通の通貨のことである。通貨の色には青、赤、黄、紫、緑、白、黒、銀、金の種類があり、左から一、五、十、五十、百、五百、千、五千、一万ルタとなっている。日本円と通貨の価値が同じため、日本人にはありがたいだろう。

 

「実は、持ち合わせが無いんだ。買取金額から差し引く形にしてくれないだろうか?」

「そういうことなら、買取金額に上乗せしてあげるよ。可愛い子を二人も連れているんだから、不自由させちゃだめよ。特に、あんたの娘さんにはね」 

「何故、俺の娘だと?」

 

 ハジメには、ユエが自分の娘であると彼女に紹介した覚えが無かった。門番には言ったが、そのままギルドに直行したので伝わるはずがない。

 

「オバチャンの勘よ。その反応だと、本当に娘さんのようだねぇ。お嬢ちゃん、お父さんはどうだい?」

「ん……お父様は強くて優しい人。いつも助けてくれる、自慢のお父様……」

 

 ユエは顔を赤くしながらも、ハジメのことを話す。自分への評価を聞いたハジメは口元が緩んでいた。

 

「あんた、若いのに素敵な父親ね。素材の買取金額にボーナス付けとくよ」

「すまないな」

 

 ハジメはオバチャンの厚意を受け取り、ステータスプレートを差し出した。なお、ハジメはユエとシアに関しては登録を断っている。ステータスプレートを持っていない二人はプレートの発行からしなければならず、技能欄に載っているであろう魔力操作の存在が知られてしまうからだ。

 

 戻ってきたステータスプレートは、載っている情報が増えていた。天職欄の隣に現れた職業欄に“冒険者”の表記があり、その隣に青色の点が付いている。

 

 この点の色が冒険者のランクを示しており、上昇するにつれて赤、黄、紫、緑、白、黒、銀、金と変化する仕組みだ。この色は通貨の価値を示す色と一致しているのだが、青は最低ランクの色であり「お前は一ルタ程度の価値しかないんだよ」と言われているようなものだ。

 

「男なら最低でも黒を目指しなさいよ? 娘さん達にカッコ悪いところ見せないようにね?」

「努力する。それで、これが買取を希望する素材なのだが……」

 

 ハジメは予め宝物庫から袋に入れ換えておいた素材を取り出し、カウンター上の籠に入れていく。素材は全て樹海のものである。

 

「これは……樹海産だね? 樹海産の素材は良質ものが多いし、売ってもらえるのは助かるよ」

「やはり、珍しいか?」

「そりゃあねぇ。樹海の霧の中じゃ感覚を狂わされるし、危険度も高い。好き好んで入る人はいないねぇ。あんたが樹海に入って戻ってこれたのは、兎人族のお嬢さんのお陰だろう?」

「まぁ、そんなところだ」

 

 そして、オバチャンは買取金額を提示した。四十八万七千ルタ。中々の金額である。

 

「これでいいかい? 中央ならもう少し高くなるだろうけどね」

「いや、この額で構わない」

 

 ハジメは五十一枚のルタ通貨を受けとる。この貨幣は異様に軽く、かなり薄いので持ち運びに困ることはない。尤も、ハジメ達には宝物庫が複数あるので、いくらあっても問題ないのだが。

 

「そういえば、この町の簡易な地図をギルドで貰えると聞いたんだが」

「ああ、ちょっと待っといで………ほら、これだよ。おすすめの宿や店も書いてあるから参考にしなさいな」

 

 渡された地図はとても精巧なものだった。店や宿についての有用な情報が簡潔に記されており、十分に金を取れるレベルだった。

 

「こんな凄い地図を無料で貰っていいのか? 

「別に大丈夫よ。あたしが趣味で書いているものだし、“書士”の天職を持ってるから落書きみたいなもんだよ」

 

 何と、この地図は落書きのようなものだったのだ。こんなに優秀であるなら、辺境のギルドの受付ではなく設計の仕事に携わった方がいいのではないか?というのがハジメの感想だった。

 

「いろいろとすまないな」

「いいってことさ。それより、金はあるんだから、少しはいいところに泊まりなよ。治安が悪いわけじゃないけど、その二人ならそんなの関係なく暴走する男連中が出そうだからね」

「あぁ、そうさせてもらう」

 

 オバチャンは気配り上手な良い人だった。ハジメは彼女に頭を下げた後、入り口へと踵を返す。ユエとシアも頭を下げるとハジメに追従していく。その場にいた冒険者達は、二人の姿が完全に見えなくなるまで目で追い続けていた。

 

「ふふ、色々と面白そうな連中だねぇ……」

 

 オバチャンはそんなことを呟きながら、立ち去るハジメ達を見送った。

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