『お疲れ様、よく頑張りました。最後の試練を乗り越えたので、君達にはプレゼントをあげるね。まず、パワードスーツの君には……』
その時、機能を停止していたゴーレムの胸部装甲がパージされ、その中から亀裂の入ったコアが飛び出てくる。
『ゴーレムの浮遊にはこの中のアビリティが関係しているんだよね』
浮遊するコアが紫色に輝き、その姿がランプのようなアイテムに変貌すると、ハジメのパワードスーツに融合して新たなアビリティを発現させた。
『グラビティ機能を入手しました』
『自身にかかる重力を操作することで水の抵抗や重力変動の影響を完全に無効化し、空中浮遊すら可能とするパワードスーツの拡張機能です』
『発動時には紫色のオーラがスーツを覆い、防御機能がさらに向上します。溶岩との接触にも耐える程ですが、溶解液への耐性はありません』
ハジメが新たに入手したアビリティはグラビティ機能。その名の通り、重力を操ることのできる能力であり、水中や超重力空間で戦うためには必須となっている。
『さて、後は神代魔法を伝授するだけなんだけど、ミレディちゃんの隠れ家に来てもらうよ。三名様、ご案内!』
光っている足場ブロックが下の方から現れ、乗ってくれと言わんばかりに点滅する。三人が飛び乗るとブロックはスィーと水平移動し、壁の一角の前へと移動する。
すると、目の前の壁が消失して白い壁で出来た通路が現れた。三人の乗るブロックはそのまま通路を滑るように移動を開始。そうして進んだ先には、他の迷宮や大軍神の壁画にあった七大迷宮を示す七つの紋様が刻まれた壁があり、近づくとスライドして道となった。
「やっほー! 天才魔法少女のミレディちゃんだよ!」
「お待ちしておりました、ハジメ様、ユエ様、シア様。お久しぶりです」
潜り抜けた壁の向こう側にいたのはミレディとイヴだった。三人はそのまま魔法陣の場所まで案内され、ミレディが起動させた魔法陣の中に入った。
そして、三人の脳の中に神代魔法の知識やその使用方法が直接刻まれていく。ハジメとユエは三度目なので無反応であるが、完全に初めてだったシアはビクンッと体を跳ねさせていた。
「なるほど、やはり重力を操る魔法か。グラビティ機能を手に入れた辺りで察してはいたが……」
「正解! ミレディちゃんの魔法は重力魔法だよ。ただ、後継者くんとウサギちゃんは適性がないね。それも、びっくりするレベルで!」
「あぁ。それは理解している」
神代魔法の知識が刻まれた段階で、ハジメとシアは自分に適性がなく、まともに使えない気がしていた。
「まあ、後継者くんはグラビティ機能がある程度代わりになってくれるから大丈夫じゃないかな。金髪ちゃんの方は適性がありまくりだね。修練すれば使いこなせるよ。ウサギちゃんは、体重の増減くらいなら……」
「えぇ……そんな……」
それを聞いて意気消沈するシア。ユエは適性バッチリで、ハジメはアビリティによってある程度であれば代替することができるというのに、自分だけは体重の増減しかできないという現実。こうなるのも当然である。
「落ち込むな、シア。体重の増減は戦いの役に立つぞ。体重が変われば体の動きが変わり、相手を翻弄することだってできる」
「おぉ、ミレディちゃんが言いたいこと全て言われちゃったよ」
「だったら最初からそう言えばよかっただろ。ミレディ、あまり俺の弟子をいじめないでくれ」
「ごめんねぇ、久しぶりの人間でテンションが上がっちゃって。てへぺろ☆」
あまり反省した様子がないミレディ。ハジメはため息をつくと、ミレディの顔面にアイアンクローをしてやった。もはや、ミレディに対する敬意などない。
「アダダダッ!?」
生身ではなくパワードスーツでのアイアンクローなので、普通に痛い。本気でやったら顔が潰れたトマトになるので、手加減はしているが。
「ごめんごめん、今からは真面目にやるからさ」
「分かればよろしい」
アイアンクローから解放された解放者ミレディは、気を取り直して話を再開する。
「重力魔法に適性がある金髪ちゃんに提案があるんだけど、私からの指導を受けてみない?これでも、重力魔法の最高の使い手である自負はあるんだけど」
「ん……お父様はどう思う?」
ミレディからの提案を受け、ハジメに意見を求めたユエ。だが、ハジメは彼女の意志決定に介入するつもりはなかった。
「ユエ。重要なのは自分自身が何をしたいかだ。俺はユエの意思を尊重する」
「わ、私は……お父様やシアの力になりたい。だから、重力魔法について指導を受けようと思う」
ユエは、自分自身の意思でミレディから重力魔法について指導を受けることに決めた。
「ということだが、しばらくここに滞在してもいいのか?」
「別にいいよ。ミレディちゃんとしては賑やかな方がいいからね」
「分かった。しばらく世話になる」
こうして、ハジメ達はミレディの隠れ家にしばらく滞在し、魔法の修行や装備の開発・改良をすることになった。
二日後、ハジメ達が帰る時がきた。
「いやぁ、金髪ちゃんの飲み込みが早くて助かった。このまま鍛練を続けていけば、間違いなく最強の魔法使いになれるよ」
「ん……そう言われると嬉しい」
たったの二日という短い期間での修行であったが、重力魔法の使い手であるミレディの指導とユエ自身の才能によって、ユエはミレディに認められる程の成果を上げた。
「君達が帰る前に聞いておきたいことがあるんだけど、いいかな?」
「あぁ、構わない」
帰る直前、ハジメ達を呼び止めるミレディ。彼女はハジメと真っ直ぐに向き合うと、とあることを聞いた。
「君がこれからすることは、失敗した解放者の尻拭いのようなもの。本当に、私達の尻拭いを君にさせてしまっていいの?」
それは、神殺しに失敗し、願いと力を後世の人間に託すことへの罪悪感から生み出された、解放者唯一の生き残りの言葉。しばらくの間、その場に静寂が流れるのだが、それに対するハジメの答えは単純だった。
「問題ない……俺がすべてを終わらせる」
それを聞いたミレディは微笑んだ。
「君達のような若人がいれば、世界は安泰だよ。私も安心して後を任せられる」
「あぁ、任せてくれ」
「そうだ、今後行くことになる残りの迷宮について教えてあげるよ」
ミレディからもたらされた情報により、これまで不明であった三ヵ所の迷宮について知ることができた。さらに、攻略の証として上下の楕円を一本の杭が貫いているデザインの指輪を渡されている。
「実を言うと、ここから出る手段がちょっと特殊でね。水を使って流す仕様になっているんだ……」
「なら、グラビティ機能の出番だな。ユエ、シア、俺にしがみつけ」
「ん……」
「はい!」
ハジメは指定された位置に移動すると、ユエとシアを自身にしがみつかせ、グラビティ機能を発動する。
『グラビティ機能、オンライン』
パワードスーツが紫色のオーラに覆われ、この瞬間からハジメは重力という縛りから解放される。
「それじゃあ、流すよ。行ってらっしゃい!」
いつの間にか天井からぶら下がっていた紐をミレディが掴んで下に引っ張ると、ガコンというトラップの作動音が響き渡り、部屋の四方から大量の水が流れ込んでくる。
たちまち部屋は激流に満たされ、そのままでは足を取られてしまうような状況になるが、グラビティ機能を発動させているハジメが動じることはない。重力を操作して空中に浮遊した直後、部屋の中央の床に穴が空き、そこに向かって激流が一気に流れ込み始めた。
「ミレディ、世話になったな」
「ん……色々と教えてくれてありがとう」
「お邪魔しました~」
そして、ト○ロのようにユエとシアを掴まらせた状態で、水が流れ込んでいる穴へと下降していくハジメ。ユエもシアも呼吸器を備えた装備を身につけており、準備は万端だ。そのまま水中に突入し、ハジメ達は迷宮を後にした。
「イー君、私達も出来ることをやらないとね」
「はい、その通りでございます。ミレディ様」
「それじゃ、クソ神との決戦に備えてゴーレムの修復と戦力の増強をするとしようかな☆」
ミレディは全てを後世の人間に押し付けるつもりではない。いずれ来るであろうエヒトとの決戦に備え、物量の面でハジメ達をサポートすべく、迷宮に隠されていた工場を稼働させた。
一方、ハジメ達は激流の先にあった地下水脈を進んでいた。魚達が多く泳いでおり、地上の川や湖とも接続されているようだ。中々の激しい流れではあったが、グラビティ機能で浮遊しているハジメ達には関係ない。
しばらくして、ハジメ達の目の前に光が射し込む水面が現れる。彼らはそのまま浮上していき、水面を突破して地上に出た。
「最初は性根が捻じ曲がった最悪の人だと思ってましたけど、ミレディさんは結構良い人でしたね」
「まあ、性格が悪い傾向にあるのは間違いないが、あのウザさは俺達の精神を鍛えるためにやっていた部分も大きいだろうな」
「ん……彼女は嫌われることを承知であれをやっていたのだと思う」
ハジメ達は地下水脈の出口となっている泉の近くで休憩しつつ、ミレディに対する評価を改めていた。
迷宮の各所にあったウザい文と嫌らしい配置のトラップの数々。ミレディは攻略に来た人間に対して様々な嫌がらせをしてきたが、その真意は神に立ち向かうための精神力を養うことにあった。神によって世界が敵になってしまった状況で追い詰められた解放者だからこそ、強い精神力の重要性を理解していたのだ。
「そろそろ出発しよう。あれだけ目立っていた俺達が一週間も姿を消していたのだから、町の人々も心配しているだろうな」
「それに、師匠は子ども達と約束してましたからね」
「ん……みんな待っている」
ハジメ達は泉の周辺から出発し、ブルックの町の方面へと歩き始める。だが、通り道にあった森の近くに差し掛かった時、ハジメとシアは森の中から接近してくる何かの気配を感じた。
「!?」
「師匠!」
森の中から飛び出してきたのは、二体の気配。目の前に現れた彼らの姿を見て、ハジメ達は即座に戦闘態勢に突入した。何故なら……
「ゼーベス星人……!」
「でも、体の色が違います!」
「ん……黒い」
現れたのは二体のゼーベス星人であったが、通常の赤い個体と異なり、黒い甲殻に覆われていた。すかさずチャージビームと“緋槍”をそれぞれに直撃させるも、その一撃で倒すことができなかった。
「師匠とユエさんの攻撃があまり効いてないです!」
「パイレーツめ、俺達の火力に対抗するために強化兵士を出してきたか……」
『スキャンバイザー、オンライン』
人工変異形態:強化型ゼーベス星人
強化されたゼーベス星人です。通常のゼーベス星人と比較して体力と筋力、耐久力の増加を確認。体内からは魔力と放射性物質の反応を検知しました。
「なるほど、耐久力が上がっているのか」
「お父様。だったら、重力魔法の試し撃ちに使っていい?」
「それは名案だ。シア、魔法発動までの時間を俺達で稼ぐぞ」
「承知です!」
そうこうしている間に、強化型ゼーベス星人は急速に接近すると飛び蹴りを放ってくる。だが、その程度の攻撃を見切れない二人ではなく、近接攻撃で弾かれる結果となった。
弾かれた二体が空中で激突し、地面に落下したタイミングで、すでに準備を整えていたユエが神代魔法のトリガーを引く。
「“禍天”」
ゼーベス星人の頭上に現れたのは、直径四メートル程の黒く渦巻く球体だ。これは“禍天”といい、重力球を作り出して消費魔力に比例した重力で対象を押し潰す危険な技である。
重力球がゼーベス星人に向かって落下し、星人は上から超重力を受けて徐々に押し潰されていく。肉体が地面に磔にされ、歪んだ甲殻にはヒビが入り、そこから体液が吹き出し始める。
ベキベキベキッ……グシャァッ!!
そして、ついに強化された耐久力の限界を超重力が上回り、二体の強化型ゼーベス星人は二つの染みとして大地に刻み込まれた。いくら耐久力があるとはいえ、超重力には耐えられなかったようだ。
「はぁ……はぁ……」
ユエは消耗した様子だった。重力魔法は自分に使う分には魔力消費は激しくないのだが、それ以外に行使する時は別だ。高い才能や解放者からの手解きがあったとはいえ、彼女はまだ初心者。数秒程の発動準備と多くの魔力が必要となってしまう。
「うわぁ、こんなの受けたら私でも死んじゃいますね」
「これが重力魔法の力か……ユエ、よくやったな」
「ん……これで役に立てる」
目の前の障害を排除したので、ブルックの町に戻ろうとするハジメ達。だが、障害物はこれで終わりではなかった。
「ん?」
ハジメは今までとは桁違いに強い気配を感じて上空を見上げる。そこからは雪のように多数の何かが地上に降り注いでおり、その一つ一つが銀色の羽であった。
そして、銀の羽の発生源である存在が上空からその姿を現した。天使や戦乙女を思わせる神々しい風貌で、背中からは銀色に光る翼を展開している。ハジメはその正体を知っていた。
「真の神の使徒……」
ハジメを見下ろす瞳は氷の如き冷たさを放っており、ひたすらに無感情で機械的だ。そして、神の使徒は告げた。
「ツヴァイトと申します。イレギュラー……コードネーム・メトロイド。“神の使徒”としてあなたを主の盤上から排除します」
それは、神からの宣戦布告。今ここで、“真の神の使徒”と“鳥人族の後継者”が激突する。
急展開に次ぐ急展開となってしまったな……
○グラビティ機能
本作品ではグラビティスーツではなくグラビティ機能となっています。本来なら溶岩への耐性がないですが、グラビティスーツの設定も組み合わせているので耐性があります。なお、溶解液に関しては……
空中浮遊に関しては完全なオリジナルです。
○強化型ゼーベス星人
元ネタはスーパーのメタルゼーベス星人とゼロミッションの黒いゼーベス星人。せっかく強化されたのに重力魔法の餌食にされてしまって可哀想ですね。いったい、誰がこんな展開を考えたのでしょうか(お前だよ)
しばらくはこいつらがパイレーツのメインになっていく予定