鳥人族の後継者は世界最強   作:ウエストモール

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カットした部分もありますが、流れは原作と殆ど同じです。


42話 護衛任務

 中立商業都市フューレンはブルックの町から馬車で六日ほどの場所に位置している。

 

 最大の商業都市に繋がる道は街道として整備されているのだが、地球の都市のように街灯の類いは存在しない。それに加えて魔獣や盗賊に襲撃される可能性があるため、安全のために商隊の移動は太陽が出ている時間帯のみだ。

 

 現時点で三日目であり、道程はあと半分だ。時々、普通の魔獣が単発で出てくる程度であり、ハジメ達が動かなくとも他の冒険者達で対処できていた。まさに順調であり、この日に関しては特に何もなく野営の準備となった。

 

 ちなみに、冒険者達の食事は自腹であり、荷物が増えてしまったり、周囲を警戒しなければなならない都合上、干し肉や乾パンといった簡易な食事で済まされる。その代わり、任務が終わって報酬を受け取った後に町で美味いものを沢山食べるのだという。ハジメ達もそれに倣い、簡易的な食事を持ち込んでいた。

 

 それから二日。残り一日でフューレンに到着する地点に到達したのだが、遂にのどかな旅路の破壊者が現れた。

 

 それに気付いたのは、感知能力の高いハジメとシアである。二人は街道沿いの森を一瞥した後、同じタイミングで顔を見合せ、警告を発する。

 

「敵襲だ! 数はおそらく百体以上! 森の中から来るぞ!」

 

 冒険者達の間に緊張が走る。フューレンまでの街道の危険度はかなり低く、安全はそれなりに確保されている。そのため、仮に魔獣と遭遇したとしても、これまでのように単体であるか、せいぜい二十体程度なのが当たり前だった。多くても四十体が限度であるとされている。

 

「くそっ、百以上だと? 最近、襲われた話を聞かなかったのは勢力を溜め込んでいたからなのか? ったく、街道の異変くらい調査しとけよ!」

 

 一人の冒険者が悪態をつきながら苦い表情をする。彼の名はガリティマといい、護衛隊のリーダーを務めているベテランだ。護衛の冒険者は全部で十五人。そこにユエとシアを入れても十七人だ。この人数で百体を防ぎきることは難しい。物量に押し潰されるのが目に見えていた。

 

 ちなみに、彼が最弱で有名な兎人族であるシアを戦力として普通に数えているのは、ブルックの町で「シアちゃんの奴隷になり隊」の過激派による行動に我慢できなかったシアが、変態共を拳だけで制圧した事件が知れ渡っていたからである。

 

 ガリティマが、護衛隊の大部分を足止めにして商隊だけでも逃がそうかと考え始めた時、その考えを遮るように提案の声が上がった。

 

「なら、私が殺る?」

「えっ?」

 

 それはユエだった。彼女の唐突な提案に驚きを隠せなかったガリティマは、提案の意味を掴みあぐね、思わず間抜けな声で聞き返した。

 

「ん……私なら魔獣の群れを何とかできる」

「い、いや、それは確かに、このままでは商隊を無傷で守るのは難しいのだが……えっと、ユエちゃんに出来るのか? このあたりに出現する魔獣はそれほど強いわけではないが、数が……」

「問題ない。私なら瞬きする間に皆殺しにできる」

「え、ええ……」

 

 突拍子のない発言に困ったガリティマはユエの保護者であるハジメに助けを求めるような視線を向けるが、彼は頷くだけであり、ユエに任せることを容認しているようだった。

 

 一応、彼も噂でユエが類希な魔法の使い手であるという事は聞いている。仮に、言葉通り殲滅できなくても、ハジメやユエの様子から相当な数を削ることができるようだ。ならば、戦力を分散する危険を冒して商隊を先に逃がすよりは、堅実な作戦と考えられる。

 

「わかった。初撃はユエちゃんに任せよう。仮に殲滅できなくても数を相当数減らしてくれるなら問題ない。我々の魔法で更に減らし、最後は直接叩けばいい。皆、わかったな!」

「「「「了解!」」」」

 

 冒険者達が隊列を組み、商隊の前に陣取る。皆、覚悟を決めた良い顔付きであり、ベテランに相応しい姿だ。商隊の人々は魔獣の群れの規模に怯え、馬車の影から彼らの背中を覗いている。誰も、ユエだけで対処できるとは思っていない様子だ。

 

 一方、ユエは馬車の上におり、ハジメとシアは馬車の両脇を固めている。

 

「ユエ、分かっているとは思うが、詠唱を忘れるなよ」

「ん……大丈夫。素敵な詠唱を考えてある」

「それは楽しみですね」

 

 やがて、接敵十秒前となる。森の中から百体ほどの魔獣が飛び出し、その全貌が明らかとなった。商人達が頭を抱え、冒険者達が思わず一歩下がってしまう中、透き通る声による詠唱が響いた。

 

「彼の戦士、常闇に希望の光をもたらさん、古の牢獄を打ち砕き、障碍の尽くを退けん、最強たるこの力、彼の戦士と共にありて、天すら呑み込む光となれ、“雷龍”」

 

 詠唱の途中から上空に立ち込めた暗雲。魔法のトリガーが引かれるのと同時にそこから顕現したのは、雷で体が構成されている竜だった。その姿は、蛇を彷彿とさせる東洋の龍だ。

 

「な、なんだあれ……」

 

 誰かが呟く。冒険者達も商人も百体の魔獣も、その全てが天より舞い降りた雷龍の異様を凝視しており、完全に釘付けになっていた。

 

 雷龍は商隊と森の中間地点で立ち止まり、長い体をうねらせながら、魔獣達を睥睨する。やがて、ユエが細くて綺麗な指を指揮棒のように振るうと、雷龍はそれに従って顎門を開放して魔獣達に襲いかかった。

 

ゴォガァアアア!!!

 

 轟音を迸らせながら大口を開く雷龍。すると、その場にいた魔獣の多くが自らその顎門に吸い込まれ、抵抗すら出来ずに一瞬で塵と化していく。

 

 更に雷龍は生き残りの魔獣達の周囲でとぐろを巻くことによって逃げ道を塞ぎ、その上から雷のブレスを吐いて完全に滅却してしまった。全ての魔獣を消し去った雷龍は、雷鳴の如き咆哮を上げると霧散した。

 

 その場には炭化した大地のみが残っており、目撃者達はそれによって先ほど起こった非現実的な現象が実際に起こっていたという事実を認識することができた。

 

「ユエ、今のは……」

 

 ユエの魔法に驚いているのは冒険者達だけではなく、ハジメもその例外ではない。まさか、ユエがこんな魔法を編み出しているなんて、ハジメとしては想定外だったのだ。

 

「ん、やりすぎた」

「物凄い殲滅力だ、俺には真似できないな。ところで、さっきの詠唱は?」

「お父様との出会いと冒険を詠ってみた」

「そうか。いいセンスだ」

 

 それを聞いたハジメはどこか嬉しそうに見えた。例えるならば、親が子供の描いた自身の似顔絵や自身に向けて書いた手紙を見て感動するようなものだろう。未成年だというのに、気持ちは完全に親である。

 

 それはさておき、先ほどの魔法は“雷槌”という暗雲を発生させて極大の雷を落とす雷属性上級魔法と重力魔法を組み合わせた複合魔法であり、落ちるだけの雷を重力魔法でコントロールする仕組みとなっている。また、雷龍は口の部分が重力場になっていて、顎門を開くことで対象を引き寄せることができ、魔獣が自ら吸い込まれていったかのように見えたのはそのせいだ。

 

 そして、ふと我に返る冒険者達。そして、猛烈な勢いで振り向きハジメ達を凝視すると一斉に騒ぎ始める。

 

「おいおいおいおいおい、何なのあれ? 何なんですか、あれっ!」

「へへ、俺、町についたら結婚するんだ」

「動揺してるのは分かったから落ち着け。お前には恋人どころか女友達すらいないだろうが」

「魔法は生きているんだ! そうに違いない!」

「いや、魔法は現象に過ぎないからな? 明らかに異常事態だからな?」

「なにぃ!? てめぇ、ユエちゃんが異常だとでもいうのか!? アァン!?」

「落ち着けお前等! いいか、ユエちゃんは女神、これで全ての説明がつく!」

「「「「なるほど!」」」」

 

 冒険者達にとってユエの魔法は衝撃的であり、彼らは少し壊れ気味のようだ。何せ、既存の魔法に生き物をモチーフとしたものは存在しておらず、その魔法を自由自在に操るという国お抱えの魔法使いでも不可能な所業を目撃してしまったのだから。そもそも、雷属性は風属性から派生した難易度の高い属性であり、その上級魔法を行使できるだけでも一流とされている。

 

 ついには「ユエ様万歳!」と叫ぶ冒険者まで現れ、唯一正気だったリーダーのガリティマが頭を抱えながらも殴って気絶させていた。このままでは“ユエ教”とかいう新興宗教が誕生してしまいそうな勢いだったので、彼には感謝である。聖教教会との間に問題でも起こったら大惨事大戦確定だ。

 

 やがて、鎮圧を終えた彼がハジメ達のところにやって来た。

 

「はぁ、まずは礼を言う。ユエちゃんのおかげで被害ゼロで切り抜けることが出来た」

「……ん、仕事しただけ。礼は不要」

「はは、そうか……で、だ。さっきのは何なのか聞かせてくれないか?」

 

 ガリティマが困惑を隠せずに尋ねる。

 

「……オリジナル」

「自分で創った魔法ってことか? 上級魔法、いや、もしかしたら最上級を?」

「……創ってない。複合させた」

「複合させた? だが、何を組み合わせればあんな……」

「……秘密」

「それは、まぁ、そうだろうな。切り札のタネを簡単に明かす冒険者などいないしな……」

 

 切り札のタネの秘匿は冒険者にとって暗黙のルールだ。ベテランなのでそれを承知している彼は、深い溜息と共に追及を諦めた。切り札やそのタネの秘匿は銀河社会で活動するバウンティハンターにとっても常識であり、世界が違っても荒事に従事する者の常識は同じだった。

 

 こうして、多少の混乱はありながらも商隊は一人の死者を出すことなく歩みを再開した。

 

 

 

 

 

■■■

 

 

 

 

 

 翌日、一行は遂に中立商業都市フューレンの東門前に到着した。東門には六つの入場受付が存在し、そこで荷物のチェックを行うそうだ。

 

 ハジメ達はその内の一つに並んでおり、どこも長蛇の列を成しているので、順番までには時間がかかるだろう。ハジメはユエを肩車し、隣のシアと共に順番を待っていた。

 

 が、そんな彼らに周囲から多くの視線が浴びせられる。ハジメは身長約180センチの長身であり、その彼にビスクドールのような美少女が肩車され、珍しい青みがかった白髪の兎人族を側に置いているのだから、注目されるのは必然だ。

 

 そんな中、モットーがハジメのもとにやって来る。

 

「周囲の目が凄いですな。気になりませんか?」

「致し方ない。こんな異物がいて注目しないはずがないだろう。だが、嫌らしい視線が混じっていて不快だ」

 

 ハジメはユエを降ろしながらも彼に答える。嫌らしい視線というのは、主にユエとシアに対するものだ。二人とも美少女であるため、邪な感情を抱く者は少なくない。一応、ブルックの町で経験済みだが、町の連中は良くも悪くも直球なので対処しやすい。

 

 だが、ここの連中は商人が多いので利益に絡んだ注目が多い。特にシアに対しては値踏みするような視線が増えている。ユエに対しても似たような視線があるので、ユエを売り飛ばそうと企む奴もいるだろう。まあ、そんな奴は返り討ちにされるのが確定なのだが。

 

「フューレンに入れば更に問題が増えそうですな。やはり、彼女を売る気は……」

「その話は終わりだ。何度でも言うが、俺は仲間を売るような真似はしない」

 

 さりげなくシアの売買交渉を再開しようとするモットーだが、ハジメがもう終わった話だということを主張するので、両手を上げて降参する。

 

「それで、他に要件があるんだろう?」

「ええ。似たようなものですが、あなたの持っているアーティファクトの売買交渉です。やはり譲ってもらえませんか? 商会に来ていただければ一生遊んで暮らせるだけの金額をお支払いしますよ」

 

 彼の言うアーティファクトとは、宝物庫のことである。ある時、彼はハジメが宝物庫に荷物を出し入れしているのを偶然目撃してしまい、それ以降しつこく交渉を持ちかけてきていた。それさえあれば、商品を安心確実に大量輸送することが可能となるため、欲しがるのも無理はない。手に入れるためであれば、どんな大金でも払うだろう。

 

 ハジメは何度も断り続けていたのだが、やはり諦めきれないのか、再び交渉を持ちかけてきたようだ。ハジメとしては、劣化版であれば売ってもよかったのだが、色々な勢力から目をつけられること間違いなしなので、一つたりとも譲るつもりはなかった。

 

「残念だが、何度言われても答えは同じだ」

「しかし、そのアーティファクトは一個人が持つにはあまりにも有用過ぎる。その価値を知った者は理性を効かせられないかもしれませんぞ? そうなれば、彼女達の身にッ!?」

 

 モットーが、脅すようなことを言いながらユエとシアにチラリと視線を向けた瞬間、喉仏に鋭い何かが突き付けられた。それも、濃密な殺気と共に。そこにはハジメの手刀の先端が喉仏スレスレの位置に迫っていた。

 

 ハジメは喉仏を狙って貫手を放ち、当たる直前で寸止めしていた。もしも直撃した場合、窒息するか何らかの後遺症が残る可能性もあっただろう。

 

「それは、俺への宣戦布告か?」

 

 静かな声音。重いプレッシャーが叩きつけられ、モットーは全身からナイアガラの滝のように冷や汗を流し、必死に声を捻り出した。

 

「ち、違いますよ。どうか……私は……そういうこともある……かもしれないと。ただ、それだけなのです……」

「そういうことにしておこう。少々、早とちりをしてしまったようだ」

 

 そして、殺気が解かれる。縛りから解放されたモットーはその場に崩れ落ちた。相変わらず滝のように汗を流し、肩で息をしている。

 

「はぁはぁ、割に合いませんな……とんだ失態を晒してしまいましたが、ご入り用の際は我が商会を是非ご贔屓に。特異な人間とは繋がりを持っておきたいのでね。では、失礼しました」

「面白い奴だ。こんな状況でも商会の宣伝をするなんて、商魂逞しいな」

 

 モットーは踵を返して前列へと戻っていく。彼の言う通り、この先では波乱が待っているだろう。ハジメはそんな気がした。




ユエの詠唱は原作とは少し変えてあります
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