鳥人族の後継者は世界最強   作:ウエストモール

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52話 ミュウ・マリーディア

 メアシュタット水族館を出て昼食も食べた後、ハジメとシアの二人は、迷路花壇や大道芸通りを散策していた。

 

 通りには食べ物の露店が多く、シアの腕には食べ物の入った包みが幾つも抱えられる結果となっている。現在はアイスクリームを攻略している最中だ。

 

「シア、食べ過ぎには気を付けろ。体に良くないからな」

「と、言いつつも買ってくれますよね。意外と甘いところがハジメさんの好きなところなんですよ。このアイスみたいに……」

「これは、褒められている……のか?」

 

 褒められているのか、舐められているのか。シアの発言に困惑するハジメ。取り敢えず前者だろうと判断しつつシアの隣を進むのだが、突然、何かを察知して足元を見下ろした。

 

「どうかしましたか、ハジメさん?」

「地中から人の気配を感じた……」

「地中って、下水道ですか? だとしたら管理している職員の可能性だって……」

「それならいいんだが、気配のサイズが子供で、明らかに弱っている……それから判断するに……」

「た、大変です! きっと、どこかで穴に落ちて流されているのかもしれませんよ! ハジメさん、追いかけましょう!」

「あぁ、そうだな。付いてこい」

 

 地下をそれなりの速度で流れる気配を追い、シアと共に走る。町の構造的に、現在いるストリート沿いに下水が流れているのだろうと予想し、一気に気配を追い抜くと地面に手を付いて錬成を行った。紅いスパークが発生すると、直ちに、真下への穴が空く。

 

「後は任せろ」

 

 ハジメは躊躇うことなくそのまま穴へと飛び降りた。そして、下方に流れる酷い匂いを放つ下水に落ちる前にジェットブーツでホバリングし、水路の両サイドにある通路に着地する。

 

「あれか……」

 

 流れてくる子供を捕捉したハジメは、錬成して格子を出現させる。子供が格子に引っ掛かったので、それを掴んで通路へと引き上げた。

 

「シア、救出には成功した。来てくれ」

 

 シアも穴へと飛び込んでくる。足元に出現させた力場を足場にし、ハジメの隣に降り立った。

 

「この子は……」

「まぁ、息はある……取り敢えずここから離れよう。しかし、どうして海人族が……」

 

 救出した子供は四歳くらいの女児だった。エメラルドグリーンの髪に、人間族なら耳がある位置に存在する扇状のヒレ、手足の指の股には薄い水掻きがついており、知識にあった海人族と一致していた。

 

 海人族は、亜人族としてはかなり特殊な地位にある種族だ。【グリューエン大砂漠】を超えた先の海、その沖合にある【海上の町エリセン】で生活している。彼等は、その種族の特性を生かして大陸に出回る海産物の八割を採って送り出しているのだ。そのため、亜人族でありながらハイリヒ王国から公に保護されている種族なのである。

 

 そんな種族の子供が内陸部の大都市の下水道を流されている。そんなあり得ない事態が起こっているなど、犯罪の臭いしかしないのだ。

 

 降りてきた穴を戻るのは何となく危険だと判断したハジメは、穴を塞ぐと下水道の通路を移動する。スマホ型デバイスに移植していたXレイバイザーを駆使して頭上の建物を確認し、目立たない裏路地まで錬成で穴を繋げた。

 

 裏路地にあった放棄された建物に入り込み、屋内をクリアリングするとベッドに寝かせてやる。そして、健康状態を確認するためにスマホ型デバイスでスキャンを開始した。

 

『スキャニング完了』

 

 スキャンバイザーによって示されたのは、栄養素の欠乏と雑菌の体内への侵入、体の表面の汚染であった。体力の少ない幼い子供であるため、速やかな処置を行わなければ、やがて死に至るだろう。

 

 その時、海人族の幼女の鼻がピクピクと動いたかと思うと、パチクリと目を開いた。そして、その大きく真ん丸な瞳でハジメを見つめ始める。互いの目が合うこと数秒後、海人族の幼女のお腹がクゥーと可愛らしい音を立てた。

 

 やはり、まともなものを食べていないらしい。幼女はハジメから目を逸らすと、シアが持っていた串焼きの包みをロックオンした。

 

 シアが早速食べさせようとするが、衛生状態が悪化している以上、食べ物を与えても逆効果になってしまう。ハジメは彼女を制止すると、幼女に話しかけた。

 

「君、名前は?」

「ミュウ……ミュウ・マリーディアなの」

「そうか、いい名前だな。俺はハジメだ。こちらはシア。あの串焼きが食べたいなら、まずは体を綺麗にしよう」

 

 宝物庫から金属を取り出し、小さな湯船の形に錬成する。同じく取り出した綺麗な水を貯めると、生成魔法を練習する過程で生み出していた発熱する鉱石を入れて簡易的な風呂を作ってあげた。

 

「シア、ミュウのことを洗っておいてくれ。薬の投与もだ。俺は彼女の衣服を揃えてくる」

「分かりました!」

 

 ハジメはシアに殺菌作用のある薬を渡し、廃屋から出て表通りに向かう。ミュウの服を揃えて戻ってきた時には、ホカホカになったミュウが毛布にくるまれた状態でシアに抱っこされており、串焼きを美味しそうに食べていた。

 

「ハジメさん。とりあえず元気にはなりましたよ」

 

 シアがミュウのまだ湿り気のある髪を撫でながらハジメに報告をする。ミュウもそれでハジメの存在に気がついたのか、はぐはぐと口を動かしながら、再びハジメを見つめ始めた。良い人か悪い人か判断をしているのかもしれない。

 

 二人はミュウに乳白色のワンピースを着させ、サンダルを履かせる。子供用の下着もきちんと買ってきており、店員の目が非常に気になったと報告させてもらおう。

 

「で、今後の事だが……」

「ミュウちゃんをどうするかですね……」

 

 二人が自分の事を話していると分かっているようで、上目遣いでシアとハジメを交互に見るミュウ。とりあえず、彼女の事情を聞くことにした。

 

 結果はハジメ達の予想とほぼ同じだ。ある日、海岸線の近くを母親と共に泳いでいたらはぐれてしまい、出くわした人間族の男達によって誘拐されてしまったらしい。

 

 その後、幼子には辛い長旅をさせられ、ここに来てからは薄暗い牢屋の中に閉じ込められた。自分以外にも多くの人間族の幼子がおり、毎日数人ずつ連れ出されて帰ってくることはなかった。年上の少年が見世物になって客に値段をつけられて売られるのだと言っていたらしい。

 

 そして、ミュウが売られる番が来たのだが、その日は偶然にも下水道の整備をしていたために地下水路への扉が開いており、懐かしい水音を聞いた彼女は勇気を出して飛び込んだ。汚水という劣悪な環境を我慢して懸命に泳ぎ、逃げ切ることができた。

 

 しかし、慣れない長旅に加えて誘拐されたことによる過度なストレス、全く与えられない上に不味い食料、汚水という悪環境により、彼女は限界を迎えて気絶してしまったのだ。

 

「なるほど、奴隷のオークションか。それも非合法な裏社会のオークションときた。看過できるものではないな……」

「どうしますか、ハジメさん?」

 

 シアが辛そうに、ミュウを抱きしめる。その瞳には何とかしたいという光が宿っていた。亜人族は、捕らえて奴隷に落とされるのが常だ。その恐怖や辛さは、シアも家族を奪われていることからも分かるのだろう。

 

 だが、ハジメは首を振った。

 

「しかし、俺達が勝手に動くわけにはいかない。相手が犯罪組織である以上、警察機関に通報してミュウを預けることが不可欠だ」

「でも、そんな悠長なことをしていたら……」

「だが、俺達が勝手に動くことで状況が悪化するかもしれない。取り逃がしがあれば犯罪組織が地下に深く潜り、警察による捜査が難航する可能性がある。そうなれば、治安の悪化は避けられない」

 

 これはあくまでもフューレンの問題なのだ。部外者が下手に横槍を入れ、現地の警察が地道に積み重ねてきた捜査を破壊するようなことがあれば、犯罪組織の暗躍をこれまで以上に許す事態となってしまう。

 

「シアの気持ちはよく分かる。家族と引き離されたり、奪われたりすることの辛さは俺も知っている……俺も、本当なら今すぐにでも犯罪組織を潰しに行きたいのだが……」

 

 ハジメは拳を強く握り締める。ハジメもシアと同様に犯罪組織には怒りを感じていた。ハジメは実際に家族から引き離されたことがあるし、家族同然の存在を奪われたことだってある。しかし、感情だけで動いてしまえば後々になって取り返しのつかないことになるだろう。

 

「な、なら、この子だけでも私達で故郷まで連れていきませんか? どうせ、そちらの方面には向かいますし……」

「それはそれで問題になる。誘拐された海人族の子供を連れていたら、俺達が誘拐犯扱いだ。せめて、公的な機関を通しておかなければ……」

「うぅ、はいです……」

 

 シアはこの短時間でミュウに対してかなりの情が湧いてしまったらしい。不穏な空気にミュウもシアに抱きついているし、懐かれているようだ。

 

 ハジメの言うことは非情に感じられたが、冷静になって考えてみれば正しいことしか言っていない。シアは肩を落として頷くことしかできなかった。

 

「ミュウ、これから俺達は警察のところまで行く。君のことはそこで相談することになる」

「……お兄ちゃんとお姉ちゃんは?」

「分からない……行ってみないことには……」

 

 そこでお別れの可能性しかあり得ないのだが、警察へ行くまでに駄々をこねられても困るので、そこは伏せておく。

 

 そして、保安署(警察署的な施設)までミュウを連れてきた二人。事情説明を受けた保安員は険しい表情をすると、今後の捜査やミュウの送還手続きに本人が必要であり、ミュウを手厚く保護して署で預かる旨を申し出た。本部からすぐに応援が来るそうで、ハジメ達はお役御免だった。

 

 しかし、ミュウは……

 

「やっ! お兄ちゃんとお姉ちゃんがいいの! 一緒にいるの!」

 

 案の定、駄々をこねてしまう。窮地を脱した先で奇跡的に出会えた信頼できる相手から離れたくないのだろう。しかし、ルールはルールなので説得を試みる。

 

「ミュウ、君は強い。ここで少しだけ暮らすことになるが、君なら我慢できるはずだ。ここで良い子にしていれば、必ず帰れる……」

「やっ! だったらミュウは悪い子でいいの!」

「なら、良い子にしていたら俺達が会いに行くというのはどうだ?」

「また会えるの?」

「あぁ、良い子にしていればな。約束だ……」

「分かったの!ミュウ、良い子にするの!」

 

 ミュウの説得には成功した。ずっと一緒にいてやることはできないが、会いに行くことは可能である。フューレンに滞在中は勿論のこと、彼女が無事に帰った後、エリセンに立ち寄るつもりだった。

 

 二人はミュウを保安員のおじさんに引き渡すと保安署を去っていく。また会いに行く予定だったが、それでもシアは心配そうな表情で何度も振り返っていた。

 

 やがて保安署も見えなくなり、かなり離れた場所に来た頃、沈んだ表情のシアにハジメが何か声をかけようとした。と、その瞬間……

 

ドォガァアアアン!!!!

 

 背後で爆発が起き、黒煙が上がっているのが見えた。その場所は先ほどまでいた保安署であり、ミュウがいるはずの場所だ。

 

「ハジメさん、あそこは!」

「あぁ、そのようだ……」

 

 二人は、互いに頷くと保安署へと駆け戻る。タイミング的に最悪の事態が脳裏をよぎった。ミュウを拐った犯罪組織が、証拠隠滅のために保安署を爆破するという暴挙に出た可能性を。

 

 保安署にたどり着くと、建物の扉や窓ガラスが吹き飛んで表通りに散乱していた。警戒しつつ踏み込んでみれば何人もの保安員が倒れこんでおり、その中には先ほどのおじさんもいた。

 

 何とか意識を保っていたおじさんによれば、爆発で大勢の怪我人が出て混乱していたところ、謎の集団が突入してきてミュウを拐っていったのだという。そして、シアが一枚の紙を見つけていた。

 

「ハジメさん、この紙を見てください!」

 

 そこに書いてあったのは、ミュウを死なせたくなければシアを連れて指定した場所に来いという旨の内容で、要するにミュウを利用してシアを手に入れようとしているのだ。

 

「ハジメさん! 私!」

「分かっている。取りあえず指定された場所に行こう。構成員を捕まえて尋問でもしてやろう」

 

 ハジメとシアは飛び出していく。奴らは知ることになるだろう。自分達が恐ろしい相手に喧嘩を吹っ掛けてしまったということを。

 

 

 

 

 

「で、今に至るわけだ」

「で、じゃないだろ!どうしてデートしていたら犯罪組織とかち合うことになってんだよ!」

 

 ハジメの説明を聞いて清水は頭を抱えていた。今、彼らがいるのは冒険者ギルドであり、指定された地点で蹂躙を繰り広げ、清水達と合流した後はイルワの力を借りるためにギルドへ向かったのだ。

 

 例の地点にはミュウはいなかった。その代わりに武装した大勢のチンピラがおり、ハジメを殺してシアをいただく算段だった。だが、結果はお察しの通りである。

 

 チンピラの何人かは生け捕りにしていて、グルグル巻きにされた状態でギルドの床に転がっている。彼らは尋問を受け、犯罪組織と戦うための情報源にされる予定だ。

 

「お父様、いつもトラブルに巻き込まれているような……」

「これは、面倒なことになったのう……」

 

 相変わらずのトラブル体質である。ユエやティオの誘拐計画もあったらしいので、ハジメがというよりかはハジメ達がトラブル体質の塊だった。

 

「本当に君達を見ていると飽きないよ。君達を支援して正解だったね」

 

 すると、報告を受けたであろうイルワがギルドの奥から出てくる。たった一日ぶりの再会である。

 

「おそらく、君達に喧嘩を吹っ掛けたのはフリートホーフかもしれない。私達も全容は把握できていないけれど、都市でかなりの勢力を誇っている」

「イルワ、俺達はそのフリートホーフとやらを壊滅させるつもりだ。できれば、冒険者ギルドに協力を依頼したい」

「別に、君達なら単独で瞬きする間に壊滅できそうじゃないかい?」

「できなくはないだろうが、奴らを取り逃がせば治安が悪化してしまう。そこで、逃げ出した構成員を捕縛するために人を回してほしい」

「そのくらいならお安い御用さ」

 

 イルワはフリートホーフの構成員を捕まえる最後の網として冒険者を送ることを約束してくれた。ハジメ達が潰し、逃げ出した構成員を待機していた冒険者が捕まえるという構想だ。

 

「そして、清水。君には捕虜にしたチンピラの尋問をお願いしたい。君の闇属性魔法なら、多くの情報を引き出せるはずだ」

「分かった。良い魔法の練習になりそうだ」

 

 そして、清水による尋問で引き出した情報を元にフリートホーフを潰す計画が短時間で立てられていく。イルワが信頼しているという冒険者達も集まり、フリートホーフが壊滅する時が迫りつつあった。

 

「では、作戦開始だ。皆、異論はないな?」

 

 無言で全員が頷いた後、立てた作戦に基づいて行動を開始する。ハジメとユエ、ティオとシアの二チームが攻撃を担当し、清水は遊撃しつつ敵の尋問を行い、冒険者達が付近で待機して構成員を待ち構えるという役割分担である。ハジメとシアが別れたのは、ミュウを見つけた時に顔見知りがいた方がいいという考えからだ。

 

 これは、商業都市の裏社会の勢力図が一日で塗り変わった出来事として記憶され、後に〈フューレンの変〉と呼ばれることになる事件の始まりであった。




ミュウの名字として設定したマリーディアは、スーパーメトロイドに出てくる地下水脈エリアの名前です

次回は久しぶりの生身戦闘になる予定
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