鳥人族の後継者は世界最強   作:ウエストモール

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戦闘とセリフが完全にイコライザーになってしまった


53話 フリートホーフ最後の日

 商業区の中でも外壁に近く、観光区からも職人区からも離れた場所。そこは公共機関の目の届かない裏社会であり、大都市の闇だ。昼間でも薄暗い雰囲気であり、道行く人々もどこか陰気な感じだった。

 

 そんな裏社会の一角に七階建ての大きな建物があった。表向きは人材派遣を商いとしているが、裏では人身売買の総元締をしている裏組織“フリートホーフ”の本拠地である。

 

 本来なら静かで不気味な雰囲気を放っているのだが、今に関しては慌ただしく人々が出入りしていた。その量は普段の数十倍であり、潜入するのにはもってこいだ。

 

 本拠地にて大勢がバタバタする中を、ローブで全身を覆った長身と小柄のコンビが進んでいく。人を避けながら進み続け、ついには最上階の部屋の前に立った。その扉からは男の野太い怒鳴り声が廊下まで漏れ出している。

 

「ふざんけてんじゃねぇぞ! アァ!? てめぇ、もう一度言ってみやがれ!」

「ひぃ! で、ですから、潰されたアジトは既に五十軒を超えました。襲ってきてるのはたったの五名です!」

「じゃあ、何か? たった五人のクソ共にフリートホーフがいいように殺られてるってのか? あぁ?」

「そ、そうなりまッへぶ!?」

 

 フリートホーフのボスであるハンセンは伝令の男を殴り倒した。彼はたった五人に自らの組織が蹴散らされていることに苛立っていた。

 

「てめぇら、何としてでも、そのクソ共を生きて俺の前に連れて来い。生きてさえいれば状態は問わねぇ。このままじゃあ、フリートホーフのメンツは丸潰れだ。そいつらに生きたまま地獄を見せて、見せしめにする必要がある。連れてきたヤツには、一人につき五百万ルタを即金で出してやる!」

 

 室内にいる複数人の構成員にハンセンは号令する。彼らはボスの命令を組織の隅々まで伝えるため、部屋を出ていこうとしたのだが、外にいたフードを着た者達が扉を蹴破って突入してきた。

 

「ここが、フリートホーフの本拠地で間違いないか?」

「何だてめえ!?」

 

 ハジメとユエは素早くフードを取り去る。二人の容姿は目立つものであり、ハンセンはすぐに正体に気付いた。

 

「てめぇら、例の襲撃者の一味か……そっちのチビはユエとかいったか。なるほど確かに見た目は極上だ。おい、今すぐ投降するなら、命だけは助けてやるぞ? まさか、フリートホーフの本拠地に手を出して生きて帰れるとは思……」

 

ビュンッ!!

 

「があっ!?」

 

 その瞬間、ハジメの手からナイフが飛ぶ。ハンセンの首筋を切り裂き、そこから鮮血を飛び散らせた。そのまま、彼はぶっ倒れる。

 

 その瞬間、チンピラ達が襲いかかってきた。

 

「クソが!」

 

 チンピラの一人が手斧を振り下ろしてくるが、それを避けて後ろへ回り込むとヘッドロックを仕掛けて身動きを止め、近くの卓上にあったアイスピックを掴み……

 

「や、やめっ!?」

 

 それをチンピラの眼球に深々と突き刺した。急所の一つである目は脳と直結しており、その部分だけ頭蓋骨に穴が空いていることから、脳にダメージが直接入る場所だ。当然、チンピラは死んだ。

 

「おらっ!」

 

 そこへナイフ持ちが突進してきた。ハジメは先ほど殺した奴を捨て置くと、突き出されたナイフを一瞬で奪い取り、チンピラの胸に突き立てる。

 

 そして、ナイフを引き抜いてチンピラを突き飛ばすと、反対側から来ていた素手のチンピラが振り下ろす腕を捻り上げ、ナイフで頸動脈を切り裂いた。

 

「うおぁぁぁぁ!?!?!」

 

 すると、胸を真っ赤に濡らした先ほどのチンピラが錯乱して何も考えずに突っ込んでくるが、ハジメは冷静に腹部と首筋を素早く連続で刺して仕留めた。

 

 チンピラ達は誰もハジメに掠り傷を付けることすら出来ず、流れ作業のように全員がほぼ一撃で屠られていく。殺傷するのに特化した攻撃が正確に急所へ叩き込まれており、効率的に処理されていた。

 

 無論、こんなに暴れていて存在がバレないはずはなく、階下からドタドタと大勢のチンピラが向かってくる足音が響いてくる。だが、彼らがボスの元へ駆け付けられることはないだろう。

 

「ユエ、後ろは頼む」

「ん、任せて」

 

 ユエは火属性魔法で階段を消滅させ、迫り来るチンピラ達を立ち往生させる。そして、多数の電撃を降り注がせて一方的に容赦なく滅していった。

 

 義娘が外のチンピラを引き受けている間に、床に倒れて首筋から血を流し続けているハンセンに歩み寄り、近くでしゃがみ込む。

 

「俺の質問に答えろ」

「助けてくれ……金なら好きに持って行っていい……もう、関わったりはしない……」

「ミュウという海人族の子を知っているか?」

 

 ハンセンはそれを聞かれて思い至ったのか、朦朧としつつある意識の中で必死に答えた。どうやら、今日の夕方頃に行われる裏オークションの会場の地下に移送されたようだ。

 

「そうか、ありがとう」

「た、助け……医者を……」

「それは無理だ。罪無き人々の人生を食い物にしてきたお前は、死への恐怖に怯えながら死ぬのがお似合いだ」

 

 彼を助けるつもりはない。フリートホーフ、そしてハンセンによって犠牲になってきた人々も、死に怯えながら死んでいったのだ。

 

「ま、待っ、コホッ……」

「かなり出血が進んでいるな。それにより心拍数が上がり、数十秒もすれば体の機能が停止し、お前は窒息死するだろう」

 

 ハジメは死にかけているハンセンの目の前でどのように彼が死ぬのかを無情にも淡々と解説していく。

 

「お前は汚い床の上で死ぬことになる。俺達に手を出したせいでな」

 

 やがて、ハンセンは絶命した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 情報を得たハジメとユエは、仲間に連絡を入れた後にオークションの会場へと急行していた。このままではミュウが売られてしまうため、早く救出する必要があった。

 

 オークションの会場前には黒服を着た二人の巨漢が門番として立っており、ハジメなら余裕で倒せるが、こちらの存在が露見したらミュウが移送される可能性があるため、錬成で地下から潜入することにした。

 

 やがて、穴が繋がった先で最初に見たものは無数の監獄だった。入り口に監視はいるがやる気がないのか居眠りしており、目覚めたら困るので首の骨を折って始末する。

 

 監獄の中には子供達が何十人もおり、冷たい石畳の劣悪な環境の中で身を寄せ合って蹲っていた。十中八九、今日のオークションで売りに出される子供達だろう。

 

 基本的に人間族の多くは聖教教会の信者であることから、そのような人間を奴隷や売り物にすることは禁じられている。しかし、神を裏切った犯罪者はその例外として奴隷化や売買が許されているのだが、目の前の子供達が犯罪者だとは思えない。違法に捕らえられて売り物にされているのは確定だ。

 

 ハジメは、突然入ってきた人影に怯える子供達と鉄格子越しに屈んで視線を合わせると、静かな声音で尋ねた。

 

「ここに、海人族の女の子は来たか?」

 

 てっきり、自分達の順番だと怯えていた子供達は、予想外の質問に戸惑ったように顔を見合わせる。しばらく沈黙を貫く子供達だったが、ユエが優しく声をかけてあげると、安心したのか一人の少年が答えてくれた。

 

「えっと、海人族の子なら少し前に連れて行かれたよ……お兄さん達は誰なの?」

「助けに来た。もう少しの辛抱だ、君達も家に帰れるぞ」

「えっ!? 助けてくれるの!」

 

 ハジメの言葉に、少年は驚愕と喜色を浮かべて大声を出す。他の子供達も喜びを露にして歓声を上げているが、こんなに五月蝿くても監視が起きることはない。そして、ハジメは錬成で鉄格子を分解して解放してあげた。

 

「ユエ、子供達を頼む。俺はこれから暴れることになる」

「ん……任せて」

「行ってくる」

 

 ハジメは地下牢から錬成で上階への通路を作ると子供達をユエに任せてオークション会場へ急ごうとしたが、そこで先程の少年がハジメを呼び止める。

 

「兄ちゃん! 助けてくれてありがとう! あの子も絶対助けてやってくれよ! すっげー怯えてたんだ。俺、なんも出来なくて……」

 

 少年は自らの無力さに俯く。彼は異種族にも関わらずにミュウを励まそうとしていたらしく、自分も捕まっていたというのに中々根性のある少年だ。ハジメは、そんな彼の頭をわしゃわしゃと撫で回した。

 

「わっ、な、なに?」

「できることからやればいいさ。鍛えれば強くなれる。今は、俺に任せてくれ。そのために俺がいる」

 

 それだけ言うと、ハジメは踵を返して地下牢を出て行った。呆然と両手で撫でられた頭を抑えていた少年は、次の瞬間には目をキラキラさせて少し男らしい顔つきでグッと握り拳を握った。ユエは、そんな少年に微笑ましげな眼差しを向けると、子供達を連れて地上へと向かった。

 

 

 

 

 

 表向きには美術館とされている建物が裏オークションの会場だった。中には百人程の仮面をつけた客がおり、素性が分からない状態となっている。彼らは、目当ての商品が出てくる度に番号札を静かに上げていく。

 

 素性がバレないように沈黙を保っている彼らだったが、ある商品が出てきた瞬間、思わず驚愕の声を漏らした。

 

 それは、海人族の少女であるミュウだった。彼らが声を漏らすのも当然だろう。何故なら、海人族は王国によって公式に保護されている種族であり、それが商品にされているなんてあり得ないからだ。

 

 ミュウは二メートル四方の水槽に裸で入れられており、水槽の隅で膝を抱えて縮こまっている。海人族は水中でも呼吸出来るので、本物の海人族であると証明するために入れられているのだろう。一度逃げ出したせいか、今度は手足に金属製の枷をはめられている。小さな手足には酷く痛々しい光景だ。

 

「お兄ちゃん……お姉ちゃん……」

 

 多数の視線に晒され、ミュウは怯える。自分の今後を想像して不安に押し潰されそうな彼女が思い浮かべたのは、ハジメとシアの姿だった。

 

 そして、思う。オークションで売られそうになっているのは、自分が悪い子だからなのではないかと。あの時、良い子にしていればハジメ達に会えると約束されたのだ。今から良い子にするから、またハジメとシアに会いたい。それがミュウの願いだった。

 

 やがて、縮こまって動かないミュウの姿を見て、仮面の黒服が怒鳴りながら水槽を蹴り始める。値段を吊り上げるために泳いでいる姿を見せたいらしいが、そんなことでは逆効果だろう。当然、ミュウはますます動かなくなった。

 

「全く、辛気臭いガキですね。人間様の手を煩わせているんじゃありませんよ。半端者の能無しのごときが!」

 

 それでも動かない姿に、司会の男が悪態をつく。男は長い棒を持ってくると、脚立に登って水槽の中に棒を差し込み、あろうことかミュウを突き飛ばした。ミュウのことを棒で突いて動かそうというのだ。

 

「いやっ!」

 

 男はミュウのことを何回か突く。彼女が弾かれまいと踏ん張っていたため、強引に動かすべくかなりの強さで棒を突き下ろす。当たり所によっては死ぬかもしれない一撃が迫り、ミュウはギュウと目を瞑り、衝撃に備える。

 

 だが、やってくるはずの衝撃の代わりに届いたのは……聞きたかった人の声だった。

 

「この外道が」

 

 次の瞬間、天井から舞い降りた人影が司会の男の頭を踏みつけると、足裏からジェット噴射を浴びせかけ、頭部をこんがりと焼き上げる。男は元の顔が分からない程の無残な姿で死に絶えて落下した。

 

 天井から現れた男、ハジメは水槽の傍らに降り立つと、力場を纏った拳でガラスを殴り付け、一撃で粉砕する。透明な多数の破片と共に中の水が一気に流れ出し、縮こまるミュウだけが残された。

 

「お兄ちゃん!」

「ミュウ、助けに来たぞ」

 

 ハジメはびしょ濡れのミュウを抱える。彼女はまん丸の瞳を潤ませると、ハジメの首元に抱きついて嗚咽を漏らし始めた。無言で小さな背中をポンポンと叩くと、そのまま毛布で包んでやる。

 

 だが、水を差すように黒服を着た男達がハジメとミュウを取り囲んだ。その手には手斧が握られている。客席は何とかなるだろうと思っているのか、未だ逃げ出す様子はない。

 

「クソガキ、フリートホーフに手を出すとは相当頭が悪いようだな。その商品を置いていくなら、苦しまずに殺してやるぞ?」

「遺言はそれだけか?」

 

 ハジメの返しに黒服は額に青筋を浮かべ……

 

「舐めやがって!商品に傷を付けるな、ガキは殺してしまえ!」

 

 リーダー格の号令で二十人程の黒服が手斧を振りかざして向かってくる。ミュウが不安そうにハジメを見上げるが、全く恐れていない様子を見て安心し、完全に体をハジメに預けた。

 

 次々と襲ってくる黒服軍団だが、ハジメは片腕だけで全ての攻撃を捌き、回し蹴りや前蹴り、後ろ蹴りを織り混ぜた蹴り技の連続で倒していく。

 

 鳥人族の遺伝子由来の強靭な脚力から繰り出される蹴りは、普通の人間からすれば一撃必殺クラスの威力があり、アーマーを着た敵すら叩きのめせる。それを受けた黒服は例外なく地面に伏せることになった。

 

 やがて、立っている者はハジメだけとなる。周囲には多くの黒服が倒れており、客達は仮面を付けているにも関わらず、明らかに動揺が滲み出ていた。ハジメはそんな彼らの方を向いて睨むと……

 

「オークションは終わりだ。永遠にな」

 

 ついでに客達も色々と終わりになるだろう。実際、客の中にはそれなりの社会的地位にあるものも多かったりする。

 

「ミュウ、こんなところから出よう」

「うん……」

 

 ハジメはミュウを抱えたまま、動揺する客達の間を素通りして会場から出ていく。それと入れ替わるように冒険者達や盾と棍棒を持った保安署員が会場へ踏み込んできた。

 

「全員、動くな!」

「検挙しろ!」

 

 客達に為す術はない。冒険者と保安署員によって一網打尽に検挙され、全員仲良くお縄につくことになった。




次回でフューレンでのお話は最後です。ようやくホルアドにリターンできそう……
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