鳥人族の後継者は世界最強   作:ウエストモール

66 / 79
檜山の運命やいかに……


58話 戦いの行方と後始末

ドパンッ!ドパンッ!ドパンッ!

 

ドガッ!ドガッ!ドガッ!

 

 迷宮の奥底にて発砲音が木霊する。そこには、互いに放った弾を相殺しながら真正面から距離を詰めていく二体のパワードスーツの姿があった。

 

 至近距離まで迫る二人。ハジメがショルダータックルを繰り出すが、檜山は凄まじい速度でそれを避けるとハジメの背後に回り込んできた。

 

「死ねぇ!」

 

 背後からハジメの首筋に向けて振るわれるエネルギーブレード。狙いは悪くない。関節部は構造の問題で防御が薄いからだ。致命傷まではいかなくとも、大きなダメージが期待できた。

 

 しかし、背後に回られたくらいで負けるハジメではない。檜山がわざわざ自分の位置を知らせるような真似をしたこともあり、結果は一目瞭然だ。

 

 背後からの一撃をしゃがんで避け、その場で回転して足払いを仕掛ける。足元を掬われた檜山は仰向けに転倒し、チャージ中のアームキャノンが目前に突き付けられた。

 

 直後、檜山は横に転がった。先ほどまでいた場所にチャージビームが着弾し、岩盤に決して小さくはない穴が穿たれる。

 

 すぐに二射目が飛来するも、檜山はエネルギーブレードでそれを一刀両断し、そのままハジメへと迫る。

 

 檜山が放つ苛烈な近接攻撃の数々を、ハジメは冷静に捌いていく。以前の戦いとそこまで違いがないかと思われるが、実際には全く異なる。

 

(こいつ、前よりも速くなっている……)

 

 全く捌けない程ではないのだが、以前ほどの余裕はなくなっていた。明らかに檜山の動きが速いのだ。実際、ブレードの先端が何度か掠っており、パワードスーツが火花を散らしていた。

 

「檜山、お前……何をした?」

「へへ、気付いたようだな。俺はなぁ……以前の俺とは違うぜ。てめえを倒すためにな、色々と改造してもらったんだよ」

「何!?」

 

 次の瞬間、振り下ろされたエネルギーブレードとアームキャノンの砲口が接触し、鍔迫り合いのような状態となる。

 

〈スキャンバイザー、オンライン〉

 

「これは……檜山、人間を辞めたのか?」

 

 鍔迫り合い中に檜山をスキャンしてみると、とんでもないことが明らかになった。それは、肉体の多くが人工物に換装され、パワードスーツと完全に融合しているという事実だった。

 

「そうだぜ、南雲。俺はサイボーグになったんだよ。強くなれるエネルギーも追加で注入してもらってよお……てめえを倒し、白崎を手に入れるためなら俺は人間だって辞めてやるぜ」

「お前は、そんなことのために人間を辞めたのか!」

 

 ハジメは怒りをあらわにするのだが、それには理由があった。

 

「世の中には、望まずして人間を辞めさせられた者がいる……意図せずして化け物と同様な力に目覚めてしまった者、それを持って産まれてしまった者もいる。皆、それに苦しみながらも生きている……」

 

 ハジメは人外の力を意図せずして持つことになった者達を知っていた。それはユエとシア、清水の三人だ。彼らがそれに苦しんでいたことも理解していたハジメは、私利私欲のために自ら人間を辞めた檜山のことが許せなかった。

 

「お前は自分の私利私欲のため、自ら人間であることを捨てた。仲間のためにも、お前の存在は認められない」

 

 ハジメはチャージビームを放ち、エネルギーブレード諸とも檜山を吹き飛ばす。そこへ間髪入れずに追撃するハジメだったが、檜山がサイボーグとしての力を発揮する。

 

「面白いものを見せてやるぜ」

 

 檜山は上半身を分離させ、迫り来るチャージビームを回避する。そして、浮遊したままエネルギーブレードでハジメへと斬りかかった。

 

 エネルギーブレードでビームを切り払いながら、迫る檜山。このまま白兵戦に突入するのだが、そこに妨害が入った。

 

ドパンッ!

 

「チッ……」

 

 ハジメに向けて銃弾が飛来する。犯人は檜山の下半身が変形した戦車のようなマシンであり、彼の飛び道具がそのまま搭載されている。

 

 単体ではどうにもならないと判断した檜山は、上半身と下半身の連携によってハジメに二正面作戦を強いることにした。

 

 単純に倍になっただけではない。上半身と下半身は共に檜山自身であり、離れていてもタイムラグなしに連携できる。他人同士ではミスが起こりうるところを、完璧にこなしてしまえるのだ。

 

「どうだ、南雲!これが俺の力だ!」

 

 二体を同時に相手することになり、流石のハジメも当初よりかは苦しそうだ。片方の相手をすれば、もう片方がイヤらしいタイミングで横槍を入れてくるのだから。

 

 しかし、その程度ではハジメは倒せない。

 

「たしかに厄介だ。だが……」

 

〈グラップリングビーム、オンライン〉

 

 正面から迫る檜山。同時に死角より飛来する銃弾を飛び退いて回避しつつ、左腕からロープ状のビームを放って檜山を拘束する。

 

 そして、左腕に力を込めて思い切り檜山を振り回し、離れた場所にいる彼の下半身に向けて叩きつけた。

 

「がぁ!?」

 

〈アイスビーム、オンライン〉

 

 そこへ間髪入れずにアイスビームを発射し、檜山の上半身と下半身を同じ氷塊の中に閉じ込めてしまう。これで厄介な分離は一時的に封じられた。

 

〈シーカーミサイル、オンライン〉

 

 最後にシーカーミサイルを放つ。計五発の強力な小型ミサイルがほぼ同じタイミングで氷塊に着弾し、大爆発が起こった。

 

「クソッ……クソが!!」

 

 大爆発の後から出てきたのは、ボロボロになった檜山だった。分離合体する機構がイカれてしまったのか、上半身だけで這いずる格好だ。すでにヘルメットも吹き飛んでいる。

 

「てめぇさえいなければ……白崎は俺のものだったはずだ! ふざけんじゃねえ、てめぇがいるから白崎が手に入らない……てめぇは……」

「その汚い口を閉じろ」

 

 檜山が身勝手なことを抜かす。これ以上檜山に好き勝手発言させても不快であり、香織の精神にも良くなさそうというか……聞かせたくなかったので、ドスの利いた声で強制的に黙らせた。

 

「檜山、お前は勘違いしている。白崎さんはお前のものではない」

「なら、てめぇのものだというのか?」

「それも違う。白崎さんは誰のものでもない。彼女は彼女自身のものだ。外野がどうこう言えるものではない」

 

 香織がモノのように扱われていることをハジメは許せなかった。人の意思は尊重されるべきで、他人が勝手に決めることはできない。それがハジメの思想である。

 

「お前は白崎さんを何だと思っている。彼女はモノではない……一人の人間だ。お前の発言は彼女への侮辱に等しい」

「ハジメ君……」

 

 ハジメは一人の男として香織に惚れているが、性別関係なく彼女の人間性にも惚れていて、ある種の尊敬のようなものもある。それ故、彼女を侮辱されることに対して腸が煮えくり返るような思いを感じていた。

 

「お前を生かしてはおけない」

「ま、待ってくれよ……」

 

 檜山の顔は恐怖に染まっている。額からは血と共に汗がダラダラと流れており、本気で死を恐れているようだ。

 

「お前が殺してきた者達もきっと、お前と同じような表情をしていたはず。罪無き人々が味わってきた死への恐怖を知れ」

 

 相手が元クラスメイトとはいえ、平和に仇なす存在に対してハジメは容赦しない。それが銀河の守り手としての使命であり、彼のやるべきことだからだ。

 

 アームキャノンにエネルギーがチャージされ、砲口が輝く。それは敵対者を恐怖させる死の光。直後、最大威力のチャージビームが檜山の胴体をぶち抜いた。

 

 静寂が辺りを包む。数々の悪事を起こし、人間すら捨てた檜山であったが、自分達の知るクラスメイトであることには変わらないので、彼の死にショックを受けた者も多い。

 

 檜山とよくつるんでいた子悪党三人組は特にショックが強いらしく、しばらく立ち上がることすらできない状態だった。

 

「なぜ、クラスメイトを殺したんだ。殺す必要があったのか……」

 

 そして、静寂の満ちる空間に押し殺したような光輝の声が響く。気絶していたはずの彼は目覚めており、檜山が死ぬ瞬間を丁度目撃していたようだ。

 

 ハジメに対して色々と言いたげな様子であり、もしも体力が回復していたら真っ先にハジメに詰めよっていただろう。

 

 そして、ハジメの方へ駆け出す誰かがいた。

 

「ハジメ君!! ……きゃあ!?」

 

 それは香織だ。先ほどまでフラフラしていたのも忘れて駆け出したので、地面の突起に躓いてしまい、そのまま宙に投げ出されるのだが……

 

「白崎さん、大丈夫か?」

「あ、ありがとう……ハジメ君」

 

 香織はハジメによって抱き止められる。彼女の心拍数が急上昇し、顔が真っ赤に染まった。

 

「遅れてすまなかった。約束通り、俺は白崎さんの所まで帰ってきた」

「よかった……本当によかったよ……ハジメ君が生きていてくれて……私、あなたの生存を信じて……」

 

 そして、香織が感極まって泣いてしまう。ハジメはパワードスーツを解除すると、嗚咽を漏らしながら涙をこぼしている彼女を抱き締め、一言囁いた。

 

「ただいま、白崎さん……」

「おかえりなさい、ハジメ君……」

 

 二人を邪魔する者はここにはいない。斯くして、ハジメと香織の再会は成った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ティオさん、メルド団長の容態は……」

 

 戦いの後、ハジメ達は救護活動を開始した。真っ先に取り掛かったのは、辛うじて生きていたメルド団長の治療である。

 

「とても危険な状態であった。我が種族に伝わる秘薬を使わなければ、惜しい人物を亡くしていたであろうな」

「すまない、貴重な薬を使わせてしまった」

「構わぬ。彼は人間族とはいえ、優れた戦士であると共に人格者であると聞いておる。今後のことを考えても、生かす方が得であると判断したまでのことよ」

 

 秘薬というのは、竜人族の里のとある泉より湧き出ている特殊な水のことである。その発生源は泉の奥深くに沈む、大地を流れる魔力が千年かけて結晶化した鉱石だ。そこから湧き出る液体は神水と呼ばれ、不死の霊薬として伝説になっていた。

 

 迫害から逃れてきた竜人族を救ったのは神水である。彼らは神水を秘薬として大切に保護しており、他種族に投与することなどあり得ないことなのだが、今後は他種族と和解することを見据えており、その一環として有望な人材を助けることにしたのだ。

 

「あぁ、それと例の魔人族だが……」

「彼女も辛うじて生きておった。少しでもズレていたら即死だったであろう。ただ、多少の障害が残るかもしれぬが……」

 

 なお、檜山に殺されたはずの魔人族も何故か生きていた。こちらも今後の和解を見据え、神水を使用済みだ。

 

「後ほど、ノクサスが回収に来る予定じゃ」

「そうか。それなら安心だ」

 

 彼女については同族に任せることにしてある。人間族や亜人族の管理下に置かれるよりは悪感情も抱かれにくいだろう。

 

「ハジメ君……メルドさんはどうなったの? 見た感じ、傷が塞がっているみたいだし呼吸も安定してる。致命傷だったはずなのに……」

 

 しばらくして、魔力回復薬を貰ってクラスメイト達の回復をしていた香織が、メルドの傍に膝を突いて詳しく容態を確かめながらハジメに尋ねてきた。

 

「特別な薬を使った。飲んだだけで瀕死から回復する程の代物だそうだ」

「そんなものがあったんだね……」

「白崎さん、他の皆の容態はどうだ?」

「取り敢えず、みんな動けるようにはなったよ。雫ちゃんも回復したし、誰も死ななくてよかった……ハジメ君のおかげだね」

 

 しかし、みんな動けるようになったということは、例のあの勇者までも回復したということでもある。案の定、彼はハジメに突っ掛かってきた。

 

「南雲! 今すぐに香織から離れろ!お前はクラスメイトを戸惑いもなしに殺すような奴だ!人殺しなんて、許されることじゃない!」

「ちょっと、光輝! 私達は助けられたのよ? そんな言い方は無いでしょう?」

「そうだよ、どうしてそんなことを言うの?」

 

 光輝の物言いに雫と香織が抗議する。それを切っ掛けにクラスメイト達の間でハジメの行為に対して論争が始まりかけたが、その前に張本人であるハジメが発言した。

 

「確かに、行為だけを見れば人殺しだ」

「人殺しを認めるんだな?」

「認めるも何も、事実なのは間違いない。だが、奴は殺されるだけのことをしてきた」

「それでも、檜山が更正できる可能性だってあったはず……」

 

 光輝は食い下がる。だが、彼は知らなかった。檜山がウルの町で先生に対して行った鬼畜の所業を。

 

「先生もお前と同じようなことを言っていた。先生は檜山に残る良心を信じていたが、それは無駄だった。奴は先生を騙し、その思いを利用し、あまつさえ先生を殺そうとした……」

「それは、どういうことだ?」

「そのままの意味だ。もはや、檜山に更正の余地など一ミリも残っていなかった。奴を殺すことについては先生も承認済み。お前は先生のことも非難するか?」

「そ、それは……でも、クラスメイトを戸惑いもなしに殺せるなんて危険人物だ! そんな奴を香織の側に置いておけない!」

 

 光輝はハジメを危険人物として扱い、どうしても香織から引き離したいようだ。戦争に参加した以上、自分達も人殺しの片棒を担ぐ可能性があり、香織も例外ではないというのに随分な物言いである。

 

「天之河……好き勝手言うのは構わないが、殺らなければ殺られていたのは俺達の方だ。お前は、奴を止められたか?」

「そ、それは……だが、南雲なら檜山を殺さずに取り押さえることだってできたはずだ……」

「身勝手なことを言うな。向こうは殺しに来ているんだ。明確な殺意を持っている相手を生け捕りにするのはリスクがありすぎる。下手すれば俺も死んでいただろう」

「でも、南雲は負けなかったじゃないか。南雲の強さなら、檜山のことだって無傷で……」

「だから、お前は身勝手なんだ!!」

 

 ついにハジメが声を荒らげて光輝を一喝する。その気迫に圧倒されたのか、光輝は黙り込んでしまった。クラスメイト達も、誰一人として言葉を発することができない。

 

「お前は結局、安全圏から勝手なことを言う部外者に過ぎない」

「いや、そんなはずは……」

「そうだろう。お前は実際に体を張っている当事者のことを考えず、自分のお気持ち優先で都合の良いことしか言わない」

 

 光輝の発言は、警官による犯人の射殺やハンターがクマを殺すことを非難している人と何ら変わらない。当事者は命懸けだというのに、お気持ちだけで安全圏から好き勝手言うのだから。

 

「まあ、俺は別に人殺しと呼ばれても構わない。大切な人を……仲間を守るためなら、手を汚してもいい。お前にその覚悟はあるか?」

「お、俺は……」

 

 それは、光輝に対してだけではない。この場にいる全てのクラスメイトに対する問いかけでもある。ここにいるのは戦争への参加を決めた者だけであり、敵を殺す宿命から逃れることはできないのだから。

 

 ハジメの覚悟に皆が息をのむ。彼の言葉の節々には同級生とは思えない程に重みがあり、クラスメイト達の心に深々と突き刺さっていた。そして、光輝は最後まで返す言葉が見つからなかった。

 

 今度こそ、オルクスで起きた一連の事件は幕を降ろした。だが、帰るまでが遠足である。ハジメ達は勇者パーティを護衛しながら、迷宮の外へ戻るべく移動を開始した。




この作品を読み返していたんですが、当初にお出しした一部の設定が死に設定と化していることに気づいてしまった……その場のノリで設定を生やしたせいですね……
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。