鳥人族の後継者は世界最強   作:ウエストモール

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60話 出発前のあれこれ

「おはよう、ハジメ君……」

「あぁ。おはよう、香織」

 

 太陽が地平線より顔を出した頃、窓から差し込む光に照らされて二人の男女が目を覚ました。昨日、正式に恋人となったハジメと香織である。

 

 一つ屋根の下、同じベッドの中で男女が二人きり。何も起きないはずはないのだが、一線を越えることだけはなかった。大事なことなので再び言おう、決して一線は越えていない。

 

 なお、ハジメの首筋には赤い痕があるのが見える。一方、香織の肌には傷一つなく、美白を保った透明感ある肌のままだ。

 

「昨日はごめんね。ハジメ君に一方的に何度もキスしちゃって……きっと、幻滅したよね……」

 

 昨晩、香織は同じベッドの中でハジメに密着し、彼に対してキスを繰り返していた。ハジメが抵抗することはなく、されるがままにしていた結果がこれである。

 

「いいんだ……香織は俺のことを長く待っていた。寂しい思いをさせてしまったのは俺の責任だ。これは、せめてものお詫びのようなものだ」

 

 だからこそ、ハジメは抵抗しなかったのだ。お返しに彼女へキスマークを付けるようなことはせず、ハジメは一方的なキスを受け入れた。

 

 キスマークは首筋に集中しており、人間の急所である。あまり他人に触れさせるようなものではなく、普段のハジメなら被弾を避けるはずだ。それでも首筋にキスするのを容認したのは、香織への信頼でもあった。

 

「ハジメ君……大好き。私にもキスしていいよ……キスマークが付いちゃうくらいに」

「か、香織にキスを……だが、君の肌に傷を付けるようなことは……」

「回復魔法があるから大丈夫だよ。もう、ハジメ君はこういうことには弱いんだから……戦いはあんなに強いのに、私には弱くなっちゃう。ハジメ君は可愛いね……」

 

 ハジメは男女の関係については初心な男だった。戦士として鳥人族の元で育った都合上、同年代の女子と関わることが無かった弊害である。

 

「分かった、一回だけだ。あまり出発まで時間がないのもそうだが、やはり恥ずかしい……」

「ふふっ……ハジメ君、おいで」

 

 香織の誘いで、ハジメは意を決して彼女に近づく。そして、彼女の額に優しくキスをした。

 

「むぅ、首筋じゃないんだね」

「すまない、俺にはこれが精一杯だ……」

「ありがとね、ハジメ君。私のお願いに答えてくれて……」

 

 優しく甘い時間が流れていく。だが、二人にはあまり長い時間が残されていなかった。何故なら、出発の時が近づいているからだ。

 

 二人が共に行くことに苦言を漏らすような奴がいるのもそうだが、王国側の人間にパワードスーツの存在が露見した以上、長居する訳にはいかないのだ。

 

 二人は衣服や荷物を整えると、宿の一室を後にする。仲間との集合地点に向かうと、そこには見送りのクラスメイトが何人か来ていた。

 

「やあ、南雲君。香織ちゃんと一緒に行くんだってね?」

「中村さんか」

 

 見送りに来たクラスメイトの一人は、眼鏡をかけた黒髪ボブの美人だった。以前、ハジメによって救われた中村恵里である。

 

「しかし、南雲君が生きていてよかったよ。香織ちゃんも限界が近かったみたいだし、僕だって恩人の安否を心配してたさ」

「恩人か……そこまでのことをしたつもりはないのだが」

「それ、本気で言ってるの? 本当に君はヒーローみたいだよ。アイツじゃなくて、南雲君が勇者だったらよかったんだけどね……」

 

 恵里は光輝のことが嫌いである。自分が凶行に走ってしまった原因の一つが彼であり、彼を手に入れようとしていた頃の自分を嫌悪していた。

 

 そして、自分を止めてくれたハジメには恩義を感じており、光輝とハジメの間でいざこざがあった際には、ハジメを擁護する場面があった。

 

「ああ、香織ちゃん。南雲君との関係、僕は応援しているよ。外野が何と言おうが、進む道を決めるのは香織ちゃん自身だからね」

「ありがとう、恵里ちゃん。それ、ハジメ君が言っていたことに似てるね」

「そりゃあ、彼からの受け売りだからね」

 

 ハジメが今は亡き檜山に怒り、その際に言い放った言葉は、恵里の心に刻み込まれていた。それ程、ハジメに対する尊敬は強いものだった。

 

「なあ、南雲。本当に行っちまうんだな」

 

 クラスメイトの二人目は遠藤浩介である。ハジメの救援が間に合ったのは彼のおかげで、今回のMVPは彼といって過言ではない。

 

「そうだ。俺達には使命があるからな」

「大きな声では言えないが、最終的に神を倒すんだってな……本当に凄えよ、南雲は」

「遠藤……お前も更に強くなれる素質がある。今すぐには難しいが、俺が育てた戦士達の所に連れて行ってもいい」

「それは本当か? 俺、その時を待ってるよ」

 

 ハジメは遠藤の中に強くなれる素質を見出だしていた。影の薄さを自由自在にコントロールできるようになれば、ハジメですら苦戦するような戦士となれるだろうし、気配を遮断できるハウリアとの交流は必要だろう。

 

「雫ちゃん……私、このパーティから抜けていいのかな……やっぱり、迷惑だよね」

「香織……そんなことはないわ。後のことは私達に任せなさい。私は貴方の幸せを願ってるから」

 

 当然、見送りには雫もいる。パーティの中核である自分が抜けることに罪悪感を覚えた香織を宥め、親友として背中を押してあげていた。

 

「雫ちゃん、ありがとう。そのうち、雫ちゃんの所に戻ってきて、元気な姿を見せるからね」

「行ってらっしゃい、香織……」

 

 二人は抱き締め合う。これが今生の別れというわけではないが、離れた場所へと旅立つのだ。しばらくの間、二人はそのままだった。

 

 そして、ハジメ達はジャガーノートに乗り込んで出発する。土煙を巻き上げながら走り去っていく乗り物が見えなくなるまで、クラスメイト三人は視線をその方向に向けていた。

 

 

 

「ハジメ君から話は聞いていると思うけど……白崎香織です。これからよろしくお願いします」

 

 走行中のジャガーノート車内にて、香織はハジメの仲間達と交流していた。これから旅に同行するのだから、当然のことだ。

 

「私はシアです! 師匠からカオリさんのことはよく聞いてますけど、想像通りの綺麗な人でした!」

「て、照れるね……シアさんはハジメ君の弟子なんだよね。ハジメ君についてどう思う?」

 

 シアによる直球の発言を受けて赤面しながらも、香織は彼女に対して彼女の師匠であるハジメの印象を尋ねた。

 

「そうですね……師匠は優しいですよ。それに、とても格好いいんです。初めて会って助けられた時なんか、英雄とはこういう人なんだろうなと思いましたし」

 

 それは、ライセン大峡谷でシアがゼーベス星人に追いかけられていた時のこと。帝国兵や魔獣によって家族を失いそうになり、助けを求めに行こうとしたらパイレーツと出くわしてしまったのだ。そこで現れたのがハジメであり、敵を蹴散らして彼女を救ってくれた。

 

「ふふっ、本当にあの時の師匠は格好良かったです……!」

「だよね、ハジメ君って格好いいよね! 私も助けてもらった時、そう思ったよ」

「ですよね、カオリさん!」

 

 シアと香織はハジメの格好良さで意気投合する。同じく絶体絶命の危機から助けてもらった者同士、通じ合うものがあったのだ。

 

 やがて、ティオと清水、ミュウの自己紹介も終わる。香織は、仮面の男が清水であったことに驚き、ミュウの境遇に衝撃を受けて悲しんでいた。そして、満を持してユエの番が来る。

 

「私はユエ……よろしく、カオリお母様」

「え、えっと、不束者ですが立派なお母さんになれるように……が、頑張ります!」

「ふふっ、お父様から聞いていた通りの人……」

 

 香織は急にユエからお母様と呼ばれてテンパってしまう。そもそも、彼女は地球の基準では未成年なのだ。お母さんという存在になることなんて想像したこともなかった。

 

「ねえ、ユエちゃん。私、もっとユエちゃんのことを知りたいな」

「ん、私もお母様のことをもっと知りたい」

 

 二人はハジメ経由でお互いのことを知っているだけであり、直接話すのはこれが初めてである。又聞きだけでは本当に理解したとはいえず、家族になるためには交流が必要だった。

 

 しばらく、二人だけでの会話が続く。又聞きだけでは知り得ないことが多く、二人の会話はかなり弾んでいた。

 

「へえ、ユエちゃんは魔法の天才なんだね。あの時の青い龍みたいな魔法も凄かったし、私にはあんなことできないよ」

「でも、お母様みたいに回復魔法はあまり得意じゃない。今度、使い方を教えてほしい」

「うん、いいよ。その代わり、効率のいい魔力の使い方とか教えてほしいな」

「ん、約束……」

 

 二人の交流は良好なものだった。互いに互いの得意なことを教えるという約束をし、取り敢えず仲良くなることはできた。

 

 

 

 

 

『そうですか……檜山大介は死にましたか。しかし、役には立ちました。良いデータが取れましたので……』

 

 檜山がハジメによって始末されたことはマザーブレインにも伝わっていた。だが、彼女が悲しむことはない。所詮は駒の一つに過ぎなかったのだから。

 

「まあ、アイツ程度じゃ奴には勝てねえだろうな。やっぱ、奴を始末するのは俺だけだぜ」

 

『ええ、南雲ハジメの始末は任せます』

 

「なら、今すぐでもいいか?」

 

『いえ、まだです。魔人族による王都侵攻計画があります。我々はそれに協力し、そこへ南雲ハジメが現れるように誘導するのです。例えば、彼と親しい者達を人質にするなど……』

 

「なるほど、仲間の目の前で奴を血祭りに上げちまうわけかよ。へえ、そいつは悪趣味じゃねえか、この俺が言えた程じゃないけどな」

 

『これが最適解ですので。人質候補のリストアップは完了しています。主に彼やその仲間の関係者……例えば、畑山愛子や八重樫雫が候補に入ります』

 

「もうそこまで考えていやがるのか」

 

『それと、白崎香織という女は南雲ハジメに対する有用な人質となるでしょう。どうやら、彼と恋仲にあるようです』

 

「そいつはいいな、俺様の獲物にしちまおう。人質にしてもよし、殺してもよし、喰らってもよしの優良物件だ。へへっ、奴に絶望を味あわせてやるぜ」

 

 南雲ハジメを消し去るため、水面下でスペースパイレーツが動き出している。様々な勢力が結集し、王都にて激戦が繰り広げられる日は近い。

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