鳥人族の後継者は世界最強   作:ウエストモール

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61話 大砂漠と遭難者

 グリューエン大砂漠は赤銅色の世界だった。砂の色も勿論だが、微細な砂が風によって巻き上げられ、大地どころか大気を赤銅色に染め上げているのだ。

 

 また、大小様々な砂丘が無数に存在しており、その表面は風に煽られて常に波立っている。常に同じ地形であることはなく、生きているといっても過言ではない。

 

 砂の大地が太陽の熱を余さず溜め込み、強烈な熱気を放っている。外気温は四十度越えであり、常に舞う砂や悪路であることを合わせて、旅の道としては最悪だ。

 

 しかし、そんな大砂漠をたった一台で駆け抜ける六輪ビークルの姿があった。砂埃を後方に吐き出しながら力強い走りを見せている。どんな悪路であろうが、ハジメ達には関係なかった。

 

「前に来たときとぜんぜん違うの! とっても涼しいし、目も痛くないの! お師匠はすごいの!」

「そうだね~。私もこんな快適な旅ができるなんて思ってなかったよ」

 

 香織の膝の上に抱えられるようにして座るミュウが、誘拐されて通った時との違いに興奮したように万歳して、ハジメにキラキラした眼差しを送る。

 

 海人族のミュウにとって、冷暖房もない馬車で砂漠を横断するのは過酷なものだっただろう。実際、乗り合わせた子供達の中には死者も出ており、彼女が衰弱死しなかったのは奇跡だ。

 

 ジャガーノートは冷暖房完備である。そもそも、火山活動が活発な灼熱の惑星や氷に覆われた氷点下の惑星であっても活動できるように造られており、高度な断熱性能も備えているのだ。

 

 ハジメ達は文明の利器の力で砂漠を余裕で進む。これも全て、鳥人族が残してくれたテクノロジーのおかげである。代わり映えのない景色が過ぎ去っていくのだが、やがて変化が起きた。

 

「あれは……皆、三時方向を見てくれ」

 

 ハジメは何かに気づく。言われるがままに全員が右側を見ると、大きな砂丘の向こう側に、いわゆるサンドワームと呼ばれる存在が相当数集まっていた。砂丘の頂上からは無数の頭が見える。

 

 サンドワームの体長は二十メートルから百メートルある。この砂漠にのみ生息し、普段は地中を潜行していて、上を通った哀れな獲物を大口を開けて無慈悲にも飲み込んでしまう。砂漠の犠牲者の多くは奴らによるものだ。

 

「砂丘の向こう側には運のない奴がいるんだろうな。まったく、恐ろしいぜ」

「それはそうなのじゃが、何か動きがおかしいとは思わぬかね?」

「なんか、一ヶ所の周囲を旋回しているような気がします。師匠はどう思いますか?」

 

 サンドワームなど別に珍しい存在でも何でもないのだが、目の前の群れは異常だった。サンドワームに襲われている者がいるとして、何故かサンドワームがそれに襲いかからずに、様子を伺うようにして周囲を旋回しているからだ。

 

「そうだな……獲物を食べるのを躊躇しているように思える……そう思わせる程の何かがあるのかもしれないが……」

「サンドワームは悪食じゃ。獲物を前にして躊躇うということはないはずじゃが……」

 

 メンバーの中で最も長生きなティオの知識は深い。以前から何度も里を出て調査していただけあって、その知識の範囲は広いものだ。

 

「ん、異常事態が起きてる?」

「砂漠で何かが起きている可能性がある……寄り道にはなるが、この件は調査した方がよさそうだ。皆、異議はないか?」

 

 ハジメの問いかけに全員が無言で頷く。経験上、こういった不自然な出来事は大きな異常事態に紐付いているもの。皆、調査の必要性を感じていた。

 

「香織、もしかすると危険を伴う人命救助になるかもしれない。その時は頼めるか?」

「もちろん。私に任せて!ハジメ君についていくと決めた以上、危険くらいは承知だよ」

 

 香織の覚悟はガチガチに固まっている。ハジメへの思いだけでここまで生存し、ハジメの過去を聞いても彼についていくと決めた女だ。面構えが違う。

 

『警告、地中より接近する反応を検知。緊急回避を実施します』

 

「どこかに掴まれ!」

 

 自動操縦してくれているイヴが警告する。どうやら、サンドワームが迫っているらしい。各々が車内の様々な場所を掴んで衝撃に備えるのだが、香織とユエはハジメにしがみついていた。

 

 直後、ジャガーノートが急加速した。自動操縦で右に左に車体が蛇行し、ハジメ達は衝撃に襲われる。そして、S字を描いているタイヤ跡の真下からサンドワームが次々と飛び出してきた。

 

 サンドワームは全て五十メートル級だ。地上にその身体の殆どを晒した彼らは、今度は重力に従ってジャガーノートの頭上から襲いかかってくるが……

 

『対空ビーム砲、起動……』

 

 獲物を押し潰そうと三体がかりで迫りくるサンドワームを襲ったのは、ジャガーノートの車体に搭載された小型対空砲の群。昔の戦艦のように濃密な対空砲火が打ち上げられ、敵をあっという間に蜂の巣にしてしまう。

 

 サンドワーム三体分の真っ赤な血肉がシャワーのようにジャガーノートへ降り注いでくるが、その前に離脱する。幼いミュウへの配慮のためだ。

 

 そして、ハジメ達に気づいたのか砂丘の向こう側にいるサンドワーム達が動き出す。一斉にジャガーノートの方へ向かってくるが、ここでハジメが動く。

 

「俺が行く。砂丘の向こう側も確認してくる」

 

 ハジメはジャガーノートの上に出ると、バリアスーツを展開して屋根から飛び降り、砂丘の上へと一気に駆け抜ける。そこでハジメが見たのは、地中の浅いところを移動している奴らの群れであり、微妙に砂が盛り上がっているので場所は把握できた。

 

『スーパーミサイル、オンライン』

 

 チャージビームを最大まで溜め、そこに五発のミサイルを組み合わせるコンボにより、最強の威力を持つスーパーミサイルを準備する。

 

(そこだ……!)

 

 スーパーミサイルが射出され、盛り上がって進んでくる砂地に突っ込んで姿が見えなくなる。直後、強烈な爆風と閃光が砂地から飛び出し、砂埃と共に焼き焦げたサンドワーム達の肉片が撒き散らされた。

 

 このスーパーミサイルの一撃でサンドワームは一網打尽にされたといってもいいだろう。まだ隠れている個体もいるかもしれないが、ハジメの敵ではない。

 

「巻き込まれてはいないようだな……」

 

 ハジメの視線の先には白い服を着た人らしき何かが倒れているのが見える。砂丘に登った時点で気づいており、それを巻き込まないように調整してスーパーミサイルを放ったが、それでも少し心配だった。

 

 ハジメは倒れている人の所まで駆けつける。何体かのサンドワームが奇襲を仕掛けてくるが、その尽くが早撃ちで始末される。さらに、後方から飛び出てきた百メートル級個体の顎を掴んで引摺り出し、地面に叩き付けて口内にアームキャノンを突っ込むと……

 

『アイスビーム、オンライン』

 

 超低温のチャージアイスビームがサンドワームの体内に解き放たれ、百メートルはある身体が一瞬で凍りつく。そして、アームキャノンによる殴打で砕け散った。

 

「要救助者発見」

 

 目の前にはゆったりとした白い衣服に身を包み、外套に付いているフードで顔を隠した誰かが倒れている。ハジメの背後にジャガーノートが停車し、降りて来た香織がその人物の容態を診てくれた。

 

「これって……」

 

 フードを取りあらわになった男の顔は、まだ若い二十歳半ばくらいの青年なのだが、その状態が問題だった。苦しそうな顔に大量の汗が浮かび、呼吸が荒くて脈も速い。かなりの高熱であり、血管が浮かび上がり、目や鼻からは出血が見られている。

 

「ただの熱中症や風邪というわけではなさそうだが……」

「ハジメ君、彼の状態が分かったよ。魔力が異常に活性化しているみたい。原因は飲んだ水に含まれていた何かとしか……」

 

 香織は“浸透看破”という診察用の魔法で容態を調べてくれた。それによると、彼は毒物らしきものが混入した水を接種し、それによって魔力暴走を起こしており、外へ排出できないまま体内の圧力が高まっているらしい。このままでは、内臓や血管が破裂して死に至るだろう。

 

「天恵よ、ここに回帰を求める “万天”」

 

 早速、香織は状態異常を解除する中級回復魔法を発動して彼の魔力暴走を食い止めようとするが……

 

「殆ど効果がない……どうして? 浄化しきれないなんて……それほど溶け込んでいるということ?」

 

 進行を遅らせても完治させることは難しいようだ。こうしている間にも青年は苦しそうにしており、鼻血が止まらない。そこで、香織は応急措置を採る。

 

「光の恩寵を以て宣言する。ここは聖域にして我が領域。全ての魔は我が意に降れ “廻聖”」

 

 香織が使ったのは、自身の魔力や一定範囲内にいる人の魔力を別の人に譲渡する上級回復魔法だ。他人から魔力を吸い出すのは難易度が高いのだが、彼女はそれを難なくこなしていく。努力の賜物である。

 

 体内の圧力を下げるためには魔力を体外に出さなければならない。体外に排出できない状態になっていたが、上級魔法によるドレインであれば排出は可能だと判断したのだ。

 

 青年から吸い出した魔力は全て、歩く魔力タンクと化しているハジメのパワードスーツに移されていく。やがて、青年の容態が安定してきたため、傷ついた血管や内臓の回復に移行した。

 

「うっ……女神? そうか、あの世か……」

 

 そして、青年は目を覚ます。自身を診てくれている香織を女神だと勘違いし、あの世にいるのだと思っているようだ。まあ、香織が女神なのは間違いではない。

 

「安心しろ、まだこの世だ」

「う、うわっ!?」

 

 が、パワードスーツを装備したハジメが青年を覗き込んだ結果、一瞬で現実に引き戻されることになった。

 

 自分を見下ろす謎の人物といい、その背後にある大きな物体といい、不可思議な状況に混乱していた青年だが、香織から事情を聞くと落ち着いてくれた。

 

「その鎧……まるで、最近発掘された像によく似て……いや、そんなことはどうでもいい……どうか、アンカジ公国に力を貸してほしい! 我が祖国が滅亡の危機に瀕しているのです!」

 

 そして、ハジメのパワードスーツに何やら見覚えがあったようだが、自分の目的を思い出したのか、ハジメ達に必死に訴えてきた。

 

「アンカジ公国だと?たしか、グリューエン大砂漠最大のオアシスに位置していたな、以前は立ち寄らなかったが……」

 

 ハジメはこの砂漠に訪れたことがあるが、スターシップだったので空を飛んで火山へ直行しており、オアシスには行かなかったのだ。

 

「詳しく事情を聞かせてほしい。オアシスで何が起こっているのか……君は何者なのか……」

 

 アンカジ公国が滅亡の危機に瀕していると聞いて、無視できるはずがない。この青年のように多くの人々が苦しんでいる可能性があるのだ。ハジメは彼から事情を聞くことにした。

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