鳥人族の後継者は世界最強   作:ウエストモール

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62話 アンカジを救え

「だいたい分かった」

 

 ハジメ達が救助した青年の正体は、アンカジ公国の領主であるランズィ・フォウワード・ゼンゲン公の息子、ビィズ・フォウワード・ゼンゲンであった。

 

 アンカジはエリセンから内陸部へと海産物を運送する際、その鮮度を落とさないようにするための要所であり、食料供給という王国の生命線を握っている。そこを任される程なのだから、アンカジの領主は信頼の厚い大貴族である。

 

 彼によると、四日前からアンカジにて原因不明の高熱を出して倒れる人が続出しており、総人口二十七万人のうち三千人近くが意識不明、二万人が症状を訴えている状態だ。医療施設の対応能力はパンクしてしまい、全ての公共施設を解放して医療関係者総出で治療と原因究明に当たったが、香織と同じく進行を遅らせることは何とか出来ても完治させる事は出来なかったという。

 

 次々と患者は増加し、医療関係者の中からも倒れる者が続出した。さらにはこの事態が発生してから二日でついに死者が出てしまう。人々が絶望する中、偶然にも飲み水に魔力の暴走を促す毒素が含まれていることが判明する。オアシスを調査したところ、その全体が毒素に汚染されており、今回の事態の原因だったのだ。

 

 オアシスは生命線なのでその警備、維持、管理は厳重に厳重を重ねてある。そのため、オアシスの警備を全て潜り抜けて毒素を流し込むなんて不可能に近い。だが、実際にオアシスは汚染されているのだ。そして、既に汚染された水を飲んで感染してしまった患者を救う手立てがないことは事実である。

 

 だが、静因石があれば救えるかもしれない。グリューエン大火山で少量を採掘できる鉱石であり、魔力の活性を鎮める効果を持っている。ハジメもその存在は知っており、迷宮に挑んだ際に少しだけサンプルを採取していた。

 

 なお、グリューエン大火山で静因石を採掘して帰ってこられるような実力の冒険者は尽く倒れてしまっている。生半可な冒険者では砂嵐を突破して辿り着くことすら不可能だ。そのため、王国へ救援要請を出すことは不可欠であり、彼が派遣されたのだが……

 

「あろうことか、私は道中で症状が出て倒れてしまった。すでに感染していたのだろうな。おそらく、発症までには個人差があるのだろう。救援は一刻を争うという状況に動揺していたようだ。万全を期して静因石を服用しておくべきだった。今、こうしている間にも、アンカジの民は命を落としていっているというのに……情けない!」

 

 彼は力の入らない体に、それでもあらん限りの力を込めて拳を己の膝に叩きつける。アンカジ公国の次期領主は責任感が強く、民のことを第一に考えている人物のようだ。当時は護衛もいたらしいが、サンドワームに襲われ全滅したというから、そのことも相まって悔しくてならないのだろう。

 

「……君達に、いや、貴殿達にアンカジ公国領主代理として正式に依頼したい。どうか、私に力を貸して欲しい」

 

 ビィズは最大限の深さで頭を下げる。領主代理であり、次期領主でもある彼が簡単に頭を下げるべきではなく、彼自身も理解しているだろうが、背に腹は代えられなかったのだ。

 

 全員の視線がハジメに向く。皆、決断はハジメに任せる意向のようだし、どのような決断をするか分かりきっていた。

 

「分かった。依頼を受けよう」

 

 即答だ。多くの人々が苦しむのを無視して、迷宮の攻略に向かうなんて選択肢はない。最終的に世界が救われても、人々が救われていなければ意味はないのだ。

 

 ハジメ達の最初の行動は、全力でアンカジ公国へと急行することだ。ビィズは王国から救援を呼び、大量の水を要請するために高速の乗り物で王国へ向かいたいと主張したが、その必要はない。

 

 別に水を輸送しなくとも、魔法を使えば大気中の水分を集めることで水は確保できる。なお、この世界の常識的に考えて普通の術師では何万人もの人々を潤すのは不可能に近いが、こちらには魔法の天才のユエがいる。改めて王国に救援要請をしに行くくらいの時間は十分に稼げるはずである。

 

 その辺りを掻い摘んで説明すると、最初は信じられないといった風のビィズだったが、今の状態では王国に辿り着けるか怪しいところだ。神の使徒として、聖女として名の知れている香織が説得したことでアンカジへと戻ることを了承してくれた。

 

 サンプルとして持っていた静因石を粉状にして服用させ、香織の回復魔法をかけると、ビィズは全快にはいかないものの、行動が可能なまでに回復する。ハジメ達は彼を連れて移動を開始した。

 

 

 

 

 

 ハジメ達はアンカジ公国へと到着した。そこは外壁に覆われた乳白色の都であり、外壁も含めた全ての建築物が乳白色で統一されていて、外界の赤銅色とのコントラストが美しい。

 

 そして、その全体が巨大なドーム状のエネルギーシールドのようなものに覆われているのが分かる。その発生源は外壁の各所に分散し、何本もの光の柱を天へと昇らせてドームを形成していた。

 

 ビィズによると、これは結界系アーティファクトの“真意の裁断”といい、砂の侵入を今日まで防ぎ続けている代物だ。何を通すかは自由に設定可能で、闇属性魔法を組み込んでいるので精神を読み取って特定の考えを持つ者を弾くことも可能だという。

 

 門を抜けてみれば、そこには美しい都が広がっていた。東側にあるオアシスに湛えられた水が幾筋もの川へと転じて都内へと流れ込み、砂漠の真ん中だというのに水の都となっていた。緑豊かな場所も多く、オアシスの恩恵を受けているのだ。

 

 しかし、今はそのオアシスによって苦しめられている。全ての水に毒素が混ざっており、病の蔓延で暗い雰囲気だ。いつもなら賑わっているであろう市場も閑散としていて、誰も外に出ていかず家々に引き込もっている。まるで、嵐が過ぎ去るのを待つかのように。

 

「お師匠、みんな元気ないの……」

「ミュウ、俺達で皆を元気にするんだ。そうすれば、元の活気も戻ってくるだろう」

「……使徒様やハジメ殿にも、活気に満ちた我が国をお見せしたかった。すまないが、今は、時間がない。全て解決した後にでも案内をさせていただこう。一先ずは、父上のもとへ。あの宮殿だ」

 

 ビィズが指差す先には、都の中でも一際大きな宮殿らしき建造物。他とは一線を画す荘厳さで、純白といってもいい白さだ。イメージはインドにあるアレである。

 

 ビィズの案内で宮殿へと入る。彼の顔パスによって領主ランズィの執務室まですんなりと通してもらえた。

 

「父上!」

「ビィズ!?お前、もう戻ってきたのか?」

 

 救援要請に行ったはずの息子が早く戻ってきたことに驚くランズィ。だが、彼を驚かせている場合ではない。ビィズが素早く事情説明を済ませてくれたため、話はトントン拍子で進む。

 

「動くとしよう。香織はシアと共に医療院とその他収容施設へ。小型魔力タンクも持っていくといい。ミュウは二人のお手伝いだ」

 

 香織が渡されたのは小さなカプセル状の小型物体だ。表面には大きくEと書いてあり、まるでゲームのアイテムのようにも見えた。小さいながらもかなりの容量を持つ魔力タンクである。

 

「領主、最低でも二百メートル四方の開けた場所はあるだろうか?」

「む? うむ、農業地帯に行けばいくらでもあるが……」

「それは助かる。ユエ、清水、ティオさんは俺と一緒に来てくれ。シアはタンクに魔力が貯まり次第、ユエの所まで頼む」

 

 ハジメが指示を出す。香織達の役目は患者の治療だ。ビィズにやったように魔力を吸出し、応急処置を施す。シアとミュウは彼女の手伝いをしつつ、魔力が溜まればシアがタンクを配達する。

 

 ユエには貯水池を作る大役をお願いしている。そして、ハジメとユエ、清水、ティオの四人はオアシスへと向かい、調査することになっていた。

 

 やがて、アンカジの北部にある農業地帯の一角に場所を移す。領主のランズィと数人の護衛や付き人も同行している。そこには二百メートル四方どころかその三倍はありそうな平地が広がっており、時期的に使われていない休耕地なのだとか。

 

「ユエ、頼む」

「ん、任せてお父様……」

 

 漆黒のドレスに身を包んだユエが前に出る。未だに半信半疑なのかランズィは鋭い眼光で睨み付けているが、その疑いを孕んだ眼差しはユエが魔法を行使した瞬間に驚愕の表情に変わった。

 

「“壊劫”」

 

 前方の農地に頭上に向けて真っ直ぐにつき出された右手の先に、黒く渦巻く球体が出現する。それは農地の上空で二百メートル四方の薄い膜へと引き伸ばされ、音もなく地面へと落下する。

 

 発生した超重力によって大地が押し潰され、盛大に陥没し、地響きと共に二百メートル四方、深さ五メートルの貯水池が出現する。その内部は徹底的に押し固められており、岩石と化しているので水漏れの心配はない。

 

 その光景を見たランズィ達は唖然としており、その顎が外れないか心配になるほど口を大きく開き、目も飛び出さんばかりに見開いていた。言葉こそ発していないが、内心では叫んでいるだろう。

 

 一方、神代魔法を半分ほどの出力で放ったユエは、魔力が枯渇したわけではないものの、短時間に大量の魔力を消費してしまったので、戦闘服に装備された魔力タンクから補給を受け、次の魔法の準備をする。そして……

 

「“虚波”」

 

 大波を発生させる水属性上級魔法を行使する。普通の術師では十から二十メートル四方の津波が限度だが、ユエが虚空に発生させたのは横幅百五十メートル高さ百メートルの津波であり、一気に貯水池へと流れ込む。

 

 “虚波”を何度か発動し、魔力がかなり減った辺りでシアが飛び込んでくる。手には魔力タンクを持っており、数千人規模の患者からドレインした魔力が込められている。ユエが魔法の連発を再開すると、二百メートル四方の貯水池が二十万トンもの綺麗な水で満たされた。

 

「……こんなことが……」

 

 ランズィは、あり得べからざる事態に呆然としながら眼前で太陽の光を反射してオアシスと同じように光り輝く池を見つめた。言葉もないようだ。

 

「これで暫くは保つはずだ。後はオアシスを調査し、必要とあれば救援要請もできるだろう」

「あ、ああ。いや、聞きたい事は色々あるが……ありがとう。心から感謝する。これで、我が国民を干上がらせずに済む。オアシスの方も私が案内しよう」

 

 ハジメ達はそのままオアシスへと移動する。そこに湛えられた水はキラキラと輝いており、とても毒素で汚染されているようには見えない。

 

「何かがいる気配があるな。確認してみよう」

 

『バリアスーツ起動中……』

 

 ハジメは突然パワードスーツを装着する。いきなり光に包まれたかと思えば謎の鎧に包まれたことに、ランズィ達は驚きを隠せない。

 

「は、ハジメ殿! あの術師といい……その鎧といい……まさか、そなたらはウルの六勇士だというのか!?」

「ここまで情報が伝わっているのか。あぁ、そのことについては否定しない。だが、話は後だ」

 

『サーモバイザー、オンライン』

 

 ハジメの視界がサーモグラフィのように変化する。そのままオアシスの底を見てみると、まるで巨大なスライムのような赤いシルエットが蠢いているのが確認できた。

 

「領主、調査チームはどこまで調査しているか分かりますか?」

「……確か、資料ではオアシスとそこから流れる川、各所井戸の水質調査と地下水脈の調査を行ったようだ。水質は息子から聞いての通り、地下水脈は特に異常は見つからなかった。もっとも、調べられたのは、このオアシスから数十メートルが限度だが。オアシスの底まではまだ手が回っていない」

「そうか……底に何かを沈めてあるようなことは?例えば、アーティファクトなど」

「いや、何もないが……まさか、オアシスに何かが潜んでいるというのかね?」

 

 ランズィの察しは早かった。

 

「ええ、魔石らしき熱源反応も捉えられている。これから奴をオアシスから引摺り出す。あなた方は下がっていた方がいい」

 

『ボム、オンライン』

 

 ハジメは小型時限爆弾を出現させ、それを片手にオアシスへと接近する。そして、綺麗なフォームで投擲し、水中へと投げ入れた。

 

ドゴォオオオ!!!

 

 数秒後、爆弾が起爆して空高く水柱が吹き上がる。水中でも動きがあった。スライムのようなシルエットの何かがウネウネと動きだし、急速に浮上してきたのだ。

 

シュバ!

 

 やがて、風を切り裂く勢いで無数の水が触手となってハジメ達に襲いかかってくる。ハジメはアームキャノンからのビームで、ユエは氷結させて、清水とティオは剣で切り裂いて迎撃する。

 

 その直後、水面が盛り上がったかと思うと、十メートル近い高さの小山へと変貌してしまった。

 

「なんだ……これは……」

 

 ランズィの唖然とした呟きは、奴が動き出したのと同時に響く戦闘音によって掻き消されてしまった。

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