鳥人族の後継者は世界最強   作:ウエストモール

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63話 大火山再び

 オアシスより現れたのは、直径が十メートルはあるであろう巨大なスライムだった。無数の触手を絶えずくねらせ、体内に赤く輝く魔石が確認できる。

 

 なお、通常のスライムのサイズはせいぜい一メートルくらいのものだ。周囲の水を操るような力もあるはずがなく、少なくとも触手のように操ることは、自身の肉体以外では出来なかったはずである。

 

「南雲、こいつが汚染の元か?」

「そのようだ。スキャンしたところ、汚染された水と同様の成分が分泌されていた」

「ユキトシ、ナグモよ。ゆっくり話している時間はなさそうじゃ」

 

 話している最中に巨大スライムは水で構成された触手で攻撃してくる。その全てがウォーターカッターのように鋭くなっており、鋼鉄をも切り裂くレベルだ。並みの人間ではあっという間に殺されてしまうだろう。

 

『スペイザー、オンライン』

 

 スペイザーで弾幕を貼り、迫り来る触手を迎撃する。その隙間を抜けてくるものもあるが、問題はない。ユエは魔法で凍結させ、ティオは炎を出して蒸発させていく。そして、清水は……

 

「清水、奴の魔石を狙えるか?」

「あぁ。すばしっこいがやってみよう」

 

 巨大スライムの体内では大きな魔石が縦横無尽に動き回っている。ピンポイントで狙い撃ちにできれば戦いは終わりそうだが、素早い動きなので困難を極める。

 

 それができるハジメは弾幕を貼っているので手一杯だ。そのため、数々の飛び道具を保有している清水が役目を引き受けた。清水は目標に対して体の側面を向けるように立ち、片手で狙杖を構える。

 

 魔石の軌道を追い続ける目は細められ、獲物を狙う猛禽類のようだ。やがて、不規則に見える動きの中に法則性を見いだし、完全に動きを捉えると……

 

「そこだ」

 

 狙杖の先端より放たれ、空を切り裂いて駆け抜けた一条の閃光が、巨大スライムの身体を……体内で不規則に動いていたはずの魔石を貫く。端から見たら、魔石の方が自ら当たりに行ったように見えなくない精度である。

 

 貫かれた魔石は一瞬で消滅し、巨大スライムの体が崩壊していく。スライムを構成していた大量の水がオアシスに降り注ぎ、水面が激しく波立った。

 

「……終わったのかね?」

「その通りだ、領主。オアシスに奴の反応はない。魔力も熱源も、完全に反応が消失している。浄化されたかは不明だが……」

 

 アンカジを存亡の危機に陥れた元凶が、あっさり倒されたことに、狐につままれたような気分になるランズィ達。それでも、元凶が目の前で消滅したことは確かなので、ランズィの部下が水質の鑑定を行った。

 

「……どうだ?」

「……いえ、汚染されたままです」

 

 ランズィの期待するような声音に、しかし部下は落胆した様子で首を振った。やはり、汚染の元凶を排除したところで、汚染水は残るようだ。

 

「まぁ、そう気を落とすでない。元凶がいなくなった以上、これ以上汚染が進むことはない。新鮮な水は地下水脈からいくらでも湧き出るのじゃから、上手く汚染水を排出してやれば、そう遠くないうちに元のオアシスを取り戻せよう」

 

 ティオが慰めるように言う。すると、落胆していた彼らも復興への意欲を見せ始める。皆、過酷な環境であるが故に、この国を愛しているのだろう。

 

「しかし、あれは何だったのか……新種の魔物が地下水脈から流れ込みでもしたのだろうか?」

「いや、おそらく魔人族の仕業だろう」

 

 ランズィの疑問にハジメが答える。

 

「!? 魔人族だと? ハジメ殿、貴殿がそう言うからには思い当たる事があるのだな?」

 

 ハジメに続きを促すランズィ。その眼差しは敬意と信頼に溢れており、ハジメ達を疑っていた面影はどこにもない。

 

 ハジメは先程の巨大スライムが魔人族の神代魔法による産物だと考えていた。ウルへの侵攻といい、勇者一行への襲撃といい、これもその一環なのだろう。本格的な戦争の準備は整っていると見ていい。

 

 アンカジはエリセンより運ばれる海産物の中継地点であり、果物や野菜の産地でもあるため、かなりの要所だ。大砂漠のど真ん中なので救援は呼びにくいため、狙われてもおかしくないのだ。

 

「いよいよ、奴らが本格的に動き出したというわけか……ハジメ殿、貴殿は冒険者と名乗っていたが……その不可思議な装備といい、香織殿と同じ……」

 

 ハジメは何も答えずに明後日の方向へと頭を向ける。フルフェイスなので表情は見えず、何を考えているか分からないが、ランズィは何かを察して模索を止めた。

 

「ハジメ殿……アンカジ公国領主ランズィ・フォウワード・ゼンゲンは、国を代表して礼を言う。この国は貴殿等に救われた」

 

 ランズィはそう言うと深々と頭を下げ、彼の部下達も同様に動く。領主が簡単に頭を下げるべきではないが、おそらくランズィはハジメが神の使徒ではなくとも頭を下げただろう。部下が彼を止めなかったのは、並々ならぬ彼の愛国心を理解しているからだ。

 

「礼はまだ早い。アンカジには今も病に苦しんでいる人がいる。静因石を採集しに行かなくては……」

「ハジメ殿、まだ我々のために力を貸していただけるというのか?」

「問題ない。どれくらいの量が必要が教えていただけないだろうか?」

 

 ハジメの提案に驚きながらも、ランズィは現在の患者数と必要な量を伝えてくれる。現れたのが普通の冒険者であったら、全ての患者を救うことは出来なかっただろう。ランズィはハジメ達との出会いを神に感謝するのだった。

 

 一方、医療院では香織が活躍していた。重症の患者から優先的に魔力を抜き取り、半径十メートル圏内の患者を一斉に回復させる。上級魔法を連発し、複数の魔法を同時に行使する香織に、現場の職員達は尊敬の念を抱き、彼女の指示で対応に当たっていた。

 

 さらに、シアは怪力を活かして患者を香織の元へと運び続ける。しかも、患者を何人も乗せた馬車を担ぎ、一気に運ぶというパワープレイである。

 

 そこへ現れたのは、水のストックとオアシスの汚染を解決したハジメ達であり、共にいたランズィより水の確保と元凶の排除がなされた事が大声で伝えられると、一斉に歓声が上がった。

 

「香織、俺はこれから火山に行って静因石を採取してくる。どれくらいもちそうだ?」

「ハジメ君……魔力的にも患者さんの体力的にも、二日が限界かも……」

 

 香織の表情には焦りが見える。ここで自分が折れてしまっては駄目だと、心を強く持って耐えているようだが、隠しきれていない状態だった。

 

「二日か……それだけあれば十分だ。必要な量を採取して必ず戻ってくる」

「ハジメ君、気をつけてね……そうだ、行ってらっしゃいのキスってダメかな? 夫婦ならこれくらいは普通にするみたいだよ?」

「香織、そうなのか?」

 

 別に夫婦だからといってキスをするわけではないのだが、ハジメはそういった事情に疎いので、まんまと香織に誘導されてしまう。

 

「んんっ……!?」

 

 ハジメはヘルメットのみを解除すると、屈んで香織の顔に自分の顔を近付ける。そして、香織を抱き締めるようにして口づけした。この状態はしばらく継続され、周囲の人間全てが赤面する結果となった。

 

「凄いの!大人のキスってやつなの!パパとママも同じことしてたの!」

 

 ミュウは特に興奮している。小さな子供には刺激が強すぎたのだろうか。

 

「では、行ってくる」

 

 ハジメは医療院から出ていく。香織はその背中を見て、一言だけ呟いた。

 

「ハジメ君……行ってらっしゃい……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 グリューエン大火山の上空にスターシップが到着する。以前と同じ場所に着陸し、降りてきたのは二人の姿だけだ。

 

 今回、グリューエン大火山にやって来たのは、ハジメと清水だ。別にハジメだけでも問題ないのだが、採取のついでに神代魔法が獲得できる可能性があるため、ティオの頼みで清水を同行させたのだ。単純に人手が増えるという利点もある。

 

 二人は自動操縦で何処かへと飛んでいくスターシップの姿を見送り、グリューエン大火山の内部に入っていった。

 

「なあ、南雲のパワードスーツはこんな地獄みたいなところでも大丈夫なんだな」

「バリアスーツは高熱環境によるダメージをカットするからな。これにグラビティ機能を重ねれば、マグマの中も行けるぞ」

「マジかよ……俺は人間辞めてるから火山でも少し暑いくらいで済むが、マグマは無理だぜ?」

 

 久しぶりに訪れた大火山の内部は、以前と全く変わらないものだった。いたるところにマグマが流れており、頭上にはマグマがうねりながら空中を流れていく様が見える。勿論、マグマに適応した魔獣も存在しており……

 

「南雲ぉ!少しくらい手を貸してくれよ!」

「それは無理だ。俺が手を貸していたら迷宮を攻略したことにならないだろう?イレギュラーでも現れない限り、俺は動かない」

 

 敵との戦闘は全て清水が行うことになっている。そもそも、攻略の証を持っているハジメは攻撃の対象に入っておらず、ハジメから攻撃しない限りは攻撃を受けない。

 

「六腕の巨人よ、我が盟約により顕現し、その力を示せ “ヘカトンケイル”!」

 

 清水の周囲に六本の豪腕が出現する。とある神話に登場する三人の巨人達の名前を冠するこの魔法は、接近戦に特化したものになっていた。

 

「オラオラオラオラ!!!」

 

 六本の豪腕によるラッシュで立ち塞がる敵を悉く粉砕していく。敵からは返り血ならぬ返りマグマが飛び散って危険だが、直接触れているわけではないので問題はない。

 

 六本の豪腕をメインに繰り出しつつ、撃剣と狙杖の二刀流で敵を仕留める。この立ち回りを基本に進み、スムーズに何層か降りていくのだが……

 

「清水、何か違和感を感じないか?」

「そうだな。やけに静かだ……」

「あれを見てみろ。魔獣の死体が転がっている」

 

 その階層は静寂に包まれていた。マグマの流れる音しか聞こえないのだが、襲ってくるはずの魔獣の姿はなく、すでに多数の死体に変わっていたのだ。

 

「南雲、もしかすると先客がいるかもな」

「友好的だといいのだが、敵である可能性が高そうだ。俺達の妨害を図っている勢力か……」

 

 そして、その先客がいきなり現れた。マグマの海が山のように盛り上がり、それも一つではなく幾つもの山が連なっている。マグマの中から上半身だけを飛び出させたのは、ヒューマノイドタイプの異形の巨人達だった。

 

「何だこいつらは?」

「スペースパイレーツだ。あれはその構成種族の一つ、マグドール星人……」

 

 マグドール星人はマグマの中に生息するエイリアンであり、スペースパイレーツの一員だ。その大きさはハジメ達を優に超えており、その大口にかかれば一瞬で丸のみにされるだろう。

 

「こいつら、強いのか?」

「戦闘力はお世辞にも高いとはいえない。マグマからの奇襲が厄介なくらいだ。こいつらだけで一帯の魔獣がやられたとは思えない……」

「他にも何かいるってことかよ」

 

ザバァァァン!!

 

 さらにマグマから飛び出てくる存在がいた。これまた巨大で、マグマの上で滞空しながら背部より何発もの飛翔体を放ってくる。

 

「清水、ミサイルだ!」

「おいおい、マジかよ!?」

 

 何発もの飛翔体の正体は小型ミサイルだ。スペイザービームで全て叩き落とし、それを放った張本人を見る。それは、古代生物のアノマロカリスを無理やりヒト型にしたかのような異形だった。

 

「レドギア星人……奴らもかなり本気のようだ」

 

 奴はレドギア星人。スペースパイレーツの中でも戦闘力が高い部類に入る凶暴なクリーチャーである。マグマにも耐える強固な甲殻に、生体ミサイルや胴体のビーム兵器で武装しており、伸縮する長い腕による攻撃も脅威である。

 

「レドギア星人は俺がやる。清水はマグドール星人の方を頼む」

「おうよ、任された!」

 

 ハジメはレドギア星人と対峙し、その背後で清水がマグドール星人の群れの前に立ちはだかる。イレギュラーな事態が起きているので、ハジメも動かないわけにはいかないのだ。二人はパイレーツとの交戦を開始した。

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