鳥人族の後継者は世界最強   作:ウエストモール

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68話 メルジーネ海底遺跡

 

 ミュウが家族と再会してから、三日が経過した。ハジメ達はマリーディア一家の屋敷でお世話になりながら、迷宮攻略の準備をしていた。

 

「香織、最後にもう一度聞きたい。君も、迷宮の攻略に参加するのか? 俺は君を止めはしないが……」

 

 ハジメは香織に問いかける。大迷宮はトータスの中でも有数の危険地帯だ。今回の迷宮は海底遺跡という過酷な環境であり、ミレディによると後継者用コースは存在しないらしいが、危険度はかなり高いだろう。

 

「それでも、私は行くよ。神代魔法を手に入れて、ハジメ君の隣に並べるようになりたいから……」

「そうか……」

 

 香織は本気だった。彼女はメンバーの中でも最もステータスが低く、神代魔法を持っていない。神代魔法を手に入れ、少しでも強くなることで、見劣りしないようにしたいと考えていた。全ては、ハジメと肩を並べるために。

 

「いざという時は君を守る。そして、少しでも生存率を上げるため、香織専用の装備を作らせてもらった」

 

 そう言ってハジメが出したのは、シスターや神官を思わせるような戦闘服だった。露出している部位はなく、確実に生存させる構造だ。耐熱も防水も完璧である。

 

 ユエの戦闘服がベースとなっており、性能面はほぼ同じである。頭部にはシスターのフードのような形状のアーマーが存在し、必要に応じてフルフェイスのヘルメットへと変形する機構が備えられている。いきなり水中に投げ出されても溺死することはないだろう。

 

「ハジメ君が、これを私に?」

「あぁ。香織の覚悟に応えたくてな。ノウハウを総動員して拵えた、初めての贈り物だ」

「ありがとう、ハジメ君。大切にするね!」

 

 早速、戦闘服を身につける香織。元より神官のような服装だったので違和感はなく、祈っている姿を見たら神秘的に見えるだろう。

 

「ちなみに、デザインを考えたのはユエだ。ホルアドで会った時から構想していたらしい」

「えへへ、なんか嬉しいね……」

 

 そして、出発の時が来た。桟橋に横付けしている船のような何か……ではなく潜水艇へと乗り込んでいく。

 

 ハジメは潜水艇を準備していた。ミレディから海底遺跡の存在を聞いたその時から建造に着手している。

 

 その名はブルーマリン。今回の海底遺跡の攻略のためだけに作られた潜水艇だ。水中という限られた場所でしか使えないビークルなので、出番は後にも先にも一回きりだろう。

 

 無論、だからといって手は抜いていない。何が現れるか分からないため、防御面も攻撃面もしっかりとしている。エネルギーシールドは標準搭載され、水中用に調整された武装を搭載していた。

 

「お師匠! 行ってらっしゃいなの!」

「あぁ。また会おう」

 

 桟橋まで見送りに来ていたミュウの頭を撫で、ハジメは最後に潜水艇へと足を進める。奥ではマリーディア夫妻が微笑ましそうに二人の様子を見守っていた。

 

 

 

 

 

 エリセンより北北西に約三百キロメートル。そこがハジメ達の現在地だ。そして、ミレディから教えられた【メルジーネ海底遺跡】のある座標でもある。

 

 彼女から教えられた情報は、海底遺跡のある大体の座標と、“月とグリューエンの証”に従えというヒントのみだ。

 

 ハジメ達はそれに従い、ブルーマリンを走らせて海底を調べていたのだが、それらしき痕跡は見つかっていない。

 

 そのため、ミレディの教えの通りに月の出る夜を待つことにした。ブルーマリンを浮上させ、甲板の上で日が落ちるのを待つ。

 

「そろそろか……」

 

 夕日が水平線の向こう側へと消えるのを見届ける。そして、その代わりに月が輝き始めたので、大火山攻略の証であるペンダントを取り出して月光に翳してみる。

 

 ペンダントには、サークル内に女性がランタンを掲げている姿がデザインされており、ランタンの部分だけがくり抜かれていて、穴あきになっているのが確認できる。

 

 すると、ペンダントに変化が起きた。

 

「わぁ、ランタンに光が溜まっていきますぅ。綺麗ですねぇ」

「不思議だね。穴が空いているのに……」

 

 ペンダントのランタンには、底の方から光が溜まっていく。その光景にシアと香織は見惚れる。光の水位は徐々に上昇し、やがて穴の空いた部分が完全に満たされた。

 

「ん。ミレディとは大違い」

「まあ、ミレディじゃやらないだろうな」

 

 ミレディに対して低評価するユエと清水。目の前のペンダントは全体が輝いており、ランタンから一直線に光を放って海底へと伸ばしていた。随分と粋な演出である。

 

「ふむ。この場所でなければならないという訳じゃな……」

「あぁ、そのようだ。これに従うとしよう」

 

 ハジメ達はブルーマリンに乗り込み、月光の導きに従って潜航する。装備されたライトと一筋の光の明るさを頼りに深度を下げていく。このまま行けば、迷宮の入り口に辿り着くのだろう。しかし、事は簡単には進まない。

 

「何だあれは?」

 

 それらは、ブルーマリンの進路を塞ぐように待ち受けていた。半透明な肉体を持つ人間大の何かであり、地球の生き物に例えるならクリオネであった。

 

「まるで、クリオネみたいだけど……」

「そうだな、香織。以前、一緒に行った水族館を思い出した……」

「そういえば、南雲。クリオネって肉食だよな?」

「あぁ、あれは恐ろしい。そのクリオネが人間大だとすると、人間すら捕食されそうだ」

 

 クリオネという生き物は、天使のような姿をしていて人気を集めているが、肉食であり獲物を捕食する際に変貌する。頭部のような部分が割れて六本の触手が出現し、悪魔と化して獲物をガッシリと捕獲してしまうのだ。

 

「南雲殿、あの者達の名は悪食。太古より海に巣食い、幾多の船を沈め、漁場を荒らし回る化け物。何百匹もの個体があるように見えておるが、あれら全てが一つの個体じゃ」

「ん、聞いたことあるかも。討伐作戦が数十年ごとに何度も行われたけれど、必ず復活してくるって…」

「なるほど。一匹でも取り逃せば、増殖を許してしまうということか……」

 

 悪食は全体が個であるがために、一匹でも残っていれば復活して再来する。奴は定期的に襲来し、その度に討伐作戦が決行されてきたのだ。

 

「師匠、この量を突破できますかね? 水中なのでウルのようにはいきそうにないですし……」

「大丈夫だ、問題ない。このブルーマリンと俺がいればな。このまま強行突破する。迷宮に入れば、奴らも追ってこれないだろう」

 

 ブルーマリンは速度を上げ、悪食の群れへと突貫する。奴らはクリオネと同じく六本の触手をガバッと開いて接近してくるが、艦首の先端より放たれた緑色のビームを受けて一撃で蒸発していく。それにより包囲に穴が空き、トンネルが形成された。

 

『ミサイル、発射』

 

 さらに、発射管より射出された多数のミサイルが悪食軍団に食らいつき、包囲網の穴をさらに拡大させる。ミサイルを受けた個体はその破片から再生するが、あくまでも時間稼ぎなので問題はない。

 

「南雲、後ろから追って来るぞ!」

「それは俺が何とかする。清水、操縦は任せた」

「おうよ!」

 

 コックピットの席を清水に任せ、ハジメは外部と船内を隔てている部屋へと入る。すると、内部へと注水が開始され、完全に水で満たされた。

 

『グラビティ機能、オンライン』

 

 水没したハジメは紫色の光に包まれる。それと同時に外部へのハッチが開放されたので、地上と遜色ない素早い動きで外へと出ると、セイルの上へと移動する。

 

『アイスビーム、オンライン』

 

 ブルーマリンの後方より迫りくる悪食に素早く射撃を浴びせかけ、凍結させた上でミサイルで粉砕する。普通なら水圧の影響で自由に動き回ることは不可能だが、今のハジメはグラビティ機能によってそのようなしがらみからは解放されている。もはや、地上でも水中でも超重力空間でも関係ないのだ。

 

 やがて、悪食の攻撃をかわしながらもブルーマリンは海底の岸壁地帯へとやって来る。昼間にも探索した場所で、その時には何もなかったのだが、接近した瞬間にペンダントの光が海底の岩石の一点に当たり、地震のような振動と共に岸壁の一部が真っ二つに割れ、扉のように開いた。

 

「ここが入口か……」

 

 真っ二つに割れた岸壁の奥には真っ暗な道が続いている。進むことを躊躇いたくなる光景だが、ここが遺跡の入口であることは間違いなく、後方からは依然として悪食が来ているので真っ暗な中へと突入する以外に選択肢はない。

 

 ハジメはブルーマリンの外側にとりついたまま、【メルジーネ海底遺跡】へと入っていく。その後から悪食が追いすがったものの、すぐに割れ目が閉じたために侵入されることはなかった。

 

「なあ、南雲。この迷宮は潜水艇か特殊なパワードスーツでもなければ侵入すら無理だと思わないか?」

「たしかにな。この世界の魔法を使うにしても、一流の使い手が何人も必要だからな」

「ん。空間魔法は必須かも」

「そうじゃな。空間を操り、水を完全に寄せ付けぬ必要があるであろう」

「それじゃあ、私みたいなただの人間には無理だね」

「脳筋の私にも無理ですぅ」

 

 薄暗い洞窟のような空間を、ブルーマリンのライトだけを頼りに進みながら、潜水艇やパワードスーツがない場合の侵入方法を考察する。

 

 水中で息をすることは不可能で、水圧によって自由な行動すら制限される。潜水艇を用意する時点で難しいのに、重力制御機能搭載のパワードスーツなど無理があるだろう。その気になれば、ハジメ単体でも行けるかもしれない。

 

 道なりに進んでいく中、後方から接近してくる反応があった。別に悪食軍団ではない。船外にいるハジメが振り返ると、トビウオのような形態の敵が群れで接近してきている。翼のように広げられた鰭は刃のようになっており、相手をすれ違い様に切り裂くのだろう。

 

「俺が対処する」

 

『スペイザー、オンライン』

『ウェイブビーム、オンライン』

 

 アームキャノンより飛び出したのは、波打つような軌跡を描く三本の紫色のビームだ。自動的にトビウオモドキの群れへと誘導され、そのまま接触する。

 

 ウェイブビームは電気エネルギーを纏っているため、トビウオモドキは電気ネットの中に飛び込んだようなものだ。彼らは高圧電流を受けて感電し、絶命すると上下逆さまの状態で流れていった。

 

 散発的に現れたトビウオモドキを始末しながら代わり映えのない景色の中を進んでいると、前方より感電死した彼らの死体が流れてくる。

 

「まさか、この洞窟は円環状なのか?」

 

 ハジメが攻撃しない限り、トビウオモドキが感電死することはない。その死体が前方から流れてきたということは、同じ場所をグルグルと回っているということだ。

 

 この円環の中に何かしらの仕掛けがあるのだろう。周囲を注意深く観察しながら、洞窟を航行していると……

 

「これで五つ目か……」

 

 洞窟の何ヵ所かに五十センチくらいの大きさのメルジーネの紋章が刻まれている場所を発見した。五芒星の頂点の一つから中央に向かって線が伸びており、その中央に三日月のような文様がある。それが、五ヶ所に存在していた。

 

「ハジメ君、もしかしたら紋章の所にペンダントの光を灯すのかな?」

「香織、それだ。やってみよう」

 

 ハジメは一つ目の紋章へと近づき、ペンダントを近づけてみる。すると、ペンダントが反応してランタンから光が伸び、それを受けた紋章が輝いた。

 

 そのまま、円環を一周しながら紋章に光を灯していく。最後の五つ目の紋章にも同じくペンダントを近づけて光を灯すと、洞窟の壁が真っ二つに割れて新たな道が開かれた。

 

 奥まで進むと、真下へと潜る通路を発見する。そのままブルーマリンを進めると、突如として船体が浮遊感に包まれて一気に落下していった。

 

「皆、衝撃に備えろ!」

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