鳥人族の後継者は世界最強   作:ウエストモール

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69話 激突、魔装潜闘艇

 

「皆、無事か?」

 

 ブルーマリンが落下した先は、大きな半球状の空間だった。周囲に海水はなく、空洞となっている。岩石の床に叩きつけられ、船内には激しい衝撃が伝わった。

 

「ん、大丈夫。重力魔法を使ったから、ダメージは軽減できてる」

「ユエちゃんが助けてくれたんだね。ありがとう」

「この一瞬で神代魔法を行使するとは、見事なものじゃな」

 

 水中ではなくなったのでハジメ達はブルーマリンから降り、ここから徒歩移動に切り替える。

 

「師匠、上を見てください。あそこから私達は落ちてきたみたいですね」

「そのようだ。しかし、頭上にある水が降り注いでこないとはな……」

 

 天井には大穴が空いており、海水で満たされているのだが、どういうわけか一滴の水すら落ちてくる気配はない。空間魔法でも使われているのだろう。

 

「なあ、南雲。ここからが本番って感じだろうな。全てが水中じゃないことに感謝したいぜ」

「あぁ。俺だけが戦い続けるのでは意味がないからな。これで全員が戦える」

「その分、敵の数も増えそうですけどね……」

 

 半球状の空間を抜け、奥に見えていた通路に差し掛かる。そのまま進入……することはなく、何かに気づいたハジメがユエに呼び掛ける。

 

「ユエ」

「ん」

 

 直後、頭上よりレーザーの如き水流が豪雨になって襲いかかる。以前、ユエがライセンで多様していた“破断”と同じであり、人体に容易く穴を穿ち、パワードスーツにもダメージを与える程の威力だ。

 

 だが、それを察知したハジメの呼び掛けに阿吽の呼吸で応えたユエの張った結界により、完璧にガードされてしまう。もはや、奇襲が奇襲にならなかったのだ。

 

 呼び掛けの瞬間、皆同様に攻撃を察しており、突然の攻撃に対して動揺はない。ただ、一人だけを除いて……

 

「きゃあ!?」

 

 突然の激しい攻撃に悲鳴を上げ、よろめいてしまう香織。ハジメが咄嗟に腰に手を回して支えたことで転倒は免れた。

 

「香織、大丈夫か?」

「お母さま、怪我はない?」

「あはは……少し油断してたみたい。気合いを入れていかなきゃだめだね……よし!」

 

 ハジメとユエに心配される香織だが、自分は大丈夫だというような振る舞いをする。頬を軽く叩き、気合いを入れ直していた。しかし、彼女の内心は……

 

(情けないところを見せちゃった……今までだったら、こんなことは無かったのに……)

 

 これまで、香織は勇者パーティの一員として第一線で戦い続けていた。回復魔法や結界魔法、光属性魔法によって仲間達を支援し、自らも聖弓を携えて幾多の戦闘を乗り越えてきた。

 

 自分は申し分ない程の実力を持っている。そのように自負していた香織だったが、それはオルクスでハジメと再会した頃から揺らぎ始めていた。

 

 そして、今はユエの魔法技能の高さに揺さぶられている。訓練に訓練を重ねて本職である結界師にも劣らない程のレベルに達していたが、ユエには敵わないことを改めて思い知らされた。

 

(私、足手まといになってる……ここに私がいる意味なんてあるのかな……このままじゃ、ハジメ君の隣にいられないよ……)

 

 香織の心を支配しているのは劣等感。勇者パーティの中核を担っていた自分が、今は単なる同行者に成り下がっており、何もできていないのだから。

 

(私の存在意義って……)

 

 彼女は苦悩する。自問自答を繰り返し、その度に劣等感が強くなる負のスパイラルに陥っていく。意識が明々後日の方向へ行き、挙動不審になっていた。

 

「香織、どうした?」

「えっ? あ、ううん。何でもないよ」

「なら、いいのだが……」

 

 そんな様子の香織を見てハジメが声をかけるが、彼女は誤魔化すように無理矢理に笑顔を浮かべる。ハジメも何か察していたが、彼女は何かの試練と戦っているのだろうと思い、しばらく見守ることにした。

 

(ありがとう、ハジメ君……私を心配してくれて。これは私の試練だから、配慮して見守ってくれているんだね)

 

 自身に蔓延る劣等感との戦いが彼女に課せられた試練。香織は、ハジメが試練と戦う自分に配慮して見守るだけに留めてくれていることに気付き、感謝していた。

 

 二人のやり取りの間にも、先ほどの攻撃は続いている。ユエの結界は健在であり、防いでいる間にティオが繰り出した火炎によって天井が焼き払われると、原因が落ちてきた。

 

 それは、フジツボのような存在だった。それが目の前にいくつも転がっている。体に空いている穴からレーザーのような水流を吹き出すのだ。

 

 なお、水中生物が元になっているので高温にはかなり弱く、ティオの放った火属性魔法“螺炎”によって焼き払われてしまった。

 

 フジツボモドキの排除を終えると、ハジメ達は、奥の通路へと歩みを進める。通路は先程の部屋よりも低くなっており、膝くらいまで海水で満たされていた。

 

 海水をザバザバとかき分けながら歩く。水圧によって歩きにくいフィールドであるが、ハジメはグラビティ機能によって無効化している。他のメンバーは歩きにくそうだが、仕方ないだろう。

 

「ん……水没しそう」

「ユエ、肩車でもするか?」

「大丈夫。浮遊すればいい」

 

 身長が低く、ユエは海水に浸かってしまう部分が大きい。ハジメは担ぎ上げてやろうとしたが、彼女は重力魔法で浮遊することで解決した。

 

「ねえ、ハジメ君。次に何か来たら私にやらせてくれないかな?」

「あぁ。別に構わない」

 

 香織がそう言った次の瞬間、襲撃が始まる。水中より勢いよく飛び出し、飛来したのは高速回転する手裏剣のような複数の何かだ。

 

 香織は聖弓を素早く連射して光の矢で全てを撃墜する。体を貫かれ、水面に浮かんできたのはヒトデ的な奴だった。

 

「腕も上がっているみたいだな、香織」

「私だって、訓練はしてきたからね」

 

 その後も戦闘は続く。横穴からウツボのような奴が飛び出てきたり、カニ軍団が現れたり、ヒレが刃となった空飛ぶエイが体当たりしてきたりと、水棲系のオンパレードである。そして今は、針を散弾のように飛ばしてくる巨大なウニと対峙している。

 

「師匠、私がやります!」

 

 巨大ウニに向けて飛び出したのはシアだ。身体強化で水圧を強引に無効化し、降り注ぐ針の雨をフィールドウォールで凌ぎつつ、その鉄拳を叩き込んで一撃で粉砕した。

 

 そして、彼らは通路の最奥に到達する。そこに佇んでいたのは、巨大なタコだった。なお、足は八本ではなく二倍の十六本で、その全てが金属に覆われて硬化していることが確認できた。

 

 巨大タコはハジメ達の姿を視認すると、半数の金属足を動かして通路を完全に塞いでしまう。巣穴を塞いで卵を守る母タコのようにも見えなくない。

 

 巨大タコは硬化した足による殴打を繰り出してくる。まるで大砲のような一撃であり、同時に飛び出したシアの鉄拳と激突し、強烈な衝撃が撒き散らされる。咄嗟にユエが結界を張らなければ、ハジメ達も余波に襲われていただろう。

 

 目の前では殴打の応酬が繰り広げられている。八本の金属足が絶え間なく動かされ、シアの拳とぶつかり合う。無数の衝撃の花が咲き、その余波により天井や壁から無数の破片が飛び散っていた。

 

 無論、手数は相手の方が四倍であるため、シアも苦しそうだ。そこで、ハジメが援護に入る。

 

「援護するぞ、シア」

 

 シアを狙う金属足に向けてミサイルを叩き込み、彼女へと向かう殴打を減らしていく。それにより、奴の本体へと攻撃する隙が生まれ……

 

「はあぁぁぁぁ!!」

 

 殴打を掻い潜り、シアは拳を振りかぶる。瞬時にガントレットからブースターが展開され、高速の鉄拳が本体に打ち込まれた。

 

 人体から出してはいけないような衝撃音が響き渡る。普通に考えたら、吹き飛ばされるか内臓が衝撃でグシャグシャになりそうなものだが……

 

「この感触……衝撃を吸収した?」

 

 なお、巨大タコは健在である。危険を感じたシアがパンチの反動で離脱し、フィールドウォールによる防御体勢に入った直後、巨大タコが赤黒い光を纏い、八本の足から爆発するような衝撃が放たれた。

 

「ぬぅううっですぅ!」

 

 シアは下半身に渾身の力を込めて衝撃に耐えようとするが、ガードごと吹き飛ばされてしまう。

 

「南雲、こいつは吸収した衝撃を自身の殴打に乗せて放てるようだぞ」

「なるほど……シアが吹き飛ばされたのも納得だ。シアの渾身の一撃と同じ威力が返ってくるということだな」

「その通りだ、南雲。こいつは、物理特化タイプの天敵というわけだ。同様の理由でミサイルも意味がないだろうな」

「やはり、この迷宮は魔法の使用が前提のようじゃな」

 

 メルジーネ海底遺跡は、これでもかと魔力を使わせようとする構造になっている。入り口を発見する段階では酸素の供給や水を阻む結界の展開、水中で襲ってくる敵の迎撃など、生半可な魔力量では突破は不可能だ。

 

 今度の巨大タコは、物理攻撃をほぼ無効化するような能力を持っている。そのため、ここを突破するためには強力な魔法による攻撃が必須だった。

 

「ユエさん、お願いします!」

「ん……任せて。空間ごと斬る」

 

 ユエは魔力を練り上げ、目を閉じて発動する魔法のイメージを徐々にハッキリとしたものに昇華させていく。空間魔法の使用はユエにも難しく、準備に時間を要するのだ。

 

 そして、ユエは開眼する。

 

「“斬羅”」

 

 その瞬間、巨大タコのいる空間に無数の一線が引かれ、割れた鏡のように亀裂が走る。線が通った場所を境界面として空間がずれ、その空間ごと奴の巨体が血を吹き出しながらバラバラに切り刻まれた。

 

 空間魔法“斬羅”は空間に亀裂を入れてずらすことによって、防御を無視して問答無用に空間ごと切り裂く魔法である。いくら強靭な肉体であろうと、世界で最も頑強な装甲であろうと、空間がずれてしまっては無意味である。

 

「ミンチより酷いぜ……」

 

 

 

 その後、物理耐性のある敵を魔法やビームで蹴散らしながら進んでいくと、通路を塞いでいる水の壁に行き当たる。

 

 ブルーマリンが通れる程の水壁だったため、そのまま乗り込んで水壁の向こう側へと向かう。水中洞窟を航行していると、前方に巨大な球体状の水中空間が見えてくる。

 

 そこに佇んでいたのは、黒一色の潜水艇だった。サイズはブルーマリンよりも少し小さいのだが、明らかにアーティファクトや攻撃魔法の魔法陣で武装している。戦闘用なのは間違いなく、魔装潜闘艇とでも呼称すべきだろう。

 

「ブルーマリンでは分が悪い。ここは、水中に最も適応している俺が行こう」

「ハジメ君、気をつけてね……」

 

 ブルーマリンを球体状水中空間の入り口まで下げると、グラビティ機能を発動したハジメが侵入する。ある程度の距離まで接近すると、魔装潜闘艇は役目を果たすべく起動すると、突進を仕掛けてくる。

 

 船首にはドリルが出現しており、ハジメを貫こうという算段なのだろう。進路から外れるように横へ飛んで避け、振り向き様に魔装潜闘艇の背後へと攻撃を行う。

 

『シーカーミサイル、オンライン』

 

 無防備な魔装潜闘艇の背後へと迫る五発の小型ミサイル。そのまま直撃しそうに見えたが、突如としてその軌道が滅茶苦茶となり、あらぬ方向へと行って自爆してしまった。見れば、奴の周囲には激流が発生している。

 

(水流を操って無力化したのか……ミサイルが効かないのであれば、ビームで……)

 

『スペイザー、オンライン』

『アイスビーム、オンライン』

『ウェイブビーム、オンライン』

 

 魔装潜闘艇より放たれた光属性の砲撃を飛び退いて回避しつつ、保有している全てのビームを合成し、エネルギーを最大までチャージして放つ。

 

 ハジメがアームキャノンから発射したのは、凍結と感電させる効果を併せ持ち、三発が同時に発射される誘導性能付きで最大威力のビーム。

 

 それぞれが別々の軌道を描いて魔装潜闘艇へと迫り、完璧に誘導されて着弾しようとする。避けきれないのは一目瞭然だ。ブルーマリン側からもそれは見えていた。

 

「あれは食らいたくないぜ。魔装潜闘艇も御愁傷様だな」

「ん。でも、あれが簡単にやられるとは思えない」

「あぁ!? 転移で避けられました!!」

 

 しかし、三発のビームは目標を見失ってしまう。魔装潜闘艇が空間魔法による転移を発動し、その場から完全に消えてしまったからだ。次に奴が現れた場所は……

 

「ハジメくん、後ろ!」

 

 魔装潜闘艇は忽然とハジメの背後を取ると、船体に装備された複数の魔法陣を同時に起動し、空間を埋め尽くすような無数の雷光をお見舞いしてきた。

 

「ちっ!」

 

 ハジメは回避に専念する。雷光と雷光の間の狭い隙間をすり抜け、時にはモーフボールも使用していくのだが、反応が僅かに遅れたことにより被弾を許してしまった。

 

「ぐうぅぅっ!!」

 

 なお、ハジメは被弾しながらも咄嗟にウェイブビームを放っており、攻撃中に転移は不可能なのか転移にインターバルがあるのか不明だが、直撃した魔装潜闘艇を感電させ、動きを止めることに成功した。

 

『ノーマルミサイル、オンライン』

 

 動きが止まった魔装潜闘艇にミサイルを連発する。爆発と衝撃が奴を襲い、船体に亀裂が入り、表面の魔法陣やアーティファクトが吹き飛んでいく。

 

 このまま、魔装潜闘艇に止めを刺すこともできそうだが、その前に感電の影響から復活してしまう。転移の魔法陣は内部で守られているのか、転移で逃げられてしまった。さらに……

 

(再生しただと!?)

 

 魔装潜闘艇が転移した先で夕焼け色のような輝きを帯びたかと思えば、ミサイルによって受けた損傷が修復される。

 

(自己修復とは異なるようだが……)

 

 ハジメのパワードスーツにも再生する機能はあるが、ここまで一瞬で完了するようなものではなく、時間をかけて徐々に修復するものだ。しかし、目の前の魔装潜闘艇はそれとは全く異なる。一瞬で修復が完了した上、時間が巻き戻ったかのように元通りの姿になっている。

 

「文字通りの再生じゃな……」

「もしかすると、ここの神代魔法は再生に関する魔法?」

「ユエさん、もしもそうならばハルツェナ樹海の大樹を再生できるかもしれませんよ!」

 

 戦いは仕切り直しだ。ハジメが飛び道具を放ち、魔装潜闘艇が転移で躱して有利な位置から攻撃する。それを避けたハジメによる反撃が船体を傷つけるが、瞬く間に再生されてしまった。

 

 その繰り返しにより、戦闘時間は長引いている。互角ではあるものの、先に限界が来るのはミサイルの弾数と生物であるが故の体力の限界が存在するハジメだろう。そんな時、香織がとあることに気づいた。

 

「あれ、壁が光ってない?」

「ん。本当だ」

「たしかに、夕焼け色に光ってるな」

 

 水中空間の最奥の壁に鮮やかな夕焼けのような輝きが生まれている。魔装潜闘艇が再生する時の光と同じである。よく見ると巨大なメルジーネの紋章があり、その紋章の半分が夕焼け色の魔力光で埋まっていた。

 

「おや、光る部分が増えたようじゃな」

「どうやら、時間経過で増えるみたいですね」

 

 魔装潜闘艇による攻撃を一定時間耐えることによって突破する試練のようだ。現在のハジメでは倒しきれる性能ではなく、生き残ることが重要らしい。こうしている間にも、紋章の輝いている部分は増えていっている。その面積は八割に及んでおり、もう少しの辛抱だ。

 

「なるほど、時間経過か……」

 

『ウェイブビーム、オンライン』

 

 これまで通りに電撃を纏った紫色のビームを放ち、魔装潜闘艇が転移で回避する。ハジメはノールックでアームキャノンを後方に向け、何もいない場所にビームを撃ち込む。すると、ビームが向かった先に転移した魔装潜闘艇が出現し、見事にウェイブビームの直撃を受けて停止した。

 

 これまでの戦闘で転移した魔装潜闘艇がハジメの背後に現れやすいことが分かっている。そのため、ハジメは奴が転移した瞬間に後方へとビームを撃ったのだ。

 

『スーパーミサイル、オンライン』

 

 感電して動けない魔装潜闘艇に向けて、最上級攻撃魔法にも匹敵する威力のスーパーミサイルを放つ。その直撃を受けた奴が衝撃波に包み込まれたのと、紋章の全体が輝いたのは同時だった。

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