鳥人族の後継者は世界最強   作:ウエストモール

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70話 幻影空間

 スーパーミサイルによる大爆発の中から出てきたのは、この試練の中で最も大きな損傷を受けたボロボロの魔装潜闘艇であった。頑丈であった船体には大穴が穿たれ、亀裂も全体に入っており、内部はかなり浸水しているようだ。大半の魔法陣もダメージを受けて使用不可である。

 

 過酷な水中という環境で魔装潜闘艇の猛攻から生き残り、一定時間経過する。それがこの試練の内容だ。すでに試練は突破した判定であり、魔装潜闘艇がハジメに対して抵抗する様子は見られず、それを認めるかのように輝く紋章の壁がゴゴゴッと四分割に開いて道が開かれる。

 

「これで、終わったか……」

 

 やがて、魔装潜闘艇は夕焼け色の光を帯び、損傷を完全に修復する。空間魔法でゲートを開くと、挨拶でもしているみたいに一瞬強く輝き、そのまま突入して何処かへと消えた。そして、彼と入れ替わるようにゲートから光り輝くアイテムが飛び出してきた。

 

「これは……」

 

『ビームバーストを獲得しました』

 

『装着者の魔力を消費し、ビームウェポンの攻撃力と速射性を強化するアビリティです。アイスビームを除いた全ての攻撃用ビームを統合し、特性を継承します。その威力は凄まじく、高い耐久力の敵も容易に殲滅可能です。制限時間は二十五秒ですが、更に魔力を消費することで時間を伸ばすこともできます』

 

 試練を制したハジメは、新たなアビリティを入手した。このビームバーストならば多数との戦いだけではなく、リドリーや真の神の使徒に対する有効な対抗手段の一つとなるだろう。

 

 

 

 

 

 試練の突破後、ハジメ達は巨大な紋章の奥へと進んだ。その先にあった水中トンネルはそこまで長くなく、しばらくしてブルーマリンが海面に浮上できる程の空間に出る。

 

 ブルーマリンが浮上した先は海賊が根城とする入り江のようになっており、そこから上陸して陸路を進む。一本道のトンネルを抜けた先には……

 

「道が三つに分岐しているな……」

「ん、それぞれ奥に転移魔法陣がある」

「ここから先はバラバラになるってことですね」

 

 選択肢は二つある。一つの魔法陣に全員で入るか、それぞれ二人ずつ分かれて三つの魔法陣に入るかだ。

 

「南雲、もしかすると一つだけが正しい道の可能性があるぜ」

「ならば、確実に探索するためにも我らを三つに分ける必要もあるじゃろう」

 

 そして、ハジメ達が選んだのはチームを三つに分けてそれぞれの魔法陣に突入することだった。

 

「六人に対して三つの道……何だか、私達が六人で来るのを分かっていたみたいだね」

「鳥人族の中には未来予知をする者もいる。どのような存在が挑むのか、大まかに予知できたのだろうな」

 

 今回のチーム分けは、ハジメと香織、ユエとシア、清水とティオだ。魔法を得意とする者を平等に分散させた、バランスの良い編成だ。最も能力が低い香織については、最高戦力のハジメを付けているので問題ない。

 

「お母様、気をつけてね……」

「うん、ユエちゃんもね」

「ユエ、俺の心配は?」

「お父様は大丈夫そうだから。心配がいらない程に強いことは当たり前」

「それはそれで寂しいな……」

「なら、私は心配しますよ。師匠、気をつけて行ってきてくださいね」

「あぁ、シアも頑張れよ」

 

 最後の会話をした後、ハジメと香織、ユエとシアのチームはそれぞれの魔法陣に入って消えていく。残っている清水とティオは……

 

「ユキトシよ、我らはいつも通りじゃな」

「いいじゃないですか。俺はティオさんと組むのが一番安心するんで」

「それは嬉しいことじゃ。では、我らも参るとしよう」

 

 これで、全員がそれぞれの魔法陣に飛び込んだ。ここから先、ハジメ達が遭遇するのは過去の記憶……彼らはトータスで起きた惨劇を体験することになる。

 

 

 

 

 

 ハジメと香織が転移した先は砂浜だった。水平線が何処までも続いており、ここが海底遺跡の中とは思えないような景色である。

 

 二人で砂浜を歩き、奥に見える密林に向かう。密林にはまるで道のように木々がない部分があり、導かれているようだ。

 

「ハジメ君、私達だけで行動するのって久しぶりだね」

「あぁ、そうだな。地球にいたときが最後だったかもしれない。あの時は海に行ったな」

「たしか、私をナンパしてきた男の人達を撃退してくれたよね」

 

 二人で出掛けた思い出を語りつつ、密林のトンネルへと踏み込む。全く敵が現れないので会話が弾み、やがて出口にたどり着く。

 

 目の前に広がっていたのは、岩石地帯とそこに横たわっている大量の朽ちた帆船だった。サイズは最低でも百メートルで、遠くにある一番大きな船に関しては三百メートルはあるように見える。

 

「船の墓場、なのかな……」

「戦闘で損傷を受けているようだ。墓場というのも間違いではないだろう」

 

 船の墓場のちょうど真ん中に差し掛かり、そこにあった船の甲板に登った時、答え合わせのような変化が起きる。

 

うぉおおおおおおおおおおおおおおお!!!!

ワァアアアアアアアアアアアアアアア!!!!

 

「何だ!?」

「ハジメ君、周りが!」

 

 突然、聞こえてきた大勢の人間の雄叫び。それと同時に周囲の風景がぐにゃりと歪み、次の瞬間にハジメ達は大海原の上に浮かぶ船の甲板に立っていた。

 

 そして、周囲では何百隻もの帆船が二手に分かれて相対し、甲板では武器を持った人々が雄叫びを上げているのが見える。

 

「これは……」

「私、夢でも見てるのかな?」

 

 やがて、空中へと放たれた火花が弾けたのを合図として、何百隻もの船団が動き出す。ハジメ達が乗る船と相対する側の船団も同様だ。

 

 二つの船団は距離を詰め、ある程度まで近づくと魔法の撃ち合いを始める。火炎弾や竜巻、石化させる灰色の球が殺意と共に飛び交っていた。正に戦争である。

 

 まるで映画でも見るような感覚だが、この空間はハジメ達を傍観者にしてくれない。向こう側より飛来した火炎弾がハジメの方にも来たのだ。このままでは直撃コースである。

 

 状況は飲み込めていないが、危険が迫っているのは事実。ハジメは咄嗟にアームキャノンを指向してビームを撃ち放つ。

 

 飛翔したビームは寸分の狂いなく火炎弾へと向かっていく。そのままお互いに衝突するかと思われた。が……

 

「何だと?」

 

 ハジメは驚く。目の前で起こったのは、確かに狙って撃ったビームが火炎弾と同じ座標に到達したはずなのに、そのまますり抜けて彼方へと消えていく光景だった。

 

「防ぐよ! “光絶”!」

 

 それを見た香織がバリアを展開して自分達を包み込む。こちらの迎撃をすり抜けてしまった正体不明の攻撃なので、念のため盾となるように彼女の前に立っておく。

 

 しかし、ハジメの心配は杞憂に終わる。彼女の魔法はしっかりと火炎弾をガードし、二人に当たることはなかった。射撃ミスでもしたのかと再び飛来した火炎弾を撃つも、やはりすり抜ける。

 

「私も撃ってみるよ」

 

 香織が聖弓を構え、火炎弾に向けて光の矢を放つ。すると、火炎弾は一筋の光に射貫かれて消失した。

 

「どういうことだ?」

 

 香織の放つ光の矢なら効果があることが分かり、彼女が迎撃を続けてくれる。ハジメのビームと香織の聖弓、その違いを考えたところ……

 

「魔力……か」

 

 聖弓より放たれた矢は魔力によって構成されているが、ハジメのビームは特に何もしなければ純粋な生体エネルギーのみで構成されて発射される。

 

 ハジメは早速、魔力操作を行って発射されるビームに魔力を混ぜる。通常のビームに赤いベールを纏わせた魔力混合ビームは火炎弾とぶつかり、そのまま迎撃に成功した。

 

「ハジメ君、魔力の有無が関係しているってことだよね?」

「そのようだ。ただの幻影ではないが、現実というわけではない。そして、魔力を伴った攻撃ではないと対抗できない。厄介だが、仕組みが分かれば対処は可能だ」

 

 迎撃を続行していると、すぐ後ろで苦悶の声が上がる。振り返ると若い男が腹部を抑えて蹲っており、足元に血溜まりと血濡れの氷柱が見えた。腹部に被弾したのだろう。

 

 幻影なのは分かっていたが、怪我人を前にして香織は思わず駆け寄って回復魔法を行使してしまう。彼女の腕なら確実に治せるが、その青年は回復魔法を掛けられると同時に光となって離散してしまった。

 

「え、えっ? どうして……」

「香織、どうやら魔力を伴っていれば攻撃ではなくとも効果があるらしい」

「わ、私、回復魔法で人を……こ、殺……」

「落ち着け、あれは幻影だ。君はまだ、誰一人も殺していない」

「そ、そうだったね……ごめん、取り乱した」

 

 混乱する香織をハジメは落ち着かせる。幻影とはいえ、人を助けるための回復魔法で人を殺したのはショックが強すぎたようだ。

 

「香織、敵は火炎弾だけではなさそうだ」

 

 周囲を見渡せば、敵の船団に対して攻撃する兵士に紛れ、何人もの兵士が正気ではない瞳で二人を見ていた。直後、彼らは四方八方から一斉に襲いかかってきた。

 

「全ては神の御為にぃ!」

「エヒト様ぁ! 万歳ぃ!」

「異教徒めぇ! 我が神の為に死ねぇ!」

 

 そこにあったのは狂気だ。血走った眼に、唾液を撒き散らしながら絶叫を上げる口元。明らかにマトモではない。

 

 幻影空間の中で行われていたのは、宗教戦争らしい。相対する船団からも怒号や雄叫びが聞こえ、呼ぶ神の名が異なるだけで全く同じだった。その狂気に香織は気圧されて呆然と立ち尽くしていた。

 

「背中は任せた」

「ちょ、ハジメ君!? あぁ、もう!!」

 

 ハジメが魔力混合スペイザービームによる迎撃を開始し、呆然していた香織も慌てて背中を守るために聖弓を構える。

 

 聖弓より一度に放たれるのは、三本の矢だ。香織の意思に従って分裂した光の矢はそれぞれの目標を貫通し、その背後の兵士すら射貫いて一瞬で離散させる。

 

「香織、飛ぶぞ」

 

 狭い甲板の上で四方八方を囲まれるのは不利だ。ハジメは香織を抱えて跳躍し、マストの上にある物見台へと飛び移る。

 

 物見台の上には弓を構えた兵士がいたので、魔力を纏った蹴りで蹴り落として安全を確保。下を見ると、狂気に彩られた兵士達が血走った眼でハジメ達を見上げていた。

 

 どういうわけか、敵国同士で争っている兵士達は二人を狙う時だけ敵味方の区別なく襲ってくるようだった。先程まで目の前の敵と相対していたはずの兵士が、突然動きを止めて機械のように首を捻り、ハジメ達を凝視して直後に群がってくるのだ。ホラーな光景に香織も真っ青だ。

 

「ハジメ君、この変な空間から抜け出すにはどうすればいいと思う?」

「この場にある船の何処かに脱出口はありそうだが、この空間に約六百隻はある……戦いながらは困難だ」

「なら、この戦争を終わらせればいいんじゃないかな?」

「なるほど……それだ」

 

 この場にいる兵士を全てぶちのめせば、こちらを襲ってくる存在はいなくなる。香織にしては随分と脳筋だった。

 

「香織、広範囲を一度に回復できる魔法はあったか?」

「まあ、一キロ四方くらいなら大丈夫だけど、短くても二分くらいは準備の時間が必要で……」

「大丈夫だ、それまでの時間稼ぎは俺に任せてほしい。頼りにしてるぞ、香織……」

「ありがとう。私、頑張るから」

 

 そして、甲板に転がる臓物や手足、頭部を踏み越え、兵士達は神の名を叫びながら特攻を仕掛けてくる。彼ら同士の戦いでは流血するのでかなりスプラッタな状態だ。

 

『スペイザー、オンライン』

『ビームバースト、オンライン』

 

 ハジメは群がってくる兵士達をビームバーストで薙ぎ払う。アームキャノンからはマシンガンの如くビームの嵐が撒き散らされ、たった一人で大群の進行を食い止める。

 

 ビームバーストは魔力を使用するアビリティだ。そのため幻影に対しても効果があり、ハジメの武装の中で最も手数があるので最適だった。

 

 制限時間があるので通常の魔力混合ビームの使用も挟みつつ、香織が詠唱する時間を稼ぐ。隣の船から飛び移ってくるので敵が途絶えることはない。

 

 やがて、隣の船の上空に巨大な火球が現れる。おそらく最上級魔法であり、何人もの術師が手を掲げていた。どのように迎撃しようかと考えた時、香織の詠唱が完了した。

 

「もの皆、その腕に抱きて、ここに聖母は微笑む “聖典”!」

 

 直後、香織を中心に光の波紋が一気に戦場を駆け抜けた。脈動を打つように何度も広がり、半径一キロメートルの敵を一人一人包み込む。

 

 最上級回復魔法“聖典”は超広範囲型の回復魔法だ。その範囲は術師の魔力量と技量に左右されるが、最低でも半径五百メートルといったところ。本来なら数十人で長い詠唱、巨大な魔法陣が必要だが、香織は単独かつ一分から二分で行使できるので、チートの域に達していた。

 

 “聖典”の光に戦場が包み込まれ、幻影の兵士達は全て消滅する。その効果が終わると、魔力の枯渇で香織はふらつくが、ハジメが支えに入った。

 

「ねえ、ハジメ君。私、役に立ててるかな……」

「あぁ、もちろん。活躍していた」

「でも、私は足手まといになってて……」

「そんなことはない。俺は君のように魔法は使えない。まして、回復魔法で大勢を癒すことはできやしない。それが出来るのは俺達の中で君だけだ」

 

 香織は劣等感を感じていたことを吐露する。だが、ハジメは香織にしか出来ないことがあるのだと語った。

 

「香織、魔力があればまだ動けるか?」

「うん、まだやれるよ」

 

 戦闘服に内蔵された魔力タンクからの補給を終えた香織は、再び立ち上がった。幻影の軍勢はまだ残っている。二人は迫り来る軍勢との戦いを開始した。

 

 物理攻撃の通用しない、恐れを知らない狂信者の軍勢。それと狭い船の上で戦うなど、普通なら厳しい状況。だが、ここにいるのは規格外の二人だ。一時間後、二国の大艦隊はたった二人の人間によって殲滅されたのだった。

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