「まさか……ベヒモスなのか?」
メルド団長がベヒモスと呼んだ魔獣は、体長十メートル級のトリケラトプスのような存在だった。頭部には二本の角が生えた兜のようなパーツが取り付けられている。赤黒く光る瞳でこちらを睨み付け、鋭い爪と牙を打ち鳴らしながら、頭部の角からは絶えず炎が放出されている。
「グルァァァァァアアアアア!!」
「っ!?」
ベヒモスは大きく息を吸い、凄まじい咆哮を上げて空間を震わせる。それによってメルド団長は正気を取り戻したのか、間断無く指示を飛ばす。
「サム、アラン! 生徒達を率いてソルジャー共を突破しろ! カイル、イヴァン、ベイル! 全力で障壁を張れ! ヤツを食い止めるぞ! 光輝、お前達は早く階段へ向かえ!」
「待って下さい、メルドさん! 俺もやります! 勇者として、敵から逃げるわけにはいかないんです! だから……」
「馬鹿野郎! あれが本当にベヒモスなら、今のお前達では無理だ! ヤツは六十五階層の魔獣。かつて、最強の冒険者をして歯が立たなかった奴だ! さっさと行け! 私はお前達を死なせるわけにはいかないんだ!」
鬼気迫る表情のメルド団長に光輝は怯むが、「見捨ててなど行けない!」と踏みとどまる。さらに、光輝はこんなことを言った。
「どんなに強い敵がいようと、立ち向かうのが勇者です! だから、俺は絶対に引きません!」
どこかの主人公が言いそうな台詞を吐く光輝。だが、ここは現実である。普通に考えたら、現時点で勝てない相手に挑むなど、命知らずがすることだ。無論、そうせざるを得ない状況に置かれることもありえるので、一概にそうは言えないが。
団長達が残るのは未来ある生徒達を逃がすという理由があるためであり、光輝が残る必要は全くない。というか、光輝が速やかに撤退すれば、団長達を含めた全員が生き残れる確率は間違いなく上がるだろう。光輝はそれを理解せず、その正義感で人を殺そうとしていることに気付いていない。
次の瞬間、ベヒモスが咆哮を上げながら突進してきた。このままでは、撤退中の生徒達が全員ミンチになってしまうだろう。
「「「全ての敵意と悪意を拒絶する、神の子らに絶対の守りを、ここは聖域なりて、神敵を通さず “聖絶”!!」」」
二メートル四方の最高級の紙に描かれた魔法陣と四節からなる詠唱、さらに三人同時発動。使える回数は一回という使い捨てであるが、純白に輝く半球状の障壁は簡単には破られない強固な盾である。そこに、ベヒモスが突進を仕掛けた。
矛と盾が激突した瞬間、凄まじい衝撃波が発生し、ベヒモスの足元が粉砕される。石造りの橋全体が大きく振動する。撤退中の生徒達から悲鳴が上がり、転倒する者が相次いだ。
生徒達の目の前にいるトラウムソルジャーは、三十八階層に現れる魔獣だ。剣を装備した不気味な骸骨であり、今まで戦った魔獣以上の戦闘力を持つ。不気味な骸骨の大軍と背後の巨大な魔獣の気配に挟まれ、先ほどの振動もあって生徒達は半ばパニック状態だ。
皆、隊列やパーティ、連携など無視し、我先にと階段を目指してがむしゃらに進んでいく。サムとアランが必死にパニックを抑えようとしているが、実戦をゲーム感覚で捉えていた彼らは初めて感じる死への恐怖に飲み込まれ、言葉に耳を傾ける余裕はなかった。
そんな中、ハジメはクラスメイト達を守るために戦っていた。装備する武器は籠手のみだが、格闘術を駆使してソルジャーを粉砕していく。時にはソルジャーの剣を拾って己の武器とし、危機に陥った者がいた際には剣を投擲して援護する。
(状況は最悪だ……)
ハジメの奮戦と生徒達のステータスの高さから死者は出ていないが、いつか限界が来るのは目に見えていた。誰も彼もがパニックになりながら滅茶苦茶に武器や魔法を振り回している。誤射で死ぬ生徒が出てきてもおかしくない。魔法陣からは増援が続々と出現して押し寄せており、いくらハジメでも守りきれないだろう。
「火力が足りない……」
大量のソルジャーを食い止めるためには、火力が必要だった。属性魔法に適性のないハジメの攻撃手段は格闘くらいであり、一体ずつ地道に倒すしかない。ブラスターの使用も検討したが、誤射の可能性があるし、同様の理由でビームウィップも使えない。パワードスーツという選択肢もあるが、それは最終手段だ。
その時、ハジメの視界の片隅にとある光景が映った。それは、一人の女子生徒が味方に突き飛ばされ、転倒した先にいたソルジャーに剣を振り下ろされそうになる光景だった。ハジメの手が届かない範囲で起こった出来事。投擲する剣も付近になく、万事休すかと思われたが、一つだけ方法が残されていた。
「“錬成”」
その瞬間、ソルジャーの足元が隆起した。ブーツの底に刻まれている錬成の魔法陣によるものだ。ソルジャーがバランスを崩したことで攻撃は空振りする結果に終わる。その隙にハジメは接近し、直後に転倒したソルジャーの頭を踏み砕いた。
ハジメは背後に迫るソルジャーをノールック裏拳で倒しながら、先ほど助けた園部優花という名の女子生徒に近寄る。彼女はまるでアクション映画のようなノールック裏拳に呆然とし、それを放ったハジメを見上げた。
「園部さん、大丈夫か?」
「だ、大丈夫……ありがとう、南雲」
ハジメは彼女の手を取り、立ち上がらせる。そして、肩に手を置いてとあることを頼んだ。
「園部さん、頼みがある。可能な限り生徒達をまとめて抵抗を続けてくれ」
「わ、私が?」
園部優花は二大女神には及ばないものの、クラスの中で人気な部類の女子生徒であるとハジメは記憶していた。その彼女なら、ある程度生徒達をまとめられるだろうと判断したのだ。
「大丈夫だ、君ならできる」
ここまでで目撃したハジメの勇姿と、今の言葉が優花を勇気づけた。「分かった、やってみる!」と言って、抵抗を続ける生徒達の方へと駆け出した。
ハジメはその姿を見送り、片手間にソルジャーを片付けながら、この事態を打開する術を考える。
(とにもかくにも道を切り開く火力だ……天之河の使った大技なら……あいつ、こんな時に何処で何を……?)
ハジメは天之河の姿を探し、ベヒモスの方向を見る。そこには、障壁に体当たりを続けるベヒモスと、その障壁の内側で押し問答を続ける光輝とメルドの姿があった。その後ろにはパーティのメンバーがおり、香織もそこにいた。
「何をやっているんだ、あいつ!」
ハジメは珍しく感情を露にする。団長の命令では生徒全員が撤退することになっていた。だが、何故か光輝とメルドが押し問答しており、そのせいでメンバーが撤退できていない。
このままではメンバーどころか全員が死ぬ。経緯は分からないが、光輝の我が儘によって全員が死の危機に直面していることに、ハジメは怒りを覚えた。そのせいで香織が危険な目にあっていることも、怒りに拍車をかけている。
(今すぐ奴を連れてくるべきだが……俺がここを離れるわけには……)
「南雲!」
その時だった。先ほど助けた優花が数人の生徒と二人の騎士を連れてハジメの所に戻ってきたのは。
「園部さん……いいタイミングだ! しばらく奴らを食い止めてくれないか? 俺は天之河を呼んでくる、あいつの技なら……」
急にそんなことを言われて首を縦に振る奴などいない。だが、集まってきたのはこの場でハジメに助けられた者が大半であり、恩返しということで協力してくれた。
ハジメは戦える者のみに指示を飛ばして防衛ラインを構築すると、ベヒモスの方へと駆け出した。
ベヒモスは障壁への突進を続けていた。衝突する度に壮絶な衝撃波が周囲に撒き散らされ、石造りの橋が悲鳴を上げる。いつ崩落してもおかしくないだろう。障壁も既に全体に亀裂が入っており砕けるのは時間の問題だ。
「ええい、くそ! もうもたんぞ! 光輝、早く撤退しろ! お前達も早く!!」
「嫌です! 置いていくわけには行きません! 絶対、皆で生き残るんです!」
「くっ、こんな時に我が儘を……」
皆で生き残ると言っておきながら全体を危険に曝す光輝に、メルド団長は苦虫を噛み潰したような表情になる。
若さ故に光輝は自分の力を過信しているようだ。メルド団長は褒めて伸ばす方針が裏目に出てしまったのだと後悔した。
「光輝! 団長の言う通りにして撤退しましょう!」
状況を理解できていない光輝を雫が諌めるのだが、馬鹿は一人だけではなかった。
「親友としてお前だけに無茶はさせねぇ。俺も付き合うぜ、光輝!」
「龍太郎……ありがとな!」
それは熱血が大好きな男、龍太郎だった。まるで熱血漫画のような胸が熱くなる展開……なのだが、こんな所でやるべきことではない。
「状況に酔ってんじゃないわよ! この馬鹿ども!」
「雫ちゃん……」
光輝パーティの中で状況を理解できているのは雫と香織、恵里、鈴という女子四人組だけだ。恵里と鈴に関しては雫の指示で既に下がっており、ソルジャーと戦う生徒達を援護していた。
雫が苛立ち、香織が心配そうにそれを見つめる中、一人の男子生徒……ハジメが飛び込んできた。
「天之河!」
「なっ、南雲!?」
驚く光輝。時間との戦いであるため、ハジメは間髪入れずに話し始める。
「お前の火力が必要だ! 今すぐ下がり、こちらに加勢してくれ!」
「いきなりなんだ? 俺は勇者としてあいつを倒さなければならないんだ。相手は強いが、俺は死を恐れない!」
「お前の都合を周囲に押し付けるな! お前がいないせいで皆が死の危険に直面しているぞ!」
ハジメは光輝の胸ぐらを掴み、叱咤する。
「死ぬなら勝手に死ね! だが、周囲を巻き込むな! せめて、退路を確保してからベヒモスに特攻でもすればいい!」
「仲間に死ねなんて言うべきじゃない!」
ハジメの「死ね」発言に光輝が反論する。さらに光輝が何か言おうとするが……
「下がれぇぇ!!!」
団長の悲鳴が響く。それと同時に、今まで突進を受け止めていた障壁が砕け散った。こちらに強力な衝撃波が襲いかかる。ハジメは咄嗟に錬成で壁を作り、一瞬で砕かれたものの、多少は威力を殺すことができた。
ベヒモスの咆哮により、舞っていた粉塵が吹き飛ぶと、そこにはメルド団長ら四人の騎士が倒れ付し、呻き声を上げていた。衝撃波の直撃を受けており、体が動かないようだ。一方、光輝達はハジメの行動によって軽傷で済んでおり、倒れていたものの、すぐに立ち上がる。
頼れる大人が倒れた今、何とかできるのは自分達のみ。光輝は雫と龍太郎にベヒモスを足止めするように指示を出し、大技の詠唱をしようしたが、その前にハジメが動いた。
ハジメは前方に向けて跳躍すると片足を高く掲げ、降下しながらベヒモスの頭部に踵落としを浴びせる。それによって角の片方が砕かれ、ベヒモスの頭部が地面に食い込む。その際、地面に大きな亀裂が幾つもできていた。
(全力で戦えば……橋が崩落するかもしれない)
ハジメの実力であればベヒモスを倒すことは可能だ。だが、今立っている石橋はベヒモスが障壁に突進を続けたことで多大な負荷がかかっており、ハジメがベヒモスを攻撃した時や、ベヒモスが攻撃を繰り出した時の余波で崩落する可能性が高く、最悪の場合ベヒモスは倒せても全員が奈落に落ちることになるだろう。そこでハジメが選んだのは、ベヒモスを拘束することだった。
「“錬成”」
ハジメはベヒモスの頭部を踏みつけながら、錬成を発動する。ベヒモスの周囲が隆起し、地面に食い込んだ頭部が飲み込まれていく。ベヒモスも抵抗して頭を引き抜こうとするが、魔力回復薬を片手に錬成を繰り返すことで押さえ込む。ダメ押しとばかりに脚部も拘束していき、ベヒモスは間抜けな格好となった。そして、ハジメは後ろを振り返る。
「メルド団長! 今のうちに行ってください!」
「すまない、ハジメ……撤退は援護する! 頼んだぞ!」
メルド団長と三人の騎士は既に香織によって魔法で癒されており、動ける状態になっていた。メルド団長の指示を受け、光輝パーティは騎士達と共に下がっていく。だが、一人だけ残ろうとする者がいた。それは香織だった。
「ハジメ君! 私も残る!」
「ダメだ! 白崎さんも下がれ!」
「で、でも……」
ハジメだけでなく、団長も香織に下がるように促すが、香織は何としても残ろうとした。
「白崎さん、俺は大丈夫だ。必ず戻る」
「ハジメ君……」
ハジメは香織の目を真っ直ぐ見つめ、彼女を安心させようと言葉を発する。香織はハジメの気迫に満ちた雰囲気に安心感を覚え、ハジメの言うことを聞いて撤退することを選ぶ。
「必ず帰ってきてね……」
「あぁ、約束だ」
トラウムソルジャーと戦う生徒達を助けるため、騎士団と光輝パーティは撤退していく。香織はハジメの無事を祈りながら、それに続いた。
この時はハジメも香織も知らなかった。二人の間が物理的に引き裂かれ、離れ離れになってしまうということを。
ソルジャーと戦う生徒達や騎士には限界が近付いていた。生徒達はまだ精神が未熟であり、倒しても倒しても押し寄せるソルジャーに圧倒され、絶望しかけている。だが、そこに希望の一撃が飛んできた。
「万翔羽ばたき、天へと至れ “天翔閃”!!」
純白に輝く光の斬撃がトラウムソルジャー達の真ん中に着弾し、その多くを吹き飛ばす。その余波により、橋の両側にいたソルジャーが奈落に落ちていく。その光景に、誰しもが希望を抱いた。
「皆! 諦めるな! 道は俺が切り開く!」
光輝の声と共に二発目の天翔閃が着弾し、再び多くのソルジャーが吹き飛ばされる。光輝に対して生徒達が抱いている感情は様々だが、この瞬間だけは光輝が希望の光であり、カリスマを発していた。
「お前達! ここまでよく頑張った! ここからが正念場だぞ!」
続いてメルド団長も現れ、三人の騎士達と共にソルジャーを次々と斬り捨てていく。
光輝とメルドの攻撃が、反撃の狼煙となった。ソルジャーに怯えて戦えなかった者達も戦列に加わり、魔法と武技の嵐がソルジャーを蹴散らしていく。その速度は遂に魔法陣による魔物の召喚速度を超え、階段への道が開けた。
「皆! 続け! 階段前を確保するぞ!」
戦力を一ヵ所に集中させ、全員で包囲網を中央突破する。背後で橋との通路がソルジャーによって封鎖されるが、香織が光の矢を連続で放って蹴散らし、ハジメの退路を確保する。
「よし、ハジメの撤退を援護する! 前衛組! ソルジャーどもを寄せ付けるな! 後衛組は遠距離魔法準備! ハジメの離脱と同時に、化け物に集中砲火を浴びせろ!」
メルド団長の命令を受け、準備を始める生徒達。あの時助けてくれたハジメを助けるということもあり、大半の生徒がやる気に満ちていたし、そうでない者も大勢が動いているのを見て動き出す。
その中には檜山大介の姿もあった。自分が鉱石に触れてしまったせいで起こった事態であるのだが、本気で恐怖を感じていた檜山は、すぐにでも逃げたいという気持ちが心の五割を占めていた。
残りの五割は、ハジメに対する殺意だった。
檜山がハジメに対して初めて敵愾心を持ったのは、ハジメが高校に入ってきた頃だ。檜山は中学生の時、香織に対して恋心を抱いていたのだが、天之河光輝という文武両道のイケメンが周囲にいたことで諦めていた。
高校に入学した時、状況が変わった。香織が光輝ではなく、突然現れた転入生と親密な間柄になったのだ。転入生とはハジメのことであり、香織と恋人の関係にまではなっていなかったようだが、明らかに友人の関係は越えていた。
この様子を見て檜山は思った。どうして学校一の美少女がハイスペックのイケメンではなく、いきなり現れたぽっと出の奴なんかと親しくしているのかと。そして、ハジメのことを美少女と親密になって調子に乗っているふざけた野郎として認識し、シメてやろうと考えた。まあ、相手が高身長であることにビビッて仲間と徒党を組んで襲撃しているので、完全に小悪党なのだが……
四人がかりで行って返り討ちにされた後、しばらくは大人しくしていた檜山だが、異世界に来て力を得て調子に乗り、清水を虐めていた時に乱入してきたハジメと戦って返り討ちに遭い、その際にハジメに対する殺意が芽生えてきた。この世界には日本の刑法など存在しないため、殺しても殺人罪にはならないし、バレなければ問題ない。
そして今、バレずに殺せそうな機会がやってきた。一人でベヒモスを拘束しているハジメを見て、檜山は怪しい笑みを浮かべる。もう、白崎香織なんてどうでもいい。自分に恥をかかせ、異世界で活躍を続けている南雲ハジメ。彼を消すことさえできれば何でもよかった。
ハジメはもう直ぐ自分の魔力が尽きるのを感じていた。魔力回復薬のストックはもう無い。後ろを振り返ると、全員の撤退が完了しており、魔法攻撃の準備に入っていることを確認できた。
ベヒモスは藻掻き続けている。だが、今の状態なら錬成を止めても数秒は時間を稼げる筈だ。魔力の欠乏が近いことで身体能力や感覚も若干低下しているが、撤退に支障はないだろう。ハジメは最後の錬成を行うと、階段の方向へと走り出した。
その数秒後、地面を粉砕して起き上がったベヒモスは、自身に無様な格好をさせた怨敵を鋭い眼光でロックオンし、咆哮を上げるとハジメを追いかけるために四肢へと力を溜める。あらゆる属性の魔法がベヒモスに殺到したのはその時だった。
ハジメは、あらゆる属性の攻撃魔法が頭上を飛んでいく中で走っていた。当たれば唯では済まない魔法が頭上を通るのは、普通に考えたら恐ろしいものだが、クラスメイト達を信じて進む。攻撃魔法の雨による足止めにより、ベヒモスとの距離は開いていく。このまま、ハジメの撤退は成功するかと思われた。
しかし、運命の女神は微笑まなかった。なんと、無数に飛び交う魔法の中で一つの火球が急に軌道を変え、ハジメの方へと飛来したのだ。明らかに、誰かによって誘導された魔弾だった。
(何だと!?)
ハジメの反応は僅かに遅れた。何故なら、魔力の欠乏によって身体能力と感覚が低下してしまったからだ。火球はハジメの進行方向に着弾し、範囲攻撃となる強烈な爆発を巻き起こし、ハジメは爆風を浴びて体勢を崩す。それだけではなく、ハジメに足を止めさせた。
その状況に、ベヒモスは黙っていなかった。自身を間抜けな格好にさせたハジメを鋭い眼光が再びロックオンする。そして、ハジメを叩き潰すべく跳躍すると、赤熱化させた頭部を下に向けて隕石のように突っ込んできた。
爆風を浴びた影響からギリギリで回復したハジメは、すんでの所で回避する。しかし、今までの戦闘によって脆くなっていたこともあって、ベヒモスが突っ込んだ場所を中心に大きい亀裂が入る。亀裂は広がっていき、ついには橋が崩壊を始める。橋は遂に耐久限度を超えたのだ。
ベヒモスはすぐに暗黒の奈落へと落ちていく。そして、ハジメも崩壊に巻き込まれてしまう。何とか復帰を試みるも、掴まれる崖はもう存在しない。そのまま、ハジメは瓦礫と共に奈落に吸い込まれていった。
「離して! ハジメ君を助けないと! きっと助けを待ってる! だから離してぇ!」
悲痛な叫びを響かせて飛び出していきそうな香織を、光輝と雫が羽交い絞めにして必死に引き留める。今の香織はその細い体が限界を迎えそうな程の力を出しており、このままでは体を壊してしまうだろう。
「香織っ、ダメよ! 香織!」
雫が必死に声をかける一方で、光輝は狂気に包まれた香織に何と言葉をかけていいか分からず、無言でいるしかなかった。その直後、メルド団長の手刀が首筋に打ち込まれたことによって香織は気絶した。
随分と無理矢理な感じはありますが、ハジメが奈落にINしました。本作ではデフォルトでスペースジャンプとグラップリングビームを保有してないので、復帰は不可能となってます。