【短編】ウルトラマントリガー~Pull the Trigger by Commonplace Alchemist~ 作:???second
超古代。宇宙は邪悪な闇によって混沌の渦に呑まれていた。
数々の星が闇に飲み込まれ、無へと帰していった。
地に足を付けねば生きられない人々は、星から離れて逃げることもできず、闇に溶かされ滅ぶのを待つのみだった。
しかし、宇宙の彼方より光の巨人たちが現れ、人々を守るべく邪悪な闇に立ち向かう。
熾烈を極める戦いの果て、光の巨人たちは邪悪な闇を打ち倒すも、力を使い果たした。
力を失った巨人たちは、己の肉体を石像へと変え、自身は光となって宇宙へと消えていった。
3000万年の月日が流れる。
太陽系第3惑星。地球。
紛争や戦争が終結して各国が団結したことで文明が急速に発達、宇宙開発に乗り出した人類だが、それを期に空想の産物と思われた怪獣の脅威や宇宙人の侵略という危険に晒される。
人類は、これらに対抗すべく地球平和同盟=TPUを設立。各都市に戦闘エキスパート『GUTS』を配備し、防備に当たる。
彼らの活躍もあり、人類はひとまず滅びの運命から逃れることができた。
これは、そんな地球…日本のとある学校から始まる。
日本の東京にある、高等学校。
『城南大学付属高等学校』。
月曜日という、憂鬱な週始めの日。昨日までの日曜日という天国を惜しみながら、生徒たちは授業を受けたり、面白くない授業から目をそらしてまどろみに溺れる者もいる。
そんな中、一人ちょっとした別の理由で授業に集中できない少女がいた。
白崎香織。
長く艶やかな黒髪と、若干垂れ気味の大きな瞳。小ぶりの鼻と、薄い桜色の唇が完璧な配置で並んでいる。これだけ完璧な容姿を持つと、年頃の少女の中には己の容姿を鼻にかけて他者を見下す者もいるかもしれない。だが香織はそのような歪みを持たず、天然な部分こそあるが誰にでも優しく接する人格者でもある。そのため男子たちはぜひお近づきになりたいと考えているほか、女子からも彼女は妬みをほとんど受けることなく絶大な人気を誇っている。
そんな彼女だが、教室の窓際にある一つの空席を見つめていた。
「じゃあ白崎さん、48Pの1行目から読んでください」
「………」
あの席には、本当なら『彼』がいるはずだった。
中学の頃から、ずっと気になっているあの人が…。
「あの、白崎さん?」
「え?…あ、はい!?」
授業を担当している先生から声をかけられた香織は我に返った。しまった、今は授業中だった。
「…白崎さん、今どこを読んでいたか聞いてましたか?」
先生は、教科書を片手にじろっと香織を睨む。
授業を担当している先生は、一目見ると香織たちよりも小柄故に、中学生にも見えるようなかわいらしい女性だった。
畑山愛子。この学校の社会科教師である。さきほども語ったように小柄で愛らしい容姿のため、教師としての威厳はなく、寧ろ小動物のようにかわいがられてもいる。本人としては当然年下から子供扱いだなんて面白いはずもなく、反論しているものの、やはり自身のかわいらしい見た目のせいで寧ろ和まされてしまう。香織に向けられる、突き刺さるような視線も、傍から見たら子供が駄々を捏ねてるような光景に見えてしまうのだ。
「…えっと…その…………ごめんなさい、聞いてませんでした」
とはいえ、言ってみれば被告側の香織は和めるような余裕などなく、授業に集中していなかったことに対する罪悪感もあって素直に謝罪する。
「香織、大丈夫?具合が悪いの?」
香織には、3人の幼馴染がいる。
一人は、親友である八重樫雫。たった今香織を気遣って声をかけた女子生徒だ。
スタイルの優れた長身で、目は鋭くもその奥の瞳は優しい。香織と同じく長く艶やかな黒髪をポニーテールで束ねており、運動や勉学も優れている。実家が剣道の道場であることもあって、剣道部のエースでもある。香織とはクラスの『二大女神』として崇められている。
「先生、あまり香織のことを責めないでください。何か理由があると思うんです」
そのように言って香織を庇ってきたのは天之河光輝。
成績優秀スポーツ万能、整いすぎた容姿…ありとあらゆる面で完璧な美男子。正義感も強く、あらゆることを完璧にこなしてきた、完璧超人だ。
将来の夢は地球防衛組織『GUTS』の隊員になって地球を守ることであり、しばらく前の職場体験実習でもGUTS極東支部にて体験学習を受けていた。
ここまでくれば言うまでもないが、滅茶苦茶モテモテの男で、毎日のように告白されている。だが彼はそれらの告白を受け入れたことはなかった。ついでだが、中には彼の幼馴染である香織や雫の存在を気にするあまり告白すらできない女子もいる。
「香織、具合悪いなら俺が運ぶぜ?」
最後に口を開いたのは、坂上龍太郎。
短く刈り上げた頭髪と、190センチという身長と、筋肉で引き締まった熊の如き大柄な体を持つ。見た目に通りの細かいことは気にしない脳筋タイプ。光輝の親友でもある。
「いいのみんな。ありがとう。別になんともないし、私がちゃんと聞いてなかっただけだから…」
幼馴染たちの温かな気遣いに、香織はありがたみを覚える一方で、心配をかけてしまったことを申し訳なく思った。
昼休み、香織は一人で食事をとろうと弁当箱を取り出した。
そしてまた、授業の時と同じく、窓際のポツンと一つ空いている空席を見やる。特に何かがあるわけではないのに、それをジーっとしばらく見つめていた。
「香織」
そんな彼女に雫が声をかけ、香織の正面に椅子を持ってきてそこに座った。
「また見てたの?あそこの席」
「雫ちゃん…うん」
雫からの質問に香織は頷いた。再び窓際のその空席に目をやる彼女は、寂しそうにそれを見つめる。あの席には、香織がずっと気になっている人物が座っている…はずだった。
そんな二人の下に、「香織」と名前を呼びながら光輝が歩み寄ってきた。
「香織、もうあんな奴のことを気にしなくていいんだ。あいつは学校をさぼってばかりのやる気のない奴なんだ。ろくに姿を見せようともしない奴をいちいち気にしてたら身が持たないよ」
光輝は、空席の主と思われる人物を冷たく断じた。それも、確な嫌悪感を露わにしながら。
「光輝、やめなさい。南雲君の休みはいずれも公欠で、誤解だって何度も先生が言ってたじゃない」
「何を言うんだ雫、これは大事な話なんだ。
あいつは香織の優しさに付け込んで甘えてばかりで、何度も口酸っぱく指摘しても生活態度が改めようとすらしないんだ。
あまつさえアイツは、
何度もこの地球を狙ってきた侵略者たちと!俺が何度言っても全く直そうともしないで!きっと今頃、学校をさぼってる間に異星人と…」
光輝は正義感に溢れ、自分以外の誰にでも平等に優しく接する美点がある。幼い頃からずっとそうだった。たとえ相手が悪人であっても悪事を働く理由を考えるたちなのだ。そのはずなのに…ハジメや『異星人』のことだけは一方的に扱いが酷い。彼らのことを悪人のように否定し、言うことなすことを認めようとしないという明らかな矛盾を抱えている。
後に光輝のこの気質は、『ご都合解釈』と呼ばれてしまっている。彼はこれまでの人生、勉学も運動も、人間関係でさえも失敗と言えるようなことはまるでなかったし、その正義感からとってきた行動によって幾度も困っている人を助けたという事例がある…とのこと。そんな彼に助けられたり、そうでなくとも彼を知ってその容姿と人柄に惚れた者も数多く、それ故に彼を半ば盲目的にもてはやすようになったこともあり、光輝は自分の正しさを疑ったことがなかった。
しかし、そんな彼にとって思い通りになっていない…いや、自分の掲げる正義、正しくあるべき姿から外れた者がいた。
それこそが、彼らが今、度々名前を出している『南雲』と言う人物だ。
「そうだ、このニュースを見てくれ!また異星人による事件が発生した!南雲は今でもこんな奴らを庇っているんだぞ!」
南雲と言う人物の悪と言える要素を強調するつもりか、スマホに表示したネットニュースの記事を見せつける。
内容は、異星人による侵略事件。
宇宙線が故障したという『アイロス星人』が、宇宙から流浪の身として地球に飛来し、宇宙船の修理のための物資と燃料を世界政府、およびTPUに求めた。それを哀れんだ地球側が物資と宇宙船修理のためのスタッフを派遣したのだが、実際は哀れな浮浪者を装った地球侵略狙いの異星人だった。スタッフを人質に取り、寄越された物資を、逆に侵略のためのそれとして悪用したアイロス星人は地球側に降伏を呼び掛けるという愚行に出た。だが、GUTSの奮戦もあってアイロス星人は倒され、人質にされた修理スタッフは無事救助された。
もう一つ事件がある。それは、異星人による通り魔事件だ。『カーリー星人』と呼称された宇宙人が、次々と人々を惨殺し続けるという事件が多発した。その死体はいずれも四肢を斬り飛ばされたり真っ二つにされたりと、聞く者全てをぞっとさせるおぞましい事件だ。何よりそのカーリー星人は、「殺したいから殺す」「人間の恐怖の表情と肉を切り裂いた感触がたまらない」といった、残虐極まりない犯行動機で事件を起こしてきた。その事件も、多大な犠牲を払うことにこそなったが、無事GUTSの手で解決を見たという。
でも…香織は襲われたわけでもなく、彼女とは何一つ接点のないことであった。
「いい加減にしなさい。南雲君の授業態度は確かに改めるべきことだけど、だからって香織が彼をどう思うかにあなたが口を挟む必要はないでしょ。それになんで唐突に宇宙人のことを引き合いに出すのよ?この場にいない南雲君はまだしも、香織とは関係ないじゃない」
「そ、それはそうだが…でも宇宙人を肯定するあいつのせいで、香織は無駄な苦悩を抱えているじゃないか!もし南雲の伝手でこんな奴らが香織に近づいて、万が一何かのことがあったりしたら…」
「それを含めて、あんたが口出しして良いことじゃないって言ってるのがわからないわけ!?だいたいさっきも言ったでしょ。なんで宇宙人のことを出すのよ。あんたはただ、南雲君を批判する理由に無理やり宇宙人の存在を結び付けてるだけじゃない。失礼よ!」
「ち、違う!そんなことは…!!」
宇宙人を認めようとしない彼の姿勢事態は、そうなっても不思議ではないと理解はできる。彼の言う通り、宇宙人は大多数が地球侵略のために飛来し、GUTSをはじめとした各国の地球防衛組織と激闘を繰り広げてきた。当然その戦いで大切な人たちを喪った人も多い。でも、宇宙人が全て悪だなんて決めつけて良い理由にはならない。地球人にだって許しがたい悪は存在するし、相手側からすれば地球人もまた宇宙人でもあるのだから。それを理解している雫だから、一方的な光輝の持論を認めるわけにいかなかった。まして、香織に考えを強制させる権利など誰にもない。
それを、あの優秀なはずの光輝が未だに気づこうともしないことが、あまりにも信じられない。
(どうして…光輝君はあんなに彼を嫌うの?)
香織は、『南雲』を認めようとしない幼馴染をただ悲しそうに見るのだった。
そんな時であった。
教室のドアをガラッと開く音が響く。
香織たちもそちらに視線を向けると、そのタイミングで教室に入ってきた少年がいた。
今にも眠たそうにしながらも瞼を開こうと目をぱちくりさせている、容姿も体格もいたって普通の少年が。
「南雲君!」
香織はその少年の名を呼びながら彼のもとへと駆け出した。
この少年こそ南雲ハジメ。この物語の主人公であり、後に強運を味方に付け、魔王と称される程の冷酷な最強の男として恐れられる…はずであった。
これは、ありふれた職業で世界最強の魔王となるはずの少年が、闇を越えて光を繋ぐ救世主となる、奇跡の物語である。