【短編】ウルトラマントリガー~Pull the Trigger by Commonplace Alchemist~   作:???second

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ありふれ二次創作を書いてる方々からもお気に入り登録されて嬉しいw


残された者たち

ハジメと香織、ミウラの3人が奈落へと落ちた。一人はクラスで頼られている治癒士にして二大女神の片割れ、もう一人はこれまで地球を怪獣や侵略者の手から守り抜いてきたGUTSの隊員。ハジメも二人より劣る面が強いが、ステータスの差をものともせずベヒモスを足止めするという快挙を成し遂げた者。

…いや、それらを抜きにしても、目の前で仲間が死んだという事態は、神の使徒と騎士団の心に深い影を与えた。雫に至っては、香織を失ったショックで錯乱し、メルドの手で気絶させられることでその場は収まる。

雫を龍太郎が運び、光輝たちはこれ以上の犠牲を出さず強行軍の姿勢でオルクス大迷宮を脱出した。

途中、下層に対して分不相応なレベルで連戦を長時間にわたって繰り返していたことや、前述の三人の死亡もあって、途中で膝を折る者も少なくなかったが、メルドは心を鬼にして彼らに足を止めぬように鼓舞する。魔物との遭遇に細心の注意を払いつつ、光輝たちは無事、地上へと脱出することに成功した。

 

 

 

 

 

ホルアドの街に戻り、生徒たちは何もする気が起きず、各自宿にて用意された部屋に引き籠り、多くはそのまま眠りについた。中には風呂や食事、談話で己の心身両方の疲労を癒そうとするも、体の方はともかく精神的なそれは癒しきれなかった。精神的なダメージが深刻であり、簡単な訓練でさえままならない様子であったため、メルドは少しの間この街で休ませようということになった。

気が付けば1日と数時間と時間が過ぎていった。

 

 

 

 

 

 

龍太郎は外でシャドーボクシング等の軽い運動をしていた。

脳内で仮想の敵として、あの65層目で遭遇した魔物たち…トラウムソルジャー、ベヒモスをイメージしながら。

しかし、いくら殴っても心が晴れない。寧ろ、目の前でハジメたちが落ちていった光景も蘇り、自分に対してどうしようもない怒りと不甲斐なさを覚えるばかりだ。

(俺…なんて馬鹿なことしちまったんだ…)

「っくしょう…」

「お疲れ、龍太郎君」

目の前にタオルが差し出される。振り替えると、見知った女子生徒二人の顔が目に入った。

「谷口?それに…園部か」

体内にちっちゃいおじさんを飼ってることで有名なチミッコ、谷口鈴。天職は結界師で、防御魔法主体の戦法で仲間サポートする。

もう一人は、ハジメがあの時助けたクセッ毛の女子生徒、園部優花だ。

「邪魔しちゃった?」

「んなことねぇさ。サンキュ」

 龍太郎は、鈴からタオルを受け取って汗を拭いた。

「にしても、どうしたんだよ。お前ら二人が揃うなんて珍しいじゃねぇか」

 一通り顔の汗を拭きとると、龍太郎は優花と鈴二人の組み合わせに対する新鮮味を口にする。

「早めに休もうって思ってたけど、やっぱ…ね。食事だって…いつもなら舌を通してご飯の味がするのに、今はそれが感じられなかった」

 優花は、命の恩人でもあるハジメが奈落に落ちたことがショックで、寝付け辛くなった。彼が落ちた瞬間のことが頭に焼き付きすぎている。

「鈴はエリリンを探してたよ。今回のこと、エリリンにも堪えてたと思うし」

 鈴もクラスメイトの奈落落ちというショックを感じていたが、持ち前の明るさでなんとか踏み止まってると言ったところだろう。

 やはりそれぞれが、今回のことが精神的にも堪えていた。

「南雲が落ちたことで、やっと分かった気がする。戦争って、どんなものなのか。

なのにあたしたち…死を他人事に思ってた」

 ハジメの死をきっかけに、優花は思い知らされた。自分達が選んだ道が、地球への帰還という目的のためとはいえ、異世界の戦争に首を突っ込むと言うことがどう言うことなのか。クラスメイトの死をきっかけにやっとそれを知るだなんて、自分でも気づくのが遅すぎたと、己の蒙昧さを呪わずにいられない。

「うん…光輝君やシズシズ…それにGUTSの隊員さんもいるし、この世界にもメルド団長さんみたいな頼れるがいるから、それで…」

 鈴もそれに同意した。自分達の味方に、光輝に雫、そしてGUTS隊員のミウラもいた。加えてこの世界にもメルドという信頼できる味方も現れ戦い方を教えてくれたこともあり、慢心していた。『彼らにくっついていれば安泰だ』と。それが、戦争という、理不尽に全てを奪う最悪の環境をナメていた何よりの証拠だ。

「お前らの責任じゃねぇさ。悪いのは寧ろ…俺たちだ。すまねぇ」

「坂上?」

「俺も戦争を甘く見てたってとこは同じだ。でも、南雲たちが落ちたのも、香織が身を投げたのも…あん時俺と光輝が撤退命令を無視してベヒモスやりあおうとして、皆の撤退を遅らせちまったせいだ。南雲とミウラさん、それに香織まで落ちた今、謝って済むもんじゃねぇってのは分かっちゃいるが、本当に悪かった!!」

 龍太郎は、自分と光輝ならベヒモスを倒せると思い上がって、撤退を遅延させ皆を危険に晒し続けたことを詫び、二人に向けて土下座した。

「そ、そこまでしなくていいよ!それにさっきも言ったじゃん、鈴たちも戦争のこと、軽く考えてたって」

「そうよ。何もあんたたちだけの責任じゃないわ。それに、もっとさかのぼれば一番悪いの檜山じゃん。せっかくトラップを看破したのに、あの石を拾っちゃったわけだし」

盛大な土下座で詫びてきた龍太郎に、逆に自分たちの方が申し訳ない気持ちにかられる鈴と優花。こうして土下座してでも直接謝罪するほどまでに、曲がったことを嫌うのはこの男の美点だ。

 それに引き換え檜山は愚かしく腹立たしい。既に看破したトラップにみすみす引っかかって皆を65層目という、現時点で最強最悪難易度の階層へ飛ばして危うく全滅するところだった。だというのにあの男は謝罪もせず、他の皆同様、まるで巻き込まれた被害者のように振る舞っている。香織の奈落落ちにショックを受けすぎて自責の念を抱いているから謝罪どころでは…と聞けば多少の理解はできても、そのような事態になったのも檜山自身の愚かで軽率な行動によるところが大きいことに変わりない。今回の件においてたった今行動をもって誠意を見せた龍太郎の方がよほど好ましく、まさに雲泥の差というものだ。

「だとしても、こうしてきちっと謝っとかねぇと俺の気が済まねぇ。何ならいっそのこと殴ってもいい!」

今、龍太郎の中にあるのは激しい後悔であった。メルドの撤退指示を無視し、結果としてクラスメイトの一人を死に追いやる結果となったことへ。

 調子に乗って状況に酔って、守るべき仲間を危険に晒してしまった。その結果がミウラとハジメ、そして香織の奈落行き。

 そうなる前の、自分と光輝が撤退を渋って交戦しようとしたツケを払ったのは…いつもやる気がないと内心侮っていたハジメだった。圧倒的ステータスの差をものともせず、唯一の技である錬成をうまく応用してベヒモスを足止めした。自分たちではどうにもなっていなかった、あのベヒモスを…

 龍太郎はあの時、素直にハジメを見直した。過小評価から一転して、すごい奴だと思った。そしてその分だけ己を恥じた。自分が、もっと冷静に状況を見ていれば…見ようとする頭を持とうとしてさえいれば、雫がそうしていたように、ベヒモスと戦おうとした光輝を諌め、早期の撤退ができていたかもしれないし、ハジメがあのように危険な殿役を務める必要も、ミウラと香織共々奈落に落ちることもなかった。

「い、いいわよ別に!もうあんなことしなけりゃそれでいいから!ほら、立って!」

 地面に頭をこすりつけて土下座をかまし続ける龍太郎。今はまだ人気が少ないが、これ以上はホルアドの人々にも見つかって奇異の目で見られてしまうため、優花は龍太郎の肩を叩いて立ち上がるように促す。

「…すまねぇ。つい」

「今日の龍太郎君、謝ってばっかだね。いつもだったらなんでも軽く流しちゃうのに」

「どう意味だそりゃ。…まぁ、否定できねぇのが悔しいとこだな。南雲からも言われたぜ。友達なら、ちゃんと考えろってよ…」

 ただ誠意を見せたのにこの言いぐさはなんだよと、龍太郎は細目で鈴を睨む。が、実際にそんなところがなかったとは言い切れない。撤退を渋った光輝を諌めるどころか同調してベヒモスとの無謀な戦いに出ようとしたのがその証拠とも言える。さっき鈴たちも言ってたように、光輝と一緒なら大丈夫だ…と。事実、光輝のあらゆる面におけるハイスペックさを目の当たりにしているから、光輝なら…と、事態を軽く考えていた。ハジメの、撤退を無視しベヒモスと戦おうとしたことを咎めた際の剣幕と言葉は龍太郎の頭に刻み込まれている。

「…南雲君って、ああ見えて勇気があって、結構考えてたんだね。そんな南雲君だから、カオリンも気にかけてたのかな」

 鈴は、ハジメを相手に常日頃話しかける香織のことを振り替える。普通に考えて不釣り合いな印象だった。容姿も才能も、人格も女子の理想を叶えてると言える幼馴染みの男である光輝をそっちのけにハジメに迫る香織は、鈴にとっても不思議でならなかったが、ベヒモスを足止めして見せた彼の姿を思い出すと、香織がハジメに興味を持っていた理由がなんとなく分かる気がした。最後にハジメを追って奈落に身を投げた時のことでそれが確信に変わった。

 …その一方で香織について、新たな疑問が浮かぶ。

「そういえば、白崎のあの姿って…」

 そう、ハジメを追おうと身を投げる直前、それを阻止するべく皆が彼女を取り押さえた際に発現した、香織の髪色が銀色に輝いた現象のことであった。ただ色が変わっただけではない。あの現象によって、香織を取り押さえていた全員が吹き飛ばされ、結局香織の身投げを許した。

「それも気になるところだよね。龍太郎君、カオリンのあれ、なにか知ってる?」

「知ってたら、あん時どうにかしてやれただろ…

ってか、あれって魔法の類いとかじゃねぇのか?」

「そっか、そうだよね」

 龍太郎も幼馴染みというだけあって香織とは長い付き合いだ。でも、香織にあんな力があったなんて聞いていない。それに、いくら異能の力があると言っても、魔法が当たり前に存在するこのトータスではさほど珍しいことではないのではと龍太郎は鈴に言い返す。

が、ここで優花が待ったをかけるように言いった。

「でも、魔法に必要な詠唱もしてなかったわよ?」

「!」

 言われてみればと、龍太郎鈴は記憶をたどる。香織はロックマウントに襲われた時も、特に詠唱も無しに魔物たちを弾き飛ばし、ハジメを追おうと奈落への身投げを図った際に皆から妨害された時も、詠唱無しで皆を吹き飛ばした。まだこの世界に来て日が浅いが、魔法には詠唱がつきものだと基礎知識は教え込まれている。無詠唱で魔法が放てるのはせいぜい魔物くらいで、人間には不可能な手段だ。

「ち、ちょっと待てよ。それじゃ、あの力って…まさか…香織がこの世界に来る前から持ってた力ってことか?」

「あり得ない話とは言い切れないでしょ。地球でもとんでもない力を持った怪獣や異星人だって現れてたし、実は近所に異星人が隠れ住んでいた、なんてこともあったでしょ」

 ネットやニュースで得ただけの知識だけど、と付け加えながら、異能の力に関する前例を述べる。

「じ…じゃあまさか、カオリンって…」

 優花の話を聞いて、鈴はまさか…と、一つの仮説にたどり着く。同様に、優花が何を言おうとしているのかに気づいた龍太郎が反発交じりに言い返した。

「園部!香織が異星人だって言いてぇのか!?冗談でも笑えねぇぞ!」

「異星人だからって、必ず悪だなんて決めつけられる云われはないでしょ。私たち人間にだって、悪人が事件を起こしたことなんて今に始まったことじゃないし」

「そ、それは…」

 だが即座に優花が入れてきた指摘に、龍太郎は返す言葉を失う。

「まぁ、これはあくまで推測の域を出ないことだし、動揺するのも無理ないわよ。天之河といつも一緒のあんたからすればさ。

…天乃河たちには言わないでよ?私がこんなこと言ったの」

 俯いて、浮かび上がった憶測に対して受け止めるのに時間を要することを察した優花。過去の異星人による侵略の歴史から異星人=悪と断じ、一方で人間に対する性善説を信じきってる光輝と一緒にいる龍太郎も、彼の影響を受けて異星人に対する敵対心を根付かれていたのだ。でも、優花の立てた憶測がもし正しければ…香織が実は異星人だった、ということが事実となるならば…いや、元から異能の力を持っていたということになれば、今まで自分と光輝は…

 

知らない間に、香織の心をずっと傷つけ続けていたかもしれない…

 

 おそらく光輝も、そして雫も気づいていないだろう。龍太郎自身も今まで気づいてなかったのだし、光輝は何度も語った通り異星人への敵対心が強い。そんな状況で、香織が自分は実は異星人、もしくは異能の力を持つ…などと言えるはずもない。雫なら理解を示し助けてくれるだろうが、異星人に対する地球人側の憎悪の高さを思えば、それは雫も異星人側に着いたなどと疑念を抱かれてしまう可能性も否定できない。

 大切なものを失った喪失感に加え、ずっと見知っていたはずのそれに対する、得体のしれないモヤモヤ感が、龍太郎たちの心に立ち込めていった。

 

 

 

 一方、その光輝はと言うと…

(香織…ミウラ隊員…南雲…)

彼の心は、悲しみと後悔、無理解でぐちゃぐちゃであった。

 今日はおかしいことばかりだ。ありえないことばかりだ。

 自分は勇者で、皆を守り抜いて、いずれこの世界を魔人族の手から救う。その暁に地球へ帰った後、この力でGUTSの隊員としてミウラと共に、怪獣や邪悪な宇宙人たちから地球を守り抜くつもりでいた、イシュタルの希望通りウルトラマンになったら、当然その力を振るうことに躊躇はない。その際には、傍らに香織や雫、龍太郎もいてくれる。そんな栄光の未来を夢見ていた。

 

 だが、現実はそうはならなかった。光輝に対して現実は非情であった。

 

 ミウラは、勇者である自分を最後まで認めてくれなかった。ロックマウントの時も、ベヒモスの時も、正しいと思ったはずの光輝の行動にいつもダメだしを食らわせこちらを黙らせてしまう。それに対して自分は何も言い返せなかった。その一方で南雲の方を気遣っている節が見受けられた。檜山の彼への訓練についても、彼はただの暴力だと断じていたし、他の皆と比べて『努力不足』故にステータスが低いハジメを甘やかしていた気がする。

 香織についてもだ。なぜ香織は、ハジメを助けに自ら身を投げてしまったのかが光輝には理解できなかった。香織は自分の幼馴染だ。誰にでも分け隔てなく優しいことは幼いころから知っている。彼女の傍にはいつも自分が、雫が、そして龍太郎がいる。隣には、自分が立って当然だと思っていた。でも、香織はいつもハジメの方にばかり目を向けていた。

 

 …まさか好意を持って…いや、それはあり得ない。

 

彼女は優しい人間だから、協調性でやる気のないハジメを慮っていたのだ。そんな幼馴染だから誇らしくて、そして…愛おしいとさえ思っていた。でも、最後に彼女は…ハジメを助けることを選んだ。そのために身を投げていった。それが何を意味するのか…分からない彼女ではなかったはずなのに。

 それに彼女の髪の色が変化したあの現象、あれはなんだ?香織はいつの間に、そんな『魔法』をいつ会得していたのだろうか。しかもそれを、ハジメを助けにいくために使った。

 雫に至っては、香織が奈落に消えたショックが相当のものだったせいで、まだ目を覚ましていない。

 光輝は回復した途端、もう一度メルドに迷宮訓練を求めた。香織たちが死ぬなんてそんなことがあるはずがない。二人は待っているはずだ。だから助けに行かなければ。ベヒモスらとの戦いでの傷はもう癒えているし、ベヒモスの戦い方もこの前の戦いで知ることができた。もう負けることなんてない。だから大迷宮にもう一度皆で挑もうと促すのだが…当然その案は却下された。そもそもベヒモスのいる65層目に挑むには、まだレベルの差が大きすぎるのだ。それに加え、ハジメたちの落下で皆のモチベーションは駄々下がり。そんな状態での行軍が許されるはずもなく、却下された。また同じ過ちを犯すのか?とメルドから強く指摘され、それを思い出した光輝は、ただ悶々としながらオルクス大迷宮の出口へ何度も目をやるしかできなかった。

 今でも、メルドの口添えを受けた見張りの兵士が、勇者である光輝であっても絶対に通すなと命じられ、監視の目を光らせている。

 

行き場のない怒りが彼の心を支配する。

 

 あまりにもいろんなことが悪い意味で、自分にとって望ましくない形で連発した。

 なんでこんなことになってしまったのか。なぜ?自分は祖父から聞かされ、イシュタルからもそう伝えられたウルトラマンになりうる存在にして、勇者として選ばれたはずなのに、皆を守って見せると約束したのに。幼い頃の祖父の時のように、もう二度と誰も失いたくなかったのに…一番失いたくなかった幼馴染と、憧れの英雄が目の前で消えていった。

 

どうしてこんなことになってしまったんだ…!!

 

「なんでだ…なんで!!なんで!!くそおおおおおおおおお!!!」

 光輝は声を荒げた。

 

香織とミウラ。二人が目の前で消えていったのはなぜなのか。

 

どうして自分の手を離れて行ってしまったのか…

 

 

 なぜ、自分じゃなくて南雲の方を選んだのか。

 

 

「南雲ぉ……」

 なんでお前なんだ。なんで、皆と違って協調性皆無でやる気もなく、まともに訓練に取り組まず、ステータスが低いままで、香織とミウラに構ってもらってばかりのお前が。

香織たちを失った悲しみが…次第に、ハジメに対する嫉妬へと変貌していく。でも、性善説を盲目的に戴く彼に、自分の心に醜い側面があることなど知る由もなかった。それらも全て、彼の『ご都合解釈』で塗り潰されてしまうのだから。

 光輝は、行き場のない怒りを吐き出しきれず、とぼとぼとホルアドの街をさまよっていると、噴水広場にて見覚えのある二人を見つけた。

 檜山大介と中村恵理。意外な組み合わせの二人組がそこにいた。もしかしたら、香織たちがいなくなったショックでお互いに慰め合っていたところだろうか。よし、自分も行こう。そう思って光輝は二人のもとに近づいた。

「…檜山、それに恵理じゃないか」

「っ!!?…よ、よぉ…天乃河」

「?どうしたんだ檜山。やはり、あの日のことを引きずってるのか?」

 光輝の顔を見た途端、檜山は妙に冷や汗をかいていた。まるで、聞かれたくない話を聞かれていたのはないかと焦っている悪党のように。光輝はそれを見て、香織たちが落ちてしまった事へのショックによるものだと思った。

「光輝君、もう大丈夫なの?」

 対する恵理は落ち着いているようであるが、その表情は暗い。恵理にとっても香織は友達だ。ショックを受けてないわけがない。

「俺なら、もう大丈夫だ。勇者だからな。皆を守るためにも、こんなところで膝を折るわけにいかない」

 自分はもう持ち直したのだと光輝はアピールした。これで少しでも恵理たちの心労が軽くなるのなら。

「それに二人とも、俺のやるべきことはもう決めたよ。俺は、オルクスにいずれもう一度挑む。香織とミウラ隊員を助けに行きたい」

「光輝君、気持ちは分かるけど、あの高さだよ?多分、香織ちゃんたちは…」

「いや、香織もミウラ隊員も無事だよ。俺ほどじゃないけど、ステータスの面ではかなり高い水準だ。俺でもベヒモスとの戦いで生き残れたんだ。高いところから落ちるくらい、あの二人にはどうってことないはずだ。香織も治癒師として優秀だし、落下の際に怪我をしたとしてもすぐ回復できるだろう何より俺は、香織たちが無事だって信じてるからな」

 改めて決意表明をした光輝に、恵理は光輝に対する哀れみのようなものへと変わる。香織たちが落ちていった現実を受け入れきれないあまりに現実逃避してるのだろう…あの高さから落ちれば助からないのは明白だというのに、香織たちの無事を疑わない。

「じゃあ南雲君は?香織ちゃんたちが無事なら…」

 恵理はハジメのことはどうするのかと問う。二人を助けに行くのなら、一緒に落ちたハジメのことも同じようにするものだろうと思ったのかもしれない。

「南雲…いや、あいつはもう無理だ。

大体、あいつのせいで二人が奈落に落ちてしまったんだ。ステータスが低いんだし、二人と違って奈落に落ちた際に死んだと思う。当然の報いだ。あいつは…侵略者を庇うような奴だからな。

 それに、まだ君たちや、龍太郎に雫…クラスの仲間が生きている。なら、ベヒモスを倒せるくらい強くなって、香織たちを今度こそ助けて見せる!」

 だが、光輝はハジメのことはもう死んだと捉えている。…ハジメとて、クラスの仲間のはずなのに。異星人を肯定している…ただそれだけの理由で。

 同じ状況の香織たちが生きていると妄信しておいて、自分の言い分が、かなり格差のある贔屓をかましていることに光輝は気づかない。死亡したことは想像にたやすいはずの香織の生存を信じて疑わないその様に、

 

 

恵理の表情が一瞬、無くなっていたことにも…

 

 

 

「そ、そうだろうな!そうだと思ってたぜ天乃河!!」

 そんな酷いご都合解釈を、この男は…檜山は全面的に肯定した。そして次の瞬間…彼はとんでもないことを告白した。

「実はよ…俺、南雲の奴を奈落に落としたんだ」

「な、なんだって!?それは本当なのか?」

「本当なの檜山君?」

 光輝はそれを聞いた途端、檜山がさらっとカミングアウトした内容に目を見開いた。恵理もそれは確かなのかと耳を疑ってる様子だ。

 いくら異星人に肩入れするハジメを認められない光輝とて、今の檜山の発言は到底受け入れるわけにいかないことであった。檜山の言葉が本当なら、これは明らかな殺人行為、光輝が忌み嫌う悪だ。しかもこの行いが、香織とミウラの奈落落ちをも招いた以上、猶更許すわけにいかない。

…のだが、檜山は待て待て!と光輝に怒りを抑えるように言いながら話を続けてきた。

「さ、最後まで話を聞いてくれよ!俺、あいつが昨日、魔人族と密談を交わしてやがったのを見たんだよ。多分、俺たちを裏切って自分だけ助かろうって魂胆で、裏切るつもりだったんだ」

「ま、魔人族と!?」

 檜山の話が事実ならば、これは非常事態である。

 この世界の人間たちを苦しめる悪逆非道の魔人族が、この街に居る。しかも、ハジメと密談を交わしていた。これは、クラスの皆や、救いを求めているこの世界の人々に対する、最悪の裏切りだ。

 …光輝の中に、ハジメに対する怒りの炎が沸き上がった。

「…そうか、やはりそれで…事故に見せかけて香織とミウラ隊員をも巻き込んだのか…!!くそ、南雲め!よくも二人を!」

「けど、ほんとすまねぇ。まさか白崎たちまで奈落に消えちまうなんて思わなかったんだ…いや、そもそも俺があのトラップに引っかかったりなんてしなけりゃ!」

 檜山は酷く申し訳なさそうに、光輝にひたすら頭を下げて謝った。彼にとって香織がどれほど大切な幼馴染なのか、傍から見てもすぐにわかることだっただけに、檜山は光輝が自分に怒りを向けるだろうことは想定していた。光輝に対して、香織が奈落に落ちた間接的な原因となったことを、檜山は必死に詫び続ける。

 その目にも涙が浮かんでいたのを、光輝は見た。檜山の心に、強い罪悪感があって、必死に罪を償いたがっているであろうことを、光輝は感じた。

「いや、あれは事故だ。確かに香織たちが奈落に落ちたことは俺にとって辛いことだ。でも檜山…君は涙を流してまで素直に謝ってくれた。それだけでも君の誠意は伝わったよ。

明日、クラスの皆やメルドさんたちに事情を説明しよう」

「天乃河…」

「大丈夫だ。君が罪を償おうとしていること、俺が保証するよ。俺の言葉があればきっと皆分かってくれる。

そして、南雲の裏切りについても話そう。あいつは香織たちを裏切ったんだ。絶対に…」

 

許さない。光輝がそう言おうとした…その時、

 

 

ホルアドの街に、災厄が起きた。

 

 

 

「グルアアアアアアアアアア!!!」

 

 

 

 オルクス大迷宮の天井を突き破るように、迷宮の天井部位から…岩の飛礫を飛ばしながら、巨大な怪物がはい出てきた。

「な、なんだ!?」

 光輝たちにも、龍太郎たちのもとにもその巨大な姿は一目で目についた。

「まさか、あのでっかいのって…」

 鈴は絶望と戦慄のあまり、震える声を漏らした。

 

怪物を見た神の使徒たちは確信した。

 

オルクスの内部から現れたその怪物は、自分達の地球にも現れ人類を苦しめ続けてきた脅威…

 

 

 

『怪獣』であることを。

 

 

 

それも、あの大迷宮でも遭遇し自分達に悪夢を見せつけた、恐るべき最強の魔物…

 

 

 

ベヒモスと非常によく似ていた。

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