【短編】ウルトラマントリガー~Pull the Trigger by Commonplace Alchemist~ 作:???second
突然指輪が光ったことに「え?」と声が漏れる香織だが、それだけではなかった。
同時にハジメの胸元にも光が灯り出した。突然自分の体から発生した光に、ハジメはもちろん、香織も驚いて抱擁を解いた。
「南雲君…!?」
「なんだこれ…!?」
もしやと思い、ハジメは服の中に手を突っ込み、マルゥルが託した菱形の宝珠を紐で結びつけたペンダント…トルグの紋章を取り出す。
菱形の宝珠と、菱形の意匠をあつらえた指輪。
まるで、お互い惹きあうことを運命づけられたかのようにそっくりな意匠の装飾品に、ハジメと香織はお互いに持っていたそれに対して目を丸くする。
「白崎さん、その指輪は?」
「え、えっと…私のおばあちゃんがお母さんに、そして私に代々渡してきたものなの。
それにしても、南雲君のそれ、私の指輪と似てる」
「あぁ、本当だ」
改めて互いに見比べると、菱形の文様が偶然の一致にしては出来上がりすぎてるくらいに、ハジメの持つトルグの紋章と、香織の指輪はよく似ていた。
「これはね、僕のたった一人の友達が地球を去る前に残したものなんだ」
「え…待って。地球を去ったって…まさかそのお友達って…!」
「そう、宇宙人なんだ。僕の親友は」
かつて、ハジメに宇宙人の友達がいたという事実に、香織は驚いた。
「知っての通り、僕ってオタクでしょ?だから友達なんて昔から皆無でさ、そんな中でたった一人だけ友達になってくれてたんだ。一緒に学校に行ったりとか、休みの日にゲームしたりとか。父さんと母さんの仕事も手伝ってくれたりなんてしたこともあったっけ。
楽しかったな…あの頃は」
その友達のことを放していくうちに、自然とハジメの顔に嬉しそうな顔が浮かぶ。
(こんな嬉しそうな南雲君、初めて見るなぁ……あれ?)
それを見て、香織も釣られるように笑顔を浮かべるが、ふと疑問を浮かべる。
「今、一緒に学校にって言った?宇宙人なんだよね?騒ぎにならなかったの?」
普通に考えれば宇宙人がクラスメイトにいるだなんて騒ぎにしかなり得ないのではと香織は思う。
「人間に擬態してたからそこは大丈夫だったよ。でも…色々あって、もうあいつは…」
少なくとも当時の学校生活においては、彼自身に擬態能力があったために事なきを得ていたというものの、最後には寂しそうにそう告げるハジメ。
「そうだったんだ。だから南雲君、宇宙人のこと…」
友達のことを話してた時の、どこか嬉しそうで、もう地球にいないのだと悲しく寂しげに告げるほどだ。きっとハジメにとって、相当かけがえのない友達だったのだろう。
「ねえ、そのお友達のこと、もっと教えてくれないかな?」
初めて知るハジメの新たな一面、というのもあった。香織は、ハジメが唯一と語ったその友達のことを知りたいと思い、彼のことをもっと話してほしいと要求する。
ハジメも、荒みかけていた心を繋ぎ止めてくれた香織へのせめてもの恩義になるかもと思い、また、彼女ならマルゥルのことを受け入れてくれるかもしれない、と思い始める。
「うん、いいよ。でもそれよりこの光は…」
マルゥルを、宇宙人と交友を交わした自分を受け入れてくれているのだ。今すぐにでも親友のことを語りつくしたいところだが、まず気になるのは、ハジメの持つトルグの紋章と、香織の指輪の方だ。
トルグの紋章と指輪の輝きは一つの光線となって交わり、二人の足元の地面に当たる。瞬間、二人の足元の地面に、
大きな空間の穴が出来上がった。
「な、なにこれ!?っきゃ!」
「白さ…うわあ!!!」
足場を失った二人は共に、足元に空間ごと開いた更なる奈落へと落ちていった。
まるでブラックホールの中へと吸い込まれていくかのように落ちていく。
「きゃあああああああ!!」
「し、白崎さん!手を!」
ハジメは落下する最中、香織の方へと手を伸ばし、それに応えて香織もまた手を伸ばす。どこまでも深い、深い奈落の底へと落ちていく中、姿勢を保つことが不可能なほど困難な中、それでも紡いだ絆を手放すまいと二人は手を伸ばし…ついに互いの手を繋ぎ取った。
それと同時に、空間に開かれた奈落から一気に景色が変わる。
二人は突如として、大きく開かれた石室へと放り込まれた。
「って!!」「きゃ!!」
二人が地面に尻もちをついたと同時に、二人を落とした奈落の穴は、石室の天井から消え去った。
「っつつ…大丈夫、白崎さん?」
「う、うん…南雲君は?」
「僕なら大丈夫。思ってたほど、なんともなかったね。あれだけの高さから落ちたのに…」
あの洞穴から実に、体感だが数百メートル以上は落ちた気がする。だというのに、この石室に堕ちてきたと同時に、二人は高層ビルのベランダから落ちた花瓶のように砕けたり、なんてこともなく、怪我一つなかった。
「ここって…オルクス大迷宮の、更に下の階層?」
「多分…」
周囲の、石室内の景色を見渡すハジメと香織。あれだけの高さから落ちて辿り着いた場所だから、オルクス大迷宮の中でもかなりの下層に位置する場所だとは想像はつくが…オルクスの緑鉱石の明りで照らされた洞窟とは、一線を合した景色だ。壁はしっかりと削られて整っており、古代の偉人の墓のようである。
「っ!ねぇ、南雲君あれ!」
不意に、香織はある方角をまっすぐ見上げ、思わず声を上げる。ハジメもそれにつられて、彼女が見ているものの方角に向き直る。そこで見たのは…
「こ、これは…」
イシュタルたちが自分たちに見せた、あのピラミッドの中にあったそれと同じ…
巨人の石像であった。
「っ!!や、闇の!!?」
ハジメはそれを見て恐怖し、いつぞや夢の中で見た闇を纏う異形の巨人を幻視して後ずさる。あれは、夢の中で見た……自分の変貌した…!!
(…い、いや、よく見ると…違う?)
…が、巨人の石像をじっと見つめていくうちに、次第に自分の中に浮かび上がった巨人とは似ているものの、姿かたちが異なることに気が付く。
あの夢の中の巨人は、真っ黒な闇のオーラで包まれていてわかりにくかったが、歪で禍々しい鎧のようなものを纏っていた気がする。でも、この巨人の石像は、その歪な鎧をはぎ取り、無駄のないスマートでヒロイックな姿をしていて、なぜか跪いている。夢の中の巨人よりも、ピラミッドの中で見たあの3体のうち、中央に立っていた巨人像に似ている気がする。
「まさか…このオルクスにも石像があったなんてね。この石像、イシュタルさんたちが見せてくれたものと似てるけど…あの人たち、この石像のこと知ってたのかな?」
石像を見上げて、ハジメはこの石像がイシュタルたちの知るところなのか疑問を感じる。
「…いや、ベヒモスのいる65層目以降って、ここ数百年間突破されてないって言ってたから、多分知らないか」
だが、イシュタルやメルド…これまでこの世界の人たちの話を聞いてきたが、この石像がオルクスに存在していたなどと言うことは一切聞かなかったし、知っていると断言できるだけの要素もなかった。
推測に過ぎないが、これまで会ってきた人々の証言から考えて、未知なる石像なのだとハジメは考えた。
「白崎さんはどう思……」
ハジメは香織にどう考えてるか、訊いてみようと思って声をかけるが、香織は返事をしない。ぼうっとしたまま石像を静かに見上げている。
「白崎さん?」
石像に見とれたのだろうか?そんなことを考えつつも改めて名を呼ぶと…
「『トリガー』……」
香織は石像を見上げたままぽつりと呟いた。まるで、その石像の名前を呼んでいるかのように。
「白崎さん?ど、どうしたの?ねぇ…」
ハジメは香織の肩に触れる。すると…
「っぐ!?」
突如として、鋭い頭痛が彼の脳天に響いた。
(な、なんだ…頭が…!?)
激痛のあまりたつことすらままならなくなり、その場でハジメはうずくまる。
『さあ、情熱的にいくよ!!』
『好敵手よ!我が剛力、受け止められるか!?』
『その破壊力…うん、実に…エクセレントですねぇ!!』
『所詮闇の戦士に過ぎない貴様が、我らの真似事をするなど…おこがましい!!!』
『なぜ、闇の戦士である貴様を、ユザレは…!』
『あなた、光を知らないのね?』
『人の笑顔には…力があるの。「光」っていう、力が』
『あなたは、光であり…』
「っはぁ!!はぁ…」
ものの一瞬の出来事だった。でも、たった一瞬で何時間分もの…見たことの無い人物たちと、見たことの無い景色等の記憶が流れ込んできた。
(な、なんだ…なんだったんだ、今のイメージは?アニメか何かで見かける展開?なんで僕にこんなのが見えたの…?)
なぜこんなものが見えたのか?それに最後に見えたのは…この世界に来る前にも夢で見た、香織そっくりの銀髪の女性。ハジメは、今自分に起きた現象に混乱していた。
なぜこんなものが見えたのか?ハジメは、改めて巨人の石像を見上げる。あの石像を見たせいなのか?
そんな推測をたてると、
「南雲君、大丈夫!?」
いつの間にか我に返っていたのか、香織が自分の顔を覗き込んでいた。
「し、白崎さん…」
よかった。どうやら元に戻っていたらしい。香織がなんともなかったことにハジメは安堵する。
「大丈夫。ちょっと頭痛がしただけだから。
…ねぇ、白崎さん」
さっき呟いていた『トリガー』ってなんなの?とハジメが、香織に問い返そうとした。
その時であった。
ひゅん!と、空気を切り裂くような音がハジメの耳に入った。
「っ!危ない!」
「きゃ!!」
咄嗟にハジメは香織を押し倒し、自らもその身の上に伸し掛かる。その直後、
バチイン!!!と音をたてながら、どこからか振るわれた鞭が巨人の石像に叩きつけられた。
な、なんだ?幸い直撃はなかったが、今度は何が起きたのだ?ハジメは鞭の飛んできた方角を振り返ると…
「…見つけたよ」
闇の奥から女の声が聞こえてきた。コツンコツンとヒールの靴音が、洞窟内で音響する。靴音が次第に近づき、香織とハジメの前にその姿を現した。
「誰だ!」
現れたのは、頭からスッポリ素顔を包んだ黒いローブの女だった。彼女は自らの頭をすっぽり包んでいたローブを下すと、女の素顔が露になる。
浅黒い肌と先のとがったエルフのような耳、王宮の資料で学んだ通りの特徴だ。
それを見てハジメは絶句する。
「まさか、
魔人族!?」
それはまぎれもなく、この世界の人間族の不俱戴天の敵たる種族、魔人族であった。
「魔人族!?じゃあこの人が、この世界の人間族と対立してるって言う…」
ハジメは、香織を通してミウラから託されたGUTSハイパーをホルスターから引き抜く。そのうえで魔人族の動きの他、彼女自身の容姿を観察する。確かに先の尖った耳を持っているが、それだけだ。言葉も通じているし…あれは…この世界の召喚された時に抱いた懸念通り…
(確かにちょっと違いはあるけど…どっからどう見ても、人間だ…)
もしくは、ヒューマノイド型宇宙人…トータスの人間族同様、地球人に非常によく似たタイプの種族というべきか。初めて見る魔人族が、思った以上に人間そのものであったことに驚きと、これから先たとえ迷宮から脱出できても、待っているのは彼女たちを相手に正義も何もない血みどろの殺し合いをハイリヒ王国側からさせられるであろうという残酷な未来を思い出させた。
「魔人族?あぁ、そういえば今のあたしってそうだったか」
魔人族の女は、なぜか自分のことなのに他人事のように呟き出す。
「まぁいいよ。ようやく…探し物を見つけられたんだから。ねぇ、あたしのトリガー!」
「トリガー…!?」
魔人族の女は石像を見上げると、先ほどの香織と同じ呼び名で巨人像の名を呼んだ。なんで彼女もこの石像のことを知ってるのか。尋ねようか思ったものの、言葉が喉に詰まった。女の表情が、どこか危険なものを抱いてるような、イシュタルがエヒトのことを語っているときとは似てるようで違う、薄気味の悪い恍惚とした表情だったせいだ。言葉の上では、遠距離恋愛の恋人と久方ぶりの再会のような口上ではあったが。
「でも残念だよ。こんな石像になっちまって…もっと情熱的な再会を想像していたんだけどねぇ。
にしても…」
巨人の石像に対し、情熱を込めたものからいかにも残念そうな落胆の表情へところころ変わる魔人族の女は、ハジメの後ろの香織の方へと視線を傾ける。
「時間どころか時代を越えすぎて力が衰えちまったのかい?あんたならこの迷宮の魔物程度、大したことないはずだろ。
ねぇ…
『ユザレ』」