【短編】ウルトラマントリガー~Pull the Trigger by Commonplace Alchemist~   作:???second

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変貌する奈落の王

「…!?(ユザレっ…今ユザレって言ったのか…?)」

 魔人族の香織に放った名前に、ハジメは驚愕する。

「ゆ…ユザレ?私が?」

 まさか自分のことを言ってるのかと、香織は耳を疑った。確か、イシュタルが自分達に話してくれた、光の救世主の伝説にその名前を聞いた。光の救世主と共に、悪しき闇と戦い世界を救った『巫女』だと。

「何を言ってるの!私はユザレじゃ…」

 でも、そんなのはあり得ないと思った。この世界は香織はおろか、自分達地球人には無縁だった世界。偶然見た目が似ていたとしても他人の空似だと思うのが自然だ。だから香織は魔人族の女の言動を否定する。

「とぼけても無駄だよ。あたしはこの迷宮に入ってから、あんたたちの動きは観察してもらっていたんだよ。もちろんユザレ、あいつが魔法とは別の、あんた自身の超能力で、ゴリラもどき共を弾き飛ばしたのも、この真のオルクス大迷宮の魔物共の攻撃からあんたらを守ったことも、ね。あの力はあくまで奴の力のほんの一端に過ぎないが、そいつがユザレであるという確固たる証拠さ」

「!」

 聖絶擬きの技でロックマウントやベヒモスの攻撃を弾き飛ばした時のことを指摘され、ハジメは香織を見やる。

 確かに、香織は無詠唱で防御魔法らしきものを発動させていたために、あれが聖絶とは異なる何かを思わせたが…当の香織は困惑したままだ。自覚すらしていないことが考えられた。それに…

(…なぜ、あの魔人族がそんなことを知っている?)

 香織がロックマウント戦で発動させた聖絶のような光の壁に対して、なぜ魔人族の女が香織本人ですら知覚していないであろうことを知っているのか新たな疑問を抱く。だからってこの女の言う『ユザレ』と決めつけられ、狙われるなんて理不尽ではないか。

「てっきり、あんたの血は途絶えていたとばかりに思っていた。まさか別の世界の人間に転生していたとは予想外だったけどねぇ。通りで、エヒトがわざわざ異世界から召喚したわけだ」

(転生!?)

 だがなおも、しかもしれっと、香織を転生の経験者としても扱う。この魔人族の女はいったい…魔人族の女に対しハジメは、彼女がどこまで知っているのだろうと、警戒を抱きつつも、場違いだと思いながらも興味すら抱いた。魔人族の女は香織を『ユザレ』として言葉を綴っていく。

「ユザレ…あたしはずっと夢に見ていたんだよ。あんたがこの世に甦るその時を…あの時から…ずうっとね!」

 その目に…果てしない憎悪に満ちた闇を抱えながら。

 会ったこともないはずの女に、殺意と憎しみを向けられた香織は恐怖を覚え、後ずさる。

その手に青白く光る鞭が生成していき、魔人族の女は、それを香織めがけて振りかざした。

「白崎さん!!っぐあ!!」

 まずいと思い、反射的にハジメは香織を強引に押し倒し回避を図ったが、香織はともかく自身は避けきれず、左腕に鞭の一撃を受ける。

「南雲君!!」

鞭を受けたハジメの左腕から、血が流れ出るのを見て香織は悲鳴を上げる。

「はっはっは!!随分と貧弱なナイト様だねぇユザレ!まるでもやしみたいじゃないか」

「…!」

 ハジメを馬鹿にされたことで、香織は魔人族の女にカチンとくる。これ以上ハジメを傷つけさせない。彼女はハジメを守ろうと、魔人族の女とハジメの前に立つ。

「ふふふ、良い目じゃないか。あの時もそんな目で、ちっぽけな人間の癖にあたしたちを睨みつけてたもんだ。けどねぇ…」

 香織の眼差しから、ハジメを傷つけられた怒りを感じ取る魔人族の女。その目に、小心者や弱者なら怯んでいたかもしれないが、女はそれをそよ風のように受け流す。

「あたしのあんたへの憎しみはこんなもんじゃないよ!!」

力強く華麗に振るわれた光の鞭が、香織に襲い来る。

「守護の光をここに!〈光絶〉!」

「しゃらくさいよ!」

「あぁ!!!」

 香織は、自分が使える防御魔法による光の障壁を即座に展開するが、その光の障壁は魔人族の鞭の一撃で一瞬で砕かれ、身を守っていた香織もろとも吹っ飛ばした。

「白崎さん!!」

 今度はハジメが悲鳴交じりに香織の名を叫んだ。

 今の一撃は結構重みを加えたものらしく、ハジメと比べてチート寄りのステータス持ちの香織でも、防御魔法込みでもかなりのダメージを負ってしまっていた。

「ははははは!いい様だね、ユザレ。でもね…この程度で終わるなんて思わないことだよ!そら!ほら!」

「あうっ…!ぐ…!」

 地面を転がっていく香織をみてゲラゲラ笑う魔人族の女は、香織が傷付く様を楽しみつつ、しかし容赦なく再度鞭を振りかざして彼女をバシン!バシン!と痛め付けていった。

「ほらほらどうしたんだい!?いつものように、あたしを楽しませるくらいの反撃してみせたらどうなんだい!それとも、痛め付けられることに喜ぶ趣向に目覚めた何て言うんじゃないだろうねぇ!」

 香織の白い肌が、赤いみみず腫れや切り傷で次第に赤く染まっていく。ハジメはそれを見せられ、胸の奥に熱い怒りが沸き上がり…

「止めろぉ!!」

 石床に手を付け、錬成を発動。香織の前に石壁を作り出した。

「っ!こんなものっぐ!」

 突然目の前に石壁を作られたことで、魔人族の女は一時手を止める。が、すぐに石壁を鞭で叩き砕く。だがここで彼女は足のバランスを崩した。足を見ると、両足が地面に埋まっていた。それがハジメの手によるものだと気づいた時、ミウラが香織を通して自分に託したハイパーガンの引き金を引いたハジメ。

 放たれた一発の閃光は、女の顔に向かっていく。このまま女の顔を貫こうとした寸でのところで、女が自分の方目掛けて閃光が襲い来ていたことに気づき、咄嗟に彼女は顔を捻る。ハイパーガンの閃光は、女の頬を虚しく掠めた。

しかし、その頬にできた切り傷から赤い血が流れ、女はハジメの方を睨み付けた。

「…このガキ!」

 自分の顔に傷を付けられたことへの苛立ちからか、女はハジメに向けて鞭を叩きつけた。地面に足を縫い付けられたとはいえ、彼女の鞭は攻撃範囲が圧倒的に大きく、一定の距離を開けていたハジメのもとにも容易く届いた。

「錬せっがっはぁ!」

 錬成で石壁を作り、ダメージカットを狙ったハジメだが、魔人族の鞭はハジメの石壁を容易く砕き、後ろの彼をも痛め付けた。香織よりステータスの劣るハジメには、魔人族の女の鞭は、一発一発が死を連想させるほどの激痛になりうる。

「南雲君!」

倒れたままの香織の悲鳴を背後に、魔人族の女はハジメの下に近づくと、彼に向けて手をのばす。

「借り物とはいえ、このあたしの顔に傷をつけた貸し、高くつくよ…!」

「っぐ…」

 ダメージが大きくて身動きがろくにとれないハジメには抵抗するだけの力もなく、魔人族の女から受けるであろう止めの一撃を覚悟するしかない。

彼女の握る光の鞭が、収束し形を変えて、今度は氷の剣へと変わり、ハジメの喉元に突きつけられる。

「止めて!あなたの狙いは私でしょ!」

 このままではハジメが殺されてしまう。香織は、煮るのも焼くのも全て自分にしろと魔人族の女に言い放つ。魔人族の女は、ハジメが相当香織にとって大事な存在であることを再認識する一方で、一つ気がかりなことがあった。

(っち、まだ本来の力を発揮しないのかい?『あれ』を手に入れるには、あんたが覚醒しきらなきゃならないってのに)

 香織が他の使徒と共に訓練を行い、その道中でロックマウントを集中的に香織に狙わせるよう仕向けたり、ベヒモスのいる65層目に飛ばして仲間共々危機的状況に押しやり、オルクスの奈落の底でベヒモス以上の魔物の群れと戦わざるを得ない状況に追い込み続けていった。追い詰めれば、香織が『真の力』を見せて反撃に転じると思っていた。でも、この場において香織は未だそのような力を出す兆候すらない。ロックマウントの時はそれが出て、ベヒモス戦の直後奈落に落ちたハジメを追おうとした時なんてはっきり銀髪となっていたのに。

(これも転生した影響だってのかい?どこまでもムカつく上に世話に焼ける女だよ)

 内心で香織に毒づく魔人族の女。何か、あの女を一層苦しめ追い詰める術はないものかと思考を探る。このもやし坊やを殺せば、それなりに怒りで我を忘れて覚醒…ということもあるだろうが、近しい人間を殺して覚醒を促すというのは一度きりしかできない。ここまで結構追い詰めてなお覚醒しきれていないのだ。もしハジメを殺しても覚醒しきれなかったら…

…いや、待てよ。

 そこで魔人族の女はあることを思い付いた。香織の心を苦しめる、最悪の行いを。

「くくく…いいことを思い付いたよ。あんたを苦しめる最高の方法をさ」

 今の声を聞いて香織の方を振り返った魔人の女は、彼女に獰猛な笑みを見せつけた。彼女は、ハジメを掴み上げている左腕とは別に、残された右腕をすぅっと上げる。

「そこで見て、よーく味わっておきな、ユザレ。

大事なものを…

あたしの…愛しのトリガーを奪われた女の怨みって奴をね!」

 魔人族の女は、ハジメを捕まえたままその右掌から天井に向けて、赤黒い闇を放出した。

 彼女の手から放たれた闇は、ハジメたちのいる石室天井を突き破り、天へと昇る霊魂のように上層の方へ壁も床も突き抜けて立ち上っていく。

 行き着いた先は、ベヒモスと戦ったあの65層目であった。65層目内を、魔人族の女の放った闇はあっという間に全てを包み込む。その闇の中にて、獣の唸り声と、鋭い眼光が輝く。

 唸り声と眼光の主たる怪物は、闇の中で暴れまわり、天井を突き破る。迷宮の天井は65層目からさらに上の階層もろとも砕かれていき、闇の中で生まれし怪物は、ついにオルクスの1層目の天井を破壊し、母の胎内から産声を上げた子供のごとく、ホルアドの町中を自らの咆哮で満たした。

 

 これが、最強の魔物ベヒモスが怪獣として生まれ変わった…

 

『深淵魔獣キングベヒモス』の誕生であった。

 

 

 

 地上…ホルアドの町は、キングベヒモスの出現で混乱に陥った。

 キングベヒモスはホルアドの町を、荒れ狂う暴風のごとき激しさで蹂躙していく。その猛々しい尾や、豪腕をふるって建物を次々と破壊していく。

「ま、魔物だ!魔人族の魔物が来たぞ!」

「魔人族が攻めてきたんだ!逃げろ!」

「た、助けてくれぇ!」

「あぁ、エヒト様…どうか我らをお救いくだされ…」

ホルアドの住民たちは、キングベヒモスに恐れをなして逃げ惑う。その場で崩れ落ち、エヒトに対して祈りを捧げる者もいた。

 この事態に、当然メルドたち王国騎士団も騒ぎを聞き付け現場に急行した。

「バカな、あの魔物は…ベヒモス!?」

「どういうことだ、なぜベヒモスがあのような姿に…」

「いや、そもそもあいつが迷宮の外に出てくるなどあり得るのか!?」

 口々に騎士団員たちから驚愕と動揺の声が飛び交う。メルドも同じ気持ちだ。今までオルクス内の魔物が外に出てくるなんてことはなかった。ましてやベヒモスが最強の魔物とされながらも世界の、ひいては人類の脅威とならなかったのは、迷宮の外に出てくるといったことがなかったためだ。こうして巨大化するといったことも前例のないことであった。

 メルドは、ベヒモスがあのように巨大化し外に現れた原因に、一つの推察を立てた。尤も、証拠の無い憶測にすぎないが、あり得る推察を。

(まさか…魔人族の手によるものか…!?)

 最近の魔人族が、魔物を操って戦力とするようになったことで、自分達人間族が不利に陥った。操る手段があるというのなら、強化することも…

 

 

 事実、今から1年ほど前…

 

 ハイリヒ王国軍と魔人族の国『魔国ガーランド』の間で戦いが起こった。

個々の強さにおいては魔人族に劣れてこそいるが、数の多さでは勝っていた人間族。力不足も自分たちの知恵と勇気を絞って、敗戦を喫することもあるが、勝利することもまたあった。そうやって一進一退を繰り返しながら、遥か昔から互いに神敵と認識し、憎み合いながら戦争を繰り返してきた人間族と魔人族。どちらか片方が滅ぶまでの緩やかな時の間、この攻防は続くかと思われていた。

 だが、このかろうじて保たれていたパワーバランスを崩壊させる事態が起きた。それが…魔人族たちが魔物を従え戦力に加えるようになったことだ。頭数の少なさをカバーしただけでなく、無詠唱で固有魔法を放てるという戦闘面においても厄介な魔物を従えたのだ。それだけでも脅威だというのに…

 

 ある日、その戦いにて命からがら遠方から生きて落ち延びてきた、同僚の騎士が言っていた。

 

「魔人族の使役する魔物たちの中には、城や山のような巨大な奴もいる」…と。

 

 にわかには信じられない。大型の魔物と言えど、『アンカジ』方面にいる大型のサンドワームくらいしか見ない。噂では、魔人族軍の幹部には、白く巨大な竜を駆る男がいるらしいのだが…それらと比較しても恐らくあの巨大化したベヒモスの方が勝っているだろう。

 そんな脅威を御して人間族側に優位に立つようになった魔人族を相手に、寧ろ今日まで人間族が生き延びれたのはまさに運と言えるかもしれないし、同時に疑問も浮かぶ。魔物を操るだけでなく、巨大生物に変えた上で自在に操れるなら、一息に人間族の国などいずれも全滅させられるはずであろうに…

 

 

 

「うわあああああああ!!!」

 思案するメルドの耳に、建物が破壊される轟音と人々の悲鳴が入り、彼は我に返った。

(…いや、魔人族のことを今議論や憶測で考えている場合ではない)

 もはや一刻の猶予もない。こうしている間にも、街は破壊され、ここにいる多くの住民たちが犠牲となっているはずだ。

「分からんが、今我々がなすべきことは、住民を避難させることだ!奴と戦おうとは考えるな。住民の避難を最優先としろ!」

「「「はっ!」」」

「光輝たちも集めろ。こんな時に辛いが、今はあいつらの協力も必要だ」

 メルドはまず、光輝たち神の使徒たちとも合流し、全員で街の人々の避難に当たらせることにした。香織やミウラ、そしてハジメという犠牲が先日の訓練で発生したこともあるし、何より相手があまりにも強大。犠牲者を最小限に留めるため、今後の魔人族とに戦いの要でもある使徒たちを守るため、メルドたち騎士団が動きだした。

 

 

 …のだが、騎士団が避難誘導に当たり始めてほぼすぐ、新たな問題が発覚した。

 

 

 避難誘導しつつ、光輝たちを泊めている宿に到着したのだが…

「メルド団長!」

「おぉ、重吾。無事だったか!」

 永山と彼のパーティーメンバーと合流を果たしたメルドたちだったが、ここで彼らは再会の喜びとは別に、違和感を覚えた。

「ん?お前たちだけか?他のパーティーはどうした?」

 総勢30名前後いるはずの神の使徒たちの頭数が、今ではたった1メンバー5人に加え、他数名しか見当たらない。

「そ、それが…俺たち以外のメンバーは…」

 凄く言い辛そうに永山は口を開く。何とかその先の言葉を紡ごうとはしているが、その先がなかなか言えずにいる。

「使徒様…!あなた方は、使徒様ですよね!?エヒト様が遣わしてくださった使徒様が迷宮で訓練なさるためにこの町にお出でになさったとお聞きしまし…くふ」

 そんな時、逃げ遅れていた老婆が、ちょうど彼らのいる宿の前へと駆け寄ってきた。が、この土壇場の中で老体を引きずりながら動き回っていたことで体力の限界が訪れたのだろう。彼女は宿の前の地面の上に崩れ落ちた。

「だ、大丈夫ですか!?」

「綾子、治療を頼む!」

「う、うん!」

 永山メンバーの一人、辻綾子。彼女は香織と同じ治癒師の転職を持つ女子生徒だ。香織より才能においては一歩及ばないものの、それでも十分戦力として期待されている身である。彼女は永山に言われた通り、老婆に回復魔法をかける。

「あぁ、なんと温かい…ありがとうございます使徒様。こんな老いぼれのために」

綾子の回復魔法を受け、老婆は立ち上がるだけの体力を取り戻した。

「使徒様、やはりあなた方は、エヒト様がこの世界に及びくださった救世主なのでしょう。きっとあなた方なら、忌まわしい魔人族の操るあの魔物を成敗なさってくださいますよね!?そうですよね!?」

老婆は、敬虔なエヒト教信者らしい。老婆が、綾子にすがり付きながら、どうにかなるだろう?と強く答えを求めていた。それに対して、重吾たちは返答できなかった。気まずそうに目を逸らし、任せてくださいと、世辞のような言葉も返せない。

「…アラン、先に彼女を運んでくれ」

「はっ!」

 メルドは、一端アランに老婆の避難を明示、アランは老婆を背中に負ぶって一足先に街から脱出した。

「重吾、もう一度訊かせてくれ。他の皆は?」

 改めて他の神の使徒たちの所在を問うメルドに、重吾たちは「それが、その…」とまたも言いにくそうにしていた。いつまでもはっきりと言えそうにないその態度に、その意味を察したメルドは真っ青になる。

「まさか…お前たち以外は!!」

 それは、このトータスの人間たちにとって最悪と言えることであった。

 

 神の使徒の大半は、永山たち数名を除いて、我が身可愛さに  

 

 

逃亡したのである。

 

 

 街の人たちや、クラスメイト…仲間をも見捨てて。

 

 神エヒトによって人間族を救済するはずの崇高な存在であるはずの神の使徒の、まさかの敵前逃亡。これに騎士たちは悪い冗談ではないのかと耳を疑った。

「せめて俺たちだけでも、天乃河や八重樫を守ろうと思って、ここに残ってたんですが…」

 そう言いながら、永山パーティーの一人、遠藤が背中に背負っている人物を見せる。背負われていたのは、彼の言う通り雫であった。だが、今も彼女は目を覚ましておらず、眠りながらもやつれている様子であった。

「く、使徒とあろうものがなんたる失態だ!なすべきことを放り出して逃げるとは!」

 これを聞いて、騎士の一人ホセが、いくらベヒモスの一件がトラウマだからと言ってあんまりだと、逃亡した神の使徒たちへの失望と怒りを口にする。

「落ち着けホセ!無理もない…エヒト様の神託により召喚されたとはいえ、彼らはまだ子供。戦争を知らない日常の住人だ。そのうえ、先刻の坊主たち3人のこともある。

甘かったのは、それでもどうにかなるだろうと安易に考えていた俺たちの方だ…」

 メルドは、憤りを露にするホセをなだめつつ、自分の見通しの甘さを痛感させられた。そう、軍記の上では許しがたいことであっても、こうなっても不思議ではなかったのだ。怪獣や異星人の侵略と言う脅威にさらされた世界であっても、彼ら神の使徒は、平和な日常に守られた子供たち。数少ない大人の一人である愛子も教師、つまり一般人にすぎず、唯一戦闘経験を持ち合わせていたのはミウラただ一人だけ。神から力を得たと言っても、精神面において未成熟で戦いとは無縁に過ぎない。仲間の死をトラウマに刻み込まれるあまり、我が身を優先してしまうのも無理はない。

 一方で永山たちもまた申し訳ない気持ちを抱く。巻き込まれた立場とは言え、自分たちは彼らトータスの人間にとって希望…人間族の守護者としての期待を寄せられている。それがたとえ押し付け同然で、天乃河や檜山の戦争参加表明に流された形の参戦だとしても、人死にが出かねない現状を防げたかもしれないと思うと、良心が痛む。

「だが…このままなにもしない、させないというわけにもいかん。

遠藤と真央、お前らは雫を連れて、逃亡したメンバーたちのもとに向かって、何とか避難誘導を手伝うように伝えてくれ。できれば全員連れ戻してきてほしいが、全員でなくともよい。今は一人でも人手が欲しい!

重吾、野村、綾子。我々と共に、他の使徒や逃げ遅れた住民たちがまだ街に居ないか探すぞ!」

 メルドは部下の騎士や、この場に残ってくれていた永山たちに駄目もと混じりで命令を下した。その命令通りに、皆が動き出そうとした時…別行動を取っていたカイルがメルドのもとに戻ってきた。

「大変です、メルド団長!

勇者様が、街の冒険者を扇動してベヒモスと交戦しております!同じくあの場に、園部様、谷口様と坂上様も確認!」

「なんだと!」

 光輝が、あのベヒモスと戦っていると聞いて、またも耳を疑わされた。町で暴れているベヒモスの方を見ると、ベヒモスの体に光属性魔法〈天翔閃〉の被弾による魔力の爆発が確認されている。だが、その一撃にベヒモスは全く堪えていない様子だ。

「あの馬鹿め!まだミウラ殿の言葉を理解しようとしていないのか!」

メルドは、またも無謀な失態を重ねる光輝に歯噛みする。だが、才能と天職共に捨てがたい光輝、きっちり磨きさえすれば一人の戦士として申し分ない若者であり、未来の人類の希望にもなりうる彼を、何より彼自身のためにもここで捨て置くわけにも行かない。

メルドはこの場を永山たちに任せ、光輝らのもとに急行した。

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