【短編】ウルトラマントリガー~Pull the Trigger by Commonplace Alchemist~   作:???second

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この二次創作では一応、同情すべき過去を加えた光輝ですが、元が歪とも、真っ直ぐ過ぎて融通が利かないとも言える問題人物なだけに、どうしてもヘイトを促しやすい内容になってしまう…。

僕がこの小説を書く上で気を付けてるのは、『ウルトラマン』と言う作品を、気軽に且つ軽率に『気に入らないキャラを叩くためだけの暴力装置、道具』にしちゃいけないってことです。だってウルトラマンは、そんな人間にすら、改心できる可能性が0であっても、救いを差し伸べなければならないから。

ずいぶん昔にアンチ・ヘイト関係でやらかしてしまった上でこんなことをいうのもあれですし、僕個人の主観的意見になりますが、
悪役に対するものなら、人として当然の怒りとして処理できるところはありますが、
そもそも『なんとなく、特に意味ないけどこいつにイライラするからこいつをサンドバック役にして叩いちゃえ』なんて…そもそも二次創作で書く必要ある?と今では思うんです。この作中ではメインヒロインに昇格している香織にすら、人によってはアンチ・ヘイトしてる二次創作もありますが、ウルトラマンと言う作品を扱う二次創作でそれをするなんて、それこそもっての外な気もします。(この時点で、僕の方がヘイトを買ってるかもしれませんが、これに関しては譲りたくないです…)

だからどうしてもアンチ・ヘイトを促すような内容を書くときは、「まぼろしの雪山」「怪獣使いと少年」のエピソードやメビウスの悪徳ジャーナリストみたく、ちゃんとそのヘイト要素にプラス方面に教訓となるような人間の美醜を考えさせられる『意味のあるお話』にしたりとか、最初は嫌な人だったけど最終的に頼もしかったり感動させてくれるような、西条副隊長やゴンドウ参謀みたいに書いていきたい。要はそのアンチ・ヘイトに、一つのエピソードとして重大な意味を持たせたいです。

だから、元々の光輝や檜山がいかに皆から嫌われがちなキャラクターでも、何か意味を持たせてあげられないだろうかと悩んでます。僕自身も「あいつ嫌いだから叩きたい」って言いたくなるようなこともあるだけに難しいですけどね。


憤怒

今でも覚えている。

 

正義感に溢れ、他者のために悪を断罪し正義を成す祖父を。

 

孫である自分をかわいがってくれた優しい祖父のぬくもりと笑顔を。

 

 

そして…

 

 

祖父が血に塗れた冷たい屍となった、あの絶望と怒りを。

 

 

 

 

 突然オルクス大迷宮の天井より現れたその巨大すぎる魔物に町の住民たちが逃げ惑う。力なき者、あっても力量差を思い知らされた者たちは逃げるしかない。豪腕の一振、跳躍の際の踏み潰しは嵐や地震の如く建物を破壊し、逃げ遅れた者たちから次々と餌食になっていく。

この状況を見て、キングベヒモスに立ち向かう勇敢な、あるいは無謀な者たちも現れた。

「あれってまさか、ベヒモスか!最強の冒険者でも勝てなかったっていう…」

 その声を上げたのは、オルクス大迷宮に挑戦するつもりの冒険者だった。ベヒモスの特徴や強さは少なくとも伝承として伝わっている。巨大化はしているが、資料と同じ特徴を持ち合わせていたことから、誰もがベヒモスなのだと認識した。

 暴れ狂いながら町を破壊するキングベヒモスを見て、血の気の多い冒険者たちは恐れるどころか、逆に気持ちを高ぶらせた。自分の力を誇示する、生きの良い獲物が現れた、と。

「へへ、ちょうどいいぜ!奴からこの地上に出るとはな」

「ええ、地上なら迷宮内と違って地の利もあるし、何より最初から体力を温存した状態で戦える!」

「邪魔すんなよ。ベヒモスを殺るのは、この黒ランクの俺様『フラッグ・デット』だ!」

 大抵の冒険者たちは65層目に辿り着く前にリタイアするのが当たり前だ。それまでの層で力及ばず死ぬか、引き返すか、たとえ65層目でベヒモスのもとにたどり着いても、65層目に行き着いた時点で食料も体力も底をついてしまい、結果ベヒモスに返り討ちにされるか、道中で引き返してもその際に遭遇した魔物たちの獲物になってしまう。だからハジメたち神の使徒一行とメルドたち騎士団が、檜山がトラップに引っ掛かったせいで転移された一件を除いて、ベヒモスを倒すどころか姿を見て生き残れた者はいないも同然であった。

 だから、冒険者たちは慢心し、気づけなかった。

 地上でならベヒモスに勝てる可能性があると思い込み、今のベヒモスが本来とはかけ離れ大きくパワーアップした姿…キングベヒモスとなったことを。

 それどころか、自分がベヒモスを倒して、力の誇示を図ったり、ベヒモスの落とす素材アイテムを換金して一攫千金を狙う、欲に目を眩ませる者が多発した。

 次々と冒険者たちの魔法が、キングベヒモスに襲いかかる。

「〈炎天〉!」

「切り裂け!〈砲皇〉!」

「貫け!〈雷砲〉!」

 太陽のような数メートル分もの大型の火炎の球体や、真空の刃を伴った大竜巻に、雷の砲撃…いずれもが上級魔法だ。やはり熟練の冒険者の手によるものからか、神の使徒にも勝るとも劣らず、いや経験を積んだ分だけその練度は圧倒的であった。

 次々と打ち込まれていく上級魔法により、キングベヒモスの姿は爆風で見えなくなる。誰かの口からどうだ!との声が飛び出る。それなりに手傷を負わせたはずだと自負していた。

「止めは俺だ!素材アイテムは俺がもらう!」

「あ、待てよてめぇ!ベヒモスの素材は俺らのもんだ!」

 前衛の冒険者たちは、自分が我先にと、ベヒモスの遺体から素材アイテムを回収しようと土煙に飛び込もうとする。たとえ生きていても、上級魔法の嵐で傷ついている。なら止めを刺すくらいわけはない。

 しかし…次の瞬間、土煙から突如として、角を赤々と燃えるように光らせたベヒモスの豪腕が現れた。それはロケットや追突車両のごとき勢いで冒険者たちを襲う。

「え?」

 驚きのあまり漏れ出た呆けた声。

 その豪腕は、前衛や中衛の位置にいた冒険者たちを、一瞬にミンチにした。

 冒険者たちは後衛の冒険者たちは唖然としていた。自分達の魔法攻撃が効かないどころか、たった一瞬で高ランクの冒険者たちの大多数を葬った。

 呆然としていると、魔法使いの冒険者の女性の顔にピチャッと、水らしき液体が降りかかる。やがて雨らしきその水はベヒモスと冒険者たちの戦闘区域を中心に降り注ぎ、そして止んだ。

(なにこれ?雨?)

 夜の雨天によるものだろうかと疑うものの、今の空は満点の星空。地球の空と比べると、雲一つもなければ、大気汚染の影響で空に漂うガスもない、星の輝きにあふれた美しい夜空だ。

 だったらこの水は?妙に鉄臭くて、赤い…同じように、近くの瓦礫や地面も鉄臭くて赤い。

 彼女はこの瞬間、理解した。これは、雨ではない。

 

血だ。

 

「き…きゃああああああ!」

 血の雨を認知した冒険者たちは、さっきまでの血気盛んさは嘘のように、ベヒモスへ恐れをなして戦意を喪失していく。

 まだ町に残っていた人たちも、腕利きの冒険者でも叶わないと知って絶望する。

 ここで自分達は終わるのだと、思い知らされていく。

ベヒモスが、冒険者たちに見切りをつけたのか、再度その豪腕を振るって一人残さず逃げ遅れた人間たちを狩り尽くそうとしたその時、

「〈天翔閃〉!」

現場に駆けつけた光輝が、奈落での戦闘の時と同じように、キングベヒモスに向けて必殺の魔法を放った。街が破壊され、大勢の人々が傷ついていく様を見て、居ても立ってもいられず駆け付けてきたのだ。

 冒険者や逃げ遅れたホルアドの住民たちの視線が光輝に集中する。

「皆さん、怯まないでください!俺は天乃河光輝!エヒト神の神託でこの世界に来た勇者です!」

「勇者!?」

「勇者ですって!?」

「噂には聞いてたが、まさか、本当に…?」

「いや、冗談だろ?あんな青臭いガキが…」

「いや、あの剣を見ろ。ありゃ聖剣だ。教会の連中が、いつか現れる勇者のためにと、後生大事に抱え込んでやがった…」

 自らを勇者と名乗り、聖剣を掲げてアピールする光輝を見て、皆の目に驚きや困惑が生じる。本当に勇者なのか?疑惑の視線もあるが、光輝の掲げる聖剣が光輝の言に信憑性を与えた。

「大丈夫、信じてください!俺たちが力を合わせればこんな魔物、敵ではありません!」

 皆を勇気づける、という意味では光輝のアピールは、良い方向に効果を表した。敬虔なエヒト教信者が大勢いたこともあり、勇者である光輝が政権を掲げたのを目の当たりにしたことで、絶望しかけていた冒険者たちや、住民たちの目に希望の光が宿る。

 瓦礫の山に染み込んでいる、多量の血液を見て、光輝は顔をしかめた。自分がここに来るまでのわずかな時間の間に、ベヒモスに挑んで散っていった人々のものだろう。

(くそ、よくも…)

 先日のベヒモスとの戦いで、ミウラや香織が奈落に落ちた時の光景が浮かび上がる。さらに記憶をさかのぼり、祖父が瓦礫の下敷きとなった時の光景も蘇る。

 このベヒモスが、以前65層目で遭遇した個体よりも見た目からして強力になっていることも光輝は察した。ベヒモスをこんな姿に変えた黒幕が魔人族と…檜山の語る『裏切り者』なのだろうと考え、光輝の心に怒りの炎を燃え上がらせた。

「平和を脅かす怪獣め…勇者である俺が相手だ!」

 強く意気込みながら、光輝はキングベヒモスに向けて聖剣の剣先を向けた。

 

 

 

 

 魔人族の女が天井に向けて闇を放って間もなく、ハジメたちのいる石像の間に、天井から砂が溢れ落ちるほどの地鳴りが響き渡った。

「いったい何をしたの!」

 香織が、ハジメの胸倉をつかみ上げたままの魔人族の女に向けて、きっとろくでもないことを実行したことを確信しながらも、何をしたか問い詰める。

「いい加減ユザレ、あんたにやる気になってもらおうと思っただけさ。あのベヒモスとかいう雑魚を、あたしの呪術で情熱的な怪獣に変えてやってね。

今ごろ地上は、あの子の遊び場になってるだろうさ」

 それを聞いてハジメと香織の表情が青くなる。

 地上にはクラスメイトたちにメルドたち神の使徒教育担当の王国騎士団、そして迷宮攻略にやってきた冒険者やホルアドの住民たちが大勢いる。

「さあどうしたんだいユザレ?ここであたしを殺さないと、このもやし坊やも、地上にいるあんたの大事な間抜けどもは皆殺しだよ?」

「……!!」

「最も、今のあんたじゃあたしを殺せないだろうし、たとえ殺したところで、その時には地上はおしまいだろうけどねぇ!!」

 魔人族の女は、香織の感情をとことん逆撫でする。

 地上には、大勢の人たちがいる。その中には、クラスメイトに、困った幼馴染たちや、何より共に笑い合った親友もいる。

 そんな彼らが全て、この女のためだけに…

 香織の中で何かが切れそうになる。

「そうだ、もっと怒りなよ。そしてその心のかせを外して、あんたの力を目覚めさせるんだ」

 魔人族の女は、香織の中で何かが目覚めようとしているのを感じていた。自分が待ち望んでいる、大いなる力の目覚めを。

 でも、まだ足りない。元来のお人好しな性格が辛うじてブレーキをかけているのだろう。

「さもないと……」

 だったらと…魔人族の女は次の一手に、まさに悪魔的な行動に出た。

 香織に見せつけるように、自分の左手で捕まえていたハジメの首を掴んで持ち上げる。ハジメも何とか魔人族の女の手から逃げようと足をぶらぶらさせたり、女の腕を振りほどこうとするも、全く持って足りないステータスのせいで全くびくともしない。頼みの綱の錬成も、対象が無機物・好物でなければ使えない。黒ドレスとマントのみ魔人族の女の装備にはそういったものが不幸にもなかった。最期の一手のGUTSハイパーを引き抜こうとしたが、それを見抜いた魔人族の女の左手に氷の剣が瞬時に握られた。

「止め…」

 次に起こる現実を察し、香織が止めてと叫び切る前に、魔人族の女の氷の剣は…

 

 

 

グサッ!

 

 

 

 

 

 

ハジメの胸を、

 

 

 

 

 

 

氷の刃が貫いた

 

 

 

 

「かは…」

 夥しい量の血が、魔人族の女に持ち上げられているハジメの体から滴り落ちる。

 香織はそれを見て、時間が止まったようにも、魂が抜けたようにもとれる絶望の表情を浮かべていた。

 ハジメから氷の剣を引き抜くと、魔人族の女はハジメをごみのように放り捨てた。ハジメは地面を転がった後、うつ伏せの姿勢で地面に伏し、それからピクリとも動かなかった。微動だにもせずに、まるで…死んだように…

 否、今の魔人族の一撃は、確実に相手を殺すものだった。つまり…

「あ~あ、大人しくしとけりゃ、少しは寿命が伸びただろうに。相変わらず…人間ってのは…学習能力のない馬鹿の集まりだねぇ」

 ハジメを鼻で笑う魔人族の女。

「でもこれで少しは分かっただろ?あたしがあんたに、トリガーを奪われた怒りって奴がねぇ!」

 

 

プッツン…

 

 その時…香織の中で何かが切れた。

 無意識に石床を握るその白い手の指先から、血が滲み、唇からも歯軋りが漏れ出る。

 沸々と、噴火直前の火山のマグマのような、燃えたぎる怒りが、彼女を支配した。

 

「う、ううううぅぅ…

 

うああああああああ!!!!

 

 香織の中から白い光が、衝撃波と共に溢れ出る。決壊したダムのような勢いで溢れる白い光は、まさに香織の心そのものだ。その輝きの眩しさに、ハジメは反射的に顔を覆う。光が収まってその奥を見ると、光の中心にて香織が銀色の髪を靡かせながら魔人族の女に怒りの眼差しを向ける。

「やっとその姿になったか、ユザレ!」

 ベヒモスの時と同じく、銀色の髪に変わった香織を見て、魔人族の女は怖じ気づくどころか、待ち望んでいたと喜んでいた。

 魔人族の女は香織を痛めつけることと、彼女が大事に守ろうとしているハジメを傷つけること、何より窮地に追いやることで、香織の隠れた力の覚醒を狙っていたのである。

「許さない…お前だけは…絶対に!!」

 いつもの温厚な彼女からは考えられない怒りを露にする香織。自分の身に起きた現象に気づいていない。自分の大切を傷付けた目の前の女に対する怒りしかなかった。

「許さない?っは…それはこっちの台詞さ!」

 魔人族の女は、自分も香織に憎しみを露にしながら鞭を振るった。

 

 

 

 

「勇者様、私たちで奴の動きを封じます!その間に、あなた様の全力の魔法を叩き込んでください!」

 異世界でも、クラスメイト達相手に働いたカリスマ性が発揮されたこともあり、勇者でもある光輝に、冒険者たちは希望を託すことにした。

「わかりました!必ず仕留めて見せます!」

 光輝も、冒険者たちから希望を託され、それに応えるべく最大の技の詠唱に入る。

「神意よ!全ての邪悪を滅ぼし光をもたらしたまえ。神の息吹よ。全ての暗雲を吹き払い、 この世を聖浄で満たしたまえ…」

「奴の動きを封じるぞ!勇者に指一本触れさせるなよ!」

 一人の冒険者の今の言に従い、幾人かの同業者たちが頷く。

「〈氾禍浪〉!」

「〈崩岩〉!」

 20メートルクラスの津波と、周囲の瓦礫を集め弾丸として飛ばす魔法。どちらも水と土の上級魔法だ。

 〈崩岩〉は、本来なら大地を崩壊させ、その崩壊させた大地を岩の弾丸として放つもの。しかし、キングベヒモスが周囲の建物を広範囲にわたって破壊していたために、瓦礫を代用として使用できた。

 大津波でその身を打たれ、瓦礫を利用した岩の飛礫を受け続けるキングベヒモス。通常のベヒモスと比べて巨体だったこともあり、その分だけ的も大きく、冒険者たちの上級魔法を避けられず立て続けに食らう。

「〈氷獄〉!」

「〈白牢〉!」

 続いて放たれた、新たな上級魔法。対象を氷漬けにする〈氷獄〉、対象を石化させる〈白牢〉だ。酔っ払いに浴びせられたバケツの水のごとく津波を浴びたことや、〈崩岩〉によって土と瓦礫にまみれた影響もあり、キングベヒモスは氷と土で一気にその体表を固められてしまった。

 これでベヒモスの動きを封じた!

 その間光輝は、自身の最大の魔法攻撃の態勢に入った。

「神の慈悲よ。この一撃を以て全ての罪科を許したまえ!

 

〈神威〉!」

 

 聖剣から放たれた、闇をも切り裂くであろう光が、キングベヒモスに浴びせられた。

 閃光に込められた魔力の量と濃さ、そのまばゆい閃光の輝きに、共に戦っていた戦士たちの多くが見とれていた。閃光の中へ姿が見えなくなったキングベヒモス。これならばと、大勢の冒険者や、ホルアドの住民たちは希望をより強く抱いた。

 

 そしてその分だけ……絶望を思い知ることになる。

 

「グウウゥゥ……ウガァ!」

ベヒモスが爆炎の中から姿を現し、うっとおしいとばかりに無差別に攻撃を再開、街を再び蹂躙し始めた。

「ぎゃああああ!!」

 勇者の攻撃でならばベヒモスを倒せると期待してただけに、ベヒモスの近くにたまたまいた一般人や冒険者たちは、結局健在のままであったキングベヒモスによって踏みつぶされ、ミンチにされた。

「な、効いてない…だと…!?」

「そんな、勇者様の攻撃にも耐えるだなんて!!」

「…あぁ、無理だ…もうだめなんだ…勇者様でもダメだったなんて…」

 勇者である光輝でもだめだった。魔人族の魔の手から人間族を救う救世主でもだめだった。もはや彼らの中に、希望はなかった。

その猛々しい角を燃え上がらせるように赤く発行させたキングベヒモスは、両足で思い切り地を蹴り、その巨体からは想像もつかないほどの跳躍力を見せつける。上空からミサイルのような勢いで落下し、大地を踏みしめると同時に地震のごとき強烈な地響きがホルアドを中心とした一帯に響き渡り、その着地地点に不幸にも入っていた逃げ遅れた人々は一瞬で血と肉のシミとなって大地に染み込んでいった。

「おいおいなんだよ!期待させておきながらこのざまかよ!」

「勇者…とんだ青二才よ。少しでも期待した私が馬鹿だったわ…!」

「くそ、これ以上はやってられねぇ!俺は生き延びることに徹するぞ!」

 中には光輝に、希望を持たせながら全く期待に応えられなかったことへの失望と落胆を抱く者もおり、これ以上の打つ手もないと判断して次々と戦線離脱していく。

「待ってくださいみなさん!まだ負けたわけじゃ…」

光輝は彼らに一緒に戦おうと促すも、誰もが耳を貸さなかった。

 巨大化させられた影響で、キングベヒモスは通常のベヒモス以上に、頑丈すぎた。そもそもベヒモスにさえ傷一つ付けられなかったのに、いくら勇者であろうが、ただの未熟者に過ぎない光輝が敵うはずもなかったのだ。

「くっそ!だったら俺だけでも!」

 そんなこと、少し考えてみれば想像着くはずなのに、光輝は己の無謀さを省みず、さらに強力な技を持ってキングベヒモスを倒そうと試みるが、その隙も与えまいと腕を振り上げた。

「「ここは聖域なりて神敵を通さず!〈聖絶〉!」」

 振り下ろされたと同時に、少女と男性二人組の声が響き、避ける間も与えられなかった光輝を守り抜いた。だが、聖絶の壁を通してキングベヒモスがその壁を殴った際の衝撃が激しく伝わり、光輝は、駆けつけていた鈴やメルド共々膝を着いた。

「っぐ…す、鈴!それにメルドさん!?」

「大丈夫か光輝!ここは逃げねぇと!」

「そうだよ!迷宮のベヒモスでも勝てなかったのに、あんなのに勝てるわけ無いよ!」

 ちょうどその時この場に龍太郎、優花も合流していた。龍太郎は光輝が冒険者たちを先導してキングベヒモスと戦っているのを目撃し、彼を連れて撤退するため、鈴や優花はそんな彼一人だけに任せるだけでなく、自分達もどうにかしなければと思ってここに来た。だがこの場に、一緒に光輝といたはずの恵理や檜山はいない。彼は龍太郎たちが駆けつける前に一人怖じ気づいて逃げ出してしまったのだ。一方で恵理については、先に鈴に逃げるように促されてこの場にいない。

 龍太郎や、メルドと共に聖絶を展開中し維持している鈴が、光輝に撤退を勧める。

「な、何を言うんだ!そんなの最後までやってみなくちゃ分からないだろ!」

「とっくに分かりきってるのに何言ってるの!早く逃げなさい!」

 優花も、光輝の聖剣を握る腕を、龍太郎共々引っ付かんで引きずろうとする。

「止めるくらいなら俺を手伝ってくれ!俺たちが力を合わせればきっと」

「力を合わせても無理だ!分かってるだろ光輝!迷宮で俺たちが撤退することもやっとだったことを、あの時坊主たちが奈落に落ちたことを忘れたのか!」

 メルドも、また我が儘を垂れる光輝の無謀さを無視できず、一緒に逃げようと勧め続ける。念入りに注意しても、また同じ愚を犯している彼に、さすがに我慢が限界に達しかけていた。

 誰も光輝に賛同して、ここで一緒に戦おうとはしなかった。あの龍太郎ですら。誰も味方してくれず、逃げるべきだと弱腰に訴え続ける仲間たちに、光輝は…

うるさああああい!!

「…!」

 駄々を捏ねた果てにわめき声を上げて、龍太郎たちを一気に黙らせた。皆が光輝に向けて息を詰まらせる中、光輝は聖剣を構えてキングベヒモスと対峙する。

「俺は、こいつを倒す!倒さないと行けないんだ!俺はこいつを倒して、

 

じいちゃんたちの仇をとるんだ!」

 

「!」

 龍太郎たちは理解した。今の光輝はいつものような己の正義感に従って戦おうとしているのではない。己の憎しみを晴らすために刃を振るおうとしていた。幼い頃にて怪獣に祖父の命を奪われ、奈落に香織やミウラを落とされた憎しみが、ベヒモスとその裏にいるであろうベヒモス変貌の元凶への義憤が、他者の価値観を認められないほど真っ直ぐすぎる正義感と結びついてしまったのだ。

「じいちゃんの、仇…?」

「光輝君…」

「光輝、お前…」

 光輝の言葉に引っ掛かりを覚える優花や鈴、メルド。

「〈神威〉!」

 皆が呆気に取られた僅な間に、光輝は聖剣を構えて目映い魔力を帯びさせ、剣先をつき出すと同時に必殺の魔法光線を放った。勢いよく放たれたその光線は、真っ直ぐキングベヒモスを捉えた。だが、キングベヒモスの体をわずかな間爆炎が包み込んだだけであった。

 キングベヒモスは、鬱陶しいハエを排除しようとでも思ったのか、こちらに近づいてきた。

「この…いつまでも俺をナメるなよ怪獣め!絶対にお前を倒してみせる!」

 ただがむしゃらにキングベヒモスに立ち向かおうとする光輝の姿は、目もあてられそうもなかった。

 

――――――友達のために何をするべきか、ちゃんと考えてよ!

 

「…」

 龍太郎の脳裏に、65層目にてベヒモスと戦ったハジメの言葉がよぎった。今、光輝のためにできること。それを、自分でも無いと認めざるを得ない頭で考える。その果てに龍太郎は…

 

 光輝の隣に立ち、身構えた。

 

「龍太郎君!?」

「坂上、あんた…!」

 さっきは65層目での、皆の脱出よりもベヒモスとの無謀な戦いを光輝と共に挑もうとしたことを詫びたはずなのに、なぜ!?鈴や優花の信じられないと言わんばかりの目が彼の背中に集中する。

「やっとわかってくれたんだな、龍太郎!さあ、一緒に…」

 龍太郎がついに自分の意に沿ってくれたことに嬉しく思う光輝。いざ、今度こそベヒモスにリベンジを挑もうと意気込んだ…その時、

 

ドス!!

 

「ガハッ!?」

 その龍太郎の拳が、光輝のみぞおちに深々と突き刺さった。

「龍…太郎…なんで…」

 いくら総合的に最強の神の使徒である光輝も、隙を突いた龍太郎の一撃には耐えきれず、その場で崩れ落ちた。

「光輝、済まねぇな」

 気絶した光輝を、龍太郎は受け止めてすぐに背中に背負った。龍太郎が光輝の隣に立った時点で、てっきり光輝と共に無謀な戦いに身を投じると思っただけに、これには鈴たちも予想外だったらしく、目を丸くした。

「メルドさん、俺が光輝を運ぶ!悪いけどその間は…」

「あぁ、任せろ。殿は俺が勤める。前回のベヒモスからの撤退と同じ流れで離脱する!」

「龍太郎君ナイス!」

 光輝が動けなくなったことで、龍太郎たちは全速力で戦線離脱を試みた。

 しかし、キングベヒモスは…そんな彼らを逃がすつもりはなく、ゆっくりとした足取りで龍太郎たちを追い始めた。

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