【短編】ウルトラマントリガー~Pull the Trigger by Commonplace Alchemist~   作:???second

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ハジメとミウラ隊員(1)

それからハジメたちはイシュタルらの案内で、聖堂の大広間へと招かれた。

大テーブルに豪勢な料理、そして男の夢を具現化したかのような美女・美少女メイドたち。料理や聖堂の作りだけでも目を引くというのに、特にメイドさんたちの整いすぎた容姿と抜群のスタイルには特に男子勢の目が輝いてしまった。それは現役オタクであるハジメとて例外ではなく、ついいつものサガが働いたのか、今後の創作活動の参考…といううわべの名目でメイドさんたちを凝視してしまう。…のだが、満面の笑みと共に恐ろしいプレッシャーを向けてきた香織に気づき、喜びから一転して蛇に睨まれた蛙の気持ちを理解させられるのだった。

手際よいメイドさんたちの配膳で各生徒たちに隈なく料理が配られ、イシュタルは皆の状況について説明を入れるのだった。

 

 

その説明の果てに……

 

 

 

ハジメたちはありふれた平和な日常から一転して、この世界で人類の存亡をかけた戦争へと駆り立てられてしまうこととなった。

 

 

 

 

彼らのクラスが召喚されてからの2週間後…

 

 

「……痛っ」

ハジメは図書館にて憂鬱な気持ちのまま、本棚から取り出した無数の書物と睨めっこしていた。なぜかその顔には絆創膏や包帯が巻かれている。

「よお、南雲君」

「っ、ミウラ、さん…」

そんな彼のもとに、ミウラ隊員がやってきた。

「どうだ、自習の調子は?その傷の調子も気になるけどな」

「ぼちぼち、ですかね…。怪我も、ちょこっと痛むくらいですよ。…はぁ」

できればぴしっとした態度で、ただいま猛勉強中です!と現したような様を見せつければ、GUTSの隊員の前、恰好は着くだろうが、あいにくハジメはその果てに今の状態だ。異世界に来ても夜更かし癖が改善する見込みがない。だが、これについても一応ちゃんとした理由あっての結果なのだが。

「ため息を出すと幸せが逃げるぜ?…ま、こんなことになっちまったらそりゃそうなるのも無理ないか」

寝不足と心労の重ね重ねでため息が止まらないハジメにミウラはそう言いながら彼の気持ちに大いに共感した。

 

脳裏に振り返るのは、召喚された直後の大聖堂での出来事だ。

 

イシュタルの口から、ハジメたちはこの世界に召喚された理由を知らされた。

 

要約すると、この世界の名は『トータス』。

この世界には人間族、亜人族、そして魔人族と呼ばれる種族が多く分けて3つ存在している。

そして人間族は魔人族と長きにわたる戦争を続けており、魔人族は頭数においては人間族に及ばない代わりに個人の戦闘力においては勝っていた。

互いに拮抗し合っていた双方の戦力だが、最近になって魔人族は魔物たちを操る術を身に着けたのだという。小型の魔物たちを無数に従えているだけならまだしも、城にも匹敵する大型の魔物すらも従える優れた魔人族も現れているという。そのせいで魔人族側に戦局が傾き、今や人間族は滅亡の危機に瀕しているとのことだ。故にイシュタル曰く、この世界の人間族の神『エヒト』は、邪悪で非道きわまりない魔人族と彼らの使役する魔物たちの脅威から人間族を救う救世主を召喚するという信託をイシュタルら聖教教会に下したのだという。

 

(いくら人間が困ってるからって…勝手な神様と教会だな)

ハジメは最初こそ、創作の世界でしか縁がないと思っていた異世界を見れたという意味では貴重な体験だと、ちょっとだけ胸を躍らせたが、同時にこの世界の神エヒトの勝手な振る舞いを容認できなかった。

イシュタルら聖教教会は、邪悪な魔人族の魔の手から自分たち人間族を守ってくれと、魔人族の邪悪さを強調しながら懇願した。ついこの間まで暮らしていた世界で言うなれば、地球防衛軍の一因となって地球を守れ、という意味合いにも置き換えられる。だが実際の意味をハジメは見抜いていた。

エヒトの意図だろうがイシュタルのそれだろうが、要は自分たち人間族が戦争で死ぬ代わりに、自分たちに戦場で死ぬ前提で魔人族と殺しあって来いと、あの教皇は自分たちに命じてきたのだ。

これをもし地球側の各国の政府や地球防衛軍が注目していたら、エヒトと聖教教会の振る舞いがあまりに横暴だと憤慨していたことだろう。政治的な面から見ても、エヒトらの行いは許しがたい誘拐案件だ。

当然これに怒りを抱かない愛子ではなかった。ふざけるな、要は子供たちに戦争で殺し合いをして来いと言っているのだろうと。そんなことは許させない、と。生徒を守る教師として、毅然と教皇らに猛抗議した。だが、返ってきたのは…地球へ帰ることができないという非情な現実であった。

当たり前に過ごしていた日常から、突然戦争のために駆り出される地獄の日々に追い落とされる。これを不幸と思わずしてなんと言うのか。当然、生徒たちは元の世界に返せ、戦争なんて嫌だと騒ぎ立てた。

 

「ミウラ隊員がいてくれてよかったです。正直、愛ちゃん先生だけじゃ頼りなかったし、天之河君の独断でとんとん拍子に話が教会側の都合に持っていかれ過ぎずに済んだと思います」

「そうか?教会の連中からの催促を先延ばしにしただけで、結局のところ戦争への参加は回避できなかったんだ。GUTS失格だぜ…」

ミウラは、別世界の戦争という最悪の他人事から、庇護対象であるハジメたちを守りたかった。

平和な日常の中で暮らしていた、まだ子供であるハジメたちを、血みどろの戦争に飛び込ませるなんて避けねばならないこと。それはミウラのGUTS隊員として、それを抜きにしても一人の人間として平和な日々を若い彼らに以前通り過ごしてほしかったからだ。

 

でも、それは叶わなかった。

 

『皆、ここでイシュタルさんに文句を言っても意味がない。彼にだってどうしようもないんだ』

 

一人の少年が、立ち上がったからだ。

 

『……俺は、俺は戦おうと思う。この世界の人達が滅亡の危機にあるのは事実なんだ。それを知って、放っておくなんて俺にはできない』

 

クラスのカリスマ的人気者、天之河光輝が。

 

 

 

 

 

「それに、この世界の人間を救うために俺たちが召喚されたのなら、救済さえ終われば帰してくれるかもしれない。

イシュタルさん、どうですか?」

「そうですな。エヒト様も救世主の願いを無下にはしますまい」

光輝からの問いかけにイシュタルはそう答えた。…そう、確かにそう言った。この世界の人間を魔人族の手から救えたのなら、地球に返してくれる『かもしれない』…と。さらに光輝は、自らの中に不思議な感覚が沸き上がるのを覚えていた。

「俺達には大きな力があるんですよね?ここに来てから妙に力が漲っている感じがします」

「ええ、そうです。きっとそれも、この世を救うためにエヒト様があなた方にお与えになったお力なのでしょう。この世界の者と比べると数倍から数十倍の力を持っていると考えていいでしょうな」

それも神…エヒトの手によるものかもしれないとイシュタルは告げる。

わざわざ世界の神が救済のためと称して異世界から召喚した人間だ。役に立てるようにハジメたちに能力を付与してくれたようである。

「みたいだな。俺も感じるぜ光輝。俺の中になんか、暖かい何かが膨れ上がっているような感じがするぜ」

「龍太郎、そうか…!」

龍太郎も自らの力に気づいた一言で、他のクラスメイトらも自分の中に不思議な力が沸き上がっていることに気づく。

「そう言えば、俺の中にもなんか力が沸くのを感じる…」

「あたしも!」

「俺もだ!なぁ、これって案外行けそうじゃね?」

「うん、きっと大丈夫だよ!私たちもそうだけど、何より天之河君もいるんだもの!」

他にも次々と力の覚醒に気づき、いつしか元の世界に帰れない絶望が、未来を切り開かんとする希望へと変わっていった。

そんな中、ハジメは自分の中に宿る力を、感覚で確かめようとしていたが、その前に皆が高揚感で満たされていくのを見て、嫌な予感がよぎった。

(これ、まずいかも…)

ハジメは、皆の絶望が希望へ変わっていくのを、素直に喜べなかった。なんというか、まるで…子供が自分の身の丈に合わない玩具を手に入れて調子に乗っているようにも受け取れていたのだ。

「ねぇ、雫ちゃん。これって…」

「…あのバカ…」

同じくそれを見て、雫や香織も表情が明るくない。皆の意気揚々とした様子について行けず、不安を抱いている。

「だ、ダメですよ皆!!いけません!」

愛子も悪い予感を的中させて、皆に静まるように呼びかけるが、いつもの威厳の無さが災いしてまるで効果がなかった。誰も彼女の静止に耳を傾けようとしなかった。

「うん、なら大丈夫。俺は戦う。人々を救い、皆が家に帰れるように。俺が世界も皆も救って…!」

皆の表情が明るくなり、個々に芽生えた特殊な力で高揚感が増している。それに乗るように光輝は、改めて決意を口に出そうとした…その時出会った。

「待った。天之河君。一人で勝手に話を進めるな」

GUTSの隊員、ミウラだった。皆興が乗ってきたという中、冷や水を浴びせてきたミウラ隊員に対して、生徒たちの「空気を読め」と言う批判の眼差しが一斉に向けられる。

「なぜ止めるんです!この世界の人々が苦しんでいるのなら、それを何とかしてあげたいと思うのが当たり前じゃないですか」

「そうだそうだ!空気読めよおっさん!」

おっさん呼ばわりされてミウラはピクッと眉を潜めたが、大人として冷静であろうと意識し、イシュタルに向けて自分の意思を告げる。

「教皇様、すみませんが私としては、この子たちを戦いに駆り出そうとすることには賛同しかねます」

「なぜですか?エヒト様の後悲願を無視なさると?引いては我々トータスの人間族に滅べと?」

イシュタルはミウラの言動について耳を疑い、信じられない者を見るような目を向ける。その視線の意味をハジメは察した。さっきまでこの世界の人間族の状況を語った際、特にイシュタルがエヒトに関することを話した時の奴の表情が、あまりに気持ち悪く感じたほどに恍惚としたものだったからだ。創作物にてよく見たことがある、狂信者の気概の持ち主のようだ。それだけにミウラの、光輝らの戦争参加への反対発言が相当許しがたいものだったに違いない。今だって、さっき戦争に参加させられると聞かされ絶望にのたうち回っていたクラスメイト達に向けたものと同じ、侮蔑のこもった眼をミウラに向けている。自分たちの申し出がどれほど人道的に残酷なのかを理解していないのだ。自分たちの神を狂信的に崇拝しきっているあまりに、疑おうとすらしていない。できれば関わり合いたくないタイプの連中にまんまと攫われてしまった現実にハジメは胃がますます痛くなりそうだ。

「そうは申し上げていません。ですが彼らはまだ子供だ!あなた方の語る魔人族とやらがどれほど危険な存在かは存じ上げませんが、ほんの数十分前まで平和な世界で暮らしてきた彼らに殺し合いを体験させるなど!」

もちろん戦争反対について、ハジメも同意見だ。この世界の人間たちがピンチなのは同情すべきことだが、どうして他所の世界の戦争に駆り出されなければならないのだ。

…が、だからといって断れるような状況かともいわれると…

否だ。

「待ってくださいミウラさん!」

「!」

ミウラの発言は、光輝たちの意気揚々とした流れで表明しようとした参加の意思よりも、人間としてごく当たり前の思考からくるものだ。だが…そんなものはイシュタルたちには決して通じない。それに気づいたハジメは、大声を出してミウラを一時黙らせた。

ミウラがこちらを見たところで、ハジメはやや緊張しがちに教皇に自ら進言する。

「教皇様、あの…こういうことはすぐに答えを出すべきじゃないと思うんです。ですから少しの間だけ、僕たちだけで時間を下さい。必ず答えを出しますから」

「南雲君!?」

まさか君まで参加するつもりかと、ミウラはハジメに対して大きく目を見開いた。

「…確かに、いきなりこのようなことを申し込まれて戸惑いを感じるのも致し方ないでしょう。

…わかりました。では1時間ほど差し上げます。それまでに改めて、あなた方の意思をお聞かせくださいませ」

ハジメからの進言に、ふむ…と髭を撫でながらイシュタルはハジメをじぃっと見つめつつ考え込むと、彼の意思を汲んで一時自分らを含めた祭司らを大広間から下がらせた。

 

 

 

祭司らが全員部屋を後にしたところで、ミウラはハジメに詰め寄った。

「どうして止めた?君にも理解できたはずだぞ南雲君。奴らは、自分勝手にも自分たちの代わりに戦争で死んで来いと言ってきたんだぞ!」

やはりミウラは、GUTSの隊員として、そして一人の大人として戦争の参加には猛反対であった。ゆえに自分の話の腰を折ってきたハジメが時間をくれと申し出たことが信じられなかった。

「何を言ってるんですかミウラ隊員!彼らの申し出は戦争なんかじゃない!俺たちに死んで来いなんて言ってなかったじゃないですか!悪い奴らを倒してくれと、自分たちを救ってくれと頼んできただけですよ!」

そんなミウラに光輝は抗議する。光輝の目から見れば、イシュタルらは凶悪な悪人たちに命を狙われた哀れな被害者として捉えられていた。それだけに、イシュタルたちを批判するミウラの姿勢が納得しがたいものであった。

「悪いやつら…魔人族のことか」

「そうです!話を聞けば、この世界の人々はそいつらの脅威に脅かされている。地球で言うなれば魔人族は宇宙人や怪獣たちのような、悪いやつらだ!そいつらのせいで俺たち人間は何度も苦しめられてきた。たとえ違う世界であっても、同じような境遇の人々がいるのに、この世界の人々が魔人族たちのせいで困っているなら、放っておくなんてできません!」

だが、ミウラだけではない。光輝の戦争参加表明…否、彼にとって困っている人々を救うために戦うという意思表明について反対する者がいた。

社会科教師、畑山愛子である。

「いい加減にしなさい天之河君!ミウラ隊員の言ってることは正しいです。確かに直接的にそうは言ってませんでしたが、結局のところミウラ隊員の言う通りです。

わからないんですか!?」

いつもなら愛子の頑張る姿も起こる姿も愛らしく見えるものなのだが、愛子のいつになく鬼気迫るような気迫は、初めて光輝らを怯ませていた。また、ミウラという同じ大人がいるおかげもあったのだろう。この日になってようやくかもしれないが、光輝よりもカリスマ性では劣るはずの愛子の言葉は、この時は深く生徒たちの心に突き刺さりつつあった。

「先生まで!あの人たちが困っているのが信用できないんですか!あの人たちが俺たちを騙そうとしていると!?」

「当然です!何より私は教師です!父兄の方々からあなたたちを預かる身として、神様だろうがなんだろうが、誘拐に飽き足らす人殺しを強要する卑劣な人たちの言いなりになるなんて許しません!ええ、許しませんとも!」

「そんな…先生!人殺しなんて…何を言ってるんです!魔人族は…」

愛子からも反対され、光輝は信じられないと思いながらも、踏みとどまりながら再度反論しようとする。そんな光輝と、彼を支持して空気を読めと喚きだす生徒たちを、次のミウラの発言が黙らせた。

「魔人族のことは確かにイシュタル司教の話でしか聞いていないが、それだけではないはずだ。魔の文字がついても、人なんて言うくらいだ。おそらく我々人類に近い知的生命体の可能性が見受けられる。加えて、魔人族が教皇たちの考えている通りの悪だという確証も同時にない。もしかしたら俺たちが考えている以上の善良な生命体であることも考えられるぞ。君たちはそんな奴らと殺し合えるのか?何の罪もない者を、身勝手にも一方的に悪と決めつけたうえでな」

同じ人間を殺せるか?それを聞いて光輝を持ち上げていた生徒たちは静まり返った。だが光輝だけはまだ止まらない。

「け、けどそれもミウラさんの予想でしょう!それに事実、イシュタルさんたちは魔人族のせいで困っていたじゃないですか!」

「確かにそうだな。魔人族のせいで困っていることが事実で、俺が言った魔人族が善良な存在か否かは憶測の域を出ない。でも逆に言えば、俺が言ったことが本当の可能性もある。実際に魔人族を見たことも会話したこともない以上、君や教会の連中が考えている通り、魔人族が『ただの悪』だといえるだけの確固たる証明が今の君にできるか?」

「う…」

光輝はかろうじて反論するも、今のミウラの一言で結局息を詰まらせる。実は自分たちは、魔人族という違う言い方こそされているが、同じ『人』との殺し合いを強要されようとしているという事実を認識されつつあった。

「で、でもどちらにしろ俺たちが戦わないと、地球に帰れないはずじゃ…!!」

光輝はなおもミウラに、地球への帰還も議題に挙げて反論を試みるも、次の言葉で一蹴される。

「馬鹿か。よーく思い出してみろ。魔人族を殲滅したからといって帰れるとは限らないだろ。『神も無下にはしない』と言っただけで、必ず帰すと確約したわけじゃない。魔人族を絶滅させたところで、地球へ帰れる保証なんてないんだぞ」

「う…」

「第一忘れたのか?君たちはほんの数分前まで戦いとは無縁の日常を暮らしていた、ろくに力の使い方も知らないただの学生…子供だぞ?人の命を奪ったその後も、以前通りの生き方が…」

そうしようとしたところで、ミウラからはっきりと子ども扱いされたことで、カチンときた光輝はその言葉を跳ね返さんとばかりに反論し出した。

「っ…!俺は、いつかあなたと同じGUTSの一員となって地球を守るために、日々研鑽を積んできた!勉強もスポーツも一切手を抜かずに頑張ってきた!みんなのことだって、誰も死なせることなく俺が守って見せる!」

光輝の将来に向けた進路は、ミウラと同じGUTSの一員となって地球を守る戦士の一人となることにあった。元より正義感の塊のような男で、GUTSの名に恥じぬ戦士として、この場にいるみんなを含めた人類を守れるようになるべく、勉強もスポーツもすべて抜かりなくこなしてきた。異世界の人類の守護者という、思っていたのとは違う形だが、今その時が…自分がみんなを救う正義の戦士として戦う時が来たのだと彼は信じている。

その決意が確固たる誇り高きものだと。そのイケメンフェイスとかっこいい言動、それに見合うだけのこれまでの学校内における光輝の活躍を知るクラスメイトたちは、彼への期待を寄せる。女子に至っては熱っぽい視線すら送っている。そしてその分だけ、光輝とは真っ向から反対意見を口にするミウラに批判的な目を向けていた。

…が、なおもミウラは光輝の反論に一歩も譲ろうともせずに、静かに告げた。自分たちGUTSが、どれほど苦しくて辛くて、そして残酷な戦いに身を置いているのかを。

「君のように天才なうえに努力家な人間なんて、GUTSにはいくらでもいる。高い理想も含めてな。そんな彼らも大勢、異星人や怪獣たちとの戦いで命を落としていったんだ。俺は何度もこの目で見てきた」

「…!だ、だったら俺がその人たちの仇を…!」

自分のような人間は他にもいて、でもそんな彼らも星人や怪獣たちとの戦いで命を散らしていった。それを聞いて、自分の死のイメージが一瞬ちらついた光輝だが、なおも諦め悪く引き下がろうとせずに戦う意思を口にしようとして…

 

「ろくに命を賭けた戦いをしたことも、戦いを知りもしないガキが、偉そうな口を叩くな!!

 

さっきから何度も俺が諭してやってんのに、なぜ俺が言ったことを理解しようともしないんだ!!

 

てめえら戦争の授業でいったい何を学んできやがったんだ!?あぁ!?」

 

ミウラの今までにない怒鳴り声を浴びせられてしまう。あれだけ諭しても、ミウラの言いたいことを察そうともせずいつまでも駄々をこねる光輝に、そして彼を盲目に持ち上げるクラスメイトたちに対し、ついに堪忍袋の緒が切れたのだ。

ここにきてついに、光輝はその気迫に押されてしまったこともあって押し黙らされてしまう。光輝を擁護する生徒らも、今度ばかりは野次を飛ばす気力すらも奪われた。

「ミウラ隊員、落ち着いてください!先生も…まずは南雲君の話を聞きましょう」

場の空気が重くなりつつあるのを見て、雫や香織がミウラ、光輝、そしてハジメの前に立った。

「ねぇ、南雲君。どうしてミウラさんを止めたの?」

改めて香織が、ハジメが一度、ミウラが反対意見を述べようとしたのを止めようとした理由について問いただした。

「…今、あの教皇の機嫌を損ねるようなことは言わない方がいいです。多分、かえって僕たちが危ない状態に陥ります」

「なんだって?」

イシュタルらの思惑通り戦争に参加することになれば当然命に危険が伴うのに、断ってもそれは変わらないと聞いたミウラは目を丸くした。

「仮にも僕らは神様から召喚された身です。あの人たちもそれだけに僕らへの期待も大きい。でもそんな僕らに使い道がないとみなされたら…」

そこまでハジメが言いかけたところで、皆の中に不安と恐怖がよぎる。さっきまでのミウラからの指摘もあってイシュタルたちへの疑心が募り始めていたこともあり、ハジメが言おうとしたその先の意味を理解したのだ。

 

使い物にならないものは、捨てる以外に道はない。

 

「そ、そんなわけないじゃないか…だって…」

「なるほどね、一理あるわ。たとえ神様が召喚した存在であっても役に立たなければ、この国や教会にとって私たちはただのごく潰しにしかなりえない」

光輝が狼狽えながらそんなことあるものかと言おうとするも、雫は険しい表情でハジメの意見に納得した。もし戦争参加を拒んだ後の自分たちの処遇をイシュタルたちはどうするのか、それを考えた結果…。

「じゃあ、相手が…魔人族が悪い奴らじゃなくても、戦争で殺さないと俺たちの人権すら認められないってことか…」

「そんな…」

自分たちが人として生き延びるためには、魔人族が悪の存在でなくとも殺さないといけない。それをようやく認めるしかなくなった生徒たちは、光輝というクラスのカリスマという仮初の希望で維持していた心を打ち砕かれ、絶望していく。

「…く!」

「待てよ光輝!どこ行くんだ!」

部屋の大扉へ向かおうとした光輝を、龍太郎が肩を掴んで止める。

「イシュタルさんたちに確かめてくる。そんな話、あるわけが!」

「落ち着きなさい光輝!どうせ真実を問い詰めたって決まった答えしか返ってこないわ。魔人族は倒すべき悪だから迷わずに戦って自分たちを助けてくださいってね」

往生際が悪いことに、自分たちが同じ『人』への殺しを強要されているという事実を認められずにいる光輝に、雫も光輝に止まるように言う。

「南雲君、本当に…他に道はないの?」

「…言いにくいけど、そうだよ。僕らには、最初から選択肢なんてなかったんだ」

すがるような思いで、香織は改めてハジメに問うが、ここで嘘を言ってもしかたない…言ったところで現実を認められない光輝と同じでしかないと考えたハジメは、悲痛な表情で自分たちのこの先の未来を口にした。

それが決定的となり、大広間内は絶望で静まり返った。

無言のまま、何分か時間がたったころ、一人の男が口を開いた。

 

「俺は…俺はやるぜ」

 

クラスの小悪党組のリーダー、檜山であった。

 

「檜山君!」

愛子が思わず声を上げる。同じくミウラも目を見開いていた。

「どうせ俺たちは地球に帰れねぇんだろ?だったらこの世界で生きるしかねぇ。それによ、そこの隊員のおっさんの言ってることが本当だとも限らねぇだろ。だったら、天之河。俺はお前の言うことを信じて戦うぜ」

「檜山…!」

自分の考えを支える檜山の言葉を聞いて、光輝の目に希望が宿ってしまった。ミウラはまずいと危機感を覚え、檜山に向けて叫ぶ。

「おい君!自分の言ってることがわかってるのか!」

「うっせぇな!所詮うちの学校の関係者じゃないあんたは俺たちにとって外野でしかねぇんだ!GUTSの隊員として俺たちを守りたいってんなら、黙って俺たちを守ってろよ!」

「そうだそうだ!いちいち口うるさく偉そうにしやがって!何様のつもりだよおっさん!」

(こ、このクソガキども…!!)

だが檜山もいつまでも学校関係者としては部外者であったミウラに向けて黙るように怒鳴り返した。同じく小悪党組の一人である近藤も口をはさみ、そこから次々とミウラに対する批判の声が飛び交う。

まるでミウラを、GUTSを都合のいい肉壁だと言いきるような言い回し。ミウラは檜山たちへの怒りが沸き上がる。しかし地球と人類を守るGUTSの隊員として、一人の大人としてあろうとする彼の心構えが、かろうじてブレーキとなって怒りを抑え込んでいた。

とはいえ、檜山の苛立ちも決して否定できるものでもない。例えるならば野生動物が、突如見知らぬ土地へ密猟者の手で運び込まれて穏やかな気持ちでいられないように、今ここにいる皆も、少しでも絶望から逃げたくて必死なのだ。そうしなければ心の均衡を保てそうにない。だから水を差してくるミウラが疎ましく、光輝というクラスの天才にしてカリスマを希望として縋り付こうとしたのだ。

「檜山、落ち着け!近藤もだ。そんな言い方は止すんだ」

苛立ってミウラに怒鳴った檜山らを、光輝が落ち着かせに向かう。そのうえで、『この状況で言わなければならない言葉』であり、同時に『禁じられた言葉』を口にした。

「でも檜山、覚悟を決めてくれて嬉しいよ。…決めた、やはり俺は戦う。この世界の人々が困っているのなら、それに俺たちが地球に帰れる手段があるというのなら、それを信じて戦う!そのうえで、皆は俺が守って見せる!」

檜山の立志と、今この状況において戦うことを決断するしかないという状況、光輝は再度立ち上がった。ミウラは結局相変わらないままの光輝に一言もの申してやろうと思ったものの、ハジメが「ミウラさん!」と呼びかけ、その意味を理解して押し黙るしかなくなってしまう。

「…結局、そこに行きつくしかないわね。気にくわないけど私もやるわ」

「雫ちゃん…!!」

雫も不本意であることを自覚しながらも、戦うことを選ぶ。香織は雫の決断に驚いている。

「…ま、光輝と雫のことだ。そう言うと思ったぜ。わかった、俺もやるぜ!」

龍太郎も幼馴染ということもあって二人の性格を理解し、自分もまた彼らと共に行くことを誓う。

「龍太郎、雫…ありがとう!」

二人の幼馴染たちの決断を頼もしく思った光輝に笑みが浮かび、その笑みがまた、クラスメイト達に次々と希望を与える。そんな中、香織はやや迷いを露わにしていた。ハジメと光輝たち…正確には雫を交互に見てはそわそわしている。

彼女にとって気がかりなのは、雫と…ハジメのことであった。自分のことを気にしているのだと視線で感じ取ったハジメは、香織に言う。

「僕のことは気にしなくていいよ。僕は僕でできることを見つけるから」

「南雲君…」

「香織、私のことも気にしなくていいのよ。どんな決断でも、私はあなたの意思を尊重するわ」

雫もハジメと同じ意見を口にする。

彼女としては、親友が危険な戦いに身を置くことについては避けたい。だからこそ敢えて戦うことを選んだ。香織の分も自分が戦って補うために。

「…ごめんね。まだ私、答えは出せない」

少しの間を置いた後、香織はそう言った。

「ただね、今は戦い方だけでも学んだ方がいいのは確かだと思うの。それからどうするか、答えを出していきたいな」

戦争に対する恐れはある。それでも香織としては、雫だけは放ってはおけないので、戦う手段を会得する必要性は無視できなかった。優柔不断と、自分でも思えることだ。でも、昨日まで平和な日常にあった女子高生が、いきなり命をかけて戦争に参加しなければならないなんてことを受け止められないもの当然だ。今はこれで妥協するのもひとつの答えと言えよう。

「香織、大丈夫だ。君のことは俺が守って見せる。どんな場所であっても、どんな時でも必ず」

「…うん」

それは光輝の迷い無き意思。香織を安心させたいがための優しい言葉ではあったのだろう。同じ男子たちからは光輝へおぉ…と羨望と憧れに満ちた、女子からは香織を羨んだり微笑ましそうな温かな目が向けられる。

…しかし、香織は光輝のそんな言葉を欲しいとは思っていたわけではない。今から自分たちは、地球と違って人同士による戦乱の世界へ飛び込む。果たして光輝ほど才能と力に溢れた男でも、どこまで持ちこたえられるか。

「…なるほど、戦争に参加するか否か答えを出すよりも、自分たちの向き不向きを見出してからを先決とするってことか」

香織の意思表明を聞いて、ミウラはため息を漏らす。

「ミウラさん」

「…子供たちが戦うって言った以上、俺もただ説教垂れた口を叩いてる場合じゃないな」

ハジメは、ミウラの胸中に渦巻く現状への不満を察した。この世界の神やイシュタルたち信者に対する怒りが見える。不本意なままだが理性で納得することにしているのだ。

「仕方ねぇ。俺も戦うよ。そのうえで、君たちに俺ができる限り戦い方を教える」

「ミウラ隊員!」

それを聞いて、光輝は歓喜に震えた声を上げた。彼の中ではおそらく、ミウラが自分の考えに賛同したと捉えたのかもしれない。それを見越したのかは定かではないが、ミウラは釘をさすつもりで光輝らに言った。

「ただ、忘れないでくれ。俺はあくまで君たちの命を守るための手段を教えるのであって、敵を殺すこと、殺しを楽しんでほしいから教えるんじゃないってこと。それを忘れるなよ。それができないなら、俺から何も教えてやることはできない。いいな?」

「当然ですよ!まして殺しを楽しむなんて、そんな奴がこのクラスにいるわけないじゃないですか!」

(…いつかそうなるかもしれないから言ってみたんだが、こいつらやっぱりわかってないな…)

できれば悪い予感を覆してほしいところなのだが、光輝のこのありさまと、檜山を筆頭に再び光輝に希望を盲目的に集めつつあるクラスメイトを見て、その望みが薄いことをミウラは残念に思った。が、これも致し方ないことなのかもしれない。自分も彼らに対して口酸っぱく言ったように、彼らは元々ありふれた平和な日常の中にいた、ただの高校生。そんな彼らが、いまだ戦争が起こっている異世界に来て命の危険にさらされつつある中、不思議な力に目覚めつつあることや、クラスの中にただ一人だけでも頼られまくりな正義感溢れる天才児が一人いるだけで盲目的にその人物を担ぎ上げるほどまでに、死への恐怖を完全にシャットアウトしようと本能的に必死なのだと。

困った時の神頼み。この世界の人間だけでなく、このクラスに対しても皮肉なまでに言えることであった。

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