【短編】ウルトラマントリガー~Pull the Trigger by Commonplace Alchemist~   作:???second

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ハジメとミウラ隊員(2)

あの後、イシュタルらに光輝らが戦争参加の意思を示し、それ以外の面々にはひとまず一時の戦闘訓練の機会を設けてからその後の進退を決めるという条件付きの参加表明を下した。

イシュタルは、最初から全員参加とならなかったことにやや渋そうにしていたがこれを受託。ハジメたちはイシュタルの案内で教会の総本山である神山から下山し、ハイリヒ王国へ『人類を救済する神の使徒』として迎え入れられた。

 

そして現在に至るのだが…

 

 

 

 

「君たちを戦いに巻き込むまいと思って反論したけど、俺は危うく君たちを逆に危険に晒すところだったな。改めてありがとうな、南雲君」

「いえ、ミウラさんにはあの日からお世話になってますし…」

「ところで南雲君、君はこの国をどう見る?」

ミウラは、本を見つめているハジメに、この国に対する感想を問う。ハジメは図書館内の景色を見渡すと、ミウラに手招きする。ミウラはそのハンドサインを理解し、息がかかるほどの距離まで自分の耳をハジメの方へ近づける。ハジメはこそっと、ミウラに耳打ちする。

「正直、歪の一言です。戦前の日本と似てますが、たぶんそれ以上の質の悪さを感じます」

「だな…どの人もエヒトというたった一人の神しか崇めてないのもおかしい」

二人の、この国に対する認識はほぼ合致していた。

人間である以上、思想や見解の相違で対立することはある。それでも互いの違いを尊重し、何が大事で何がそうでないのか、何が善行で何が悪行か、分別しながら互いに支え合って生きている。

「現に国の王様が、教皇相手に頭を垂れるってのも衝撃でしたね。あの様子だと、国の貴族政治家は全員…」

だが、この国は違う。ハジメが言った通り、戦前の日本が辿った、天皇を神の子であり絶対であるとして、国のためならば死ぬことも、敵を鬼畜と称して殺すことも栄誉だとされた、結局悲劇しかもたらさなかった血生臭い時代。この世界、この国ではそれが未だ根強く続いているのだ。

「それに見てくださいよこの本、エヒトの至高さと、それに愛されてる人間の素晴らしさを謳いながら、それ以外の種族への差別を増長する記述ばっかです」

さらにこの世界の歪さの証拠を提示しようとハジメは、書斎から見繕ってきた本の1ページをミウラに見せる。彼の言う通りの文面が記されていた。この世界の場合、人間族は神に愛され、魔人族は魔物の上位種族、亜人族は神に見放された下等種族だと言う側面も当たり前の認識で存在しているという。神の名を利用して差別を正当化する。酷い話だとしか言いようがない。

「うわ…ほんとだな。

ったく、宗教が政治と結び付くとろくなことがねぇ。地球にいた頃、歴史の授業で何度か聞かされた時はつくづく思ったな。もし国王様が神様の気に障ったりしても即刻退位。国家規模の政変すらも教会の連中は簡単に引き起こせるってことだな」

「今にも胃が痛くなりそうですね…」

ミウラに共感を覚えつつ、ハジメは自分のみぞおちの辺りに手を添えた。クラスメイトらの理不尽な敵対心を受け流しているのに苦心中のハジメは、限界をいずれ振り切ることになるのではと先が思いやられた。

「それだけに、王国騎士団にメルドさんのような人もいたのは救いだと思います」

「…あぁ、確かにな。豪気で人当たりも良い。俺たちの立場も気にせずに対等にいてくれる人はありがたいな。あの人もいるなら、あの浮き足たった子達の根性を叩き直せるかもしれない」

ハジメの言うメルドというのは、教官として王国騎士団より派遣され、騎士団団長メルド・ロギンズのことだ。出会いがしら「これから一緒に戦友になるのに他人行儀でいられるか」と豪語、しまいには復調に雑務を全部押し付けられるからと、ハジメたちの訓練教官を率先して引き受けてくれたことは記憶に新しい。副長の胃は大変なことになってそうだが。

ミウラはメルドに期待を寄せつつあった。彼と自分の教導が合わされば、この世界で生き延びるための戦い方を学びつつ、子供たちに適切な自衛手段を教えることができるかも知れないと。

「けど、肝心の訓練の成果…正直僕の場合は見込みがないんですよね…」

「そうなのか?ちょっとステータスプレート、見せてくれ」

ステータスプレート。それはハジメたちの訓練開始日にて配布され、所持者の強さや適正、能力を数値や言語で可視化したもの。身分証代わりにもなる便利なものだ。

まるでRPGのキャラみたいだとハジメは思った。実際はVRゲームの中にいるんじゃないかと錯覚しそうだ。

ステータスプレートの数字は、レベル1で各項目が10だと平均的。だが神の手で召喚されたハジメたちのクラスは、いずれもが戦闘に特化した天職と共に、レベル1でありながら優れた戦士以上の力を与えられた、所謂チート的な天才だらけであった。

特に、光輝の場合だとレベル1でありながら各ステータスは100越え、天職もそのステータスに恥じない『勇者』という、チートの中のチートであった。しかも現在はレベル10で、ステータスはオール200、戦闘に特化した技能も多数という、成長率すらもチートに拍車をかけている。

だと言うのにハジメは…

 

南雲ハジメ 17歳 男 レベル:2

天職:錬成師

筋力:12

体力:12

耐性:12

敏捷:12

魔力:12

魔耐:12

技能:錬成、言語理解

 

2週間みっちり頑張って訓練してこれである。

最初は平均数値の10しかなかった上に、光輝ほどじゃないにせよ他の皆が既に初期値から大きく力をつけておきながら、自分は未だ戦闘力皆無であった。おまけに魔法の才能もない、頼みの綱の錬成も使えないトラップを作るのがやっとだ。

「……まるで成長していない」

「どこでそのネタを!?」

つい、某青春バスケ漫画のとある監督の名台詞を口にしたミウラ。ハジメも元ネタを知ってるだけに反射的に反応する。そのリアクションについてミウラは「はい?」と意味が分からずに首を傾げたのだが。

「こほん…ち、ちなみにミウラさんは、いくつくらいですか?」

ついオタクの魂が反応したことを恥じつつ、ハジメはミウラに現在の彼のステータスを問う。

「…今の君にゃ見せねぇ方がいいと思うぜ?」

「じゃあ、いいです…」

今のミウラの返答で、おそらくハジメの想像以上の数値であると予測できた。きっとそれを見てしまうと、マインドクラッシュは免れそうにない。そう、檜山たちに凡人ステータスを嘲笑されたところ、自分も非戦闘職だから気にしなくて良いと言って見せてきた、愛子のステータスを見たときのように。愛子も確かに非戦闘職で、ステータスも一部ハジメより下の数値があったものの、全体的にハジメどころか生徒たちと同等のチートであった。しかも『作農士』という兵糧関係で貴重な人材、戦況の要となる重大な存在だったという始末。慰めるどころか止めを刺されたのは記憶に新しい。

そしてミウラは、GUTSの隊員だ。ステータスもチートの塊である天之河ほどじゃないにせよ、相当高い数値なのは想像に容易い。

「このままじゃとちと不味いな。君専用に訓練内容を見直すようメルドさんに進言してみるわ」

「え、いいですよそんな…」

ミウラの提案にハジメは遠慮する。自分だけ特別扱いされてる感のあるその提案は、ハジメとしてはありがたいものでこそあるが、周囲から一層冷たい目で見られる予感がしてならないものだ。

「ばーか。子供が遠慮なんかすんなよ。それに、君だってこのまま無能のレッテルを張られたままでいたくねぇだろ。特にあの檜山ってガキの連中と天之河には。

その傷だって、檜山のクソガキどものせいでつけられたもんだしな」

「…」

傷を指さされ、ハジメは絆創膏で覆われた自分の顔の傷を指先で撫でる。

この傷は、彼の言う通り檜山たち小悪党グループによってつけられたものであった。少しでも錬成を実践で使えるよう自主的に特訓を試みたところ、檜山たちが訓練で習得した魔法で浴びせたことを発端に、『訓練』と称した、そんなものとは名ばかりの手ひどいリンチを受けたのだ。訓練に集中するためにハジメが一人で他者の目が届かない場所を選んだのもあるが、狡猾にもミウラや天之河、愛子…何より香織の目を離したところで、だ。

幸いそこを、雫や香織を筆頭に他の面々に見つかり、ミウラも当然ながらそこへ駆けつけた。檜山たちは苦しい言い訳をかましていたが、当然それでミウラたちを騙せるはずもなかった。後にメルドにもこの暴行事件は耳に入り、小悪党組は罰則としてハジメへの接近を禁じられ、一層過酷な特訓を受けることが義務付けられた。

「またあのガキどもにリンチされても反撃はしとかねぇと、あの手のバカはまたやらかすだろうし、何より生き延びる確率を少しでも上げるに越したことないだろ」

「それは…確かにそうですけど」

とはいえ、無能扱いされ続けるのはハジメとて平気ではない。不快感なことには変わりないのだ。自分を無能だと蔑む一部を除くクラスメイトらを、俺TUEEEE系のネット小説のように見返してやるのも面白そうだし、いざ実現すればスカッとすることは間違いない。何よりミウラの言う通り生き延びたい。

…が、果たしてそれが自分の手で実現できるかと思うと自信がない。何せ自分はありふれた非戦闘職の、魔法も格闘も凡人とそれ以下の領域を出ない無能なのだから。

ただ、檜山たちがまたやらかしてくるのは目に見えている。この世界で戦う力を得たことでクラスメイトたちの大多数が、力を得た快感と優越感に浸っている。言ってしまえば、力に溺れつつあるのだ。この先、檜山に限らず他にも力に溺れて道を外れかける者がいても不思議ではなく、その牙がハジメに向けられることは大いに考えられる。

「安心しろって。俺たちGUTSは、自分たちよりはるかに強い宇宙人たちと何度も命を張り合ってきたんだ。自分以上の力を持つ敵との戦闘を想定した訓練メニューをやるから、時間をかけて一緒にこなしていこうぜ。他の子たちへの教導につながるものも見つかるかもしれないしな」

「…ありがとうございます。ミウラさん。ご迷惑をおかけします」

「気にすんなって。君たちを無事に地球へ帰す、それが今の俺の仕事だ。これもその一環ってだけさ」

そんなハジメの心情を見越すようにミウラが優しい言葉をかけてくる。先の不安ばかりで苦しい状況のハジメには、ミウラのような頼れる大人の存在は頼もしかった。

「もし、その訓練で僕だけでもなんとかやっていけるようになれたら…できることなら、亜人族の国に行ってみたいです」

「亜人の?なんで?」

不意に口にしたハジメの希望にミウラは疑問を覚えて耳を傾ける。

「この国だとエヒトびいきの知識しか学べない。全く異なる価値観の人のいる場所で、何か掴めることがあると思うんです。元の世界に帰るための手がかりとか…」

「へぇ…なるほどな」

確かに、さっきハジメに見せてもらった本も力になるだけの知識は与えてくれるが、同時にエヒトに傾倒させる意図もあるかのような記述が多かった。隔たった内容の資料からだけでは全てを得られない。違うものの見方ができる情報源も、この先必要となるだろう。ひいてはそれが自分たちを地球へ帰れる時まで生き延びさせる力となるかもしれない。

「それにリアルケモミミ、ちょっと興味あるんです」

…が、いたって個人的な欲もあることを、ハジメはたはは…と笑みをこぼした。あぁ…とミウラはちょっと呆れ顔になる。確か彼はオタクだそうで、それも理由に周囲から浮いた存在となっていたんだったな…と。

「…そういや君、あん時の会食のメイドさんたちをじっと見てたよな」

「あ、あはは…ばれちゃってたか」

召喚された当日、食堂にて配膳してくれたメイドたちへの視線が、ミウラにばれていたことを知ってハジメは自嘲気味に笑みを浮かべる。

「そりゃばれるさ。なんたって、メイドさんを見てる君に向けてあの白崎って子、すげぇプレッシャー放ちながら君を笑顔で見てたからな。ありゃ、全然目が笑ってなかったぜ」

「やめてください。思い出させないでください」

が、気づいたのはハジメの視線だけではなかったらしい。香織がどういうことか、ものすごくいい笑顔で、それも真っ黒なオーラを放ちながらハジメをじぃっと見ていた。ハジメだけでなく、ミウラが気づくほどに香織の笑みは凄まじい迫力だったようだ。その時の恐怖がハジメの中で蘇る。

「…まぁ、その分かわいくていい子じゃないか。何かと君を気にかけてるし、いっそのこと彼女にしちまえばいいと思うぜ」

「そんな大それたこと考えてないですよ」

自分と香織の仲を茶化すように言ってくるミウラだが、ハジメはそんなことはないと首を横に振る。

「いや、俺から言わせれば君以外にあの子の彼氏にふさわしい男はいない。他の連中、自分磨きもしないであの子に構って貰ってる君をただ妬んで、君の無力さを理由に蔑んでばっかの奴らだぜ。そんな奴らに、優しさの塊みたいな白崎さんの彼氏なんてノーサンキューってもんだ。あの天之河君を含めてもな。君にその傷を負わせた檜山たちなんて言うまでもねぇし」

ミウラははっきりと断言した。男女ともに、香織に構われてるハジメへの妬みと蔑みばかりで、人として自分の心を磨こうとしない。マイナスな面ばかりが目立つ。特に檜山はそれが顕著だ。他の面々に至っては、檜山らのハジメへのいじめを見て見ぬふりをしているという始末。常に地球とそこに生きる人々のために侵略者や怪獣たちと戦うGUTSの一人たるミウラには、彼らの怠惰さとみっともなさ、人間としての醜さが腹立たしかった。光輝についてもそうだ。あの時、檜山たちが訓練と称したリンチを仕掛けたときも、彼だけはあろうことか檜山たちのあからさまな嘘を鵜呑みにして「檜山たちも訓練をさぼる南雲をどうにかしたいと思ったから特訓を行った」のだと、妄言も甚だしいことを口走ったのだ。誰がどう見たって、ただの悪意に満ちたリンチなのは間違いなかったのに、どこからどう見てそう思ったのか。いっそのこと脳外科医に脳みその中を覗かせてもらおうかとさえ思ったほど腹が立った。あれでよくもまぁ「トータスの人々を救う」などと抜かせたものだと、頭が痛くなる。

(うちの隊長が、天之河を新隊員に加えるのを渋った理由が分かった気がするぜ…あの思い込みの激しさを見抜いてたんだな)

職場体験で光輝と顔を合わせた、ミウラの上司であるGUTS隊長が、スペックだけを考えれば新隊員にうってつけの光輝を仲間に引き入れなかった理由を、光輝の人物像をここしばらく見てきてミウラは確信を得た。あんな男が仲間に加わったら、自分の思い込みと薄っぺらすぎる正義感で、仲間を助けるどころか、足を引っ張って仲間を犠牲にするのは明白だ。

消去法を取った上でもあるが、ハジメたちのクラスに、香織の隣に立つにふさわしい者はハジメを置いてほかにいない。

しかし…ハジメは困ったように眉をひそめながらミウラに言った。

「そうはいうけど、それも含めて……僕は白崎さんのこと苦手なんですよ?」

「苦手?」

「僕だって白崎さんは魅力的な女の子なのは知ってます。成績も良くて、運動もそれなり。容姿も男受けするだけの美少女っぷりで、性格も誰にでも分け隔てなく接するから男女問わずに人徳も人気もあります。僕のようなオタクとは住んでる世界が違うとさえ思ってます。

そんな人が高校で出会って以来、毎日ずっと僕に関わってくるんです。僕には不思議でなりませんでしたよ。好意を持たれてるなんて自惚れてるわけじゃないんですけど…」

ハジメは香織が女性として魅力あると、彼女を褒めつつもそれだけに自分にかかわってくるという彼女の意図を図りかねていることを告白する。

「けど、その時からクラスのみんなから目の敵にされるようになって…天之河君が、僕が白崎さんに構ってると思い込んで、あることないことを言いながら絡んでくるんです。それだけならまだしも、檜山のように嫌な感じで絡んでくる奴もいて、そいつからは日に日に嫌がらせも受けてました。

もちろん、反撃とかやろうとは思ったんですよ。でも…」

檜山たちの嫌な絡みに不快感を覚えたのは今に始まったことではない。だから反撃することも考えたが、反抗すれば檜山たちの嫌がらせはエスカレートするばかりで、反撃したことについても、光輝のあの明後日の方向に向かうばかりの思い込みの激しさだ。天之河は歪曲して捉えるのは明白で、クラスメイトたちに対しては頼れる存在なのにハジメ限定では助けるどころか、ある意味檜山と同じ立ち位置だ。

「だから彼女が原因で高校生活を静かに送れなくなったから、嫌いじゃないんですけど、苦手なんです…」

「…なるほどね」

その時のハジメの表情は、美少女に構われて舞い上がった、といった照れ隠しの欠片もなく、うんざりしていると言う心情がありありと出ていた。

「でもさ、それってあの子じゃなくて周りの連中の方だろ、本当に悪いのって。君のこと、誤解してる上に見下してやがるし。

君だって、檜山や天之河たちみたいに君に反目する奴らさえいなけりゃ、少なくとも友達として白崎さんと仲良く出来るんだろ?」

「そりゃ、確かにそうですけど…」

もちろんハジメとて香織が全部悪いなどと思う気はない。彼女はただ周囲の目に鈍感なだけだ。それでもただ…気づいてほしかった。自分ではどうしようもない悪意が向けられていることに。

「そのためにも、なおのこと君を鍛えないといけないな。連中も君が強くなるなり、錬成師として優秀になっちまえば黙るしかねぇだろ?そん時の君は、堂々と白崎さんと喋っても文句言えないくらいのすげえ奴のはずだからな」

「ははは…いつになることやら」

「そのいつかを、1日でも早く掴ませてやりたいんだよ、俺は。

まぁ、個人的な私情込みだけどよ」

「私情?」

「…気に入らねぇ奴らが、自分が見下してる奴に逆転されて慌てふためく様を見たいってことさ」

その時のミウラの顔は、実に黒い笑みを浮かべていた。まるで汚い金勘定に勤しむ悪代官のそれである。ハジメのクラスメイトの大半…特に光輝と檜山の一派は、ミウラの護衛対象であっても、お気に召さない人間として認定されてしまっていた。

「…それ、GUTSの隊員が言っちゃダメな奴だと思いますよ」

「GUTSの隊員以前に、一人の人間なのさ、俺はよ」

開き直るミウラに、ハジメは思った。この人を敵に回さぬようにしなければ、と。

だが、市民のご機嫌取りでいる気のない、防衛組織の一人の人間臭さが暖かに思えた。

「使徒様、こちらにおいででしたか」

そんな二人の下に、聖教教会の司教がハジメたちを見つけて近づいてきた。

ミウラはともかく、その司教のハジメを見る目は…冷たく侮蔑を込めたものだった。他の神の使徒たちがいずれもチートスペックなのに、一人だけ一般人レベルの無能な錬成師。使えない駒だと見下しているのだろう。自分たちの敬愛する神が寄越したとはいえ、使い物にならないため礼儀正しさは表面上でしかないことを二人は見抜いた。

「あなたは教会の…なにか御用ですか?」

ミウラは若干の警戒心を抱きつつ、ハジメより先に要件を尋ねる。神の使徒である自分たちを言葉の上では敬っているが、実際のところは戦争のための駒としか思っていない連中だ。心を許さないように気を引き締めなければならない。

「教皇様よりご連絡がございます」

「イシュタル教皇から、ですか?」

「当初の予定では明日、皆さまは『オルクス大迷宮』での実地訓練のため、ホルアドを目指されるとのことでしたが、その前に使徒の皆さまに、お見せしたいものがあるとのことです」

オルクス大迷宮とは、この世界の各地に点在している『七大迷宮』に数えられているダンジョンの一つである。

 

その内部は全部で百層だといわれており、最深部に近づくにつれて生息している魔物たちが強力なものとなっていく。しかし一方で生息している魔物たちは、地上の魔物に比べて良質な魔石を体内に抱えており、強力な魔物ほど良質なそれを持っている。魔石は魔物たちの力の核であり、魔法陣を作成する際の原料だ。これを粉末にして刻み込んだり染料として使うと、ただ魔法陣を描いただけで発動した場合と比べると、その手間が3分の1にまで縮小できるという効率性の良さがある。そのため魔石は、魔法が存在するこのトータスにおいて、日常生活から軍備に至るまで生活必需品として重宝されている。ただ、上述で語ったように強力な魔物たちも体内の魔石を使い強力な固有魔法も使用する。それも詠唱や魔法陣も不要とした上でだ。無謀にも格上の魔物に挑んで命を落とすケースも多々あるため、そのあたりについても用心しなければならない。

危険な場所ではあるが、この迷宮で戦ってきた先人たちの経験のおかげもあり、生活必需品である魔石入手のため、オルクス大迷宮付近の町『ホルアド』には上等な魔石欲しさに騎士や傭兵たちが毎日絶えることなくやってくる。ハジメたち神の使徒の実践訓練として選ばれたのも、これらの背景があったのも大きい。

 

オルクス大迷宮での訓練は、ハイリヒ王国、聖教教会、そしてハジメたちにとっても非常に重大である。戦争で魔人族に勝利を収めるため、エヒト神の意向を示すため…そして、自分たちの戦略的価値を高めることで異世界での生存率を高めるため(約一名は世界を救うためだが)。

 

そんな大事な訓練の前に、教皇イシュタルが自分たち神の使徒に見せたがっているものとは…。

 




檜山リンチの描写はカットしました。どう考えても原作とほぼ同じ流れにしかならないので、文面上での回想ということにしました。
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