【短編】ウルトラマントリガー~Pull the Trigger by Commonplace Alchemist~   作:???second

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ピラミッド

オルクス大迷宮への実践訓練の前日。

当初は予定通りホルアドの町へと向かうことになっていた。が、現地の大迷宮訓練の前にイシュタルが神の使徒たちへその目で見てほしいものがあるとのことで、ハジメたちは馬車で王都を出て、神山付近の山岳地帯の川沿いへと案内された。

ここにイシュタルが直々に見せたいものがあるとは言っていたが…

「メルド団長、本当にここなんですか?イシュタルさんが俺たちに見せたいものがあるって言っていたのは…」

「うむ…そのはずなんだが」

光輝の質問に、見た目からして剛毅な大男の騎士が苦そうに呟く。

この男こそが王国騎士団長メルド・ロギンズである。

メルドは国への忠誠心も高く、国が国教としているエヒト教の敬虔なる信者でもある。だから教皇であるイシュタルや司教らの言葉にも疑念を抱くことは避けるべきことではあるのだが…

見た通り、イシュタルたちが手配した馬車で運ばれたこの山岳の川沿いには、何もなかった。教皇自らが見せたいものがある。そう言われて何かすごいものを見せてもらえるとばかり思っていたのに、何も変哲もない川辺へ運ばれて流石のメルドたち騎士団も困惑を示していた。

「おや、メルド・ロギンズ殿。貴殿は我ら教会の、ひいてはエヒト様のお言葉を疑っておられると?」

「い、いや!決してそのようなことはありませぬ。ただ…」

イシュタルが、自分の疑念の言葉を耳にしていたことに気づき、メルドは冷や汗をかきながら慌てて否定する。今の発言はまずかったかもしれない。国教とされるエヒトの最大の信者たる教皇イシュタル。言ってしまえばエヒトの言葉を啓示として直接授かることができうる立場。機嫌を損ねてしまったら、言葉にすることも恐ろしい結末を迎えかねない。

だがメルドの疑惑も無理もないこと。連れてこられた先が、ただの山岳内の川沿いでは。

「まぁ、お見せしたいものがあると聞いた矢先、何もないと見える場所へ連れてこられたら疑われるのも無理はないでしょう。

ですがご安心を。ここで間違いございません」

しかし、イシュタルはメルドの疑念に不快感を示すことなく、理解を示した返答をしてきた。メルドは安心した一方で、なぜ教皇は「ここに見せたいものがある」と断言できるのかと、ますます疑問が尽きなくなった。

(こんなところに一体何があるっていうんだ?)

これはハジメもまた例外ではない。イシュタルはいったいこの何もないはずの河原で、自分たちに何を見せたがっているのだろうか。同行していたミウラは、イシュタルの言葉が事実なのかを確かめようと、通信端末兼小型PC『PDI』を起動する。

「いや、熱源反応がある。ここには何かが存在していることは確かなようだ」

ミウラの言う通り、PDIが示す現在位置付近から、奇妙な熱源反応が赤いマークで表示される形で探知されていた。

「皆さま全員、我々の後ろへお下がりを」

すると、イシュタルがある一点に立ち、それに倣って他数名の司教たちもイシュタルがちょうど中心になる形で彼の両側に並んでいく。ハジメたちはまだ事態を飲み込めていない様子ではあるが、イシュタルから言われた通り彼の後ろへ全員集まった。

「神よ、祝福の扉を今ここに…」

神の使徒全員が後ろに回ったのを確認したイシュタルが右手を掲げた。

彼らのいる河原の傍に生い茂る木々の向こう側に、すぅっと光が溢れ出ていく。その光は天へと登っていく内に収束し、やがて一つの建造物の形を成した。

現れたのは、光のピラミッドだった。

「すげぇ…」

男子の一人を筆頭に、その神々しい光景に目を奪われ感嘆の声を漏らしていく。世界史の教科書で見たエジプトのピラミッドを立体映像で再現したかのようだ。

「驚くのはまだ早いですぞ。お見せしたいものはこの奥にございますので」

神の使徒たちの反応をどこか満足げに見たイシュタルだが、まだ序の口だと言わんばかりにピラミッドの方へ向き直ると、彼はピラミッドの方へと歩き出す。ハジメたちはその後を着いていき、その光のピラミッドの前にたどり着く。近づいたことでいっそう、ピラミッドの迫力と神々しさに皆が息を呑む中、イシュタルはピラミッドの方へと歩き出す。

するとどうだろうか。イシュタルとピラミッドがぶつかろうとしたところで、イシュタルの姿がピラミッドの中へと吸い込まれていった。

イシュタルがピラミッドに消えたことで生徒たちに驚きの声が走る。しかし使徒だけではない。この国の人間であるはずのメルドも同じ反応であった。

「メルドさん、これは一体…」

「すまん、俺もこんなことは初めてだ。そもそもこのピラミッドの存在自体今まで知りもしなかった」

光輝から、ピラミッドのことを尋ねられたメルドにも全く未知のものであった。

「それもそうでしょう。この光のピラミッドに関しては、教会の最高機密に値することなので」

メルドのその反応も当然のこととして受け止める司教の一人。しかもしれっと、ピラミッドが最高機密だとも言い出した。

「その最高機密をなぜ俺たちに?」

「それは…神の使徒様…その中でも勇者様、あなたがエヒト様によってこの世界に召喚されたからです」

「俺が…!」

自分を名指しされ、光輝は胸をドキッとさせた。よくわからないが、天職が勇者である自分にとって非常に関係のあるものがこのピラミッドの中にあるということだけは理解できた。

「さあ使徒様、我々の後に続いてください。中で教皇様が、そして…光の救世主様が待っております」

司教は光輝たちに催促すると、自分達もピラミッドの中へと入っていく。

残されたのはメルドたち騎士団と、ハジメたち神の使徒。

興味を抑えきれなかったのか、真っ先に光輝はピラミッドにふれる。後ろで心配だったのか雫が名前を呼んで呼び止めて来たが、その前に光輝の手の指先がピラミッドに触れた。…はずだった。

「え…」

ピラミッドに触れそうになった指先が空を切った。ピラミッドに触れることが出来ない。いや、これは…すり抜けていると言うべきか。

このピラミッドは文字通り、光そのもの。建造物という実体ではなく、幻のようなものであった。

もしやと思い、光輝はピラミッドの中へと歩き出し、顔も突っ込む。中の様子が見えた。先にピラミッドに入ったイシュタルたちが待っている。

光輝はピラミッドから顔を出してクラスメイトたちに呼び掛けた。

「みんな、大丈夫だ。中でイシュタルさんたちが待ってる」

そう言うと自らもピラミッドの中へ突っ込んでいった。

「おい、光輝待てって!」

ピラミッドの中へ再度姿を消した光輝を追い、龍太郎もその中へと飛び込む。

「ちょっと、光輝!龍太郎!…もう」

制止も聞かずピラミッドに入ってしまった光輝たちに、雫はため息が漏れでる。

とはいえ、光輝率先して中の様子を一目見た上で一度外に顔を出していたという事実もあったため、ピラミッドへの警戒心は皆の間で薄れていた。光輝たちに続いて雫が、それを追うように香織が、それからは次々とクラスメイトたちがピラミッドの中へと足を踏み入れた。ミウラも子供たちの身の安全のためにも、ハジメも一人ここに残るのもな、と心細さを圧し殺すつもりでピラミッドに入っていった。

 

 

 

光輝が証明して見せた通り、ピラミッドはただの光の幻だったようで、入ってきたハジメたちは特に何事もなくピラミッドの中へ入ることが出来た。

そして彼らはその目に、ある衝撃的なものを焼き付けることとなる。

 

「これは…!」

 

ハジメも息をのんだ。自分達の目の前に聳えるそれを見て。

イシュタルたちがそれに対し祈りを捧げている。

彼らの前に立っていたもの。それは…

 

 

 

 

 

3体の巨人の石像であった。

 

 

 

 

 

目は丸く、胸には何かのランプのような装飾が付いているという共通点はある。何より、彼らが目を見張るのは一目見ただけでも40mか50mはあるであろうその巨体。伝説上のおぞましい怪物然としたものではなく、どことなく神々しささえある石像であった。

「この石像こそが、皆様にお見せしたかったもの…光の救世主様の石像でございます」

石像の雄大な姿を見上げるハジメたちに、イシュタルは微笑みながら肯定した。

「光の、救世主…」

香織はイシュタルの、石像への呼び名を復唱しながら、遠い古い時代を思い起こすように口ずさむ。

「うわ…!」

一方でハジメは石像を見て、思わず反射的に後退りした。一瞬脳裏に、トータスに来る前日のあの夜に見た夢を…

 

 

禍々しい鎧を纏う闇の巨人の姿を幻視した。

 

 

「っぷ、見ろよ。南雲の奴ビビりやがった」

「相変わらずの無能ステータスのあまり、踏み潰されるとでも思ったんじゃネェの?」

それを見た檜山たちが、小声でクスクスと嘲笑した。ハジメをよく思わない多くの生徒たちもそれに同調して笑い声を漏らしている。

「…!」

香織や雫もそれに気づいて、目くじらを立てる。特に香織は一言物申し、ハジメのもとに向かって気遣いの言葉をかけようしたが…

「…」

が、香織はハジメに近づこうとしたその足を止めた。ハジメに伸ばそうとした手も躊躇しがちに引っ込めて、ハジメからも視線を逸らしてしまう。

(香織…?)

雫は、香織がてっきりハジメを庇い、皆へ怒りをぶちかますとばかり思っていた。だが、なぜか躊躇するように怒りを引っ込めてしまうという今の彼女のとった行動が解せなかった。

それを見て、ますます檜山や他数名の生徒たちはハジメへの嘲笑を漏らしていく、

「見ろよ。ついに白崎からも見捨てられたぜ。かわいそー」

「おいおい言ってやるなよ。慰めてやれよ」

「おーよちよち、どこかいたいんでちゅかなぐもくーん」

ギャハハはは!と、ついに我慢ならず檜山たちは声をあげて笑い出した。それにつられて他数名のハジメを見下す生徒たちも我慢を抑えきれなくなる。そうではない生徒たち…永山重吾ら他数名も香織や雫同様、不快感で眉を顰め、メルドも檜山たちの最低な態度にこめかみがピクついていた。ハジメへのリンチについてこっぴどくメルドやミウラから説教と罰を食らったことを忘れたかのように、しかも教皇の前であることを忘れて堂々と嗤っている。一回だけでは全く足りなかったようだと自省し、檜山たちを黙らせようと声を張ろうとする。

「いい加減にしろや。こんな状況にもなってまだみみっちぃ序列決めなんざやってんのか?恥ずかしくねぇのか!」

だがその前に、ミウラがついに黙っていられずに言い放った。ハジメを笑うあまり、すっかりミウラの存在も忘れていたらしく、小悪党組とそれに同調した生徒たちの嘲笑はぴたりと止んだ。

「そ、そうだ。仲間を笑うなんてさすがにやりすぎだ」

光輝も同じようにミウラの怒号でびくついていたものの、直接叱られていたわけではなかったのか檜山たちよりも早く我に返り、檜山たちを咎めた。クラスのカリスマである光輝からも言われては檜山たちも押し黙るしかない。…が、檜山たち小悪党組はちっ…と露骨に舌打ちしながら目を逸らした。

「けどミウラ隊員も言いすぎです。僕らのクラスメイトをそんな風に言わないでください!」

「…そうだな、悪かった、教皇も見苦しいところをお見せしました」

頭にくるガキの面倒でストレスがたまったのもあったかもしれないが、ミウラも子供相手に熱くなり過ぎたと反省し、光輝からの懇願に素直に詫びを入れ、教皇らにも謝罪した。

「いや、謝るなら俺もだ。教皇、我が養育不足をお許しください。

…檜山、舌打ちとは反省の色が見られないな。訓練と称して近藤たちと一緒に坊主をリンチした時の罰だけでは足りなかったようだな。お前たちも、檜山をなぜ咎めん?友なら友の間違いくらい矯正して見せろ」

反省すらしない檜山の悪辣な態度に、メルドもイシュタルに指導力不足を詫び、改めて檜山たちへの徹底した養育をすることを決断。睨まれた檜山たちは顔を青ざめさせた。中には、檜山同様に嗤っていた小悪党組以外の生徒たちは「俺関係ないよな?」と言いたげに目を逸らしているが、それを見逃すメルドたちではない。後でこいつらも檜山ほどじゃなくても説教しなければ。罰を食らいたくなければ最初から嗤わなければよいものを…とつくづく呆れさせられる。

「待ってください。檜山たちはもう反省して…」

「お前は黙ってろ。それに今は、教皇からのお話が最優先だ」

光輝が、メルドに檜山たちを許して欲しいと願い出る。この様子を見るからに、檜山たちが反省してないことに全く気づいていない。それを見越したミウラが光輝に強く言い、光輝は納得が行かなそうに押し黙った。

「…教皇、この石像の詳細をお尋ね申したい。この国を守る騎士として、そしてこいつらの監督者としてぜひ知っておきたいのですが」

空気がやや重さを増している。話を切り替えるつもりもあってメルドは石像についての詳細も兼ねた、この世界の隠れた歴史について語ることにした。

「そうですな。では、この壁画と共に説明いたしましょう。光の救世主様の伝説を…」

イシュタルは、巨人たちの足場となっている台座を指差す。

その足元の台座には、壁画が刻まれていた。エヒトをイメージしたと思われる白い人型の光の影の足元に、白装束?を纏う女性をかたどった人が、その周りを光の巨人らしき人影が刻み込まれていた。

イシュタルは壁画を見据えながら、この世界の伝説についてハジメたちに話し始めた。

 

 

 

 

 

それは年数を数えることすら出来ないほどの遥か昔…

 

 

恐るべき災厄が、闇が世界を覆い尽くさんとしていた時代があった。闇は多くの魔物を従え、時に魔物たちは城や山よりも大きく(・・・・・・・・・)、強大な力を持って世界各地を蹂躙し尽くしていた。その脅威は魔人族のもたらすそれとは比較にならないほど恐るべきもので、事実世界が滅亡寸前に追いやられていたとのこと。

 

そんな時、最後まで闇に抗おうと、エヒトの巫女であった『ユザレ』率いるトータス守護騎士団団長が立ち上がり、闇と戦った。

 

だが彼らの奮戦を持ってしても、怪獣たちの脅威には抗いきれなかった。絶望的な戦いの中、それでもユザレたちはこの世界を守るべく戦い続けた。

 

そんなユザレたち人類の不屈の精神を讃えたエヒトが、ユザレとの協力で遥かな天空より、

 

 

光の巨人たちを遣わしたのだという。

 

 

エヒトの導きで現れた光の巨人たちは自らが選んだ人間と一体となり、悪しき闇を打ち払った。

光の巨人たちはユザレに看取られながら自らを石像に変えたのち、再び自分たちの力が必要とする時が来るまで悠久の眠りについたのだった…。

 

 

 

 

「当時、エヒト様のご加護を授けられた大いなる巫女『ユザレ』は、闇の勢力が再びエヒト様のご加護に満たされしこの世界を侵そうとする時を憂い、いつか現れる勇者にこの光の巨人様の伝説を知ってもらうべく、これらの石像と壁画を残されたのです。

…以上が、この石像…光の救世主様にまつわる伝説にございます」

イシュタルは微笑みながらハジメたちに、光の巨人の伝説について語っていった。

 

「…『ウルトラマン』…」

 

「え?」

「思い出した!この石像、いや巨人…小さい頃にじいちゃんに聞いたことがある。宇宙には、平和を守るために悪と戦う光の戦士がいるって」

石像を見上げる光輝が不意に、あたかも石像のことを知ってるかのように発した口ぶりに、クラスメイトたち注目が集まった。

「おぉ、さすがは勇者様。光の救世主様をご存知だったとは!これもやはり、エヒト様のお導きに違いない!」

イシュタルは光輝へ歓喜の声を上げる。付き添いの司教たちも、光輝への期待の声を口々に、互いに発していく。これで魔人族はおしまいだ、エヒト様万歳、勇者様がいれば安泰だ、等と。

「な…なぁ光輝、なんでお前この石像のこと知ってんだよ」

龍太郎は、光輝が石像のことをどうして知ってるのかと問いただす。

「今言っただろ?じいちゃんから聞いたって。それに、城にも匹敵する魔物…これはおそらく、俺たちのいた地球にも現れていた『怪獣』のことを指している。それによってこの国の人達が苦しめられているって事実がある以上、イシュタルさんの話は嘘とは思えない」

「あ、いや…そうじゃなくてよ」

光輝が石像のことを知っていることを不思議に思うあまり、尋ね方がよくなかったようだ。光輝の祖父が石像のことを知ってるのはどうしてか、ということだ。

同じ疑問を抱いたこともあり、雫も口を挟んだ。

「光輝、待ちなさい。にわかには信じられないわよ。どうしてあなたのおじいさんが、この世界の伝説を知ってるっていうの」

その疑問も御尤もだ。なにせ自分たちの住んでいた地球とこのトータスは互いに存在さえ知られていない全くの異世界。異世界の超古代の伝説をなぜ光輝の祖父が知っているのかだなんてあり得るはずがない。

「じいちゃんの言ったことは嘘じゃない!現に、こうして伝説の巨人の石像がここにあるじゃないか」

「そんなの証拠にすらならないわよ。話をただ合わせただけじゃ…」

「俺も同感だ。それに、そもそもこれだけ重大な話を、なぜ召喚されたあの日に俺たちに言わなかった?」

そうだ、イシュタルは勇者である光輝の機嫌を取るために、光輝に話を合わせようとした。しかも光の巨人という、元からこの世界の人類にとっての守護者の存在を、自分たちが召喚されたあの時のタイミングで隠し、今になってそれを明かした。神の使徒だなんてたいそうな呼び名と共にこちらの機嫌を伺っているが、どこまでも自分たちを利用しようと考えているのが見え見えとしか思えない。人を疑わないがゆえに全くそれを察さない光輝をたしなめる雫にミウラも同調したところで、ハジメが話に割って入るように雫を止めてきた。

「ま、まぁまぁ!そこまでにしようよ八重樫さん、ミウラさん」

「南雲君…?」

「イシュタルさんの話にはまだ続きがある。そうですよね?」

ハジメの問いにイシュタルは満足そうに微笑む。

「察しがいいですな。そうです、強大な魔物たちを従える魔人族の脅威にさらされている今こそ、光の救世主様のお力を目覚めさせる必要がございます。

皆さまが召喚された際に隠していたことについては謝罪いたしましょう。何分、重大なことを明かすには機というものがございますので。まずは、皆様にこの世界に少しでも触れてからと考えたが故。どうかお許し願いたい」

(どうだか…)

内心で毒づく雫。タイミングを見計らったうえで明かすことに意味があるなどというが、いったいどれほどの効果とどのような意味があるというのだろうか。

「では、石板の右側をご覧くだされ」

イシュタルは、石板の右側を指差す。そこには、手に神具と思われるアイテムを頭上に掲げる男性らしき人の絵が刻まれていた。

「神具、名を『スパークレンス』。

光の救世主様が光の力を解き放ち、闇を打ち払うために存在いたしておりました。選ばれし者…すなわち勇者がこれを手にすることで光の救世主様は勇者と一体となって再び目覚め、邪悪な魔人族を討ち滅ぼし、世界を平和に導いてくださることでしょう。

ユザレは生前、こう告げておりました。『光の救世主を目覚めさせるには、心に光を宿した者が、光を力として解き放つ神具を手に入れなければならない』、と。

ここまで言えば…もうお判りでしょう?」

「それってつまり……俺がウルトラマンになるってことですか?」

「はい。異世界の者に対しても慈悲をお与えになり、正義を貫き正道を行く…まさに、勇者様こそ光の救世主…『ウルトラマン』にふさわしきお方です」

「俺が…勇者である俺がウルトラマンに…!!」

イシュタルから改めて名指しされた光輝は、他者から頼られていることもあって更に心が舞い上がっていた。

「そうだよ、光輝君以外にあり得ないよ!なんたって勇者だもの!」

「あぁ、光輝がいれば、きっと俺たちは大丈夫だ!地球に帰れるのだって夢じゃない!」

そんな光輝を、女子生徒の一人中村恵理が支持する。龍太郎も光輝の存在が皆の未来を切り開くとし信じて疑わずに、光輝の存在を理由に皆を鼓舞した。そしてクラスメイトたちも光輝がここまで有望な存在として祭り上げられていく流れに乗り、きっと光輝に着いて行けば大丈夫だと思い始めていった。

「光輝…」

「龍太郎君…」

そんな幼馴染みとクラスメイトたちの舞い上がりように、雫と香織は不安を覚えた。良い様に御輿に乗せられている。そんな気がしてならないのだ。光輝の祖父の知る『ウルトラマン』と、この世界の伝説の巨人が同一のもののようにイシュタルは語っているが、どう考えても話を合わせたようにしか思えない。

(っち、天之河の奴…完全に調子に乗ってやがる)

ミウラは、光輝が勇者としてもてはやされてるあまり、子供のようにうきうきしているのを見て舌打ちした。人類のために戦いに赴く戦士というには、あまりにも幼すぎる。なのにこのクラスメイトたちの多くとあの信心深い教会の老人どもは光輝をひたすらもてはやしている。

それに、光の救世主?自分たちを召喚した動機を明かした時も見受けられたが、この世界の人類は他力本願さが露骨だ。自分たちの信じる神のためだけに動かされることを良しとして、自分達の力で抗う意思というものを感じられない。ましてや、この石像が本当に伝説の通りのものなのか疑わしい。PDIで調べているが、この石像にはなんの反応も探知されていない。データの上ではこの石像は、何の力もないただの模造品と考えられる。さっきPDIで検知した熱源反応も、ピラミッドのものに過ぎないだろう。

「ですが…一つ残念なお知らせがございます。今は我々のもとに神具は存在いたしません」

「え?」

「奪われたのです。数百年前、おそれ多くもエヒト様に歯向かい世界を滅ぼそうとした悪しき者…『反逆者』によって」

「なんですって!」

光の救世主を復活させるためのアイテムが奪われたと聞いて光輝が声を上げる。

「メルド団長、『反逆者』とは?」

ミウラは、『反逆者』という単語についての詳細をメルドに問う。

「反逆者…神代と呼ばれる遥か古代の時代、神に挑んだ神の眷属に属する者のことだ」

メルドも反逆者と呼ばれる存在のことは知っていた。エヒト教を国教とするハイリヒ王国では、エヒトに連なる知識を積むことは当然の義務。エヒトに恐れ多くも戦いを挑んだ存在として覚えている。メルドの回答に捕捉を入れるように、イシュタルも反逆者について説明を入れた。

「そう…かつてエヒト様に反逆し邪悪な闇を目覚めさせこの世界を破壊しつくそうとした悪しき者たちでございます。奴らは愚かしいことに『ユザレ』の血族の巫女『イザレ』を攫い、彼女に無理を強いながら世界に混沌をもたらさんと暗躍し、再び世界を闇に包もうと致しました。

幸い、エヒト様のご加護を受けた世界中の有志たちが立ち上がり、反逆者たちを敗走させ、邪悪なる闇の復活を阻止することが出来ました。

しかし奴らによって『イザレ』がそのお命を奪われたことでユザレの血は途絶えてしまい、盗み出された神具は各地の大迷宮のいずれかに隠されてしまったといわれております。」

「なんて酷いことを…反逆者、許せない…!」

光輝は、イシュタルの口から放たれる反逆者の非道さを聞いて、我が事のように怒りで身を震えさせる。

「そして今現在、悪しき魔人族は凶悪な魔物すらも従え、既にこのハイリヒ王国の国土を侵しつつあります。故に今は急を要しております。光の救世主様の復活のためにも、勇者様、あなたが頼りなのです」

「つまり…俺たちにオルクス大迷宮での訓練の傍ら、迷宮を突破しそのスパークレンスを回収してほしい…ということですね?」

ここまでの話の流れで、光輝はイシュタルが今回の遠征で自分に求めるものが、反逆者に奪われたというスパークレンスなのだと確信した。

「はい。このオルクス大迷宮を突破した暁には、奪われた神具も取り戻せるやもしれませぬ。

使徒様、どうかお願いいたします。この世界のためにも、我ら人間族の未来のため、神具を取り戻してくだされ」

「任せてくださいイシュタルさん。必ずスパークレンスを手に入れ、俺がウルトラマンとなってこの世界の人々を救って見せます!」

光輝は胸の奥から果てしない高揚感を覚えていた。亡き祖父から、かつて聞かされていた光の戦士『ウルトラマン』。それに自分がなれるのだと聞いて、ヒーローに憧れる幼き少年のごとく興奮していた。

光輝が強く意気込み、クラスメイトたちが一部を除いて沸き立つ傍ら、その一部でもあるハジメやミウラ、雫ははぁ…とため息が漏れ出た。

本当かどうかもわからない光の救世主とやらの伝説のために、あるかどうかも不確かな神具のために迷宮潜りをさせられる。

かつてこの世界を救済したと言われる存在だったらしいが、それが事実だとしたらそれはそれでロマンがある。まるで特撮や漫画の世界で起こりうるシチュエーションだ。オタクであるハジメとしては嫌いではないし、それもあって光輝の胸躍る気持ちが全く分からないとまでは言わない。ただ…あれは創作物だから楽しめるのであって、現実となると素直に喜べない。イシュタルの話がどれほど信憑性を持つか怪しいし、何より神の使徒だなんて呼び名はされても、たとえ本当にウルトラマンになれたとしても、全部自分達だけが苦労を背負わされるからだ。実際は大昔の人が遺したガセネタでした…なんてことになったら、小間使いにされてる自分達だけがその分の無駄骨を折られる。そんなことも察そうともせず、イシュタルの話を疑いもせずに二つ返事で受託する勇者。先に待ち構える苦労がのし掛かる。

(それにしても…)

ハジメは改めて石像を見上げる。見れば見るほど、確かにヒロイックなデザインの石像だ。地球に戻れることがあったらデザイン画として残しておきたいくらいだ。

ただその一方で…似ている気がした。

 

夢の中で出会った、銀髪に青い目の香織そっくりの女性。彼女を見た後で夢の中に表れた…

 

自分が化身した、歪な鎧を身に纏う、『闇の巨人』に。

 

(いや、まさかな)

夢に見た存在を現実で目の当たりにする。漫画とかだと何かのフラグのように思えてくるが、それが現実で起こるだなんて、いくらハジメとて信じない。きっと偶然の一致なのだろうと結論付けた。それよりもオルクス大迷宮での魔物たちとの戦いをどうにかして生き延びるように考えなくてはならない。

 

ハジメは知る由もなかった。

 

(気のせい、かな……この石像、どこかで見たことがあるような…)

 

石像を見て奇妙な懐かしさを覚えていたのは、彼一人だけではなかった、ということに。

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