「でも、ただ勝てばいいと言うなら、音ノ木坂がスクールアイドルをやる理由はないと思うの。廃校は阻止されたし、今の進学実績なら何も問題はない。」
絵里にとって、音ノ木坂学院のスクールアイドルが、単なる学校宣伝の道具にされることは許しがたいのだ。
「少なくとも、音ノ木坂のアイドル研究部の部員には、『みんなで夢を叶える』ことについて考えてほしいのよ。」
絵里がアイドル研究部の顧問になった理由はこれだ。
「もちろん、全部私の思い通りに行くなんて思わないわ。特に、相手は生徒と言う人間だから。」
絵里は、高校生だった頃の自分や周囲を思い出しながら語る。
「私達の経験なんて、そんなに役に立つものでしょうか?」
海未は自信なさげだ。
「アイドルとして花開いたのは2人しかいないものね。」
真姫は、にこの方を見ながら言う。にこは売れないアイドルで終わっていた。
「真姫、あなたが一生独身であることを願ってあげるわよ。」
にこは真姫を呪うポーズを取る。
「にこまき、痴話ゲンカは後にしなさい。」
絵里がまとめてたしなめる。
「「誰が痴話ゲンカよ!」」
にこまきからの文句であったが、絵里は無視する。
「それに海未、むしろアイドルにならなかった人の話の方が部員には役立つと思うわ。」
絵里は、海未の疑問に答える。
「アイドル研究部の皆がアイドル志望と言うわけではないし、アイドル志望者でもアイドルになれなかった場合の将来について考える材料にはなるわ。」
絵里が言うまでもなく、アイドルとして開花するのはさらに難しい。叶わなかった場合を考えさせるのも必要な教育だ。
「アイドルになることしか考えていない子の中には、授業中に寝ていたり、おしゃべりをしていたり、本当にマトモな状況じゃない子もいるのよ。」
絵里が、凛、穂乃果、にこを見ると、他のメンバーをそちらを見た。
「ひどいよ。」
「そんなに今さら責めなくてもいいじゃない。」
「全く、絵里は性格悪いんだから。」
指名された3人が絵里を非難する。
(にこに性格が悪いなんて言われたくないわよ!)
絵里の心の声はもっともだ。
「いい、穂乃果。今の音ノ木坂学院は、小学校の算数ができないと入れないのよ。スクールアイドル推薦なんかしていないんだからね。」
「今はできるもん!」
一番成績の悪かった穂乃果が槍玉にあげられる。高校2年生にして九九ができなかったのでは、しょうがない。
「じゃあ、分数の計算は?2/3+3/4を1分以内に解いてみて。」
絵里は穂乃果に式を書いた紙を渡す。
「えーと・・・。」
やっぱり、穂乃果には難しかった。通分のやり方など知るよしもないから。
ちなみに正解は17/12だ。
悔しがる穂乃果を見て、絵里は
「と言う風な問題児もいるの。これでは、卒業してから困るわ。」
「さらに言うと、『音ノ木坂では、小学校の内容もわからない卒業生を出している』なんて言われることほど、恥ずかしいことはないものね。」
ため息をつきながら言う。
「まあ、他の学校にもできない子はいるけど、それでいいわけじゃないのよ。」
絵里の言う通り、改善すべきことは忘れてはいけない。
「反省してください、穂乃果。」
「海未ちゃんも酷いよ!」
海未からも責められる(あ)穂乃果だった。
「あと、μ'sは音ノ木坂学院では唯一全国制覇を成し遂げたグループとして、部員の間では、どんな人達だったか知りたいと言う声が結構あるのよ。」
このことを言うときの絵里は、やはり誇らしげである。
「その時のみんなと十年後のみんなを知ってもらうことで、アイドル研究部には、原点を見つめ直すとともに、部員の将来を考える機会を作る機会を提供してもらうわ。」
絵里が全てを言い終わった。
「なお、賭けに負けたメンバーはもちろん、遅刻してきたメンバーにも拒否権はありません。ね、希。」
絵里は、希に確認を取る。
「そうやな、こんな大事な日に遅刻するなんて、罰の一つも受けてもらいたいレベルやわ。」
希が邪悪な笑いをうかべながら、わしわしのポーズを取る。
そんな絵里の提案を断る愚か者はいなかったのは言うまでもない。