星の大地   作:チクワ

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オトナの条件

 

 「ルビー楽しいー?」

 

 「うん!」

 

 ──学校帰り、斎藤社長たちの子供を預かっているという名目で彼らを公園に連れ出し、嬉々として遊ぶその姿を見守る。

 これはどうしても休めない出席の日とアイの仕事を考えた結果の苦肉の策であり、同時に僕のストレス発散を兼ねた行動でもあった。

 

 ......まず初めに、みんなが役者に対して思う印象というのは基本的にテレビから入ってくる。

 例えばバカな演技が目に入ってくれば、その役者に対する印象というのは『馬鹿な人』になり、優しい人の演技をすれば『優しい人』になる。

 結局第一印象だ。

 

 話は変わるが、撮影に参加させていただいたドラマの『スカーの微笑』は()()()()()があってそこそこ見られたらしい。

 役者のDV問題に関連する野次馬根性で見た人間もいれば、普通に見てた人、中島ユキのファンとかも。

 特に最終回は第一話以来のトレンド入り? というやつをしたらしく、ミヤコさんの話によると結構すごいことなんだとか。

 僕はそういうSNSをやったことないのでわからないけど。

 

 で。

 そこそこ人気になったそのドラマに、DV役者の代役(1コンボ)しかも犯人(2コンボ)絶好調の演技(3コンボ)をした結果、単位制で常に学校に来ているわけではない僕に向けられた視線というのは──

 

 『おはようございますー。』

 

 

 

 『......』

 

 『やばくね、俺たち殺されんじゃ......』

 

 『怖っ...... うわ怖っ。』

 

 

 『? おはようございます......?』

 

 『キャッ?! ごめんなさい、おはよう!』

 

 

 

 「──僕が何したんだ......」

 

 はい。

 というわけで僕に対するみんなの印象は、『笑いながら人殺すやべーやつ』になってしまったわけです。

 泣きたい。

 これじゃあ小学生の頃と変わらないし、なんならその事について知らなさそうなシノですらなんかよそよそしい。

 そんな環境じゃあストレスも溜まる。

 

 でも、あの演技があったから僕に仕事が来ているというのも事実で、この前は獣医がテーマのドラマに端役としてではあるけど出させてもらった。

 1話2話の出番しかないということで全力で演技させて頂いたが、共演者の方々からお褒めの言葉をもらってしまって。

 頑張ろうと思う一方、学校の事はどうにも辛さがある。

 どうしたものかと思いながら、膝の上で本を読んでいるアクアの頭を撫でて心を鎮めた。

 

 「アクアは遊ばなくていいの?」

 

 「あー、うん。

 俺はいいかな。」

 

 そう、と申し訳なさそうに首を振る彼に言葉を返し、何も申し訳なさそうにする理由はないのにな、と首を傾げた。

 しかし元気に遊ぶ子供も本を読む子供も良い。

 自分の子供だから?

 きっとそうだろう。

 ()()()()()()()()()()この子達が大好き、という事は変わらない。

 ......ストレス発散、元気出てきた。

 この子達がいい学校に行ける様に。

 自分のやりたい事をやり続けられる様に、僕も仕事を頑張ってアイに負けないくらい稼がなくては。

 

 やる気を再注入する様に頬を叩き、膝上のアクアをゆっくり下ろしてルビーの元へ向かう。

 久々にかけっこでもしてみるか?

 

 「パパも遊ぶ?」

 

 「パパは危ないから外じゃやめておこうね?」

 

 「あ、そっか。

 ──お兄ちゃんもやろうよ!」

 

 「いや、俺は......」

 

 一度は申し出を断ろうとしたアクアも、妹の前では流石に形無し。

 深いため息を吐くと、持っていた本を僕の鞄に入れてニヤリと不敵な笑みを浮かべた。

 

 「......やるからには勝つけど、また泣きべそかくなよ?」

 

 「()()じゃないですー!

 まだ泣きべそなんてしたことありませーん!

 じゃああの滑り台までね!」

 

 「それじゃあいくよ、よーい...... ドン!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「まげだー!!」

 

 「あっぶねー、割と速いんだな......」

 

 何回目だろうか。

 子供の体力とはすごいもので、何回も何回も走っているのに全く勢いが衰えない。

 一応父親である以前に負けず嫌いな僕も、遂には一位奪取を許してしまった。

 これはあの子達を褒めなければなるまい。

 滑り台に寄りかかっていた体を動かし、二人の元に辿り着いて膝をつき、抱きしめてから頭を撫でる。

 

 

 

 「ヴゥッ...... さ、さすがだね、二人......ゲホッゲッホ?!

 ......二人とも!」

 

 「「誤魔化せてない。」」

 

 ──マジで吐きそう。

 なんでだろう、本番中の演技然り今回の短距離走然り、どうにも短期の物事に対して体力がもたない。

 長時間マラソンするとかは別になのだが、どうにも短期は無理だ。

 今のところこれが実害になった事はないが...... どうしようかなと思いながら、息を切らしてベンチに座り込む。

 

 幸いにもルビーの事はアクアが見てくれる様で、情けない自分に唇を噛み締めながら休ませてもらうことにした。

 息を整える。

 

 子供の頃の心。

 童心なんていつぶりに感じただろうか。

 役者は大人になる仕事でもあり子供になる仕事でもあって、その中で僕はいつ子供を辞めてしまったのだろう。

 アクアとルビーが生まれた時?

 アイと関係を持った時?

 それとも── なんて考えても答えが出ないのが世の常。

 

 『スカーの微笑』も獣医のドラマも結局演じたのは心が子供なキャラクターで、もしも次は大人をやれと言われたら出来るかな。

 不意に来る不安が心を押し潰そうかというその時、ある子供がベンチのすぐ隣に座った。

 その少年は憂鬱な目で空を見上げたかと思うと、向こうのほうでキャッキャと遊んでいるルビー達に視線をやる。

 それは小学生くらいの子供にしては達観しすぎた様な雰囲気を醸し出しており、何もしなければこのまま消えるだろうという根拠のない知らせを心が受信するには十分なもの。

 ──そんな理由をつけたが、結局のところ。

 

 「......どうしたの?」

 

 「あ......」

 

 その姿が退院当時の僕と、被ったんだ。

 

 

 

 

 

 

 「へぇ、役者なんだ!」

 

 「......あんま有名じゃないけどね。

 大人はみんな有馬かなに夢中。」

 

 彼は名前を教えてはくれない。

 それは当たり前だろう、今の小学生も昔の小学生も他人には名前を教えない、それは変わりない事だ。

 だが彼は子役らしく、しかし今まで出会った子達とは違って自分にまるで自信を持っていない様だった。

 ため息を吐いては自分と比べる様に()()()()()()()()、最近話題のおじさん構文みたいで聴くに耐えない。

 

 コンプレックスとは少し違う様に見える。

 申し訳なさと怒りに似た、自分への失望?

 

 有馬かなに負い目でもあるのかと問えば、彼は首を横に振り──そうになってから止め、今度はしっかりと縦に振った。

 

 「僕より有馬かなの方が有名になっていくのが嫌で嫌で。

 インタビューされた時にあの子をライバル視してるって言ったら、それが拡大解釈されて炎上しちゃったんだ。

 それで、学校でも──」

 

 「悪かった。

 そこに踏み込んだのは僕だけど、もう話さなくていい。

 その辛さがわからないわけじゃない。」

 

 炎上。

 分け隔てなく全ての人間が自分の敵になり、どこまでも追いかけてくる地獄の出来事。

 この芸能界(せかい)が恐れられる原因の一つだ。

 となれば彼が醸し出す雰囲気の理由はそれ以外になかろう、防げた失言を放ってしまった自分への失望と、逃げ場がないからこそ何処かに逃げてしまいたいという空虚な目。

 

 一瞬の沈黙の後、ポツポツと溢れてくる彼の言葉。

 その言葉にはまだ熱が残っていた。

 

 「......もう終わりかな。

 お父さんは何も言ってくれない、仕事もまるで来なくなった。

 誰も助けてくれない。

 こんなところで終わっちゃうなんて、予想よりずっと早かった。」

 

 「それはどうだろう。」

 

 その熱を信じて否定してみる。

 こんなところで夢が焼き尽くされちゃうなんてのは、僕だけでいい。

 

 「君は自分の演技の、どこに魅力を感じる?

 有馬かなみたいに十秒で泣けなくても、あの子に勝てる様なところ。」

 

 「え...... その、気味の悪い子供っぽさとか。」

 

 「いいね。

 具体的にはどんな感じ?」

 

 「『......うひっ、うひひひっ。

 ぐっちゃぐちゃにしてあげる、あなたをぉ......!』

 ──みたいな......」

 

 「いいじゃん。

 もっとこう、()()()()()()()()()()()()()()()

 気味が悪いと思わせるためには、現実にあるその類の人間を限りなく真似るべきだと思うんだけど。」

 

 「やってみる。

 『あ゛〜......? あ...... あ〜......』」

 

 「おお、良くなった。

 万能な同業者に勝つのなら、やっぱり一芸特化は覚えていた方がいいかもね。

 ......演技は楽しい?」

 

 「......ちょっと。」

 

 消えかけていた種火が大きく燃え始める。

 楽しさを再燃させた彼は使えるものを使い、自分の可能性を探るためにも色々なオーディションに行くんだろう。

 僕が出来るのはそれを、優しい目で見るだけ。

 結局は本人次第であるから。

 

 不意に夕方の鐘が鳴る。

 その音に彼はハッとして立ち上がると、公園の出口へ走っていく。

 その顔には笑顔が戻っていた。

 

 「ありがとね、()()()お兄さん!

 僕、木村(きむら) ショウ! 

 もうちょっと頑張ってみるから、テレビに出たら見てよー!」

 

 「うん、がんばれ!」

 

 

 帰り道、帽子を深く被って両手は我が子と繋ぐ中、あの子── 木村くんから貰った言葉を反芻する。

 大人のお兄さん。

 大人の。

 

 ......大人って、あんな感じ?

 ああいう風に話を聞いて、やる気を出させる感じ?

 なら、やれるよ。

 

 「二人とも、楽しかった?」

 

 「うん!」

 「まあまあ。」

 

 それは良かったと笑い、家に着いて玄関を上がると同時に二人をギュッと抱きしめる。

 今度は吐きそうとかじゃなくて、純粋にこうしたくて。

 

 「くすぐったーい!」

 「暑い......」

 

 ふふ、幸せ。

 そんな事をしていたら、帰ってきたアイがニコニコで3人に覆い被さる。

 ちょっと暑いが、これもいい暑さ。

 

 「私も!」

 

 学校でやべえやつ扱いされたとしても。

 僕はきっと、家族がいれば頑張れる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ずっとだ。

 ずっと引っ掛かってる。

 

 オレがダイチに抱く衝動の正体、それがなんなのか。

 田仲シノとして何を彼に感じ取っている? 彼はオレがスーツアクターを続ける様に言ってくれた人だ。

 そして親友。

 それ以上でもそれ以下でもないはず、なのだ。

 

 「──シノ坊、これは以前のお友達ですかな?」

 

 勉強しながら考えていれば、スマホ片手のじいちゃんがその画面を見せてくる。

 『スカーの微笑』、最近話題の作品であるが個人的には食指が動かない作品──だったのだが、そこに立つ男のせいで状況は一変する。

 

 「ダイチさんだ。

 ──そういう事か、そうだったのか。」

 

 自分の中にあった衝動(キモチ)に答えが出た、出てしまった。

 従うのも不機嫌(シャク)な感情であり、オレ自身も(ヤバ)イと思う封印していたものが溢れる。

 

 ため息吐いて(ソラ)見上げて、少しして立ち上がった。

 畑違(サム)い願いだって、狂気(イカレ)だってわかってるがオレは──

 

 「──アンタと演技(ブッ殺)しあってみてぇ......!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 「そういえばなんの仕事だったの?」

 

 「ゲッターなんとかっていうアニメの、ゲストでアフレコ。

 楽しかったよ?」

 

 「へー、後で録画しておこうかな。」

 

 

 

 









19日の日刊ランキンに11位で乗れていました
ありがとうございます、推しの子さまさまですね
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