星の大地   作:チクワ

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ギブアンド共演

 

 心の底から信頼している一人の友人に呼び出され、向かったのは彼の家。

 出迎えてくれた彼の顔はどこか思い詰めた様に影が差しており、しかし僕はその影に気づかぬままその背に導かれて地下へと足を進めていく。

 そこに広がっていたのは、そこそこ大きなダンススタジオ......とは少し違う、何やら物々しい雰囲気の空間。

 床に貼られた夥しい数のテープは、彼がスーツアクターとして行ってきた殺陣の数だけあると思うとゾッとする。

 その努力に底が見えないという事に、それだけ強い男である田仲シノが僕をここに連れてきた意味に。

 

 周りを見渡して『?』を浮かべる中、不意に目の前からとあるものが飛んでくる。

 反射でキャッチしたそれは── 刀。

 訳がわからなかった。

 

 何故唐突に日本刀(ポンとう)が、どの様な意図で僕の手の中に入ったのか。

 それを知ったのは次の瞬間、影がこちらの体を覆った時。

 

 「何を?!」

 

 田仲シノは何を言うでもなく飛び上がり、大上段から渾身の力を込めた斬撃を見舞う。

 避ける事は無理、かと言って手に持つ刀を抜けるかと言われれば、素人故にそれも無理だ。

 ならばと鞘の部分でその一撃を受け止め、肩透かしの様な感覚で刀を持つ手の力を弱めると、彼の上体が崩れる。

 そこで終われば。

 そう思っているうちは終わることなんてない、と言うのはお父さんの言葉。

 

 その言葉通り、シノは驚異的な体幹と足腰の強さで思い切り踏み込み、逆袈裟の形でこちらの首を落とさんと再度刃が輝いてこちらに襲来。

 ──まずい。

 

 僕にとって田仲シノは良識ある友だったが、よくよく考えてみれば彼も友である以前に役者。

 付け加えるならば、言葉を発さずその立ち居振る舞いで見る者に感情を見させる動きのプロ(スーツアクター)だ。

 だからこそ、この一太刀には僕がまずいと思う物事が見え隠れしている。

 『ここで反撃しなければ死ぬ』という確信が。

 

 「なんでこう......!!」

 

 僕の周りにはこういう人が多いのか。

 全てを言い切る事はなく、体を捻って回転する勢いを使って慣性で鞘から刀を抜く。

 わからないがこの軽さなら届くはずだ。

 風を切る音が室内に響いて──

 

 「......」

 

 「......流石っスね。」

 

 両者の刃が優しく首を叩く。

 ほぼ同時ではあるがほんの少しだけ僕の方が速く、しかし平然と息を吐くシノに対してこちらはゼィハァと激しく肩を上下させる。

 彼が何を確かめたかったのか、それはなんとなくわかった。

 でもそれはそれとしていいかな?

 いいか、いいよね。

 

 

 「──いってぇ!!?」

 

 「何が『流石っスね』だよ!!

 死ぬっ、死ぬかと思ったんだぞ!? 何か聞きたいこととか確かめたいことあったんなら先言ってよ!!」

 

 「おぉ...... スンマセン......」

 

 

 本気で頭を叩いて怒る。

 中島ユキもシノも、どうして激ヤバ暴力装置になってしまうのか。

 

 『いえーい!』

 

 やかましや!

 暴力装置が褒め言葉な訳ないんだから、イマジナリー中島には黙ってもらおう。

 絶対許さん、絶対許さんからな。

 

 

 

 

 

 

 

 「──で、なんで襲いかかってきたわけ?」

 

 プリンが美味しいので許した。

 そういうわけで練習場の端に座り、二人で糖分補給を兼ねたおやつを口に入れながら理由を聞く。

 多少なりはさっきの一瞬で読み取れた。

 中島ユキみたいに知り合いが役者やってるからテンションが上がって、そういう行為に走ったんだろうって。

 

 しかし彼の表情を見るにそれだけではなさそうなのだ。

 だからこうして聞いているのだが、彼は『言っていいものか』という表情で飴をガリガリと噛み砕くだけ。

 話の進展は無いに等しい。

 

 「いきなり切り掛かって来てるのに、まだ言いにくいことあるの?」

 

 「いや、その。」

 

 二つ目の飴に伸ばそうとした手を引っ込め、彼は正座のまま向き直って口を開く。

 『公言しない』と前置いたところに何か嫌な予感を感じるが。

 

 「──ダイチさんってお子さんいますよね?」

 

 「......いや〜〜〜〜〜〜〜〜なんで?」

 

 「赤ちゃんがヲタ芸してたライブで見かけたんスよ。

 火傷が見えたんで、ダイチさんかな、と。」

 

 ......バレてる。

 しかも一年半近く前のことだから、それくらいからずっと?

 頭を抱えてプリンの空き容器を置いて、小さく息を吐いた。

 実際シノが公言しないと言ったのは嘘じゃないはずだ、聞こうと思えば同じ学校でいつでも聞けたわけだし、そうしなかったのは彼なりの優しさとか思いやりがあったから。

 幸いにもその心遣いと、アイが母親だとバレていないことが唯一救いな点か。

 

 彼自身も答えを欲していたわけでは無いのか、イエスノーの返答が送られる前に話を前へ進めた。

 

 「それはあんま関係ないけど、子供を養うんなら幅広くやれる方がいい。

 殺陣も演技も。

 ......この前出てたドラマ鑑賞()させてもらって、どうしても我慢できなかった。

 オレはアンタと演技(殺し合い)をしてみたいって。

 でも(スーアク)とダイチさんじゃ畑が違う、だから......」

 

 真っ直ぐな目がこちらを向く。

 それは二人でライブDVDを見た時、彼がB小町に向けたキラキラの視線と同様のもの。

 不純なのに純粋な歪み切った思考。

 もう一度言う、彼は役者(気狂い)だ。

 僕と一緒の人種なんだ。

 

 

 「──オレの全てを教えさせてくれ、アンタに。」

 

 

 

 つい笑ってしまう。

 変に律儀で、でも適度に入り込んでくる。

 

 僕にとっては願ってもないことだ、今の自分にとって仕事は増えれば増えるほどいい。

 しかし── ()()()()()()()()()()()()()()

 この世は常にギブアンドテイクなのだから。

 

 「断る理由もない、よろしく...... って言いたいけど、教えられるだけじゃ嫌だな。

 僕からも教授(テイク)したい、構わないね?」

 

 「そっスね、色々知れば活かせるんで。」

 

 

 固い握手を交わして契約が成立する。

 ギブアンドテイク、シノとダイチ。

 

 二人が高め合うための時間が、この日から始まる。

 

 

 

 

 

 

 

 「まずダイチさんは反応とかが良いのに体力が続かなすぎる。

 短期ならまだいいけど、これが例えば長回しの殺陣だったら怪我するからそこを鍛えよう。」

 

 「わかった。

 ......で、何すればいいの?」

 

 投げ渡されたのはスマホ、そこにはある動画が流れている。

 そこそこ激しめの殺陣だ。

 これをやればいいのか?

 

 「これをヘトヘトになっても死ぬ気で演技(やる)んだ。

 アンタは全力を()()()()()、それを長続(ジゾク)させるんなら身体に荒療治(ブチコ)むしか無い。」

 

 思わず苦笑してしまう様な内容だ。

 目紛しく立ち位置が変わるし、合わせて細かい所作も気が遠くなるほどに多い。

 加えてここに演技も入ってくる、余裕は無さそう。

 ......しかし()()()()()()()()()

 

 さっさと覚え、スマホを置いて立ち位置に立つ。

 

 

 「っし、やりますか。

 オレは何度でも立回(やれ)るんで、真剣無理(マジギブ)になったら言ってください。」

 

 「ああ、時間だけは死ぬほどある。

 ぶっ通しでやろう。」

 

 

 構えを取って走り出す。

 新しいことを覚えるって言うのは、それだけで興奮するものだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ふっ!!」

 

 拳が頬を掠め、避けた時の勢いを使ってその腕を取り背負い投げの要領で投げ飛ばすが、地面につく直前にハンドスプリングで体制を立て直された。

 ならばと追撃の蹴りを繰り出すが、それも両手で受け止められて今度は腹に膝蹴りを受けて悶絶する。

 誰であれそんな好奇を見逃す訳がない。

 渾身の回し蹴りが決まり、転げ回る彼の存在が何百回も繰り返して来た殺陣の終わりを告げた。

 

 息も絶え絶え、汗に塗れた彼に駆け寄るが、その目はうつろ。

 なんだかんだでこの間一回も休憩をとっていないのだ、そうもなるだろう。

 

 ペットボトルの水を持って来て差し出すが彼はそれに対し首を振り、フラフラと道具置き場の方に向かって行ってあるものを取り出す。

 日本刀(ポンとう)、ナイフ、そして匕首(ドス)

 確かに素手での殺陣、その多彩なバリエーションをこなすと言うノルマは達成したが、それでも休憩(やすみ)無しでそれをやろうと言うのは暴走(バカ)と言わざるを得ない。

 

 しかしその顔には笑みが浮かんでいる。

 自分自身がさらなる高みへ登っていく事への高揚感と極限状態だからこその狂気。

 それは『殺陣のやり方を教える中で彼との演技(殺し合い)ができる』と考えていたジブンの思考(アタマ)を180度回頭させてしまう気づきでもあった。

 そもそも、()()()()()()()()()()()()()()()()のでは?

 

 そう思わせるほどの気迫が見える。

 目から炎が出る様な迫真の演技に震える様に、彼は成長を噛み締めていた。

 

 「──楽しいな、殺陣(コレ)。」

 

 「......そりゃあもう。

 これ以上のものは()っスよ。」

 

 そりゃあ中島ユキも執着する。

 魅了する狂気に当てられて、オレもどうにかなりそうだ。

 

 ──しかし、そんな流れをアラームが叩き斬る。

 それは始める前に設定しておいたもので、ダイチにとっては帰宅の為の最終ライン。

 彼はその音を聞くと一転、ひどく焦った様子で荷物をまとめてこちらに礼をする。

 オレは父親じゃないからわからないけど彼なりに色々あるんだろう。

 手を振り、『掃除はやっておくから』と送り出した。

 

 「ありがと! また来るから!」

 

 颯爽と走っていった彼を見送り、倉庫からモップを持って来て床を拭く。

 オレはスーツアクターでよかった。

 彼と同じ俳優だったらどうなっていただろう?

 

 きっと共演したくてたまらなくて── でも。

 

 「共演(やっ)てみてぇ......」

 

 それは今も変わらないか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 














 田仲シノは二人に比べるとマイルドではあります

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