星の大地   作:チクワ

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サードストライク

 

 「──カット!! もう一回だ!」

 

 何度目だろうか、セット内で行われているアクションシーンの撮影は終わる気配無く、何度も何度も監督の大声が響き渡る。

 『すんません』とメイクさんに謝り、小さくため息を吐いていればスポーツウェアに包まれた尻を小さな影が叩く。

 金髪の髪をたなびかせて笑う男の子の顔にはびっしりと養生テープが貼られており、どこか痛々しいその姿の中で限りなく楽しんでいる様子だった。 

 

 「がんばろがんばろ!

 お兄さんもいい感じだから、直せば行けるって!」

 

 「......謝意(あざ)す。

 ショウ君もダイチさんも偉大(パネ)ぇな、こんな重力みたいな現場で伸び伸びと。」

 

 「へへへ! こう見えて炎上鎮火の木村ショウだかんね!」

 

 この年で炎上を経験して、かつそれを乗り越えてここに居る彼には拍手をしたくなる。

 責任と辛さを知っているからこそ生まれる無邪気さに思わず癒され、同時に自分自身の至らなさに反吐が出るほど苛立(むか)ついていた。

 

 俺にとっての師匠は三人いる。

 まずは殺陣── アクションの基礎から発展、その全てを教えてくれた爺さんと、海外で仕事をしててロクに家へ帰ってこない義父(オヤジ)の二人。

 そして役者として顔出しでの演技を叩き込んでくれた、俺と友達でいてくれた陸川ダイチだ。

 正直に言ってこのシーンを何度もやり直すって言うことは、俺にとってその三人の顔に泥を塗るが行為に近しい事であり苦しいことでもある。

 

 馬鹿正直にこの事柄について謝ったところでその3人は許してくれるかもしれないが、それじゃあオレの気が済まない。

 これはオレの(プライド)の問題だ。

 

 ──しかして答えが見えてこないことも事実であり、NGカットの連打に苦しんでだんだん自分が信じれなくなってくる。

 この演技がここで必要なはずだと思ってもOKは出ず、自分が最善だと思った解釈を表現してダメ出しを食らった経験が枷となり、少しずつ少しずつ削られていく感覚に足が浮いてしまった様な感覚を覚えてしまった。

 何年振りだろう、ここまでの緊張は。

 

 果たして自分が本当に必要なのか?

 今からでも辞退を申し出るべきか?

 

 そんな疑問が心の剣を鈍らせる中、俳優という職において先輩であるショウが口を開いた。

 まるで公園に座った学生を慰める大人の様に。

 

 「でもわかるなぁ、大変だもん。

 何度も何度もNGを貰ってスタッフさんから陰口を叩かれて、やれあっちの子役の方が利口だっただの、生き残れなさそうだ、だの。

 ──でも楽しいから、やめられない。」

 

 「楽、しい。」

 

 オレの原点はどうだっただろう。

 楽しそうだったから始めたと言うわけでは決して無くて、やっぱり親からの進言と『恩を返さなくちゃ』『やらなくちゃならない』という使命感からこの世界に入った。

 己ではない己をやろうと言う時に自分自身を見失い苦しんだ時もあれば、緻密に作られた戦いの台本へ興奮を抑えきれない時もあった。

 そうして気づいたのは『田仲シノは戦いの中でしか自分を見つけることができない』という事実。

 だからオレにとっての俳優業というのは一概に語れない轍なのだと改めて思う。

 

 だがそれは俳優と言えどスーツアクターの話。

 今── ()()()()()()()()()()()()()()()

 

 『身近な人の真似をするところから僕はやったけど...... シノには基礎があるんだから、その基礎を伸ばしてみようか。』

 

 教えられたことを実践する高揚感。

 何度も何度も失敗して、その度に『これはどう?』『これは会心(イケ)てる!』なんて心の中で呟きながら再挑戦(トライアンドエラー)する、久しく感じたことのなかった挑戦の心。

 冷え切ってた心が熱を持ち、表には出さずとも内なる己は抱腹絶倒叫び続けてた。

 

 『──()()()()()!』と。

 

 「......確かに。 感謝(ありがと)な、ショウ君。」

 

 忘れていた事実を教えてくれた彼に感謝し、この後の撮影に関して他の共演者と話し合うダイチを見やる。

 まだだ、まだ彼の目に写れるほどの役者じゃない。

 だから成長しろ、田仲シノ。

 

 あの男とやり合う為に人間を辞めなきゃならないってんなら、喜んで辞めてやるさ。

 

 「僕も頑張らないと。

 ダイチ君と話したあの日から成長したんだって、もう誰かを目の敵にするんじゃなく、自分自身をやれてるんだって見せたいから。」

 

 「同じだ、オレと。」

 

 そうだ、彼もオレと同じならここで演技(ころし)合おう。

 敵同士、同じ道同士。

 

 「うん、だから── 『ぶっ殺してやる、雑魚(しのび)が......!』」

 

 「『やってみろボケナス......!!』」

 

 

 

 

 

 

 

 グリーンバックと城の様な足下、カメラが回ると同時に目元から滴り落ちる鮮血。

 木村ショウ演じる極道── 名を()()()はオレの役である忍の目を切り裂き、反撃から華麗に身を翻して距離を取った。

 正味アクションに関してはなんの問題もない。 それどころかスーツに入ってる時よりも視界が開けている為、ミスと言えるミスをする事はないに等しいだろう。

 しかし問題はこの後。

 

 はらりとオレの首から切り裂かれたスカーフが落ち、トントンと軽やかなステップをふむクロテは憎たらしくベロを出して挑発する。

 その上にはこの作品に於ける重要アイテムであり麻薬(ヤク)の『地獄切符(ヘルチケット)』が乗っており、ダイチの教えてくれた設定的にはその麻薬(ヤク)のおかげで極道は力を手に入れてると。

 大層な世界観だ。

 

 「『──キャハヒッヒッ、惜ッしい!!

 白子みたく大脳溢れさせる予定だったのにぃ!!

 でも目ぇ潰したもんね、(しのび)ダッサ、超ダッサ!!!』」

 

 数を重ねるたびに熱が入る演技に対し、心の中で感嘆と驚愕の息を漏らす。

 まるで柔らかく吸水性能の高いスポンジみたいに成長していくその姿、相手は子供だと言うのに羨ましく思ってしまう。

 しかしオレはシノだ、あくまでも自分自身のやれる事をやらなくてはならない。

 

 ショウ君の演技から一瞬の間を置いて訪れたのは、オレが演技しなければならない瞬間。

 オレはここのシーンに於いて自分なりにキャラクターの心を理解し、その心情をコピーする様に心がけてきた。

 しかしながらそれでOKは貰えない。

 ならばどうする? 頭をフル回転させて過去の記憶を探り、数多くの教えから答えを探し出す。

 これでもないあれでもない。

 永遠に感じる一瞬の中、彼のある言葉が映像の様に再生された。

 

 『何度もNGが出る時?

 んー、自信のある演技してもそうなるんなら、きっと()()()()()()()()()()()()()()()

 僕は頑張って自分の解釈が認められる演技をするんだけど──』

 

 監督との認識のズレ。

 そう言うことか、ならばオレも自分の解釈を通す── いや、それが出来るのは陸川ダイチだからだ。

 ならば演技力において一歩劣る自分は何ができる、きっと彼はその答えも提示してくれているはずだ。

 お互いに知る全てを教えたのだから。

 

 『......でもシノにコレが出来るかどうかはわからないから、妥協案というか、普通の解決策を教えておくね。

 ──()()()()()()()()。』

 

 

 ──そうだ。

 自分の考えと監督の考えを擦り合わせ、折衷案が如く現実に表現する。

 これがオレに出来るギリギリの演技。

 

 深く息を吐いて今の状況を反芻し、主人公にとっての今を確認した。

 仲間の一人が死に、極道3人のうち二人は消えた。

 ならばこの無念をどこにぶつけるか? そう、目の前にいるクロテただ一人だ。

 監督が求めていたのはそれなんだ、どれだけ冷徹に敵を殺す忍という種族でも仲間を殺されれば怒り、その心は嵐の様に荒れ狂うはずなんだから。

 

 なら、やれる。

 

 渾身の中指を天に突き立て、怒りのままに叫ぶ。

 

 

 「『──片目がどうした、このボケクソチビナスが!!! ()()()()()()()()()〜〜〜鹿()!!!』」

 

 そう、右目の代わりに奪ったのは手。

 怒った忍はただではやられず、必ず敵から何かを奪う。

 

 「オーケーだ!」

 

 疑問符を浮かべる様なショウ君の声と共にオーケーの声が掛かり、誰にも見えない様な小さな小さなガッツポーズで自身を労い安堵する。

 ダイチとショウ君のおかげだ、2人の言葉が無かったら今もイタチごっこのようにNGを連発していただろう。

 ニコッと笑って見せる彼に小さくサムズアップし、まるで互いの健闘を讃えあうスポーツ選手の様に通じ合った。

 ──本当に楽しい。

 

 

 

 撮影1日目の締めはクロテと(しのぶ)、この両者が名乗り合うシーン。

 怒りはそのまま、思い切り歯を食いしばって言葉を絞り出す事にすら楽しさがある。

 スーツアクターとして演じる事、唯一無二の共と戦闘(バト)る事、そしてこうして演技する事。

 3度目の衝撃はとても幸福で、オレは何があってもこの瞬間を忘れないと思う。

 

 

 「『東都八忍多村(たむら)(しのぶ)!!

 やっぱり()()()()は最高だぜ、ブッ殺しやすくてよォォ!!!』」

 

 「『──八極道クロテッ!!!

 そこに寝てる(しのび)とは格が違う殺人のプロだ、バァ〜カ!!!』」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「......」

 

 家に帰ってくるやいなや眠ってしまった彼の顔を見て、『ああ、頑張ってくれてるんだな』とつい嬉しくなってしまった。

 私を愛してくれる人がいると言うのはやはり噛み締める様な幸せで、同時に失うことへの恐れで何事に対しても尻込みしてしまうところはあった。

 彼は私の弱点だ。

 欲張りだって言うことはつまるところ何も手放したくないと言うことでもあって、それは学校で友達と楽しく遊ぶ未来を捨ててでもルビー達を見ようとしてくれた彼とはまるで違う、反対の考え。

 彼はずっと決断してる。

 でも私はその優しさにあぐらをかいたままで、変わる気配なんて一切ない。

 ......それじゃダメなんだけど。

 

 せっかく頭に入れて来たダンスの振り付けも忘れそうな程に考えていても仕方がない、『ダイチが悪いんだよ』と責任転嫁をしながら彼の布団に潜り込み、あまりにもゆっくりなその心音に耳を傾けた。

 ()()()も聞いていた音、安心する音、彼がここにいると言って嘘をつかない音。

 私はこうしてる時が好き。

 

 ......こう、もっとガツガツ来てくれてもいいのに。

 朝のファーストキス云々は少しだけ嬉しかったけど、それこそキスの後に抱きしめるとかしてくれても良かったんだよ?

 あと、実はダイチにとってのファーストキスは()()()()()()()()()

 

 あの日、疲れ切って寝ちゃったところで。

 

 『──女の子にさせるなんて、贅沢なんだから。』

 

 まあ私だけの思い出だし、もし彼が別の子に心を向けたとしても『初めては全部私がもらったんだよ』という優越感に浸れるだけなのだけれど。

 

 眠くなって来た、瞼が上がらない。

 明日はシャンプーを変えたことに気づいてくれるかな、不意打ちで行ってらっしゃいのキスでもする?

 私も決断しなきゃなあ。

 

 明日、二人から髪の毛を貰おう。

 こつんと頭をダイチの胸に預け、暖かさの中で意識を落とす。

 

 「おやすみ。」

 
















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