星の大地   作:チクワ

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大地を踏み締めて

 

 『──撮れてるか。

 よいしょ...... アイにさ、こういうの撮ってみたらって言われたから。

 特に何か言うことがあるわけじゃあないけど、そうだなぁ。

 道を外さず、元気に育ってくれれば。

 僕みたいに面倒な人に引っかからないでね。

 父親からの願いです。』

 

 

 

 

 

 

 ──俳優がアイドルを守り、ストーカーから刺殺されたというセンセーショナルなニュースは1週間もせずに出回り、SNSや掲示板などを賑わせた。

 世間の反応としては概ね同情的であり、先日世に出た週刊誌の影響もあってダイチの死を悲しむ人間も多くいる。

 しかし人間の本性、裏を見せる人間は少なくない。

 

 死者を玩具にして笑う奴らは何処にでもいる。

 それはたとえ彼の同級生だったとしても変わらないだろう。

 何故ダイチがアイの家にいたのか、そこの説明は社長達が呼んでくるよう頼んだと言う事になり、半ば強引ではあるが世間もすぐに納得した。

 ......アイ本人は現在入院している。

 アキレス腱を切られたのもあり、今後激しいダンス等は無理な可能性が高いと。

 実質的な引退勧告で、彼女自身の失意は計り知れない。

 

 『どーせアイとくっついてたか、ストーカー同士鉢合わせでもしたんじゃない?

 じゃあ死んでもいいっしょ』

 

 「──死んでもいいって何......?

 ふざけないでよ、自分は誰かを傷つけることしか出来ないくせに!!!

 妬むことでしか自分の存在を律せない奴が勝手な事言わないでよ!! そう言う奴らが殺したんだ...... お父さん......」

 

 ルビーは責任を持たない世間の声にキレ散らかしていたが、それも長くはない。

 三日も経てば陸川ダイチの死亡やB小町のドームライブ中止などのコンテンツはワイドショーなどで消費され、例年より早い降雪というニュース以降話題に挙げられることすら無くなった。

 雪が大地を覆い尽くすように。

 

 ......世間の興味が薄れたとて、俺たちが現実と向き合わなければいけない事実は消えない。

 ルビーもアイも俺も、みんなダイチの冷たくなっていく体温を感じながら警察に保護されたというのは変わらず、故にカウンセリングは長期に渡り行われている。

 アイは病室で、俺たちは田仲さんに付き添われながら。

 

 「君たちは俺の親友(ダチ)が残した忘形見みたいなモンだ。

 だから助けられることがあれば言ってくれて構わない。

 ......アイさんを支えてやってくれな。」

 

 「......うん。」

 

 田仲さんは辛そうだけれど、それでも気丈に振る舞っている。

 ダイチが直々に演技を教えていたこともあってかメキメキと頭角を表し、じきに彼も有名な俳優へと変わっていくだろう。

 

 葬式に来た人間はそこまで多くない。

 田仲さんや社長達、家族に鈴木修平さん、木村ショウなど。

 基本的に知り合いだけ。

 さして関わりのない人間を呼ぶことは無く、粛々と葬式は終わった。

 

 送りの車にて、松葉杖を足元に置いて疲れた様子のアイに抱えられながら、俺はずっとスマホに視線を落としている。

 彼は父親であろうとしていた。

 至らぬ所があっても、何とか頑張ってそういられるように。

 故に俺もルビーも一度死んだ身ではあるが── もう一度死にたくなってしまうほどの虚無感に包まれている。

 でも、ルビーは数年後くらいには立ち直れているだろう。

 良くも悪くも純粋だ。

 だからこそ彼が最後に言った『愛してる』を受け取り、自分の行きたい道を歩いていく。

 

 「ママ。」

 

 「ん?」

 

 「私、ママみたいにキラキラしたい。

 ......もしママみたいになれなくても、お父さんは良いって言ってくれたけど。」

 

 「......なれるよ、ルビーなら。」

 

 俺はどうだろうか。

 生き甲斐であるアイの応援ということ自体はこれからもできるだろう。

 でもそれはアイドルとしての彼女では無く、やるとしても女優やタレントとしての彼女。

 これまで通りの熱を持てるかと言われればNO。

 

 というかそもそも、どうして誰にも言っていない新居の場所をあの犯人は知っていた?

 アイツは俺を、ゴローを殺したのとおんなじ男だ。

 病院の場所も知っていたのは何故?

 

 ──何処かに情報提供者がいる。

 それも二人のすぐ近くに。

 B小町間の中はそこまで良くなく、アイに親族がいたとしても連絡先すらわからない。

 社長が娘のような存在の情報を流すわけがなく、となれば──

 

 『二人ともー、髪の毛貰ってもいい?』

 

 陸川ダイチ以外にいる可能性がある、僕たちの本当の父親。

 彼女の交友関係はあまりにも狭い、そこを探って芸能界の人間を見繕っていけば...... 真犯人に辿り着く。

 

 であれば俺がやるべき事は── と、一つの結論に辿り着こうとした時。

 アイの腕が俺の体を包み込み、その暖かさがじんわりと伝わってきた。

 見上げた先にあったその目はひどく濁りながらもこちらを見つめていて、まるでこっちの考えを見透かしているようにも思える。

 

 「アクアは()()()()()()()()

 それは私にやらせて。」

 

 「......うん。」

  

 何も言えない。

 その決意を翳らせるほどの覚悟は、俺になかったんだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 彼が居なくなって数ヶ月が経った。

 ダイチの出た最後の作品である少女Cの公開はすぐ近くにまで迫ってきていて、私の引退ライブも近い。

 結局アキレス腱の損傷は大きくて、今までのアイドルとして出来た動きはほとんど無理になっちゃった。

 ......もう少しリハビリを頑張ってればまだ続けられたのかもしれないけど、私はもうファンのみんなに愛してると嘘をつけない。

 その嘘で私は死を招き、それから守るようにして彼は死んだから。

 ──どうして死んじゃったの?

 そこに行くまで何年かかるかわかんないよ、アクアとルビーを育て切って、その後だとしてもおばさんになってるだろうし。

 

 私もそっちに行きたい。

 でも貴方は『ダメだ』って言うもんね。

 

 しかし、誰もが思うようなマイナスだけじゃない。

 もちろんプラスなこともあった。

 ブログに書き殴った思いの丈はB小町メンバーみんなの前でちゃんと伝えたし、色々怒られちゃったけど仲直りはできたから。

 それで今は監督の前に座って、インタビューみたいなのを撮っている。

 何を隠そうと言う気もない。

 ただ、汚くて不純な私を撮って欲しい。

 

 ──それが私の復讐。

 あの葬式に少しだけ顔を出していた中島ユキへの、リョースケくんに家まで来させたあの男への復讐になるから。

 

 『ダイチさんを見てた怖い女の人がいたんです。』

 

 木村くんの言葉と合わせるならあの女が彼の後をつけ、新居の住所を探ってあの男に流したんだろうね。

 あーあ、そっか。

 そんなにか。

 

 そんなに、()()()()()()()()()()()()()()

 監督にスマホを渡し、その中にあった動画を『使っていーよ』と託す。

 彼とわたしの関係性について、本当に短く語った動画。

 少女Cの収録外で撮ったあの映像。

 

 「......なあ、本当に撮るのか。」

 

 「どしたの監督、怖気付いた?」

 

 『そう言うわけじゃねえ』と首を振ったかと思えば、五反田監督は頭を抱えてカメラ越しにこっちを見る。

 心配してくれてるのかな、やっぱり優しい人。

 でもなー、別にいらないかな。

 

 「あのガキンチョ達...... どうするつもりだよ。

 深くは聞かないが、この映像を世に出したとしてアイツらは喜ぶのか?」

 

 「んー、わかんない。

 でも、もうあの子達に危害を加えさせない為にはこうするしかないから。

 だから監督── 本当の私を撮ってね。」

 

 ちゃんと社長やメンバーにも話をした上でやってるから。

 ごめんねダイチ、こんな嘘つきだけれど...... 私も貴方を愛してるってちゃんと言えれば良かった。

 あの消えていく心音の中に残してきてしまったその事だけが、永遠の心残りだ。

 

 

 

 

 

 

 『──みんな、ここまで見てくれてありがと!

 このドキュメンタリー結構前から撮ってたんだけど...... ごめんなさい、実はある嘘をついてました。

 デビューしてから数年くらいかなぁ、ある劇団にワークショップで参加させてもらってね?

 その時にまあ...... ()()()()()()()()()()()()()()()()()

 みんなを騙そうとしたわけじゃないの。

 ただ、言うのが怖かった。』

 

 スクリーンの前はどうなってるんだろう。

 みんな頭抱えちゃってるかな、ごめんね。

 でも本当だからさ?

 ......いや、手紙の件に関しては少し嘘ついたかも。

 

 『時効だとか言うつもりはないです。

 でも彼と......カミキヒカルと関係を持って少しして、捨てられて。

 そこから頑張って映画に出たくらいかな?

 彼から手紙が届いたの。

 ()()()()()()()()()()()()()()、その時に陸川ダイチくんからストーカーの相談を受けて。

 それが中島ユキ。

 私の家に来たストーカーに── 新しい家の住所を渡した二人。』

 

 

 

 『あの二人が、陸川ダイチを殺しました。』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「──アハ、アハハハハハ!!?

 もう終わりだもん、一緒に行こうよ、ヒカルくん!!」

 

 「......」

 

 血の音が響いている。

 そこにいたのは狂った元女優だけ。

 それと死体が一つ。

 

 「あの女消して、ダイチも消したら二人で頑張ろうって言ってくれたのに、嘘だったんだもんね!?

 嘘つきいけないんだぁ、いーけーないんだー!!!

 ......だから、私もついてくの。」

 

 二つに増えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 「うーん可愛い! ランドセル似合ってるねー!」

 

 「総合的に見たらママの方が美人だけど。」

 

 「張り合うなっつの。」

 

 数年経って入学式。

 ランドセルの似合う二人の頭を軽く撫で、玄関を開けて青空に目を細める。

 手にはバングルだか腕輪だかを付けて、玄関に置かれた写真立てに小さく微笑んだ。

 

 「......行ってくるね、()()。」

 

 血縁だけで言えば陸川ダイチという人間と二人の子供の間に、()()()()()()()()()

 それでも私にとって、二人にとって彼は父親である。

 結局心の問題だから。

 

 鍵を閉め、私を待つ二人を抱き寄せて小さく息を吐いた。

 ......やっと言えるよ。

 

 

 「二人とも、愛してる。」

 

 ごめんね、こんなに言うのが遅くなって。

 これは、貴方たちに向けたこの言葉だけは── 絶対に嘘じゃない。

 

 

 

 青空の下、大地を踏み締めて歩く。

 私はすぐそっちに行けそうにないからさ? 今度お墓参りをする時は貴方にもあの子たちの写真を見せるよ。

 

 

 

 

 ──私は今、笑えていますか?

 

 

 

 








 アクアとルビーがいる間は自死できないので、アイが次にダイチと会うのはおばあちゃんになってから。
 その間ずっと自責の念に駆られるので半分地獄ですね。
 消えない傷です。

 対戦ありがとうございました。
 次話もよろしくお願いします。
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