星の大地   作:チクワ

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 ひとつ前の話とほぼ同時投稿です
 いちおうこっちがifになりますね。


if
僕らにとってのエピローグ


 

 あるバラエティ番組。

 メインの俳優五人が集まり、カメラの前で宣伝をしている。

 

 『えーと、少女Cは来週公開です。』

 

 『チェロ大好きな青年と、その青年に恋した少女の恋愛...... 恋愛? 映画になってます!』

 

 『一夏の間に起きた学生達の思い出や出来事など、全てが面白(オモロ)く出来てると思うんで......』

 

 『『愛と学生の青春できっと心を震わせてくれます!』』

 

 

 『『『ぜひ劇場へ、足を運んでみてください!!』』』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 病院の天井ってのは無機質なものだ。

 四角形...... カッコよく言うならスクエア? それが溝を挟んだ一定間隔でズラーっと並んでて、暇な時はその四角形の中にあるシミやらデザイン上の点々やらを数えてたのは懐かしい記憶。

 ああ、昔の僕は何してたっけ。

 

 『誰にも見えないところで自分を傷つけてただろう?』

 

 極の囁きに否定を示さず、上を向いたまま頷く。

 顔を焼かれて絶望してた頃の話だけれど、僕にだって荒れてた時期はある。

 ご飯はあんまり食べれなかったし、何かに対して真面目に取り組もうとしてもチラついてきた中島の顔。

 だからと言って物に当たり散らす勇気もなかった。

 ──そうなれば矛先は自分に向くわけで、誰にも見せない二の腕のところにちょっとね。

 ちょっとだけ、カッターナイフで切りつけたり。

 

 思えばその時から変に丈夫だったな。

 すぐに治る傷に対してムカつきもしたし、だんだんと切り付ける力は強くなって今では消えない傷もある。

 だから好き好んで長袖のインナーシャツなんて物を着てるんだった。

 ......中島ユキってメンヘラってやつだろ?

 僕も一歩間違えれば()()だったのかもね。

 

 『俺たちはお前の写しだ。

 感情の起伏を失った時も、激情に身を任せようとした時も確かにあったんだからな。』

 

 森田剛の言った事に納得してる自分がいるけど、別に驚きとか無い。

 結局のところそれが真実。

 自己嫌悪に近かったのかな。

 今の僕を構成する『例外ありの博愛、事なかれ主義』が無意識の中では死ぬほど嫌いで、僕の本心がそれを否定するために作り出し、保存したのが森田剛と輝島極なんだ。

 でも、向き合わなくちゃ。

 そんな気持ちを持ったのならば、もう今までの自分じゃ無い新しい陸川ダイチとしてあるべきだからね。

 

 ......いや、性格が360度変わるわけじゃ無いんだけどさ?

 

 『なら俺たちは要らないな。』

 

 『ここらで暇を貰うのも悪く無い。』

 

 ああうん、ありがとう。

 消えていく二人の声に小さく礼をして、再度天井に意識を戻す。

 ──さて、端的に今、僕の状況を考えよう。

 

 まず生き残った。

 絶対死んだと思ったんだけど、多分アクアがやってくれた止血と救急車が間に合ったのかな。

 ただねえ。

 どうにもさ、あそこで言いたいことを言ってしまったせいか、アイ達と会うのがすごく気まずいんだよね。

 起きたのだってさっきだし、ふっつーに刺されたところはちょっとだけ痛いしさ。

 

 どうやって再会の一言を言おうか。

 そんなことを考えてたら病室の扉が開き、見慣れたとある人間が見舞いの花片手に侵入してくる。

 なんてこったよ。

 彼は手慣れた様子で花瓶から少し萎れた花を回収し、こちらに一瞥もくれず花だけ見てる。

 僕起きてるんだけどな。

 

 「ダイチさん...... 僕新しい役が決まってさ、今度は刑事ドラマに出させてもらえるんだ。

 見せたかったなぁ、ビシって決める姿。

 でも寝てるから仕方ないんだけ、ど......?」

 

 あ、こっち見た。

 

 「......やぁ、おはよ。」

 

 「────うわぁぁぁぁぁぁぁあ!!!!?

 起きてるぅぅぅ!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 「あのさぁ。」

 

 「うん......」

 

 「いくらなんでもさ、あんなとこで大声出さないでほしいな。

 本当に死ぬかと思ったんだよね。

 せっかく生きてた心臓が止まるとこだったんだよね。」

  

 「ごめんなさーい......」

 

 ちゃんと反省している様子のショウに対してそれ以上詰めることはせず、頑張って起こした上体と驚きすぎて開きそうになった傷口に意識を向ける。

 マジで痛い。

 でもちょっとだけ嬉しい気持ちがあって、なんだかんだこうしてまた話せていると言う事実はあり得ないほどに気分を高めてくれた。

 そこだけはありがとう。

 

 結局あの大声で医者を呼び出してしまったらしく、取り敢えず諸々の確認や意識がはっきりしてることなんかを見て、こうなる前の状況を聞いた。

 やっぱりと言うかなんと言うか、死ぬか生きるかの瀬戸際だったらしい。

 血は出過ぎてる、傷は深い。

 そんな状況だったのだから、止血してくれていた人に感謝してあげてほしいと。

 ......アクアには助けられてばっかりだ、思えば1度目の役者復帰の時もそうだったっけ。

 

 ショウが言うところによるとアイも大変らしく、場所は違うが整形外科の方でアキレス腱の治療を行っているらしい。

 アイドルに復帰できるかできないかで言えばできない可能性の方が高いらしいが、それでも頑張っているんだとか。

 これでは会えるのも少し先になるかな。

 

 「みんな生きててよかったって安心してたんです。

 だってそうでしょ? 普通に刺されたら人って死んじゃうんだから。」

 

 「そりゃそうだけど。」

 

 こればっかりは変に丈夫な自分の体に感謝してる。

 そうなんだよ、普通刺されたら死ぬんだ。

 

 『仕事があるので!』と言って帰って行ったショウを見送ると、途端に病室が静かになった。

 これ、両親や社長たちに連絡とかいってないのかな?

 急に一人にされても寂し──

 

 「ダイチ! 起きてるか!?」

 

 寂しく無いけど苦しいなぁ。

 お父さんのハグっていっつもこうなんだよ、筋肉量のせいで毎回首が絞まる。

 ま、これも生きてる証なのか。

 その背後に続いてきたのはお母さんや社長達で、その顔は疲弊の混じった安堵と言った感じ。

 心配させちゃってごめんなさい。

 

 「うん、生きてるよ。」

 

 「ええ、ええ......! 本当に良かったわ......!

 ......本当は少しだけ叱りたいのだけれど、それはわたしの役目じゃ無いわね。

 行きましょう、お父さん。」

 

 「おう。」

 

 しかし両親は早々に病室を後にしてしまう。

 なんでだろう?

 その答えは一秒もしないうちに、僕のベットに駆け寄ってきたか小さい影によって知らされる。

 ──ああ、確かにそうだな。

 僕もこの子達や彼女になら叱られても受け入れるよ。

 

 「お父さん!」

 

 「ごめんね、心配かけちゃった。

 ルビーもアクアも、アイも。」

 

 泣きそうな我が子を拾い上げ、少し傷口が痛いけれど我慢してやさしく抱きしめた。

 空いた左手でアクアの頭を撫でる。

 彼はルビーと比べて抱きついたりとか積極的な行動をしないから、こちらから近づいていくべきだと理解したのはもう3年前のこと。

 長いことこの子達と...... 父親として向き合ってきたから。

 

 「......あのさ、子供達の父親についてなんだけど。」

 

 「うん。

 その、ね?」

 

 ひとまずルビー達を社長に預け、松葉杖を横に置いて椅子に座ったアイと二人きりで話し合う。

 幸いにも個室であり、誰かに漏れる心配というのは無い。

 

 これまで父親としてアイとも向き合ってきたわけだけれど、僕はもう事勿れ主義でいるのをやめると決断した身。

 であればただの陸川ダイチとして、一度は見過ごしたこの問題とも真っ向からぶつからなければならない。

 アイの表情は曇っているが、それを気にせず話を進めていく。

 

 「ゴミ箱に入ってた親子関係否定って紙、見たよ。

 あんまり僕の知らないところで髪の毛引っこ抜いてくのはいただけないかな。」

 

 「......ごめんなさい。」

 

 彼女にとって知られたく無い事実だったろう。

 全ては表情が物語っている。

 でも──

 

 「家族である事に変わりは無いよ。

 たとえ血が繋がってなくてもさ、愛久愛海(あくあまりん)瑠美衣(るびぃ)の事を誰より大切に考えているのは僕だ。

 もちろんアイのことも。

 だから何があっても、どんな事実があっても絶対に三人を手放してサヨナラなんてしたくは無い。

 ()()()()()()()()。」

 

 別にそれでもいいんだ。

 大事なのは育んできた愛があるかどうかで、僕とアイ、ルビーやアクアの間には確かに家族間の愛があるはずだから。

 だから僕はそれでもいい。

 やる事をやって出産に立ち会って、ここまで薄々気付きながらも、それでも僕は家族を愛してた。

 それでいいんだ。

 

 だからアイ?

 泣かないで。

 

 「ごめん、ね...... 私がもっと、ちゃんと確認してればダイチは...... ダイチは、普通に学校行けたのに......」

 

 「そんな泣かないでー?

 別に良かったんだ、あの時ショックこそあったけど、アイも完全に僕の子だと思って来たんでしょ?

 じゃあ仕方ない。

 結果良ければ全てよし!」

 

 ボロボロと泣き崩れる彼女に対し横っちょに置いてあったタオルで顔を優しく拭き、ここに来るまでにさんざ泣き腫らして来たんだろう目がこちらを吸い込むように開いた。

 ......なんだろ、ちょっと照れる。

 愛してるって面と向かって言ったからにはもう恐れるものはない筈なんだけど、どうにもやっぱり顔を突き合わせてるとね。

 かわいいから。

 

 照れ隠しも含めてコン、と彼女の額に僕の額を合わせる。

 そうだなぁ、申し訳なさそうにするなら、僕の我儘でも聞いてもらおうかな。

 

 「帰ったらみんなで映画が見たいな。

 家にあるでっかいテレビでさ、ネットフリックスだかアマゾンプライムだかでアクション映画をワイワイと。

 なんだっけ、アベンジャーズとか。」

 

 「......じゃあ私、ダイチの膝の上がいい。」

 

 「いいね、子供達は両サイド。」

 

 たまにはこうしてさ、嘘ひとつない我儘だけの会話したっていいじゃない。

 僕たちは嘘をつき続けるお仕事をしてるんだから、こうやって気の許せる人と笑い合ってもさ。

 

 「ドームライブ延期になっちゃったけど、ダイチも見に来てよ。

 少し前からずっと来てないよね?」

 

 「ああ、チケット運がね......

 ファンクラブ会員なのに当たんないんだよ、シノはほぼ毎回行ってるのになー。」

 

 「じゃあ関係者席に招待!

 私を庇ってこうなったんだから、あなたも立派な関係者、だよね?」

 

 なかなか強引な話。

 でもまあ、ライブに行けるならいいか。

 後何回アイはアイドルとしてライブに出れるのだろう、アキレス腱の怪我は影響として少なからずあるだろうし、それが原因で消耗が激しくなったりダンスのキレが落ちる事だってあるかもしれない。

 少なくともアイドル人生の寿命は縮んだ筈だ。

 

 「......あー、私どこまでやれるかな?

 リハビリはすごく大変だし、完全に治ってスポーツとかの激しい動きができるようになるのって六ヶ月かかるんだって。

 本心全部話して仲直りした小町のメンバーは『待ってる』って言ってくれたけど、難しいかも。」

 

 「でも、アイドルは続けるし子供も育てるって決めたのはアイだろう?

 諦めたらゴロー先生に示しがつかない。」

 

 「そうだけどさー?」

 

 なんだろう、彼女は何かを待っている。

 僕の行動をだろうか、時折視線を泳がせるところになんとも言えない違和感があって、何を求めているかを表情だけで物語ってる。

 やるか、恥ずかしいけど!

 

 「大丈夫。

 アイドルじゃなくなっても、この気持ちが変わることはないから。

 だから、その...... あの、愛してるから......」

 

 「──私も!」

 

 

 

 

 

 

 「それはそれとして、エゴサするのをやめようね。

 百害あって一利なしなんだから。

 マジで自分からアンチのコメント見るのってドMしかやらないから。」

 

 「やったの?」

 

 「やったよ。」

 

 それはそれとして。

 気にするのはいいけど、あまりマイナスな意見を取り入れてもいい事ないんで。

 ......そう言えば、あるところに電話しようと思っていた。

 アイにその人物の電話番号を聞き、自分のスマホを取ってきてもらって電話をかける。

 

 ──久しぶりに開いたメッセージアプリには、リョースケさんの遺言が入っていた。

 『お前のストーカーとアイの子供を知ってたやつは繋がってる』と。

 このストーカーというやつは恐らくショウの言ってた人と同じで、黒髪のぼさっとした髪の毛に青色の瞳という事は...... 思い当たる人間が一人だけいる。

 

 「もしもし?」

 

 『......』

 

 「そっちがその気なら別にいいんだけどさ。

 誰がやったのかは分かってる。

 僕はいつでも君ともう一人の男を通報できるし、(リョースケ)から貰った情報は真実だ。

 だからずっと── ずっとずっと、いつ捕まるかもわからない恐怖の中で、震えていてくれ。

 じゃあね。」

 

 ......もしこれで中島ユキがどうにかなったとしても、それは僕には関係ない。

 リョースケさんからもらった情報なんてさっきの一文だけで嘘っぱちだしさ。

 でもこれで、彼らは僕に近づかないだろう。

 もう一回やられたら多分死ぬけど。

 

 

 

 

 

 

 

 ああ、いやだ。

 また非難される生活に戻りたくない、かれと離れ離れになりたくない。

 彼は両方とも死ぬって言ってたのに、絶対大丈夫だって行ったのに。

 もしかしてうそつき?

 うそつき! うそつき!! 嘘つき!!!

 やだよぅ、うそつきでも私はヒカルくんと居たいのに。

 

 ──閻魔様に舌を抜いて貰えば、嘘をつかないんじゃない?

 すっごい名案! 早速試さなきゃ!!

 地獄への行き方って()()だよね?!

 

 

 「......ヒカルくーん、おーい。

 先行っちゃった。

 じゃあ私もすぐ行くねー?」

 

 

 翌日のニュース。

 元女優、中島ユキと顔を切り裂かれて身元不明の遺体が山で発見された。

 男の遺体からは身分証明書などが発見されず、身元の確定は困難だと警察は見解を示している。

 中島ユキは自死。

 

 その翌々日には早い降雪の情報にかき消され、中島ユキは永遠にテレビから消え去った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 十数年が経ち、とある朝。

 

 「ルビーまだか? 初日から遅刻するのは勘弁だぞ。」

 

 「ちょっと待ってよお兄ちゃん、この制服複雑なんだもん!」

 

 「あれ? リボンずれてるよ?」

 

 アイドルを引退し、すっかり落ち着いた様子の女性は娘のリボンを丁寧に優しく直し、新生活に向かう二人の背中を軽く叩いた。

 嘘偽り無く『頑張れ』と。

 

 「ありがとーママ! 

 行ってきます!」

 

 「......行ってきます。」

 

 「行ってらっしゃーい。」

 

 扉を閉め、二つの宝石が青空の下を歩く。

 雲ひとつないとまではいかないが、それでも美しい空。

 これから始まる高校生活を祝うような陽光に照らされながら歩いていれば、前から現れたのはスポーツウェアの男。

 彼は二人を見るや否や両手を肩ぐらいにまで上げ、ハイタッチするようにその間を通り過ぎる。

 

 「やっぱ制服っていいよね。

 ......にしてもさ、ルビーのスカート短すぎない?」

 

 「パパおっさんくさい。」

 

 「グゥァア!?」

 

 「言うだけ無駄だよ父さん、何回言っても聞かないから。」

 

 男は重大なダメージを受け、胸を抑えて悲しそうに項垂れる。

 しかしその表情はにこやかであり、幸せを噛み締めているように見えた。

 

 「じ、じゃあ、頑張って!

 応援してるから!」

 

 「ああ、行ってくる。」

 

 「行ってきまーす!」

 

 二人のことを見送った男は帰路につき、太陽の光に目を細める。

 

 ──彼らの物語はこれから第二幕だろう。

 自分の足で歩いてやりたい事を成し、その上で悩み苦しむ事だってあるかもしれない。

 でもそれは彼らが、第二幕の主人公達が解決する事だ。

 

 ルビー、アクア。

 あの子達に取ってはプロローグの数年間は、僕たちにとってエピローグでもあったから。

 

 

 僕は僕の物語を閉じよう。

 大好きな彼女と一緒に。

 

 

 「ただいま。」

 

 「おかえり!」

 

 

 

 

 

 

 ──僕は今、笑えています。

 

 

 

 

 

 

 

 













 完結です。
 アイが引退している→ルビーが一応新生B小町を作れる、苺プロダクションの運営方針が変わってぴえヨンとか居る
 カミキが死んでる→今後命が脅かされることもない
 ダイチとアイの交際、子供達の存在を公表してない→有馬かな枕問題の時に週刊誌に売りつけることができるバーターがある

 とまあ、ある程度幸せになれる要素を詰め込むだけ詰め込みました。
 多分ルビーは普通にアイドルできるし、アクアはもし役者の道に進むとして指導役が数人いる為、普通にいい演技できる人になると思います。
 こっちが幸せのifルートですね。


 と言うわけでありがとうございました。
 心的疲労とか色々あって今後ハーメルンから作者として離れてしまいますが、小説大好き高評価お兄さんとして出陣することがあるかもしれないので、その時はまたよろしくお願いします。

 感想評価、ここすきにしおりだったりお気に入り等ありがとうございました。

 毎日投稿頑張ったチクワでした、じゃあねー。



 
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