星の大地   作:チクワ

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シノとユキ

 

 どうしても分かり合えない人というのはいる。

 

 ──というわけで、何事もなく歳を重ねて行って、現在中学生となったわけで。

 誕生日を迎えたことでスマホも解禁となり、入学式では父親と共にジムで鍛えた肉体で全力を出す体育祭や、高校生程じゃないにしても各々の思いを形にする文化祭に心を躍らせたものだ。

 

 ......それらを楽しむ余裕というのは、すぐに消えてしまったが。

 忘れて欲しくないことだが、僕の顔から肩にかけて、左半身には醜い火傷跡がある。

 『ぎゃあ、バケモノ』と声を荒げていうほどではないが、人によってはえも言われぬ不快感が襲ってくるようなものがあるということは、自然と関わりたくない人間としての位が上がる、ということ。

 

 つまるところ()()()()()()である。

 

 「......寂しくないし。」

 

 全然、全く、これっぽっちも寂しくない...... なんて言うのは嘘っぱちで、本当はこの状況に悲しさすら覚えている。

 小学生だったら全然大丈夫だったのに、何故中学生になるとこれほどまでに他人とのつながりを求めるのか。

 思春期だからと結論づけられれば楽なのだが、自分が思うにそんな理由ではないのだ。

 

 ひとえに、小学生という幼虫から中学生というサナギへと変化する、という気の持ちようをしていたことが原因に思える。

 

 全てをリセットして新しい生活が待っている。

 そう思ってしまったのだ。

 笑い合える友達がいて、何気ない話をしたりしながら休み時間を潰して。

 そんな理想はなかったが。

 

 既にクラス内で仲良しグループみたいなものは出来てしまっているし、今更そこに首を突っ込む度胸もない。

 息苦しい。

 ふと考えてみる、アイはこんな中学校生活をどう乗り切ったのだろうと。

 いや、何も自分がアイと同じだと言いたいわけではない。

 彼女は中学生の頃からアイドルで、今では武道館でのライブがあったりと有名街道をひた走るグループのセンターではある。

 が、その洗練された動きの裏にある努力。

 その努力を積む事と学生生活の両立をどうやって実行していたのだろうか?

 

 どうせ今日はスタバに集合の日、そこで()()()()()()()()()()()()に聞いてみよう。

 

 そういえば、件の中島ユキは同クラス。

 中学生になってからもその人気はまだまだあるようで、子役から女優へのステップアップを着実に進んでいる。

 彼女自身もこれからの展望を昼の番組で話していて、きっとあの子を見掛けるシーンは増えるだろう。

 ちなみに、僕の両親には顔を焼いたのが彼女だということは知らせていない。

 聞かれても言わなかった。

 誰かに言って戻ってくることじゃないし、そんな事で彼女のキャリアを奪っては申し訳ないし。

 実力で奪うのならともかく。

 

 少し長めな制服の袖を気にしていると、視線の先にいた彼女がこちらに迫ってくる。

 何かしただろうか、気に障ったのなら謝ろう。

 

 顰めっ面の中島ユキは机の横に仁王立ちすると、軽く鼻で笑って口を開く。

 

 「──あんまりこっちの方見ないで。

 友達が怖がってるから。」

 

 その冷たい物言いに逆らうことはない。

 すぐに向けていた方向から視線を外し、そんなつもりはなかったと言い訳をして謝罪する。

 

 「い、いやごめん。

 怖がらせるつもりとか無かったんだ、今後気をつけるよ。」

 

 「......そう。」

 

 ぶっきらぼうに返された言葉にテレビとの乖離を見ながら、言われた通り視線を横から前へ向けた。

 仕方がないので動画でもみようかとスマホに手を伸ばしたその時。

 

 「あっ!?」

 

 それを掴みきれずに弾いてしまい、机の上から落下する。

 ただ落ちるだけなら焦ることなく『あー、やっちゃった』で済むが、今回はそれどころじゃない。

 手を伸ばすが届かず、そのまま地面に衝突すると思ったその時──

 

 誰かの頬を思い切りビンタした様な音が響き、落ちるはずだったスマホは視界から消える。

 代わりに現れたのは金髪の同級生。

 まるで寝転がる様な状態で地面に体をつけており、汗だくの手の中には傷ひとつないこちらのスマホが収まっていた。

 

 彼は息を切らしながらも落ち着いた口調で『傷が無くて良かった』とこぼし、それをこちらに手渡してくれる。

 

 「ありがとう! 良かった、壊れたら替えがないから......」

 

 「壊れたらえらい事スよ、このスマホケース、B小町の限定品でセンターのアイモデル......

 鬼希少(レア)っスから。」

 

 「わかるの?」

 

 「あ...... ハイ。」

 

 

 

 

 

 

 奇妙な事が巻き起こっていた。

 

 「──やっぱり僕は初期メンバー四人が好きかな。

 高峯、ニノ、アイ、渡辺。

 7人体制も素晴らしいんだけど、どうしても彼女たちが培って来た経験や努力に目が連れてかれちゃうなー。」

 

 片やカースト底辺の顔面火傷男。

 

 「オレも45510(ショキメン)推しっスね〜。

 でも個人的(コジン)としてはめいめいのダンスとかも見逃(ムシ)できないっスよ。

 ......それだけに、春入ってすぐのメンバー脱退は苦痛(キツ)くて仕方なくて──」

 

 片や常に無表情、気色悪いと嫌われる男。

 

 「......スンマセン、小町語りできて超楽しんスよ?

 でも顔筋固くて笑えねーんスよ......」

 

 「顔に問題ならお互い様!

 僕も超楽しいよ。」

 

 その二人が仲睦まじく話すというだけでも驚愕の対象であるというのに、内容がアイドルの事というのはその驚愕を隕石レベルにまで引き上げた。

 その衝撃など梅雨知らず、二人は固い握手を結ぶ。

 それは互いを同じ方向へ向かう戦友(とも)として認めたが故の、奴隷(ファン)としてアイドルを追い続ける意志(ココロ)を認めた証としての結束(ちかい)

 

 どちらがそうしようと言い出すわけでも無く、二人は名乗る。

 

 「僕は陸川ダイチ。

 陸に流れる川で陸川。」

 

 「田仲(たなか) シノ......

 たんぼの田に仲間の仲っス。」

 

 ──彼らはその年の体育祭、全てのクラスを戦慄させる。

 シノからアンカーのダイチへ繋げられたバトンがゴールテープを切った時、その後ろに見えたのは独走(ちぎ)った足自慢の陸上部たち。

 その中学にて語り継がれることになった二人の独走劇は『死の大地(シノダイチ)』として、人々の心に楔を落とした。

 

 

 「......なんで火傷のあいつが楽しそうに......!」

 

 

 

 

 

 

 

 「──あはは、何それ!?」

 

 「声でかい、バレるバレる!」

 

 体育祭が終わり、競合率のすっかり高くなったB小町のライブへシノと向かった翌日。

 いつものスタバより少し離れたカフェにて、今日は愚痴ではなく世間話を交わす。

 ライブの成功を社長が喜んでたとか、久しぶりにライブに行けて良かったとか。

 

 僕にはわかる。

 こういう話を嫌な顔せず二人がする時というのは、この関係が崩れる時。

 いつかこういう日が来るとわかっていた。

 むしろ、二年近くもこうやって話させてもらったことに感謝するべきなのだ。

 

 くすんでしまった白い帽子を深く被り、手鏡を握りしめて口を開く。

 意を決して開いた口から出た言葉は彼女と被り、まるで三年間の関係性の答えかの様に重なり合った。

 

 

 「「......こうして会うの、最後にしよう。」」

 

 

 「......やっぱり君も?」

 

 「......うん。」

 

 

 これが正しい関係でない事はわかっていた。

 アイドルとファンの間には確かにあるべき壁があって、僕は彼女の厚意と自分に与えられたファン一号という称号に甘えてそれを超えてしまった。

 認められるものじゃない。

 だから、僕は今日を持って普通のファンに戻ろうと思う。

 

 ファン一号とか、そういうのはもう無し。

 この帽子をかぶるのも今日が最後で、手鏡も深いところにしまって新しいものを買おう。

 ......そうでもしなければ、普通に戻れない。

 

 それに、ひとつだけわかる事がある。

 きっとアイには()()()()()()()

 

 時折集合場所が変わって隠れ家的なご飯屋さんになったりとか、容姿や服にも気を使う様になったのかオシャレな感じになったりとか。

 それを誰に言うつもりもない。

 僕はファンだ。

 

 そこは変わらず、いつだって彼女の幸せを願っている。

 アイドルだけが道ではなくて、偶像じゃないそこに生きてる彼女自身の幸せも有るべきだと思うから。

 

 すっかり混ざって美味しくなったマキアートを飲み込み、一息ついてから笑顔を見せる。

 

 「僕はデビューから見させてもらったけど、あなたが幸せになってくれるならそれが僕の幸せなんだ。

 これからも頑張ってください。」

 

 恋は人を変える。

 僕はアイドルに恋をしてシノっていう友達を得て、彼女は僕の知らない人に恋をしてもっと魅力的になった。

 

 変わる事は悪い事じゃない。

 

 

 「......うん、そうだよね。

 ──よし! これからも頑張るから、応援よろしく!」

 

 「もちろん。」

 

 

 帰り道、顔の火傷に手を置いてみる。

 今でも鮮明に思い出すのは、三年前に伝えられたこと。

 

 『私は嫌いじゃないよ?』

 

 嘘だったのか本当だったのか、定かじゃない。

 ......でも嬉しかったんだよ。

 

 「──これを見て申し訳なさそうな顔をしなかったのは、アイが初めてだったから。」

 

 それがあって、恋に落ちたのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ん......」

 

 劇団ララライのワークショップで知り合った()と逢瀬を重ねる中で、ふとあることを思い出した。

 

 彼と、ダイチくん。

 私はどっちに(あい)を見たんだっけ?

 

 『これからも頑張ってください。』

 

 ......こういうのもわかってたのかな。

 笑おうとしてるのに笑えてなかったもん、マセた子だな。

 

 あー、もうなーんにもわかんない。

 

 

 

 

 

 

 










 田仲シノは分かりやすくパロディキャラです
 中島ユキも歌手の名前を真似させていただきましたが、その方とこのキャラの性格は関連性がありません
 評価とか、出来たらでいいのでよろしくお願いします

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