ある日のインタビュー。
スーツアクター、アクトレス事務所『
『っス、お願いします。』
『彼とは......まぁ、中学生からの友達で。
一緒にいたからオレもスーツアクターやり続けて、
『今回の映画はまあ、二人のファンとしては『
『
楽しいっスよ、笑えねぇけど。』
「おいしー。」
「あんまり美味しそうに聞こえないんだけど?」
人の家に上がり込み、昼ご飯を作ってもらうことなどそう無い。
これはきっと大人になっても同じで、たとえ人の家に転がり込んだとしても寝床はともかくご飯くらいは自分で持ってこいと言われるだろうし、作ってくれるとしたら...... それはまあ、恋人関係にある人なのではないか。
何が言いたいかと言われれば、『此方の事を思ってくれる人は大事にしましょうね』ってこと。
僕はずっとサポートしてくれていたこの人の思いに感謝しているし、彼女もその感謝を受けてかこうして検査の後は手ずからご飯を作って振舞ってくれる。
......それはそれとして、このオムライスに対して目を輝かせて『美味しい!!!』と演技出来そうにないが。
さて、遂に中学生としての陸川ダイチも3学期を迎え、そろそろ待っているのは地獄の学期末テスト。
幸いにも三年生以降の受験に関して、行こうとしているところは決まっているので特に深く思い詰める事はない。
普通の高校に行って、ちょうど一緒の予定だったシノといつものように小町談義に花を咲かせて。
僕はこれでいい。
今テレビに映っている中島ユキの様にはなれなくていい。
......先週やってたドラマの再放送だ、よくある恋愛ドラマで、チープな学園モノかと思ったら主人公の女の子に寄ってくる男が悉く悪いやつ、というちょっと捻った物語。
あっビンタした。
『あなたと心中だなんて、死んッッでも嫌!!』
おー、と向かいの椅子に座っている医者と共に能天気な声を出す。
流石の演技力だし、顔も可愛いし。
コネもあるし、実行する力もあるし...... ふと思った。
彼女、最強では?
......気にしない気にしないと思っても、いつの間にか目で追っている。
確実に恋ではないけれど、僕はまだ──
演技で彼女を殺したいのかもしれない。
「......半分ぐらい食べて言う事じゃないけど、マッズくないこれ?」
「『いやあ美味しい美味しい!』」
「ぜってー演技してるじゃん今!
『ちょっと美味しく出来たかも♡』なんて思ってた私の希望を返せー!?」
ところで、先ほどからうるさいこの女性。
彼女は僕に鏡をくれた医者であり、『もう役者は無理』と辛いのに伝えたのであろう人でもある。
負い目があるのか何なのか、医者としてもう僕に関わる必要もないけれど『念の為の経過診察』とか何とか理由をつけてご飯を作ってくれる優しい女性だ。
今回もおいしくないご飯ではあるが、その優しさが何よりのスパイスである。
......特別オシャレそうな何かを作るより、適当な肉とか焼いてくれれば喜んで食べるのだけれど。
ケチャップが少なかったのか肉が入っていないからか、あんまりご飯が美味しくないのが今回の失敗といったところか。
「というかさ、前に送ってくれた体育祭の動画!
あれやばいね。
リレー、前の子と合わせてほぼ一周差でしょ?
そんな走れる子だったっけ?」
「ん、トレーニングとランニングと、後は......才能?」
「ドヤ顔似合ってないぞー、やめろやめろ。」
もう顔を焼かれてから四年近くになる。
その間無くなった夢の隙間を埋める様にやってきた筋トレとかトレーニングとかが積み重なった結果が
才能は才能でも、演技の才能が欲しかったなと思う今日この頃。
再放送のドラマが終わるのとほぼ同時にオムライスを食べ終わり、『ごちそうさま』と小さく呟いて皿を台所へ持っていき、軽く洗う。
もう手慣れたものだ。
障害があったとは思わせないほど自然な動きを見せる左腕に視線を感じて振り向けば、彼女が寂しげな目を向けていることに気づく。
『どうしたの』と軽く笑って問えば、んーんと何とも言えない答えが返ってきた。
「約束通り、中3になるから私が診るのはここまで。
お年頃なんだから、女の影が見えちゃうと同級生が寄りづらくなっちゃうもん。
......それに私、ショタコンじゃないしー。」
「ショタコンがどうこうの前にモテてな「うるせぇ干すぞ!?」」
昔の季節で言えば、今は春。
春は出会いの季節でもあり別れの季節で、今回はその別れが来たということだ。
このまずい飯も食えなくなると思うと少し寂しい。
叫び声でギクシャクした喉を整える様に咳払いをしたと思えば、彼女は僕に手鏡を渡した時の様に優しく語りかける。
「──昔は君に『夢をあきらめて』って言ったけど、今はそういう選択以外もあったんじゃないかって思う。
その顔も、もっと上手くやれたんじゃって。
......本当にダイチは不注意で顔を焼いたの? もしかしてやった他人がいて、隠してるんじゃ──」
「先生。」
もうやめよう。
言葉に心を乗せるのは手慣れている。
だから、僕の一言で先生は全てを察して黙ってしまった。
くっだらないプライド、ゴミの様な自尊心だが、演技じゃなくて暴力に走った中島ユキと同じ行動を取るのが、なんか嫌だったんだ。
『誰かに言って戻ってくることじゃないし、そんな事で彼女のキャリアを奪っては申し訳ないし。
実力で奪うのならともかく。』
こんな事を言っておいて、その本質は意地っ張りな子供だったって事。
隠しきれない悔しさが滲むんだ。
──だから、僕はこの火傷の原因を『自分の不注意』としたんだよ。
すっかり外は曇ってしまって、今にも降り出しそう。
これはまずいかなと皿洗いを早めるが間に合わず、遂に雨が降り出してしまった。
まあ、一応先んじて置いておいた傘があるので、それを使って帰ろうと思う。
玄関で靴を履き、傘を持って振り向く。
「先生?
もしも...... もしも僕がまた、
その時は笑っていてください。」
「もちろん。
......その時までには彼氏作ってやるわ!」
「それは別に......」
「は?」
帰り道、傘を差しながらスマホに視線を向ける。
何か特別な事があるとかじゃなくて、少し前から交流のあるファン友達がいるのだ。
名前は
送られてきたメッセージを見るに、大学への進学があって大変な時期に入るから、これからメッセージの交換とかは出来なくなるよ、という事らしい。
『頑張ってください、応援してます!』
『ありがとう!
俺たちはファンとしてずっと繋がってるから!』
彼とは勿論会った事がある。
普通にいい人っぽかったが、ちょっとだけアイへの依存度が高い様に感じた。
少し前のチェキ会では星の砂をプレゼントしたらしい、ロマンチックだ。
そんな彼とも関わりが薄くなって、僕はどこに行くのだろう。
普通に進学して、その後は?
行き当たりばったり、新しい夢もなく。
ふと目を横に向ければ、懐かしのスタバがあった。
あったかくなってくる季節ではあるが、やはり雨では体が冷える。
ホットのキャラメルマキアートでも飲もうかと体を横に向けたその時──
「......うわ。」
雨に打たれながら歩く人が見えた。
女の人で、ちょっと強めの雨なせいで髪は崩れて服もびしゃびしゃ。
立ち止まって視界を遮る髪を払ったその姿を、僕は知っている。
だからこそ『うわ』なんて声を出したのだ。
まるで世間の声を代弁するかの様な雨。
そんな雨と彼女の間に、僕は何も言わずに傘を差し出した。
「......大丈夫?」
別れを切り出されて一夜、どうにも疲れが取れない。
エゴサして喰らった悪口とか、そういうのは一日寝ちゃえば朝にはスッキリ出来ていたのだが、今回はそういうわけにもいかなかった。
取り繕わず言うなら『気持ちよかったでーす、じゃあねー』と伝えられて、普通でいられる人っていうのはそんなに多くない。
それは男でも女でも特に変わらないと思う。
......そう、
『もちろん。』
何がもちろんなのか。
今でも鮮明に覚えてる、彼が椅子を立って振り返る時に見せた苦虫を噛み潰したような顔。
あれは
結局他人の心は他人の心。
私がわかるはずもないけれど、あの顔だけはどう思い出してもズキズキ痛む。
どこが、と言われれば『わからない』としか言えないが。
ポツポツと降り出した雨に、変装とおしゃれを兼ねた服が濡れて。
......わたしはどうしておしゃれしてるんだっけ、誰かに見せるためにやってるのはわかるんだけど、別に今日は誰かに会う予定も無いのに。
『元気にアイドルをやってほしい。』
出来てるかな。
今は出来てないから、見て欲しく無いんだけど。
「大丈夫?」
雨が途切れて声が聞こえる。
一番見て欲しく無い人が来てしまった事にため息を吐きながら、濡れちゃった帽子を脱いで
「......久しぶり。」
寒くて寒くてたまらないのに、胸の辺りがほんのり温かい。
中島ユキのヘイトコントロールをミスった感じはあります
評価とか、よろしくお願いします