私はベレス。一応、フォドラを救った英雄ということになっている。長かった戦乱は終わり、フォドラを統一しなくてはならない。そんな時に私はアスクに召喚されたんだ。アスクという国はフォドラ以上に戦争が絶えなかった。そして、軍を束ねているのはエクラという青年だ。彼はエーデルガルトともディミトリともクロードとも違うカリスマ性を持っていた。
まず、彼は甘過ぎる。アスクはアルフォンス王子が治めている。彼も甘い人間だと思うが、エクラはそれ以上に甘い。文化、価値観、人種、更には種族、それらが違う英雄が全員仲良くなれると思っている。そして、彼自身はそれができてしまう。一度殺し合った敵だろうと何事もなかったように許してしまう。私もその甘さに惚れ込んだ。きっと彼なら味方も敵も関係なく笑い合える世界が作れる。そこには私が笑顔に出来なかった生徒もいるだろう。そんな世界を共に作っていきたい。
そんなことを考えながら私は図書館で兵法の勉強をしている。エクラは前線に出ることもあるが基本軍師だ。彼と共に戦略を練るためにも知識をつけておきたい。今日はエクラも私もよく使う魔法の戦術について調べようかな。その時、私を呼ぶ声がする。振り返るとエクラがいた。自然と口角が上がってしまうのを感じる。
「エクラ、どうしたの?」
まずはエクラの状況を聞き出すことにした。できることならこれからお供したいから。するとエクラは頭をかき、笑って答える。
「いやー。勉強しようと図書館にベレスがいたからな。教師でもあるベレスに色々教えてもらいたいなぁって」
エクラは照れながら話してくれた。エクラに頼られたんだ。嬉しくなり二つ返事で引き受ける。
「私は今、魔法に関する兵書を読んでいたんだ」
そう言いながら読んでいた本を見せる。ちょうど読んでいた兵書は初歩的な物で魔法の役割の部分を読んでいた。
「魔法か。俺のブレイザブリクも魔法に分類されるよな。でも、魔法について全然知らないんだよな。軍師失格だな」
エクラは自嘲気味にそう話す。私はすかさずフォローする。
「エクラは軍師失格だなんてないよ。君は兵の一人一人を的確に指示してるよ。それに戦いだけでなく心のケアまでしている。君は立派に軍師として皆を導けているよ。」
「そうか?」
「強いて言うなら、自信が足りないかな。自信のない指揮は周りにも不安が伝染してしまう。万が一があった時、立て直すのが困難になってしまうよ」
「確かにそうかもな」
エクラは人に甘過ぎる。仲間を高く評価しすぎたり、逆に気を遣って自分でなんとかしようとしてしまう。それ故に自分で背負い込みやすく、少し自罰的だ。彼の欠点があるとしたらそこだろう。こういう時は座学よりも体を動かした方がいい。
「エクラ、訓練場に行かない?」
「え?」
「基本の部分は実際にする方が分かりやすいよ。私が色々見てあげる」
ということで訓練場にエクラと移動した。
そこでは英雄達が切磋琢磨していた。アスクには向上心のある英雄が大勢いる。アスクのため、自分のため、元の世界に帰った時のため、そしてエクラのため。動機が違っていても、それぞれを尊重し高め合っている。そう言った雰囲気を作ったのも特務機関やエクラの努力があってのことなのだろう。魔道の訓練場まで歩いているとクロムとルキナがやってきた。
「お前たちもこれから訓練か?」
「そうだよ。魔道についてエクラと学ぼうと思って」
「頑張ってください!」
「二人も訓練か?」
「ああ、槍の基本から学ぼうと思ってな」
そう言えば、確かに二人とも剣ではなく槍を持っている。それにいつもの服と違う。確か、エクラは『総選挙』の力と言っていたかな。私もソティスとお揃いの衣装と力をもらった。
「二人も頑張ってな。あっ、でも程々にな。くれぐれも備品を壊さないように。ルキナ頼んだよ」
「はい!任せてください!」
エクラは二人を鼓舞する。すると、ルキナは元気良く返事した。ルキナもエクラに頼られると嬉しいのだと思う。スキップしながらクロムと槍の訓練場まで歩いて行った。でも気持ちも分かる。彼に頼られると誰だって気持ちが高まる。エクラは小さなことでもいいから人を頼るべきかな。
そんなこんなで魔道の訓練場に着いた。魔道の訓練場は他の訓練場とは違って少し人が少ない。魔道を極めようとする者は実践の他に知識も多く必要となる。そのため、魔道書を読み漁っている時間も多い。実際、リシテアやリンハルトもそのタイプだった。でも良かった。人が少ないと言うことはそれだけエクラとの時間を感じることができるということだ。ふと彼の方を見る。肩を伸ばしたりして準備運動をしている。魔道の勉強だと言うのに。彼の体は魔道使いにしては出来上がっている。それは他の英雄と訓練を共にすることがあるからだと思う。コミュニケーションを取るのは第一として、彼自身が皆に追いつこうとしているからだろう。きっと今日図書館で学ぼうとしていたのはそういった動機かな。
「で、どうするんだ、ベレス?」
「そうだね。君の魔道は特殊だから今一度見せてくれないかな。あの的に軽く撃ってくれる?」
三十メートルぐらい離れた場所にある的だ。彼に打ち抜けるか?エクラは神器を構えると
「はあ!」
そう言って引き金を引き、的を撃ち貫いた。やはり彼の魔道は特別だね。大きな違いとして予備動作が少ないことかな。引き金を引くだけで出せるというのは飛び道具の中でも唯一ね。彼は神器のことを『銃』と呼んでいた。彼の世界ではこのような武器が主流だそうだ。威力も申し分なかった。なかったけど……。
「反動を殺しきれてないね」
「そうだよな……」
エクラ自身も分かっていたみたいだけど、撃った後の反動に少し負けてしまっている。そのせいで一瞬身体の軸がぶれてしまっている。戦場ではその一瞬が命取りになりかねない。他の魔道にはない『銃』だからこその弱点だね。
「一番の改善策は筋力強化かな」
「そうなるよな」
エクラも軍師としては経験を積んでいて、多くの英雄を見てきた。これくらいはすぐに考えついだろう。
「後は少し下半身を意識したフォームにすることかな。ちょっと構えてみて」
エクラが構える。
「ちょっと、失礼するよ」
私はエクラのフォームを直すために腕の角度や腰の位置を調整する。うん、良くなった。
「あの……」
「うん?どうしたの?」
エクラが顔を赤く染めいる。
「少し、近くないか?」
「え?」
急に指摘されたので呆気に取られてしまった。改めて自分と彼の距離を見てみる。すごく密着していた。具体的に表すと、後ろからフォームを修正したことで後ろから抱き付く形になっていた。それにより、私の胸を押しつける形になっていた。それは形が変わるほど押し付けていた。
「ごめんね」
すぐに距離を離して謝る。するとエクラも謝ってきた。
「ベレスは悪くないって。むしろ、教えてもらっているのに邪念が湧いちゃった俺が悪いから。すまない」
彼は本当に律儀だ。そういうところが彼の魅力だね。ん?ちょっと待って。邪念?
「エクラ、もしかして私に興奮した?」
「え?」
今度はエクラが呆気に取られた。
「そういう意味だよね?」
「い……いや……」
「自分の気持ちに嘘は良くないよ。それに私は軽蔑もしないよ。信じて」
彼の目を見て、はっきり告げる。もしかしたら今が最大のチャンスかもしれない。彼の唇と私の唇が近づく。その時、壁が凄まじい音を立てて崩壊した。その方向を見ると、ルキナとクロムが倒れていた。
「……何してるの?」
「あっ。エクラさん、ベレスさん申し訳ございません!お父様と鍔迫り合いをしていたらここまで来てしまいました……」
「すまん」
見ると槍と魔道の訓練場まで一直線に物が破壊されている。今回のは流石に壊し過ぎじゃないかな。二人とも項垂れている。その様子を見たエクラが助け船を出す。
「分かってるよ。わざとじゃないんだろ。とりあえず、アンナ隊長に謝りに行こう。修理費も隊長が工面してくれてる訳だし。クロムは新しい力で加減が分からなかったんだろ。ルキナも父親に頼られて力が入っちゃったんだろうな。二人のそういった状況を見極められなかった俺にも責任がある。俺も一緒にとことん謝るよ。ベレスもごめんな。訓練の続きはまた今度お願いするよ」
「お二人とも申し訳ございません」
「すまん」
エクラの観察眼には関心するけど、責任を追い過ぎじゃないかな。それにいい雰囲気だったのに……。でも、これがエクラなんだよね。
「分かった。次までにエクラがどうすれば良くなるか考えておくね」
「また、よろしく頼むよ」
そういうと、ルキナとクロムを連れて行ってしまった。今回のチャンスは逃しちゃったな。でも、チャンスはまだある。次は必ずエクラを振り向かせてみせるよ。