【偶像×相棒】   作:後藤陸将

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第12話 出張

雪のぱらつく東京を離れた右京と尊は、飛行機で熊本空港に降り立った。

 空港でレンタカーを借りて、二人を乗せた車は一路宮崎県の高千穂に向かう。ハンドルを握る尊は、普段GT-Rを乗り回していることもあり一世代前の軽乗用車に少し不満げだ。

「有給休暇を取って捜査のために宮崎まで行くことになるとは思いませんでした」

 特命係には本来捜査権はないため、当然公務として宮崎に向かうことはできない。公務員は旅費の給付についても細かな規定が設けられており、特命係の普段の捜査についても小野田官房長から正式な捜査権限を与えられた一部のケースを除いて旅費は一銭も支給されてこなかった。

 これまでは都内や関東近郊へ出向くぐらいであれば、車の燃料代以外にはほとんど経費がかからないため右京も気にしてはこなかったが、流石に宮崎まで行くということになれば往復にかかる交通費は自腹負担するには少々高い。

 また、普段の捜査ならば特命係の小部屋に出勤してから出張し、退勤までに帰ってくるということとなるが、宮崎で捜査するとなれば数日は警視庁には出勤できない。いくら出勤してからやるべきことが特に決まってないとはいえ、出勤すらしないとなれば無断欠勤と扱いは変わらない。

 だからこそ二人は有給休暇を使って私費で宮崎に向かう以外に宮崎で捜査をする方法がなかった。

 昨日、右京は尊に、有給休暇を消費して私費を使って宮崎まで捜査に向かうつもりであると明かした。

――君はどうしますか?

 そう問われた尊の答えは決まっていた。

 尊は、被害者遺族であるあの子供たちの涙を見ている。ある日突然母親を理不尽に奪われた彼らには、真実を知る権利があるはずであり、捜査一課が捜査を打ち切る以上自分たち以外に真実を追求できる人間はいないはずだと思ったのだ。

 だから自分も行きますと答えた。宮崎への旅費負担は確かに小さなものではないが、独身貴族の尊には出せない金額でもなかった。

「嫌なら、断ってくれてもよかったんですよ」

「まさか。杉下さんの見立てではまだこの事件は終わってないんでしょう。それに、子供の勇気を見て何もしないというのは、矜持に反するんですよ」

 右京の問いかけに対して、尊は珍しく強気な発言を見せた。

「僕自身、雨宮吾郎が今回の事件に全くの無関係だとは思えませんし」

「まずは、雨宮吾郎さんの失踪当時の状況について確認する必要がありますね」

 二人の乗る軽自動車は、熊本から宮崎に通じる国道を走る。この辺りの道は交通量が少ないのか、車は快調に飛ばしていた。

 途中、休憩のため道の駅に立ち寄る。施設内に設けられたレストランでは地元産の新鮮な野菜や肉を使った料理を提供しており、店内からは阿蘇山を一望できる大パノラマが広がっていた。

 スーツを着た男二人が冴えない軽自動車にのって景観のいいレストランを訪れて昼食を共にしている姿はなかなかシュールだが、右京は全く気にしていないようだ。

「流石に浮いてますよね……」

 尊が苦笑しながら言った。

「杉下さんは気にしないんですか?」

「別にやましいことをしているわけではありませんから」

 右京はいつも通り涼しい顔だ。尊は知る由もないが、尊の前任者、亀山薫はフライトジャケットを着て国会議員に会いに行くことに全く抵抗を覚えなかった男だ。そんな人間と一緒に行動していながら彼の服装について是正させるつもりがなかったところからも、杉下右京という人間が他者からの注目に無頓着な人間であることが分かるだろう。

 その時、右京のスマホが鳴動する。

「失礼」

 右京は尊に一声かけるとテーブルを離れて通話に出た。

「杉下です」

『おお、警部殿。もう宮崎にはついたかい?』

 電話の相手は角田だった。

「いえ、まだ熊本県内にいますが」

『のんびりできていいねぇ……まぁ、有給休暇使っているんだからとやかく言うこともないんだけども』

「課長、お電話いただいたということは、お願いしていた件については……」

 右京は角田に要件を切り出した。

『ん?ああ、お願いされていた件についても調べてるぞ。雨宮吾郎の過去の住所地、勤務地の周辺にある金融機関に照会をかけて過去の取引履歴を確認したんだが、どの銀行も雨宮吾郎の失踪後の取引は確認できなかった。それ以前に、どこか別の金融機関に預金を移したり、現物で財産を買ったりしたと思しき大金の入金や出金もないね。こりゃ典型的な休眠状態の口座だ。あんたの読みどおり』

「そうでしたか」

『ああ、雨宮吾郎の持っていた不動産についても固定資産税の支払から追ってみたが、本籍地にある生家以外にはなかった』

「海外渡航の履歴はありませんでしたか?」

『うん、海外への渡航履歴も調べたが、全くなかった。携帯電話の通話履歴は流石に保存期間を過ぎてたから照会できなかったが、口座から引き落とされている利用料金の推移をみる限り、失踪後は全く利用されていないようだね。ま、こんなとこだな』

「お忙しいところ申し訳ありません」

『恩に感じてくれてるなら、宮崎土産をよろしく頼むよ。なんだっけ?宮崎の名産って。マンゴーくらいしか思い浮かばないけど』

「さぁ、僕もあまり観光はしないものですから」

『じゃあ、お土産は警部補殿に選ぶように言っといてよ』

 右京は怪訝な表情を浮かべる。

「おや、神戸君にですか?」

『警察庁で接待と上役とのコミュニケーションで揉まれてきたエリートなら、上司に喜んでもらえる土産ってのがどういうものなのかも分かってるだろう?じゃ、よろしく伝えといてよ』

 そう言って角田は右京との会話を終えた。

「課長からですか?」

 席に戻った右京に尊が尋ねた。

「昨日お願いしていた調べ事の回答の連絡がありました。車に戻ったら話します」

 食事を終えて駐車場に戻る二人。

 車の助手席に乗り込んだ右京はシートベルトを締めながら口を開いた。

「先ほど角田課長に連絡して雨宮吾郎の口座の取引履歴を調べてもらったのですが、その報告によると、雨宮吾郎と取引のある金融機関の口座について、雨宮吾郎の失踪後の取引は全く見られなかったとのことです。失踪以前に預金を別の口座に移したり、別の資産の購入に充てたような形跡もありませんでした。失踪が計画的なものであればそれ以前に預金を遠隔地の銀行に動かしたり、現金として引き出していたり、換金しやすい資産の購入に充てたりするはずですが、そのような事績は一切ない」

「確か、雨宮吾郎は捜索願が勤務先の病院から出されていたものの、その後の情報は全くありませんでしたね。運転免許の更新もされておらず、住民票の異動もなし。それで金融機関の取引もないとなれば、雨宮吾郎が今も生存してどこかで活動している可能性は極めて低いと言わざるをえませんね。もし生きているとしても、すべてを捨ててホームレスでもやっているとか」

 そう言いながらも尊は右京の報告を予想していたため驚きはしなかった。

「角田課長の調べでは、契約している携帯についても失踪後利用された形跡がないそうです。海外への渡航履歴もないとなると、既に死亡している可能性がやはり高いでしょうねえ」

 二人を乗せた車は道の駅を出発すると再び阿蘇山の雄大な景観の中を走り出した。

「ああ、神戸君。課長は君の宮崎の土産を期待しているそうですよ?」

「なんで僕なんですか?」

「警察庁での経験から、こんな時に上司に好まれる土産を用意してくれると期待されているようですよ」

 尊は、ハンドルを握りながら小さくため息をついた。




 アイ殺害の犯人を追うというストーリー上、特命係の捜査が中心になるので仕方がないことなのですが、推しの子側の登場人物の描写が少なすぎる……
 一応、右京さんたちが宮崎から帰ってきたら推しの子側の登場人物のシーンも増える予定ではありますし、あくまでアイの殺人事件をオリ解釈込でメインテーマとしてるので、原作は推しの子ってことで考えてます。
 ただ、ここまでの話の描写だと原作は相棒になりそうですよね。
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