【偶像×相棒】   作:後藤陸将

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 感想欄で気づいた方もいらっしゃったのでゲロすると、拙作の谷城刑事のモデルは踊る大捜査線の沖田管理官です。
 因みに、戸部刑事のモデルは刑事110キロの花沢太郎でした。


第18話 西臼杵警察署

 白骨死体が発見された洞窟での現場検証が終了し、右京と尊の二人が現場から退散したのは午後11時を少し過ぎたころだった。

 幸い、高千穂は観光地ということもあり宿泊場所には事欠くことはない。二人はあらかじめ予約していたホテルに遅いチェックインを済ませ、その日はそれぞれ別々のシングルルームに宿泊した。

 そして翌日、二人は調書の作成のために西臼杵警察署へと赴いていた。

 署の受付で戸部と谷城の名前を出すと、5分後に二人は署の一角、応接室らしき一室に案内された。

「お待たせしました」

 戸部が部屋に入ってきた。後ろには谷城の姿も見える。戸部は二人に着席を促すと自分も向かい側のソファーに腰かけた。

「すみませんね、調書の作成のために態々こちらに来ていただいて」

「お気になさらずに。我々も同じお仕事している以上、この類の報告や記録を作成する必要性があることは十分理解しています」

 尊がそう答えると、戸部は笑みをこぼして頭を下げた。

「早速なのですが、昨日伺った話から今朝調書の方の原案を作成したので、見ていただけないでしょうか」

 本来であればその場で聴取をしながら調書を作成するのが原則であるが、昨日の場合、現場検証と並行して聴取を行ったこと、また聴取の相手が管轄は違えど同じ警察官であったことなどを考慮して、こうして事前に作成したものを後ほど確認してもらうということになったのだ。

 右京と尊からしても、一々最初から話をしなおすよりは、昨日話した内容を事前に整理してもらい、必要に応じて内容を添削するだけの方が楽だ。形式も重要ではあるが、内々のことで格式張るのは無駄な時間でもある。そういう意味でもこの方法には賛成であった。

 右京と尊は戸部が作成した調書の内容を確認する。

「事件発生までの僕たちのあしどり……遺体発見時の状況…………なるほど」

 右京はざっと目を通して満足げにうなずく。

「内容については特に補足したり、削除する部分はありません。調書のまとめ方も非常に分かりやすく、読みやすいです。さすがですね。短い文章で多くの情報を得られます」

 褒められた戸部は嬉しそうな顔をする。

「いや、実は私は趣味で俳句やってましてね。それで文章を書くのが得意なんですよ」

「なるほど、俳句は僅か17音で情景を表現しますからね。短い言葉で自身の意図を伝える能力は必要不可欠」

「まぁ、私は大会とかで入選できるほどの腕前ではないので本当に趣味の範囲ですよ」

 戸部の趣味は俳句であるらしい。意外にも風流なことをする男だと思った右京だが、それならば納得できる部分もある。

「内容に問題がなければ、ここに署名を」

 戸部に促され、尊は自前のペンを懐から取り出すと、調書にサインする。

 しかし、右京は尊から調書を回されてもペンを手に持つことはなかった。

「杉下警部?」

「ああ……そういえば、洞窟で見つかった指紋ですが、照合結果は出ましたか?」

「申し訳ありませんが、警視庁の刑事さんにこちらの捜査情報をお伝えすることはできません」

 突然、思い出したかのように質問を始めた右京に対して、谷城がすかさず釘をさす。

「僕はあの洞窟で発見された血液指紋と、病院で目撃された不審者が残した入館記録の指紋、それと菅野の指紋。それらが同一のものなのか、実は昨夜からずっと気になっていましてね。困りましたね……」

「雨宮吾郎の殺害はウチの管轄で起きた殺人事件であり、警視庁の貴方がたにお伝えする理由はありません」

「気になるのですがねぇ……」

「ダメ、です」

 なかなか折れようとしない右京に業を煮やしたのか、谷城は強い口調で言い放つ。すると、右京はわざとらしく大きなため息をついた。

「そうですか……実は、僕は気になることがあると字が上手く書けないものですからね。困りましたね……」

 谷城は調書へのサインと引き換えに言外に捜査情報を求める右京の態度に眉根を寄せた。

「あなたねぇ……!!」

 ついに堪忍袋の緒が切れそうになった谷城を制止したのは戸部だった。

「谷城さん、そこまでにしようや。確かにこの事件はウチの管轄だ。天下の警視庁様とはいえ管轄外の人に現場で色々と口を挟まれたのは良い気がしなかったけど、遅かれ早かれ警視庁さんがこの事件に関わってくるのなら、正式な協力要請がないとはいえ意地を張らなくてもいいじゃないの」

「遅かれ早かれ警視庁がこの事件に関わることとなるということは、やはり、指紋が一致したんですね」

 尊の言葉に戸部は静かに頷いた。

「ついさっき鑑識から報告があがったところなんですがね、貴方が指摘したとおり、病院の入館記録に残されていた指紋と、現場で採取された指紋、それと、警察のデータベースに登録されてなかったので警視庁に照会した菅野良介の指紋は一致しましたよ。白骨死体の身元についても、歯の治療痕が一致したので、雨宮吾郎であると断定されました」

「現場に残されていた靴の痕はどうでしょうか?」

「洞窟内は蔦で覆われていたことと、人の出入りがなかったために不完全ではありますが採取できたと聞いてます」

「ひょっとして、それは2種類あったのではありませんか?」

 右京の質問に谷城は目を丸くした。

「確かにそのとおりです。ですが、どうして現場に残されていた下足痕が2種類あったと分かったんですか!?」

「遺体の靴です」

「靴?」

「神戸君、君は自分よりも立派な体格をした男性の遺体をあの病院の付近で殺害した後遺体発見現場の洞窟まで運ぶ場合、どうやって運びますか?」

 突然の右京の問いに尊は少し考え込む。

「あの道なき山道で自分より立派な体格の男一人を背負ったり担いで動き回れば体力が持ちませんし、遺体の後ろから、脇の下に腕を回して引き摺るしか……ああ、そうか」

 尊は右京の言わんとしていることにようやく気づいた。遅れて谷城と戸部も右京が何を言いたいのか理解した。

「雨宮吾郎の死因は、遺体の状況から推察するに高所からの転落もしくは自動車との接触による頭部の損傷である可能性が高い。しかし、あの洞窟から車道まで、もしくは病院のある高台洞窟の崖からはそれなりの距離がありました。菅野の部屋で彼が4年前にアイさんと撮った写真を見ましたが、当時の彼の体格は一般的な成人男性に比べても明らかに華奢でした。遺体を拝見した限り、雨宮吾郎の体格は神戸君とそう変わりませんから、菅野が一人で遺体を運んだのだとするならば、君が今言ったような遺体の運び方をするしかないでしょう。その場合、遺体の靴、特に踵部分には傷が残るはずですがそのような形跡はありませんでした」

「だから、最低でも2人がかりで雨宮吾郎の遺体を運んだということですか」

 谷城の質問に右京は首肯する。

「であれば、現場から採取された靴の痕も2種類ある。そう考えました」

「ほんと、目のつけどころが違うな、警視庁の刑事さんは」

 戸部も右京の推理に唸る。

「ご推察どおり、下足痕は2種類。一つはサイズが28cm、もう一つは24cm。それと、血液指紋も2種類発見されました。一つはさっき言ったとおり菅野良介のもの。もう一つは残念ながら正体不明でした」

「データベースには登録のない指紋ですか」

「雨宮吾郎の遺留品からももう一人の指紋の持ち主を特定できる手がかりはなし。杉下警部には、指紋の持ち主に心当たりはありませんか?」

 戸部の問いかけに右京はゆっくりと首を横に振った。

「いえ、残念ながら現段階では心当たりは特にありません」

「では、この指紋の持ち主にたどりつく手がかりもないということですか……」

 尊の落胆した声が響く。しかし、右京はそれを否定した。

「神戸君、手がかりがないと決めつけるのは早計ですよ」

 右京が戸部に向き直り、さらに続けようとしたその時、右京の懐からバイブレーションの振動音が聞こえてきた。

 失礼、と戸部に断りを入れて右京が懐から取り出したスマホの着信画面には、中園参事官の名前が表示されていた。




 次回は相棒ファンの皆様のお察しのとおり、いつものパターンから始まります。
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