【偶像×相棒】   作:後藤陸将

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 推しの子2期、いつぐらいになるんでしょうね……


第22話 次の一手

「でも、アクア君とルビーちゃんの父親と言っても、斉藤社長も知らないって言ってましたよね。杉下警部にはどこの誰なのか見当がついているんですか?」

「いいえ、今のところ全く見当がついていません」

 右京の返答を聞いて尊はちょっと拍子抜けした。しかし、そんな尊の心を見透かすように右京は話を続けた。

「現時点で分かっていることは、アイさんと4年前に関係を持っていたこと、アイさんがその相手との接触には最大限の警戒をしていたこと、それと、ルビーちゃんやアクア君の容貌から察するに僕たちと同じ黄色人種であることぐらいでしょうねぇ。流石に、これだけの情報で特定するのは無理というものです」

「でもでも、杉下警部なら手がかりの一つや二つ、もう掴んでいるんでしょ?勿体ぶらずに教えてくださいよ」

 芹沢が焦らす右京に対してせがみ出してきた。右京はそんな芹沢を一瞥すると、ホワイトボードに向き直ってアイとXの間の矢印を指さす。

「アイさんの通話履歴を調べても仕事の関係者以外の連絡は全くなかった。当然、皆さんならその通話相手の通話履歴も確認されたはずです。ですが、その通話相手について調べても菅野との繋がりは確認できず、またアイさんとの繋がりも男女のものだと考えられる人物はいなかった。そうですね」

「なんでそこまで確信をもって言い切れるのか知りませんが……まぁ仰るとおり我々も無能ではありませんから通話相手の身元や菅野との繋がり、被害者(ガイシャ)との関係についても全部洗いましたよ。結果はご想像のとおり空振りでしたが」

「やはり、アイさんはXとの接触には慎重を期していたようですねぇ。隠し子がいることを隠し続けていたことからも分かっていましたが、アイさんは非常に用心深い。Xとの接触についても自身の携帯や書面などといった記録が残るような方法を選んだりはしないでしょう。おそらくは、公衆電話からXに電話をかけたのだと思いますよ」

 ぼやく伊丹に右京は淡々と続けた。

「結局、接触した記録が残らないんじゃ手掛かりなしじゃないですか」

 芹沢が不満を口にするが、右京は笑みを崩さない。

 特命係に異動となって早3年、こういうときの右京は何か自分の考えがあるのだということを知っている尊は恐る恐る右京に尋ねた。

「まさか、杉下警部はアイさんの使った公衆電話と通話時間を特定して、そこからXを特定しようと考えているんでしょうか」

 尊が発した言葉に、トリオ・ザ・捜一の面々は一瞬にして顔色を変えた。

 確かに、公衆電話にはそれぞれナンバーディスプレイ等には表示されないものの個別の識別番号が設定されており、その識別番号からの発着信記録は業者を通じて照会することはできる。

 しかし、流石に都内全ての発着信記録を請求するなどということは許されるはずがない。捜査のための必要最小限度の照会を超えた、捜査権の濫用と指摘されても否定できないからだ。

 となると、公衆電話の通信記録からXにたどり着こうとするならば、最低でもアイがどの公衆電話を使ってXと連絡を取ったのかを特定する必要がある。

「ちょ、ちょっと待ってください!!都内の公衆電話の数なんて、年々減ってるとはいえまだ3万台はあるんですよ!?その中からどうやって被害者(ガイシャ)が使った公衆電話と使った時間を特定するんですか!?」

 芹沢が泡を食った様子で叫ぶと、右京は落ち着いた声で答えた。

「アイさんが引っ越し先の住所を知った日から、菅野が自殺用と思われる七輪等を購入した事件発生の5日前までの間、その間にアイさんはXと連絡を取ったと考えるべきでしょう。斉藤社長の持っている事件直前のアイさんのスケジュールを調べれば彼女の行動範囲はある程度絞ることができるでしょう。後は、その絞られた範囲の公衆電話の指紋を採取し、アイさんの指紋がないか探す。そうすればアイさんの使った公衆電話を特定できるはずです」

「いや、行動範囲を絞るといっても……」

 伊丹は額に手を当てて頭を抱えた。都内に住む人間の行動範囲の公衆電話を特定するというのは、簡単な作業ではないのだ。しかし、右京には自信があった。

「アイさんはドーム公演を控えたトップアイドルです。事件直前もおそらくは過密なスケジュールを組まれていたはず。仕事の合間にそう遠くに足を延ばす余裕はないでしょう。さらに、車も免許も持っていない彼女の移動手段は徒歩か公共交通機関かタクシーに限られますが、顔が売れている彼女が変装をしたとしてもタクシーや公共交通機関を積極的に利用するとは考えにくいですし、休日にしても子供が自宅にいる以上、そう遠くへはいけないでしょう。範囲は大分絞れるはずです」

「確かに、被害者(ガイシャ)の職業や生活スタイルを鑑みれば、一般人に比べれば大分絞りやすいとも言えなくはない」

「まぁ、多少の手間はかかりますけど、それなら確かに特定できなくもない……んですかね?」

 三浦が納得したように呟くと、芹沢も渋々といった感じで同意する。

「では、皆さんはそちらを調べてください」

 そう言うと右京は立ち上がり、かけてあるコートを羽織った。

「警部殿?どちらに行かれるのですか?」

「斉藤社長のところへ。宮崎のこともありましたので、色々と聞きたいことがあります」

 右京の言葉に、トリオ・ザ・捜一は顔を見合わせた。

 そして、三人を代表して伊丹が口を開く。

「警部殿、被害者(ガイシャ)が使った公衆電話の特定はどうされるので?」

「皆様にお任せします。菅野とアイさんの接点を見つけるためにアイさんの事件前のスケジュールも既に確認されているでしょうから、後はよろしくお願いします」

「いや、簡単に仰りますけどね、提出された被害者(ガイシャ)のスケジュールを基に時間帯ごとに被害者(ガイシャ)の行動範囲を特定して、その範囲内にある公衆電話と照らし合わせるってのは大変な作業で……って無視かよ!!」

 右京は伊丹の叫びを全く意に介さず、足早に特命係の小部屋を後にした。

 相変わらずの唯我独尊ぶりに頭を抱えつつ、伊丹は溜息をつく。

被害者(ガイシャ)が新居の住所を知ったのが事件の2週間前だってあの社長は言ってましたよね。そこから菅野が自殺用の練炭を購入する事件の5日前までの行動範囲を全て特定するんですよね」

「こりゃあ、3人がかりでも一日仕事だぞ」

 芹沢が絶望的な表情を浮かべ、三浦も大きくため息をついた。

 そして、トリオ・ザ・捜一の面々の視線は自然と尊の方へと向けられる。

 突然、注目を浴びた尊はその視線に秘められた意味を理解しつつも、あえてそれに気づかぬふりをする。彼とて、これからトリオ・ザ・捜一のやろうとしている地道で根気の必要な作業に巻き込まれたくなかった。

「神戸警部補殿……」

「じゃあ、僕も杉下警部にご一緒させていただくのでこれで。あ、これよければ皆さんで食べてください、宮崎のお土産です」

 尊はさっと立ち上がって机の上に置いてあった紙袋を手に取ると、それを何か言いかけた伊丹に強引に押し付ける。そしてそのまま、右京の後を追って特命係の部屋を小走りで後にした。

 取り残されたトリオ・ザ・捜一の面々の怨嗟の声が、静かな特命係の小部屋に響き渡ったことは言うまでもなかった。




 
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